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15章

地雷を踏む

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(第一王子って成人してるって話じゃなかった!? 第二王子も中学生くらいだったよ!? なんで私と同じくらいの身長なの!?!?)
 頭の中に疑問しか浮かばない私は「どうも?」と言うだけで精一杯。
 そんな私にさして興味がなさそうに、第一王子は「よろしく」と抑揚のない声で呟いた。
(声低っ! その小ささでバリトンボイスなの!?)

 混乱してパチパチと瞬きを繰り返していたとき、また王子の魔力がふわんと揺れた。
(ん? ジル見てる?)
 へのへのもへじの布のせいで顔がわからないけど、多分そう。
(もしかして動揺した? 動揺したとしたら何故、門で見ていた私やドラゴンのグレンじゃなくてジルなの?)
 魔力が揺れたのは一瞬で、王子は何もなかったかのようにドヴァレーさんと話始めた。
 私達が隠れて監視していたことをとやかく言うつもりはないみたい。

 何かあっても大丈夫なようにジィジ達を見守りつつ、私達は少し離れて用意されていた料理をつまむ。
 王子の魔力はときおり揺れるものの、それ以外に変化はない。
 その魔力もジルはかろうじてわかる程度で、ガルドさん達は特に感じないらしい。
 ガルドさん達がわからないのにドヴァレーさんがわかるわけないかと納得。
 見たことも感じたこともないと、信じにくいよね。まぁ、態度を急変させて不審がられるよりはよかったのかもしれない。

 王子の魔力はときおり揺れるものの、それ以上何かが起きる様子はない。
 警戒を継続している中、突如としてニキーダが誰も触れていなかった話題をぶっ込んだ。

「ねぇ、全然食べも飲みもしてないじゃない。その布が邪魔なんでしょ? 取ったら?」
「……触るなっ!」
「キャッ!」
「離れてっ!」

 王子が大声でニキーダの手を払った瞬間――あの魔力が膨れ上がった。
 叫ぶように指示を出し、急いで被害が及ばないように王子だけに結界を張る。
(くっ……これヤバい……)
 王子は爆発しそうな魔力を抑えようとしているのか、しゃがみこんで自分を抱きしめた。

「そ、それは魔力を抑える魔道具なのだ」
〈は? ただの布切れだろう。そいつの魔力は染み込んでいるがそれだけだぞ〉
「「「え」」」
(え!? なんでみんな私見るの!?)
「……セナ、本当か?」

 ガルドさん達はもちろん、ジィジとニキーダ、ブラン団長達やドヴァレーさんにまで注目され、戸惑う私にブラン団長が確認してきた。

「えっと……うん。ただの布、だね。ちなみに、王子が着けてるっ、アクセサリーも気持ち程度の効果しか出ない、やつだよ」
「そんなわけなかろう! 国一番の魔術師に作らせたのだぞ!」
〈貴様が信じようが信じなかろうが事実だ。……おい! さっさと魔力を抑えろ!〉
「ちょ! グレン、ドンドンしないで!」

 前半は王様に、後半を王子に言いながら結界を叩くグレンに注意する。
 王子の魔力が猛反発してくる中、結界を張るのは一苦労。気を抜いたら弾かれてしまう。
 王様が王子に「落ち着け」と話しかけているものの、しゃがみこんで唸っている当の本人には聞こえていなそう。
 魔力の消費が激しくて汗を流す私に、横からジルがマジックポーションを飲ませてくれている。
 このままでは危険だと判断したのか、ジィジが口を開いた。

「……天狐、護符で封魔しろ」
「いいけど、魔力で剥がされると思うわよ? せめてもう少し魔力圧が少なくないと」
「ニキーダ殿、魔力圧とは?」
「この子、暴発しないように圧縮して溜め込んでるのよ。押し潰して詰め込んできた魔力はものすごーく圧が高いの。わかりやすく例えるなら……硬い盾にちょっとした魔法使っても意味ないでしょ? そういうことよ」
(それって……濃縮した魔力を薄めればいいってことだよね?)
「なんとか、できるかも……」
「本当か!? 頼む! アデトアを助けてくれ!」

