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15章

難あり王妃

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 それから騎士団の宿舎にお邪魔させてもらい、私はパン屋【パネパネ】に顔を出したり、馬達に会いに厩舎に行ったりとプラプラしていた。
 その間ニキーダは騎士団でケガを治してあげていて、人気が急上昇。そんなニキーダをいい訓練相手として認定したらしいリカルド隊長が突撃する度に団員達によって追い返されている。
 ガルドさん達もブラン団長達と仲よくなり、実技指導を担当。実戦形式の戦い方はわかりやすいと団員から大好評。
 さながら保健の先生と体育の先生みたい。


 四日後の朝、私はみんなを連れて王都の近くまで転移。それからそれぞれの馬に乗って街に入った。
 王城の応接室にはすでにアーロンさんもいて、私と目が合った一言目が「久しいな。おやつは?」だった。

「いやー、このゼリー? ってやつも美味いな! 何個でも食える! ん? ガルド達は食わないのか? 食わないなら食ってもいいか?」
「あ、あぁ……」
〈貴様食べすぎだろうが! セナ!〉
「いいだろ? 俺はセナに会ったときしか食えないんだぞ。お前は毎日食ってるんだろ?」
「はいはい、ケンカしないの。ケンカするなら没収するよ? ドヴァレーさんもさりげなくモルトさんの食べないの」
「〈む!〉」
「美味しくてね。食べないみたいだったから」
「そんなんで誤魔化されないから」

 競うように食べる二人の横でアイコンタクトでモルトさんのを強制的に奪っていったドヴァレーさんを注意する。

「お前さん……すげぇな……」
「アハハハハハ! アーロン陛下は相変わらずだねー。緊張してたのに気が抜けちゃったよー」
「おい、ジュード……!」
「構わん、構わん。セナ、ガルド達の緊張を解したぞ。ゼリーは?」
「…………」

 ご褒美にゼリーをねだるアーロンさんと、その隣りでちゃっかり手を伸ばしてくるドヴァレーさん。
 これがスライムからできてることを知ったらどうするんだろうね? 説明が面倒だからしないけど。

「話が進まないからこれで最後ね」
「む……仕方ないな……ガルド達も食え。残ってると食いたくなる」

 おかわりを渡した三人はあっという間にかき込み、言われたガルドさん達もようやくゼリーに口をつけた。
 全員が食べ終わったところでガルドさん達を紹介して、やっと本題へ。

「連絡を受けてアーロンと調べたのだけど、盗賊に入られたという文献は出てこなかったんです。ただ、出先で山賊に襲われた際、助けてくれた冒険者に褒美として渡したアイテムがセナ殿が見つけた物にそっくりなことがわかりました」
「偶然居合わせたのかはわからんが、被害に遭ったわけではなさそうだな」
「なるほど。それならよかった。全部持ってきたから引き取って」
「売れば金になるぞ?」
「アーロンさん達の先祖に対しては好意だったとしても、盗賊が持ってたものでお金を稼ごうとは思わないよ」
「……フッ。セナらしいな。わかった。元の持ち主に渡すことを約束しよう」

 しばし虚をつかれたように沈黙した後、アーロンさんは破顔した。
 アイテムを全て渡した私に、ドヴァレーさんが待っていたと言わんばかりに話しかけてきた。

「さて、セナ殿に話さないといけないことがあります。ヴィルシル国の火山に入りたいとのことでしたが、ヴィルシル国の王と王太子はもうテルメの街に出発していてね、連絡が取れないんですよ」
「え?」
「テルメの街は向こうの王都からは離れているからな。現地で直接交渉した方が早いし確実だ」
「マジか……」
「俺が行けないのは残念極まりないが、ドヴァレーに手紙を持たせておいた。余程のことがなければ許可は下りると思うぞ」
「ありがとう……」

 王族に会いたくなかったんだけど、そうは問屋が卸さないのね……ってことは、やっぱり護衛依頼としてついて行かなきゃいけない感じ?
 なんて思っていたら、ドヴァレーさんからは予想外のをされた。

「本来ならセナ殿達に護衛依頼をしたいところなんですが……セナ殿には戦闘に参加して欲しくないんです」
「ん? どういうこと?」
「ちょっと王妃が……」

 詳しく聞いてみると、ドヴァレーさんの奥さんは生粋のお嬢様で、平民だろうがなんだろうが子供が働くことをよしとしないそう。〝子供は子供らしく過ごすのが一番。親が護ってあげないと〟なんて殊勝なことをモットーとしているらしい。
 現実を見ろと言ってやりたいけど、箱入り娘として育ってきた際に根付いた考え方はちょっと説明したくらいじゃ納得しなさそうなんだって。

「前に見かけたときに一方的に叱りつけました……多分セナ殿が戦ってるのを見たら卒倒するか、危険だからと自分の馬車に閉じ込めてしまうかもしれません」
「うげ……! 面倒だから別行動で現地集合の方がよくない?」
「王族が移動するから各街では警備が厳しくなります。特に国境越えは足止めをされる可能性が高いんですよ。なのでガルド殿達には護衛依頼として、ニキーダ殿は来賓者として一緒に向かってもらえたらと」
「マジかよ……」

 そんな面倒なお嬢様と結婚するなよとか、あんたの嫁なんだから納得させろ……とは口が裂けても言えず、今のところいい案が浮かばない私はこの件を保留することにした。

「それともう一つ。そろそろあのやしきをなんとかしてもらえると助かります。夜な夜な変な音が聞こえると街でウワサになっているらしくて……取り壊すにも隠し書庫のことがあるので私達では手が出せないんです」
「あぁ……わかった。とりあえず護衛依頼の件を考えながらなんとかする」
「助かるよ」

 勝手に私の家にされたけど、本に惹かれた私は了承した。
 ジルのこともあるし、ちょっとみんなと相談したい。
 ゼリーをレシピ登録してくれと言うアーロンさんを宥めすかして、ひとまずお暇することになった。


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