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15章
魔力爆弾とへのへのもへじ
しおりを挟む今日も今日とてたんまりと採掘した私は機嫌よく坑道を歩いていた。
最近のお気に入りは坑道帰りに温玉を食べること。
鉱夫達の住むエリアにある源泉の一つが温度が高いことを教えてもらったんだ。
(あ、ヨダレ出そう)
チュルチュルとできたての温玉をすする想像をしながら坑道を出ると、ものすごい魔力の塊が街に近付いていることに気が付いた。
「!」
〈ん? どうした?〉
「グレン、この魔力……」
〈魔力? ……ん!? これはヤバいな……〉
「なんだ? どうかしたのか?」
例えるなら肥大した水風船。いつ破裂するのかわからない魔力の爆弾。圧縮された濃い魔力が何かの拍子に暴発したら、この街どころではなく辺り一帯木っ端微塵だ。
坑道に入っていたせいか、気付かなかったことが悔やまれる。
わかっていないガルドさん達に説明しながら急いで街に向かい、「ママー!」と叫びながら家に駆け込むと、リビングでくつろいでいたニキーダ達に驚かれた。
「ヤバいのが来るよ!」
「あら、どうしたの? 落ち着いて。ほら、アリシアちゃんが作った丸ボロよ」
「むぐっ! ママ、丸ボロじゃなくて〝丸ぼうろ〟だよ……じゃなくて! でっかい魔力が街に向かって来てるんだって!」
私の必死の訴えもピンときていないのか、ニキーダは「うーん?」と目を閉じた。
そのとき、あの魔力の塊が波紋のようにふるりと揺れた。
「っえぇ!? 何よこれ! さっきまで何も感じなかったわよ!?」
「己も今知った。これは……上手く隠しているが……人か?」
「人!? 人がこんな魔力溜め込むなんて正気の沙汰じゃないわよ! 危ないじゃない!」
取り乱すニキーダを見たアチャがスタルティを抱きしめる。
「もう街にほど近い。見つからぬよう見に行って対策を練るしかないな。もし何かあった場合、害のない場所に飛ばさねばならん。天狐手伝え。セナは……」
「私も行く!」
「……仕方ない。グレンとジルベルト、ガルド達はここにいろ」
〈我も行くに決まっているだろう!〉
「ダメだ。グレンは完全に気配が消せないだろう。バレて、そこで爆発でもしてみろ。己らより早く気付いたグレンならわかるだろう。セナを守りたいなら残れ」
冷静なジィジの言葉にグレンは唸っていたけど、最後には折れてくれた。
〈セナがケガでもしたら配下と共に暴れるからな……〉
「善処する。行くぞ」
ジルに結界石を渡して起動するように頼み、私は隠密マントを羽織ってジィジ達と一緒に門へ向かう。
そう。あの魔力の塊は貴族門目指して来ているんだよね。
ジィジ達王族が集うことを知った貴族が人間爆弾を送り込もうとしてる……? と嫌な考えが頭を掠める。
門の周りは騎士が警備しているため、私達は離れた場所から塀の上へ。そこから走って、上に飛び出ている門柱の影に隠れた。そんな私達が気付かれぬよう、プルトンが結界を張ってくれた。
気配を消し、息を殺して待つ時間はやたらと長く感じる。
「(あれね……何あの生き物……見たことないわ)」
列の先頭の馬車を引いていたラクダのような魔物を見て、ニキーダが小声でジィジに問いかけた。
ジィジの説明では【キャメージョ】という魔物で、長距離移動に適しているそう。魔馬の代わりに使われることが多いとのことで、そこそこのスピードが出せるらしい。
馬車の装飾は手が込んでいて、身分が高いことが否が応にも理解できる。なかでも五台のうちの真ん中の馬車は装飾が豪華なのはもちろん、ラクダも武装されていて、他の馬車は部下及び使用人であることが窺えた。
魔力の塊のせいでハッキリとはわからないけど、この感じは魔道具だ。豪華な馬車が一番多いものの、全ての馬車に魔道具が使われているっぽい。
「(あの変な動きはなんなの?)」
「(おそらく方向転換のために隊列の位置を調整しているんだろう)」
なるほど。体育大の〝集団行動〟みたいな感じか。わざわざ隊列組み直さなくても……
コソコソと話していると、真ん中の馬車が横向きになり、馬車に描かれている紋章が目に入った。
「!」
「(シッ! 出てくるぞ)」
驚きに声を上げそうになった私の口をジィジに塞がれ、押し黙る。
出て来たのは一番前の馬車に乗っていた執事のような男性。
そのまま彼らの動きを見守っていると、魔力の塊がまたフワリと波打った。
(真ん中の馬車だ!)
