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15章

パンパワー

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「まぁまぁ。おなか減ってるんでしょ? それ食べてちょっと落ち着いて」
「……うめぇ」

 そう呟いた親方は私達からパンを隠すようにモグモグと食べ進める。

「……ゴホン! ま、まあまあだな。だが、こんなんで許可すると思うなよ」
「あ、やっぱりダメ?」
「あたりめぇだ!」
「……ちょっとよろしいですか?」

 丸々一本食べておいて何事もなかったかのように取り繕う親方に笑ってしまう。
 笑う私に顔を赤くした親方が声を荒げると、モルトさんが片手を上げて一歩前へ出てきた。
 こういうときはいつも見守ってくれてるのに意外だ。

「あんだぁ?」
「まだお昼すぎですが、昼間に採掘はされていないんですか? この時間に食べていないとすると昼食に戻ってきたわけではないんですよね? 坑道で何かあったんですか?」
「……ふん! てめぇらみてぇなよそもんなんかに言うわけねぇだろ」
「この子はBランクですが、自分達はこれでもSランクパーティです。よければ話を聞きますよ」
「…………何が目的だ?」
「この子を含めた自分達が坑道でバチバチがんを採掘させてもらえれば嬉しいですね」

 微笑みながら言い切ったモルトさんに親方はしばし固まった後、ニヤリと笑いかけた。

「おうおう。んならやってもらおうじゃねぇか。さぞかし腕に自信があるんだろうな。言っておくが、金は払わねぇからな」

 先ほどとは打って変わった様子の親方に私達は顔を見合わせた。



 流石にジィジやアチャに採掘はさせられないため、ここからは別行動に。ニキーダだけは面白そうだと一緒に向かうことになった。
 どんな無理難題を押し付けられるのかとドキドキしながら案内されたのは、街のすぐ隣にある採掘現場。
 石や土が山のように積み上げられている中を縫うように進むと、ポツンと粗末な小屋が建っていた。その近くにはポッカリと地面に開いた穴があり、これが坑道の入り口だそう。

 親方に続いてハシゴを下りると、中は想像していたより広かった。
 採掘した鉱石は荷車で運び、ここからバケツで地上に持ち上げるシステムらしい。
 壁に設置してある魔道具の灯りを頼りに迷路のような坑道を進んでいく。
 親方が「ここだ」と止まった先は坑道が崩れていて、崩落した岩で道が塞がれていた。

「この岩を運び出して通れるようにしてくれ」
「え……それだけ?」
「は? これ全部だぞ?」

 正直拍子抜けだ。てっきり超強い魔物が出るとか、新しく坑道を掘れとか言われるのかと思ってた。

「この岩って使うの? この辺はもう掘らないの?」
「いや。ここいらはまともな鉱石はねぇ。今採掘してんのはこの先だ」
「ふーん。わかった」
「フンッ。オレは上の小屋にいる。後で泣きべそかいても知らねぇからな」

 そう捨て台詞を吐いて親方が来た道を戻って行った。

「……おい、これどうすんだ?」
「硬そうだけど、岩を壊せば運びやすいじゃない」
「荷車借りてくればよかったねー」

 ガルドさんもニキーダもジュードさんもこれを律儀に運ぶつもりらしい。
 そんなことしなくてもすぐに終わるのに……
 相談し始めたみんなの輪に入らずに私は手近にある岩を無限収納インベントリに入れていく。
 この辺の岩まとめて入らないかな? と思った瞬間――目の前にあった岩の山がごっそりと消えた。
 おおお! 素晴らしき無限収納インベントリ! いいね、いいね!
 さらに二回ほどまとめて収納したら、塞いでいた岩はキレイさっぱりとなくなり、崩落していたなんて嘘のよう。
 また崩れたりしないようにグレウスに坑道の壁の補強を頼めば、あの親方も納得するでしょう。

「終わったよ~」

 私の声で振り向いた面々は揃って目を見開いた。
 不思議がるメンバーにしまっただけだと説明すると、ガルドさんを筆頭に「でかした」と頭を撫でられた。
 みんなあの岩を運ぶのは嫌だったみたい。

 ジルが呼んできてくれた親方は、確認するなり「うおおおお!」と雄叫びを上げた。
 ひとしきり騒いで落ち着いた親方さんが採掘の条件として出してきたのは……まさかのパン。

「普段ならよそもんは入れねぇが、特別に許可してやる。あのパン忘れんなよ! 忘れたら入れねぇからな!」

 「まあまあだな」なんて言ってたのに気に入っていたらしい。精霊達もそうだけど、ジャムパン……無敵じゃない?
 掘ったバチバチがんは自分達のものにしていいのかと聞けば、「掘れたらな」とのこと。


◇ ◆ ◇

 翌日、指定された時間に昨日と同じメンバーで向かうと、閑散としていた昨日とは違って鉱夫達が働いていた。

「親方ぁ、その人達っすか?」
「そうだ。こいつらを奥に案内しろ」
「へい」
「あ、ちょっと待て。お前はオレに渡すもんがあるだろう」

 私の腕を掴んでこっそりと言う親方さんはパンのことを内緒にしたいらしい。
 ジャムパンを一本出すと、私からひったくるように奪い、自分の背中に隠していた。
(めっちゃバレバレだと思うんだけど……)
 案内人のお兄さんは大して気にした様子はなく、「ふーん。こっちっす」と私達を案内してくれた。

「バチバチがんっすよね? 親方に言われたのは違う場所なんすけど、この辺でよく出るっす。他のやつらはあんまこっち来ないんで、好きに掘って大丈夫っす。そん代わり、さっき親方に渡してたやつが何か教えて欲しいっす」

 なるほど。特に何も思ってなかったわけじゃないのね。親方さんは秘密にしたがってたみたいだからどうしようかな……
 考える私の思いも露知らず、グレンがサラッとバラしてしまった。

〈あれはセナの特製パンだ〉
「え……パン? パンって、あの食うパンっすか? 金とかじゃなく?」
「えっと……うん。お兄さんも食べる?」
「……もらうっす」

 ちょっと悩む素振りを見せたお兄さんは渡されたジャムパンを一口食べた途端、「ちょっと言ってくるっす!」と走り去ってしまった。

「マズかったかな?」
「いいんじゃない? 内密にしろなんて言われてないし。それより時間なくなっちゃうわよ?」
「それもそうだね。よし、いっちょやりますか!」

 気合いを入れてツルハシを振り下ろす。
 案内してくれたお兄さんが言っていた通り、この辺はバチバチがんが多いみたい。
 露店ではなかなか出ないって聞いてたのに、出てくる鉱石のうち十に一つはバチバチがんだ。



 採掘現場に通うこと数日。
 私達は他の鉱夫達と仲よくなり、採掘以外のこともするようになった。

 親方さんが私からパンを受け取っていたことがバレ、すったもんだあった挙句にジュードさんがスープを格安で販売することに。これは連日大好評でジュードさんは朝からずっとスープ作り。
 私のジャムパンは限定食として一日十本だけジュードさんのスープと共に売り出されている。なぜか争奪戦になったから、連続で買えないようにした。
 たまに現れる魔物は私達が引き取ることを条件に討伐。
 さらに今ではニキーダが小屋でケガ人を治してあげていて、ニキーダが来ない日はコルトさんが代わりに担当している。

 それらのおかげか鉱夫達はみな私達に親切になり、先日はものすごく珍しいという琥珀をもらった。


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