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15章
カラクリ好きの神使
しおりを挟む〝渡り鳥〟のベーネさんの宿では大歓迎で迎えられ、ウェルカムドリンク……キーウィのスムージーまで全員分用意してくれていた。
宿まで送ってくれたブラン団長達とニキーダはスムージーを飲んだ後、お城に戻って行った。ニキーダがジィジからの伝言を忘れていたらしい。
「さっき聞けなかったが、あの教会だけじゃなくて家も持ってんのか?」
「一応……形式上は?」
「は?」
教会と邸が私のものになった経緯を説明しながら口を尖らせる。
「どうせ家持つならブラン団長達がいるカリダの街がよかった。もしくはジィジの国」
「ジャレッド王の国はわかんないけど、カリダの街はオレっちも好きー」
「でしょ~?」
気に入ってもらえたのが嬉しくて締まりのない顔でジュードさんを見上げると、ワシワシと頭を撫でられた。
みんなにどうするか聞いてみると、ガルドさん達は役に立たなそうだと買い物に行くことになり、ジルとグレンは私と一緒に調べることになった。
「んじゃ、また後でな。無理はすんじゃねぇぞ」
「はーい! いってらっしゃい!」
宿前でガルドさん達と別れ、私達も出発。一度ネライおばあちゃんのお店に顔を出してから、問題のプラティーギア宅へ向かう。
門を開けた先で待ち構えていた人物に私達は揃って驚いた。
「イーッヒッヒ! お待ちしてましたよ」
「え!? インプ!?」
「イーッヒッヒ!! お久しぶりですねぇ」
「え、あ、久しぶり……だけど、なんで?」
「手伝いに参りました。楽しみですねぇ。イーッヒッヒ!」
おばあちゃんに言われたらしいインプはワクワクした様子で私達を急かしてくる。
ブラン団長から預かった鍵で扉を開けると、インプはするりと体を滑り込ませて一際大きな声で笑った。
「イーッヒッヒ! ではヤバそうな地下から参りましょうか?」
なんでそんなにやる気満々なのかわからないけど、インプなら変な細工も通用しなそうだ。
口許に笑みを見せるインプに顔を見合わせつつ、私達は後ろから階段を下りていった。
地下五階を過ぎた時点で、この家を建てた張本人であるアルヴィンから《改造されている》と念話が届いた。
やっぱり……そんなことだろうと思ってたんだよ……
「おや? まだ先があるハズなんですがねぇ……入り口が見当たりませんねぇ。イーッヒッヒ。まぁ、いいでしょう。先に部屋を調べていきましょうか」
地下十階の階段周りをサッと調べたインプは、すぐに切り替えて私達を促した。
ブラン団長達から地上五階地下十階って聞いてたのに、さらに地下があるらしい。
(どんだけ秘密主義なのよ……)
一部屋目、二部屋目と何もない部屋が続き、三部屋目にインプが声を上げた。
「おぉ! ここですねぇ。んん……これでしょうかね?」
部屋を見渡したインプは数歩進んで何かを踏みつける。
その瞬間、私の頭上をピュンッと何かが通り過ぎた。
〈うおっ!?〉
後ろから驚いた声が聞こえ、振り返ると、グレンが仰け反っていた。
原因は……矢。左の壁から放たれた矢が私の頭上を掠めるように通り、右の壁に刺さっていた。
え……めっちゃ罠じゃん。え? 罠が作動するスイッチ押したってこと?
〈ふむ。矢ですか。古典的ですねぇ……これはどうでしょう〉
「え、ちょっと、インプ!? ――ギャッ!」
また何かを踏もうと足を上げたインプを止めようと一歩踏み出したら、下から槍が飛び出してきた。
なんとか寸前で躱したものの、髪の毛が数本パラりと舞った。
こ、腰が抜けるかと思った……
《ちょっとあん……!》
〈!〉
「きゃああああ!」
プルトンが文句を言おうとしたタイミングで今度は弓が天井から降り注ぎ、アタフタと逃げ惑う。
(死ぬうう! おばあちゃーん!)
