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14章

ダンジョンの街ペリアペティ

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 麓の村はあまり旅人は訪れないらしく、警戒されたけどジルの交渉によって泊めてもらえることになった。
 岩山で出没しまくっていた猿の毛皮を使った工芸品が特産品だそうで、タルゴー商会が気に入りそうなものを買い取った。逆に村人にはポーションや小麦粉などの食料品を売ってあげた。


 二日程滞在した村を出発して、そのまま連なる山沿いを北に進むこと一週間。ごま油ダンジョンのあるペリアペティの街に到着した。
 ダンジョンで栄えた街たる所以ゆえんか、街全体が無骨な雰囲気。歩いている人も大柄な冒険者が多い。
 門番のおじさんが言うには、この街にあるダンジョンは三つ。どのダンジョンにも何かしら食材となりえるものがあるんだって。そして「気性の荒い冒険者もいるから、何かあれば遠慮なく兵士を呼んで欲しい」とのことだった。
 もし絡まれたら……グレンが煽って火に油を注ぐ……なんてことになりそうだから注意しないとね。

 一度宿に寄った後、ブラン団長達に手紙を送ろうと冒険者ギルドへやってきた。
 ギルドの中は汗臭さとお酒の匂いが充満していて、ちょっと荒れた雰囲気だ。
 マンガでよくある一昔前のヤンキー学校みたい……
 屈強そうな冒険者達からビシバシと強い視線を感じ、居心地はあまりよくない。

〈セナ〉
「ありがとう」
〈ジルベルトも離れるな〉
「はい」

 グレンに抱えられ、カウンターでお手紙を送る。
 担当してくれたギルド職員の女性も冒険者達と同様に気の強そうな人だった。
 特に何事もなくギルドを出られてホッと一安心。

〈すぐ入るのか?〉
「ううん。もうお昼すぎてるし、まずは街を見たい」
〈ならご飯だな!〉
「ふふっ。そうだね。美味しそうなお店ある?」

 聞かれたグレンは鼻をヒクヒクとさせて〈あっちだ〉とニカッと笑った。
 着いた先は〝ザ・大衆食堂〟って雰囲気のお店。そこそこ繁盛店らしく、半分ほど冒険者達で席が埋まっていた。

「あれま! 可愛らしいお客さんだね! あっちの席に座んな!」
「はーい」

 示された席に着くと、恰幅のいいおばさんが私とジルにお水を持ってきてくれた。

「うちには果実水も紅茶もないからね、これで我慢しとくれ。アンタはエールでいいのかい? それとも水にしとくかい?」
〈……エールだな!〉

 視線で訴えられた私が頷くと、グレンは満面の笑みでお酒を頼んだ。
 グレンは久しぶりのお酒が嬉しいらしく、大ジョッキほどもあるエールを一気飲みして二杯目を注文した。

「飲みすぎはダメだよ?」
〈これくらいじゃ酔わん〉
『酔っ払ったら置いていけばいいのよ』
〈ム! 酔わないと言ってるだろう〉
「まあまあ。これからご飯なんだからケンカしないの」

 ちょっとピリピリしているクラオルを撫でて落ち着かせる。
 おそらく冒険者達からチラチラと見られているのが原因だろう。
 ギルドでもそうだったけど、やたらと視線を感じるんだよね。

「お待ちどう! こっちがお嬢ちゃんと坊ちゃんのだよ。これはあたしからのオマケさ」
「わぁ! ありがとう!」
「ありがとうございます」
「うんうん。たくさん食べて大きくなんな」

 おばさんは私とジルの頭をガシガシと撫でていった。
 サービスで付けてくれたのは小皿に入ったレーズンとナッツ。これは素直に嬉しい。
 料理は全部茶色で、見た目通り味が濃かった。日本にはなかったソースと醤油を足した感じの味付けはお酒のアテだと思えば納得の部分もあるけど、私には濃ゆすぎてパンと水がやたらと進む。
 グレンもジルも気にならないみたいで、特に変わった様子はなかった。

