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14章
郷に入っては郷に従え
しおりを挟む翌日、朝から味の濃い朝食を食べたため、水をガブ飲みした私はおなかがタプタプ。グレンに運んでもらってギルドへやってきた。
混む時間を避けたハズなのに、ギルド内は混んでいる。
昨日と同じくこちらを窺う視線は感じるけど、絡んでくる人は今のところいないみたい。
「ダンジョンの許可証だと!?」
驚いた受付けのお姉さんの声がギルドに響き渡り、ガヤガヤと賑わっていたギルドは一瞬にして静まり返った。
「うん。ダメ?」
「ぐっ……当たり前だ。子供が入れるほどこの街のダンジョンは甘くない。諦めろ」
聞いた途端に胸を押さえた女性は、一度言葉を詰まらせてからキッパリと言い切った。
「どうしてダメなの?」
「う……そんな目で見るな。低ランクの子供に許可できるワケないだろ」
「そんな目?? 私達Cランクだよ? Cランクって低いの?」
「ハンッ! 嘘も大概にしろ」
鼻を鳴らして呆れたように笑う女性にジルがため息を吐いた。
「話になりませんね……ギルドマスターを呼んでいただけますか?」
「はぁ? お子様に構っている暇はない。こちとら忙しいんだ。帰った、帰った」
〈なんだと……?〉
「えーっと、はい! ギルドカード」
グレンから不穏なオーラを察知した私がカードを掲げると、お姉さんはチラッと見た後すぐにバッとカードに顔を近付けてきた。マンガで描かれる二度見そのまんまだ。
「な!? Cランクだと!?」
お姉さんが張り上げた声のせいで、ザワザワが戻ってきていたギルド内が再び沈黙してしまった。
ただでさえ監視されている気がするのに、これ以上目立ちたくないんだけどな……
「うん。そう言ったでしょ?」
「にわかには信じがたいが……」
「ギルドカードは不正ができないことは職員であるならご存知でしょう。それより声量を落としてください」
「あ、あぁ、すまん。だが、やはり許可証は出せん」
〈何故だ?〉
ジルとグレンからピリピリしたオーラが発せられたとき、お姉さんの後ろに男性が現れた。
「それは私がお話します。こちらでは他の冒険者の邪魔になってしまいますので、別室に移動をお願いしてもよろしいですか?」
男性の言葉に顔を見合わせた私達は、このまま注目を集め続けるよりは……と、移動することにした。
男性に案内されたのは広い応接室。私達がソファに着席するとすぐに紅茶が運ばれてきた。
「セナ様……ですよね?」
「「!」」
〈貴様はなんだ〉
「あ、申し訳ありません。私は当ギルドのサブギルドマスターをしている、ロギスと申します。門を警備している兵士から連絡があって……王都より通達があった姿と瓜二つなのでそうかなと」
門番さんから連絡がきていたなら納得だ。
グレンは〈早く言え〉と男性から視線を外して紅茶に手を伸ばした。
私はすでにトイレ行きたいから飲まないでおこう。部屋に入る前に寄ればよかった……
「申し訳ありません。セナ様をお連れすることしか頭になかったので。ギルマスがいればあの場で説明もできたのですが、私だと冒険者達に敵わないもんですから」
そう言うサブマスは確かに細身で、あのマッチョ達に力では太刀打ちできなそう。ただ、纏う空気が知的な印象だから事務系には強そうに見える。
実際、本来ならギルマスが確認しなきゃいけない書類関係を一手に担っているそう。
〈で?〉
「この街のダンジョンは最低でもBランク以上の冒険者にしか許可証を発行していません。例えセナ様がそれ以上の実力があっても、ランクがCである限り入場することはできないんです」
「あぁ、なるほど」
それならBランクになればいいってことだよね?
「そしてこの街ではランクアップ時にランクに関係なく試験を設けています。まぁ、他の街でもBランクやAランクに上がる際にはテストを行う場合があるので、この街だけというわけではありませんが」
「そうなの?」
「はい。いくら依頼をこなしていても、それは得意分野だけ……なんてこともありますので、キチンと相応の実力を見ます。例外はありません」
「へぇ~! しっかりしてるんだね」
例外はないと断言するくらいなら、アーロンさんからもらったメダルも無意味だろう。私も王家との関係をひけらかすつもりはない。
登録したときにはそんな説明はなかったから、説明が省かれたか……もしくは国や地域によって違うって言ってたソレなのかもしれない。
「試験って何するの?」
〈受けるのか? わざわざ受けなくても他の街でランクを上げてくればいいだろう〉
「郷に入っては郷に従えって言うじゃん」
〈なんだそれは〉
「その土地のルール……習慣とか風習に従いましょうって意味だよ」
〈また小難しい言葉を……〉
「それにちょっと面白そうじゃない? 試験なんて言われたの初めてだよ! グレンとジルは嫌?」
〈むぅ……仕方ないな〉
「僕はセナ様と同じであればどちらでも構いません」
グレンはすぐに入れないのが嫌なのかちょっと不満そうだけど、私の意見を尊重してくれるらしい。
「試験内容はその都度変わるので一概には言えません。受ける場合、試験はセナ様本人が受けていただきます」
「……その言い方だと私が不正することが確定してるみたいだね」
「そういう意味ではありませんが……」
言い淀むサブマスがチラりとグレンを見たのを私は見逃さなかった。
ふーん、なるほど。
「グレン達従魔は参加するなってことね」
「……端的に言えばそうですね」
「従魔との契約も立派な能力だと思うけど?」
「……他の冒険者達は一人参加になりますので」
なんかちょいちょい引っかかる言い方するよね。目が泳いでるし……真意はわかんないけど、ちょっとね…………グレン達がいると不都合でもあるのかね?
「まぁ、いいや。グレン達はお留守番だね」
『主様!?』
〈セナ!?〉
クラオルとグレンの驚いた声が被った。
ワガママだと思うけど折れるつもりはない。ごめんね!
「ランク上がらないとダンジョンに入れないし、この感じだと例え他の街でランクアップしても認めてもらえなさそうじゃん。グレンは私が試験に落ちると思うの?」
〈それは思わんが……ムムム……〉
「ジルもいるし大丈夫だよ~。ふふふ」
クラオルもグレンも私の顔を見てピクッと一瞬口元を引き攣らせた。
ヤダな~。暴れたりしないよ? ちょっとイラっとしちゃっただけだよ?
〈……危険はないのか?〉
「他の冒険者達と同じ扱いになります。セナ様だけが特別危険な目に遭うということはありません」
〈仕方ないな……何かあれば我を呼ぶんだぞ?〉
「うん! ありがとう!」
「試験を受けるということでよろしいですか?」
私が頷いたのを確認したサブマスは試験の説明に入った。
試験は明朝からで、長ければ三日ほど。試験期間中はグレン達従魔には会えない。試験内容はその都度発表されるらしい。
週一でしか開催されない試験が明日ってのはラッキーだね!
「――以上ですが、何か質問はありますか?」
「荷物は? 持っていかなきゃいけないものとか、逆に持ってっちゃいけないものとか。日数がかかる場合のご飯や泊まる場所はどうなるの?」
「……私の説明を聞いて、必要だと思ったものを準備してもらえればと思います」
「なるほど。これも試験の一環ってことね。わかった」
随分と手が込んでいるもんだ。明確な答えが返ってこないってのもある意味ヒントだよね。
グレン達のご飯準備しなくちゃ!
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