グレンもジルも武器を出し、精霊達は魔法で弓を撃ち落としていく。
〈クソ! プルトン結界を張れ!〉
《えいっ!》
大剣を振り回して弓を弾いていたグレンが叫び、プルトンが張ってくれた結界でカンカンと弓が弾かれる。
あたふたと右往左往するばかりだった私は安心感から床にへたり込んだ。
最初から結界を張っておけばよかった……インプがいれば大丈夫だと思ってたのに、インプのせいで罠が発動するなんて予想外もいいところ。
「おや、すみませんねぇ。少々夢中になったばっかりに、ヴィエルディーオさまからお叱りを頂戴しました」
「……インプさん。罠が好きなら地下は任せていい?」
「イーッヒッヒ。いいですよ。いろいろと回収しておきますね」
「よろしく……」
ヨロヨロと立ち上がった私は文句を言いたそうなグレンに抱っこをせがみ、そそくさと退避。比較的安全そうな階上へ向かった。
◆ ◇ ◆
一方そのころ、ニキーダは執務室でブラン団長と共にドヴァレー王やアーロン王と雑談していた。
「そういえば、セナの件で面白い報告を受けたぞ」
「面白い報告?」
「そうだ。セナがペリアペティの街に訪れた後に伯爵が一人、身ぐるみ剥がされて木に吊るされているのが発見された」
「それをセナちゃんがやったって言うの?」
ニキーダはアーロンの発言に眉をひそめた。
「違う。おそらく冒険者だろう。あの街の冒険者は荒くれ者が多く、冒険者同士のいざこざなんぞ日常茶飯事。そういう冒険者がいる街だと言いたかっただけで、その伯爵はどうでもいい」
アーロンは紅茶で喉を潤してから再び口を開いた。
「特に問題行動の多いパーティとセナを遭遇させぬようギルドが画策していたらしいが……結局ギルド内でバッタリ会ってすぐにセナに手懐けられたそうだ。挨拶すれば返してくれ、物をあげれば笑顔を向けてくれるってな。最終的に〝可愛いセナに嫌われたくない〟って理由で素行もよくなり、口調も変化。問題を起こさなくなったんだと。しかも一番厄介だとされていた二組のパーティのリーダー同士が婚姻までしたらしいぞ」
「流石セナちゃんね!」
「さらにオレが笑ったのは、セナの代わりにガルド達がダンジョンに入ったが、何一つギルドに売らなかったらしいんだ。信用できないってな。ドヴァレー、いくらブランが好かれているとはいえ、ちゃんと話さないとセナに見放されるぞ」
アーロンはニヤリとドヴァレーの目を見やる。意図がわかったドヴァレーの口元がわずかに引きつった。
「あら? なーに? またセナちゃんを利用する気なの?」
ニキーダから発せられる刺すような魔力を目の当たりにしたドヴァレーは諦めたように嘆息した。
「……そうではありません。先ほども言いましたが王妃のことです。いい子なんですが……過保護なんですよ。異常に。息子の剣の訓練や魔法の練習にもいい顔をしない。そして、冒険者や騎士など荒事をやる者を怖がります。なのでセナ殿と一緒にいるガルド殿達やニキーダ殿に何か言う可能性が高いかと」
「十中八九言うだろうな。で、セナが怒り、グレンが怒る」
「ふーん? そうねぇ……あ! いいこと思いついたわ! アタシに任せてちょうだい! あなたは見守っていること。いいわね?」
「ちょっとやそっと言ったところで聞く耳も持たんぞ。どうする気だ?」
「ふふふ。アタシの考えは……」
ニキーダの説明を聞き、そんなことで変わるのかとドヴァレーは半信半疑だった。しかし他にいい案も浮かばない。得意気なニキーダに不安になったものの、ドラゴンに暴れられるよりはと希望を託すことにした。
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