〈セナ、ちゃんと食べろ。いつもより食べてないではないか〉
「パンいっぱい食べたからおなかいっぱーい。グレン食べて。んん? ……これレーズンじゃない?」

 食べれば食べるほど喉が渇くおかずからナッツの小皿にシフトした私は、想像とは違った味に首を傾げる。

「おぉ、デーツか! 納得だわ。美味しい!」
われも!〉

 あーんと開けてアピールしてくるグレンの口に入れてあげる。
 〈まあまあだな〉なんて言いながらも気に入った様子だから、後でいっぱい買おう。

 会計を済ませた私達は街をブラブラしながら、気になったお店で買い物をしていく。
 ダンジョンの街だからか、他の街よりも武器防具を取り扱っているお店が多かった。
 ちょっと驚いたのが、ポーション専門店まであったこと。上級ポーションがあるかと覗いてみたけど、中級ポーションまでしかなかった。しかもものすごく店主にガン見されて、気まずさから自作できるポーションを買うハメになってしまった。

 この街にもタルゴー商会があったので挨拶に向かうと、すぐに応接室に案内された。
 支店長を任されているというスマートな男性は少し緊張しているように見える。

「商会長よりお話は伺っております。本日はどんな物をお求めでしょうか?」
「えーっと……今日街に着いたから顔を出しにきただけなの。混んでるのにごめんなさい」
「なんと! そうでしたか。聞いていた通りお優しいのですね。商会長の恩人であるセナ様とお目見えできて嬉しく思います」

 驚いた支店長は憤慨することもなく、優しく微笑んだ。

「セナ様方はダンジョンに入られるのですか?」
「うん。この街には三つあるんだよね?」
「はい。ダンジョンの入り口は岩山にあるのが二つと、街の北側にある地下へロープを伝って降りるものが一つ。各ダンジョンの入り口にいる兵士に許可証を見せる形になります」
「許可証?」
「はい。実力不足の者が入らないようにと入場制限を設けている形です。冒険者ギルドで発行されていて、これがないとどのダンジョンも入ることができません」
「マジか……知らなかった。ありがとうございます」

 門前払いされるところだったじゃん。まずは先にギルドに行かなきゃだ。

「いえいえ。セナ様でしたらすぐに許可が下りるかと思いますが……地下ダンジョンには入られますか?」
「予定では全部一回ずつ入ろうかと思ってたんだけど……」
「地下ダンジョンは少々特殊なダンジョンとなっていまして、何故か生活魔法である【ライト】が使えません。魔道具の明かりを持っていくか、松明を使うことが推奨されております」
「マジか……めっちゃ重要じゃん」
〈その地下のダンジョン内は魔法が使えないということか?〉
「いえ。生活魔法の【ライト】だけです。攻撃魔法はもちろん、他の生活魔法は使えます」
「じゃあ、光魔法でライトみたいに照らすことは可能ってこと?」
「え……そのようなことができるのですか?」
「できなくはないと思うんだけど……」
『主様! ここで実験しちゃダメよ!』

 試してみようとしたらクラオルにベシベシと叩かれた。
 クラオルいわく、私みたいにイメージだけで発動することができないから刺激が強いらしい。しかも完全無詠唱だから余計に。
 どう誤魔化そうかと頭をフル回転させる前に、ジルが口を開いた。

「できるできないは別として、理論上は可能だと思います。かの高名な賢者様は、魔法には無限の可能性があると」
「なるほど。特出すべきことはそれくらいでしょうか」
「重要な情報ありがとうございます」
「いえいえ。ふむ。そうですね……少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

 何か思い付いたらしい支店長はそう言って応接室から退出した。
 しばらくして戻ってきた支店長から渡されたのは各ダンジョンで手に入る素材の一覧表だった。

「おぉ! めっちゃ助かる!」
「ふふっ。それはよかったです。もし可能でしたら、当商会に卸していただけると嬉しく思います」
「いいよ、いいよ~。欲しい物があったら、それ中心に確保してくるよ」

 支店長に買い取りたいものを聞き、商会を後にした。

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