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15章
オマル
しおりを挟む執務室に着き、ペンギンことピングーノにご飯として魚を出したら渋い顔をされた。どうせなら人が食べるご飯がよかったらしい……
いや、全然いいんだけどさ、ペンギンなのに表情が豊かなことに驚いちゃったよね。
気を取り直してツナマヨおにぎりを渡し、私達はソファへ。
ソファが足りないため、ガルドさん達は後ろに立っている。ブラン団長が王族だからか緊張した面持ちで、ピキピキに固まった顔がちょっと怖い。
そんなガルドさんに「普段通りにして欲しい」とブラン団長が頼んでいた。
「……ニキーダ殿。飛んで来たとのことだが、空を飛べるのか?」
「アタシじゃなくてこのピングーノがね。一応こんなのでも魔獣で、巨大化できるから背中に乗れるのよ。それでもかなり時間がかかったわ」
『ピギィ! ピギギ!』
「うるさいわね。邪魔しないでちょうだい。またぶっ飛ばされたいの?」
『ピギ!?』
こんなのって言うな! と訴えていたペンギンはニキーダの言葉で押し黙った。
「ぶっ、飛ばしたの……?」
「探し回ってやっと見つけたのに嫌がったからしつけただけよ。ちゃんと加減もしてたし、セナちゃんが心配するようなことはないわ」
「そ、そうなんだ」
正直、ぶっ飛ばした発言のあとじゃ怪しい気がするけど……
従魔契約もせずに長時間フライトをしてきたらしい。
「契約しないの?」
「飛ぶしかできないのよね」
「充分じゃない?」
『ピピ! ピギギ?』
「ん? なーに?」
近くに寄ってきたから何か用があるのかと問えば、まさかのおにぎりのおかわり要請だった。
おなかがペコペコって言ってたから、さっき十五個もあげたのにもう食べ尽くしてたのね……
〈セナ。そいつだけズルいだろう〉
「でもニキーダ乗せてきてくれたから。グレンもおやつ食べる?」
〈うむ! 我はピザがいい〉
「いいけど……おやつじゃなくない? お肉系はプルコギ風ピザしかないよ」
〈それでいい!〉
『ピギギ!』
〈む! やらんぞ! 貴様は契約すらしていないだろうが! 我はセナと契約しているから特別な料理が食べられるんだ!〉
いや、契約関係なくない? それに別にピザは特別じゃないよ?
何故かペンギンと張り合うグレンは見せつけるように食べ始め、それを見たペンギンが鳴きながら抗議している。
そんな騒がしさも気にせず、ニキーダが何かを思い出した。
「あ、そういえば、再来週くらいにジャレッドも来るけど、セナちゃんも行くの?」
「行くってどこに?」
「えーっと、どこだったかしら?」
「……テルメの街だ」
思い出せないニキーダの代わりにブラン団長が教えてくれた。
なんでも、隣国ヴィルシルに有名な温泉街があるそうで、義兄さんファミリーの旅行にジィジを誘ったらしい。
王妃と子供は完全に遊びだけど、義兄さんは現地でヴィルシル国の王太子と会談予定なんだって。
「セナちゃんも行く? スタルティも来るから、セナちゃんがいたら喜ぶわよ」
「んー……ヴィルシル国は行く予定ではあるんだけど、火山に行きたいんだよね」
「火山?」
「うん。前にシノノラーにもらった地図が火山を示してたの。だから何かあるのかなって」
「シノノラーって妖精よね?」
「そうそう」
ニキーダと話してたら、フレディ副隊長と顔を見合わせていたブラン団長に名前を呼ばれた。
「……セナ。火山には入れないぞ」
「え? なんで?」
「……ヴィルシル国の火山は王族の私有地になっている。許可がない者は罰せられてしまう」
「え、マジ?」
「……マジだ。セナならバレずに入ることもできるとは思うが……もし何かあった場合、同盟国とはいえ俺達も口が出せない。だが、許可があれば別だ。兄上に頼んでみよう」
「本当? ありがとう!」
早速ブラン団長が手紙を書いてくれている途中で、ブラン団長にお手紙が届いた。
義兄さんからの手紙にはニキーダ来襲のことが書かれてたんだけど……巨大化したペンギンがベランダに着陸したせいで城の一部を破壊。カリダの街に向かったから気を付けてという内容だった。
当の本人は「あれくらいで壊れちゃうなんて脆いわね」なんて気にも留めていない。
「それ弁償とかになるの?」
「……いや、それはないと思うから安心していいが……」
「が?」
「……いや、なんでもない。とりあえず請求することはないだろうからその点は大丈夫だ」
気になったけどブラン団長は憶測だからと、話すつもりはないみたい。
護衛依頼って言われるパターンかな? なんて考えていたら、クラオルに肩を叩かれた。
『ねぇ、主様。あの坑道で見つけた道具の話はしなくていいの?』
「あ、そうだった。ねぇねぇ、ブラン団長はクレティスって盗賊知ってる?」
「僕知ってるよ! 貧しい者の味方だったって言われてる昔の人だよね?」
「そうそう」
「その人がどうかしたの?」
「あのね、その人のアジトっていうか遺品? 見つけたんだよね。で、その中に周辺国の紋章が入ってるやつがあって……引き取ってもらいたくて」
パブロさんに説明しながらテーブルの上に広げると、これに関しても義兄さんに問い合わせてくれることになった。
自分のものとして売らなくていいのか聞かれたけど、私としてはよくわからないものは持ちたくない。しかも盗品疑惑があるものなんて尚更だ。
〈おい、ニキーダ。これと契約しろ〉
「は? 何よいきなり」
『ピギギ!?』
〈これからも向こうと往復するんだろう? 契約しておけば探す必要もないぞ〉
「そうねぇ……特に魅力を感じないのよねぇ……本当は?」
〈セナと契約なんぞさせん〉
「え? 私?」
「あぁ、そういうことね。それならいいわよ」
なんで私達と契約なんて話が出てきたのかがわからない。
あっけらかんと許可したニキーダは「うーん……」とちょっと悩んだあと、「じゃあ、あなたは〝オマル〟ね」と名前を付けた。その瞬間、ニキーダとペンギンが発光して契約は完了してしまった。
ペンギンはこの世の終わりだと言わんばかりにヘコんでいて、悔しそうに床を叩いている。
ママ……オマルって……チビッ子用のトイレのオマルしか思い浮かばないよ……それにしても……
「契約って両方納得してないとできないんじゃないの?」
〈勝ち目がないと心の底から理解していればできる。逃げられず、死にたくなければ従うだろう。まぁ、その場合は明らかな力量の差とそのスキルがなければできないがな〉
「なるほど……スキルがあればできちゃうんだ……」
〈大丈夫だ。こやつはそこまで嫌がっていない〉
本当に大丈夫かとペンギンに視線を戻すと、プリプリと怒りながらニキーダに詰め寄ってるところだった。
『ピギギ! ピピ、ピギギギギ!』
「はいはい。うるさいわね。後でもらっておいてあげるから影に入ってなさいな」
契約したから言葉がわかるようになったらしいニキーダはあしらうように命令した。
ペンギンが影に入り、ニキーダに何の話かと聞いてみると、私が作ったご飯を欲しがっていたそう。
グレンによると、私と契約したがったのも私が作ったご飯が食べたいっていうだけで、ニキーダに不満があるわけではないみたい。
本当に嫌がってるんじゃないかと心配した気持ちを返して欲しい。
強制契約についてはパパ達に聞いてみなくちゃ。
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