 呟いた私にヴィルシル国の王様が頭を下げた。
 プルトンが結界を張ると言ってくれたのは断った。やろうとしていることに結界は邪魔になっちゃうからね。
 クラオル達にはグレンに移ってもらい、私は結界内に足を踏み入れる。
 すると他人が近付くのを嫌がるかのように、王子の魔力が刃のように襲いかかってきた。

「――っ!」
「セナ様!」

 ピシピシと自分に走る傷も気にしてはいられない。マジックポーションが飲めない今、時間との勝負だ。

 アデトア王子の手を取り、彼の魔力にお湯を注ぐように自分の魔力で薄くしていく。
(魔力が濃すぎる……)
 元々の魔力が多いのか希釈しても希釈しても魔力の濃度は微々たる変化しかなさない。しかも薄くすればが増える。量が増えれば許容量を超えてしまう。
 そのことに思い至った私は薄めた魔力を吸い取っていく。
 魔力切れの心配はなくなったけど……

「うぅ……気持ち悪い……」

 大量にお酒を飲んだ後のように頭がクラクラしてくる。
 これ以上はキツいかも……と思い始めたとき、後ろから名前を呼ばれた。

「セナ! 俺達を使え!」
「ガルドさん……手を……」

 アデトア君と繋いでいる手はそのままに、反対の手を結界の外に伸ばす。
 しっかりと握ってくれたガルドさんの魔力を使って、私の体内で低濃度化したアデトア君の魔力をガルドさんに戻していく。

「セナ殿は何をしているんですか?」
「あの子の魔力を体の中で変換させてガルドに送ってるのよ」
「そんなことが可能なのですか?」
「ただ魔力を送るだけならまだしも、変換なんて高度なこと普通の人ができるわけないでしょ。拒否反応起こしてぶっ倒れるわ。何が暴発しないよ。セナちゃんが注意しろって言ってたじゃない。セナちゃんがいなければこの街吹っ飛んでたわよ?」

 聞こえてくるドヴァレーさんとニキーダの会話に苦笑いが零れる。
 ニキーダがあの布に触れなければ暴発はしなかったと思うんだけど……そうツッコむ余裕はない。
 ガルドさんだけでは追いつかず、ジュードさん、モルトさん、コルトさん、ジル、ブラン団長、フレディ副隊長、パブロさん……と人がどんどん入れ替わる。
 許容量ギリギリまで魔力を移されたみんなはもれなく魔力酔いだ。
 残る人数が少なくなり、嫌がっていたグレンに手を伸ばす。

「グレン……お願い……」
〈そんなやつ放っておけばいいだろう! なぜ毎度セナが苦労するんだ!〉

 文句を言いながらも私の手を取ってくれるグレンに笑ってしまう。
(あ……グレンの魔力温かい……)
 火を得意とするドラゴンゆえか、他の人より温もりを感じ、気持ち悪さが少しだけ軽減した。

〈(この魔力は……)〉
「そろそろかしら? あ! もう大丈夫よ。セナちゃん、結界解いてくれる?」

 グレンの呟きはニキーダによってかき消され、私に届くことはなかった。
 ニキーダのセリフですでに暴発しそうな魔力は消えていることに気が付いた。

 アデトア王子から手を離し、結界を解除する。
 ふらついた私をグレンが手を引いて抱きとめてくれた。
 ニキーダはベリッと〝へのへのもへじの布〟を剥がして、ピタンッとアデトア王子のおでこに護符を貼り付ける。
 刹那――グラりと倒れかけたアデトア王子をジィジが支えた。

「さ、この子は寝かせてて大丈夫よ。セナちゃん達は魔力酔いが激しいみたいだからゆっくり休んで。王様達はちょっとお話しましょうね?」
「「……」」

 うふふと意味深に笑うニキーダにドヴァレーさんもヴィルシル国の王様も顔が引きつっている。
 再度有無を言わさぬように「ね?」と問われた王様二人は「はい」と力なく答えていた。


 超特急で用意された部屋からコテージへ入り、ベッドへダイブ。
 あっという間に私は眠りについた。

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