「!」
魔力の根源が判明した瞬間――その馬車の窓から覗いた目と目が合った。
マズイと思ったときにはすでに目は隠れていた。
バクバクとうるさい心臓を落ち着けるようにマントを握っていたら、騎士が敬礼をしながら馬車を街へ招き入れてしまった。
いつの間にか執事との会話は終わっていたらしい。
家に戻った私は心配性のグレンに抱えられ、ブラン団長とドヴァレーさんも含めたメンバーで作戦会議。
ここで驚きの事実が発覚した。
ドヴァレーさんいわく、ヴィルシル国の王太子……第一王子だと言うのだ。
第一王子であるアデトア王子は生まれつき魔力が多く、幼いころに何回も魔力を暴発させていた。周りへの被害を危惧した王様が暴発しないように国の魔術師に依頼。その人物が作った魔道具を着けたら、その頻度は激減。最終的には暴発しなくなった――らしい。
「初めて見るときはその魔道具に驚くと思いますが、冷静な人なので暴発の心配はしなくて大丈夫だと思いますよ」
なんて危機感のないことを言っていた。
ブラン団長達は気を引き締めてくれたみたいだけど、ドヴァレーさんは言っても信じなそうだ。
人族だけでなく獣族も魔族も生きていれば魔力を自然放出する。冒険者は言わずもがな戦闘で、街に住む平民も貧民も生活魔法やスキルで消費する。
魔力は溜まり続ければ毒となり、何らかの影響が出るのだ。それは内臓を傷付けたり、幻聴や幻視に苛まれたりとさまざま。溜め込んだ魔力は膨れ上がり……最後には爆発してしまう。
捕らえた人に膨大な魔力を送り、それを放出できないようにしてしまえば人間爆弾の完成だ。
普通に生活していればコントロールが下手でも爆弾になるほど溜まらないし、魔力が多い人は自分自身が傷付かぬように練習する。
今にも爆発しそうだったのに、あれでコントロールできているとは思えない。
魔道具を作らせるくらいの王様が自分の子供を爆弾にしたいワケでもなさそう。
これは厳重警戒しなきゃだね。
◇ ◆ ◇
翌日のお昼、初顔合わせのために私達やガルドさん達も全員、会議が開かれるというこれまたドデカい邸に向かった。
内々の対面とのことで私達はいつも通りの格好だ。
緊張しながらパーティー会場に足を踏み入れたとき、私は自分の目を疑った。
(え!? なんで小さい子供が〝へのへのもへじ〟が描かれた布で顔隠してるの!?)
目を擦ったところでそれが消えるわけもなく、私は開いた口が塞がらない。
〈ぶっ〉と噴き出したグレンの足をニキーダが踏み付け、無言の注意をされたグレンは睨み返していた。
後ろのやり取りを見ていないドヴァレーさんは軽く挨拶して、ジィジを紹介。そのジィジが私達を紹介してくれた。
「ほう。そなたが噂に聞くセナ嬢か。遠いところをよく来てくれた。ワシからもそなたに紹介しよう。第一王子のアデトアだ」
(マジかよ!)
まさか、まさかのへのへのもへじが王子だった。
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