452 / 541
15章
オマル
しおりを挟む執務室に着き、ペンギンことピングーノにご飯として魚を出したら渋い顔をされた。どうせなら人が食べるご飯がよかったらしい……
いや、全然いいんだけどさ、ペンギンなのに表情が豊かなことに驚いちゃったよね。
気を取り直してツナマヨおにぎりを渡し、私達はソファへ。
ソファが足りないため、ガルドさん達は後ろに立っている。ブラン団長が王族だからか緊張した面持ちで、ピキピキに固まった顔がちょっと怖い。
そんなガルドさんに「普段通りにして欲しい」とブラン団長が頼んでいた。
「……ニキーダ殿。飛んで来たとのことだが、空を飛べるのか?」
「アタシじゃなくてこのピングーノがね。一応こんなのでも魔獣で、巨大化できるから背中に乗れるのよ。それでもかなり時間がかかったわ」
『ピギィ! ピギギ!』
「うるさいわね。邪魔しないでちょうだい。またぶっ飛ばされたいの?」
『ピギ!?』
こんなのって言うな! と訴えていたペンギンはニキーダの言葉で押し黙った。
「ぶっ、飛ばしたの……?」
「探し回ってやっと見つけたのに嫌がったからしつけただけよ。ちゃんと加減もしてたし、セナちゃんが心配するようなことはないわ」
「そ、そうなんだ」
正直、ぶっ飛ばした発言のあとじゃ怪しい気がするけど……
従魔契約もせずに長時間フライトをしてきたらしい。
「契約しないの?」
「飛ぶしかできないのよね」
「充分じゃない?」
『ピピ! ピギギ?』
「ん? なーに?」
近くに寄ってきたから何か用があるのかと問えば、まさかのおにぎりのおかわり要請だった。
おなかがペコペコって言ってたから、さっき十五個もあげたのにもう食べ尽くしてたのね……
〈セナ。そいつだけズルいだろう〉
「でもニキーダ乗せてきてくれたから。グレンもおやつ食べる?」
〈うむ! 我はピザがいい〉
「いいけど……おやつじゃなくない? お肉系はプルコギ風ピザしかないよ」
〈それでいい!〉
『ピギギ!』
〈む! やらんぞ! 貴様は契約すらしていないだろうが! 我はセナと契約しているから特別な料理が食べられるんだ!〉
いや、契約関係なくない? それに別にピザは特別じゃないよ?
何故かペンギンと張り合うグレンは見せつけるように食べ始め、それを見たペンギンが鳴きながら抗議している。
そんな騒がしさも気にせず、ニキーダが何かを思い出した。
「あ、そういえば、再来週くらいにジャレッドも来るけど、セナちゃんも行くの?」
「行くってどこに?」
「えーっと、どこだったかしら?」
「……テルメの街だ」
思い出せないニキーダの代わりにブラン団長が教えてくれた。
なんでも、隣国ヴィルシルに有名な温泉街があるそうで、義兄さんファミリーの旅行にジィジを誘ったらしい。
王妃と子供は完全に遊びだけど、義兄さんは現地でヴィルシル国の王太子と会談予定なんだって。
「セナちゃんも行く? スタルティも来るから、セナちゃんがいたら喜ぶわよ」
「んー……ヴィルシル国は行く予定ではあるんだけど、火山に行きたいんだよね」
「火山?」
「うん。前にシノノラーにもらった地図が火山を示してたの。だから何かあるのかなって」
「シノノラーって妖精よね?」
「そうそう」
ニキーダと話してたら、フレディ副隊長と顔を見合わせていたブラン団長に名前を呼ばれた。
「……セナ。火山には入れないぞ」
「え? なんで?」
「……ヴィルシル国の火山は王族の私有地になっている。許可がない者は罰せられてしまう」
「え、マジ?」
「……マジだ。セナならバレずに入ることもできるとは思うが……もし何かあった場合、同盟国とはいえ俺達も口が出せない。だが、許可があれば別だ。兄上に頼んでみよう」
「本当? ありがとう!」
早速ブラン団長が手紙を書いてくれている途中で、ブラン団長にお手紙が届いた。
義兄さんからの手紙にはニキーダ来襲のことが書かれてたんだけど……巨大化したペンギンがベランダに着陸したせいで城の一部を破壊。カリダの街に向かったから気を付けてという内容だった。
当の本人は「あれくらいで壊れちゃうなんて脆いわね」なんて気にも留めていない。
「それ弁償とかになるの?」
「……いや、それはないと思うから安心していいが……」
「が?」
「……いや、なんでもない。とりあえず請求することはないだろうからその点は大丈夫だ」
気になったけどブラン団長は憶測だからと、話すつもりはないみたい。
護衛依頼って言われるパターンかな? なんて考えていたら、クラオルに肩を叩かれた。
『ねぇ、主様。あの坑道で見つけた道具の話はしなくていいの?』
「あ、そうだった。ねぇねぇ、ブラン団長はクレティスって盗賊知ってる?」
「僕知ってるよ! 貧しい者の味方だったって言われてる昔の人だよね?」
「そうそう」
「その人がどうかしたの?」
「あのね、その人のアジトっていうか遺品? 見つけたんだよね。で、その中に周辺国の紋章が入ってるやつがあって……引き取ってもらいたくて」
パブロさんに説明しながらテーブルの上に広げると、これに関しても義兄さんに問い合わせてくれることになった。
自分のものとして売らなくていいのか聞かれたけど、私としてはよくわからないものは持ちたくない。しかも盗品疑惑があるものなんて尚更だ。
〈おい、ニキーダ。これと契約しろ〉
「は? 何よいきなり」
『ピギギ!?』
〈これからも向こうと往復するんだろう? 契約しておけば探す必要もないぞ〉
「そうねぇ……特に魅力を感じないのよねぇ……本当は?」
〈セナと契約なんぞさせん〉
「え? 私?」
「あぁ、そういうことね。それならいいわよ」
なんで私達と契約なんて話が出てきたのかがわからない。
あっけらかんと許可したニキーダは「うーん……」とちょっと悩んだあと、「じゃあ、あなたは〝オマル〟ね」と名前を付けた。その瞬間、ニキーダとペンギンが発光して契約は完了してしまった。
ペンギンはこの世の終わりだと言わんばかりにヘコんでいて、悔しそうに床を叩いている。
ママ……オマルって……チビッ子用のトイレのオマルしか思い浮かばないよ……それにしても……
「契約って両方納得してないとできないんじゃないの?」
〈勝ち目がないと心の底から理解していればできる。逃げられず、死にたくなければ従うだろう。まぁ、その場合は明らかな力量の差とそのスキルがなければできないがな〉
「なるほど……スキルがあればできちゃうんだ……」
〈大丈夫だ。こやつはそこまで嫌がっていない〉
本当に大丈夫かとペンギンに視線を戻すと、プリプリと怒りながらニキーダに詰め寄ってるところだった。
『ピギギ! ピピ、ピギギギギ!』
「はいはい。うるさいわね。後でもらっておいてあげるから影に入ってなさいな」
契約したから言葉がわかるようになったらしいニキーダはあしらうように命令した。
ペンギンが影に入り、ニキーダに何の話かと聞いてみると、私が作ったご飯を欲しがっていたそう。
グレンによると、私と契約したがったのも私が作ったご飯が食べたいっていうだけで、ニキーダに不満があるわけではないみたい。
本当に嫌がってるんじゃないかと心配した気持ちを返して欲しい。
強制契約についてはパパ達に聞いてみなくちゃ。
710
お気に入りに追加
24,969
あなたにおすすめの小説

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。