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13章
お礼と有能執事
しおりを挟むタイミングを見計らっていつもよりちょっと遅めに一階に降りると、バッチリタルゴーさんと遭遇できた。
一緒に朝ご飯を食べながら、タルゴーさんに今日の計画をこっそりと説明する。
「流石セナ様! お優しいのですのね! 素晴らしいですわ! ダーリ!」
「かしこまりました」
タルゴーさんに名前を呼ばれただけで何を言いたいのかわかったらしいダーリさんが宿から出て行った。
流石執事……阿吽の呼吸だね……
「タルゴーさんは大丈夫?」
「問題ありませんわ!」
「ありがとう!」
コソコソと相談しながら食べ進め、食後の紅茶で一服したらグレンを見送る。
宿の入り口でしつこいくらいに「今日は宿から出るな」って言い聞かせられた。
午後も予定が決まってるから出ないの知ってるのに……心配性なんだから……
グレンを送り出して振り返ると、タルゴーさんとラゴーネさんに温かい目を向けられていて、いたたまれなくなった。
「……では! 早速!」
「セナ様、申し訳ございませんがダーリをお待ち……戻りましたわね」
「おかえりなさい! あれ? ギルマスも?」
「ただいま戻りました。お待たせしてしまい申し訳ございません。はい。参加していただいた方がよいかと僭越ながらお呼び致しました」
「ありがとう! 明日行こうと思ってたんだ」
あのちょっとした説明で先を読んでくれるなんてありがたい。
ギルマスはよくわかっていないみたいだけど、ラゴーネさんと一緒に説明しちゃえばいいよね!
「では、改めて。今日はラゴーネさんにお礼の料理を振る舞いたいと思います!」
「え……えぇ!?」
「ということで、キッチン借りてもいい? あれ? ラゴーネさ~ん?」
目を丸くして口をパクパクしているラゴーネさんの顔の前で手を振る。
「……はっ! そ、それは構いませんが……」
「ありがとう!」
案内してもらったキッチンでは、料理人の人が二人ほど後片付けをしていた。
整理整頓されていて、掃除も行き届いている。
いきなり厨房にお邪魔した私達にも、三十代と四十代に見える男性二人はキチンと挨拶してくれた。
しかも「セナ様に会えるなんて光栄です」とニッコリと微笑んでくれ、快くキッチンを貸してもらえるとのこと。
料理人さんまで優しいなんて……やっぱこの宿好きだわ。
「料理人さん達にも意見聞きたいんだけどいい?」
「構いませんが、役に立てるかどうか……」
「いつも美味しいご飯作ってくれてるから、それは大丈夫!」
私が自信満々に伝えると、料理人さん達はホワッと嬉しそうに笑った。
「まず、今までレシピ登録したやつで簡単に作れそうなやつね」
昨日作った料理を一品ずつ、キッチンのテーブルに並べていく。
置かれていく料理が増えれば増えるほどダーリさん達は目を丸く見開いていくのが面白い。
「で、つい最近登録したもやし料理と……超楽々麦ぱんサンドと白パンサンド。このパン二つは登録してないんだけど、簡単だから宿で出せるかな? って思って」
「こ、こちらは全てセナ様が考案なさったのですか?」
「ん~……正確には私の故郷で食べられてた料理なの。こっちで食べられないから作っただけなんだけど……レシピ登録を勧められたんだよね。問題になるからって」
「ですがセナ様が作られたのですよね? こ、このような料理は初めて見ました……」
「とりあえず食べてみて! これは気に入った料理の提供を許可するから! ありがた迷惑だったらごめんだけど……」
「なんと!? よろしいのですか?」
「もちろん! タルゴーさん達もどうぞ」
期待の眼差しを向けてきていたタルゴーさん達にもフォークを渡すと、それはそれは嬉しそうに受け取った。
食べた全員もれなく一口食べては幸せそうな笑顔を浮かべ、べた褒めの感想を述べてくれる。
よかった。ウザがられることも覚悟してたんだけど、大丈夫そう。
見ているこっちが嬉しくなっちゃうね!
「全て言葉で表せないくらい美味しゅうございます」
「ふふっ。口に合ってよかった。基本的にレシピに関してはタルゴーさんの商会が食堂や屋台を出してるから、材料で揃えにくいものがあったらタルゴー商会に言えば用立ててくれるよ」
「お任せくださいまし! セナ様のレシピでしたら世界一を自負しておりますわ!」
「なんと……そのようなことまで……ありがとうございます。ありがとうございます……」
お礼を言うラゴーネさんの瞳にはみるみるうちに涙が溜まっていく。
これがメインじゃないし、そこまで喜ばれると思っていなかった私はオロオロするばかり。ダーリさんがサッとハンカチを渡していた。
「こちらのレシピの提供許可はこの宿限定です。例え記憶していても他の場所で提供した場合、罰せられます。そしてレシピの守秘義務も同時に発生しますので、情報漏洩にご注意ください」
「「もちろんです」」
ジルの脅しに、料理人の二人は真剣な様子で頷いた。
涙を拭ったラゴーネさんが選べないと言うので、全て認可ってことでレシピのメモを渡した。それなら好きなタイミングで提供できるだろうからね。
サンド系はパンに挟むっていう行為そのものがレシピ登録の扱いになっていたらしく、これは派生料理みたいな扱いで新たにレシピ登録することになってしまった。
それはいいんだけど……登録にあたってタルゴーさんとギルマスが大フィーバー!
特にタルゴーさんは声が大きいし、話が止まらない。
「奥様! 宿のお客様にご迷惑になりますので、その話は場所を移してからにした方がよろしいかと思います」
「はっ! そうですわね!」
「セナ様はラゴーネ殿とまだお話があるかと思いますので、話をまとめてからセナ様にご意見をお伺いするのはいかがですか?」
「そうしましょう! セナ様、また後ほどお時間をいただきたいですわ。さ、ギルドマスター、行きますわよ!」
ダーリさんのナイスアシストでタルゴーさんとギルマスが連れ立ってキッチンの入り口の方へ。
二人に続くダーリさんは「二、三時間ほどかかると思います」とウィンクして出ていった。
(流石ダーリさん! できる男! 本当にありがとうー!! ダーリさんにも後でプレゼントがあります!)
ダーリさんに感謝しつつ、私はラゴーネさんに向き直る。
「……ちょっと予想外に時間かかっちゃったけど、まだ三人共時間大丈夫?」
「はい。本日は昼食の予定がありませんので」
「よかった。じゃあメイン出すから、残ったやつどかしちゃうね」
「へ? メインですか? そ、そちらの料理では?」
「別だよ~。さっきまでのは取り引きの話だからね。メインは……これです!」
ドーン! と【ホイップフラワー】をたっぷり使ったホールケーキを出したけど、ラゴーネさん達は無反応。
見た事ないだろうからしょうがないかな?
呆然としている間にケーキをカットして、それぞれに渡してあげる。
「さっきのは主食系だったから、デザートにしてみたの。美味しいから食べてみて!」
三人はちょっとショートケーキを見つめた後、無言のままフォークですくって口に入れた。
「「「!」」」
「こ、これは……なんという美味しさ……柔らかくて甘いですが、フルーツの酸味がさっぱりとさせてくれます……」
「そちらは工程が難しいのでセナ様しか作れないショートケーキです」
「な、なんと! そのような貴重な料理を……」
ラゴーネさんもだけど、二人の料理人さんも私をうるうると見つめてくる。
(プロに到底及ばない私のケーキでそんな感動しないでー!)
「えっと……おかわりもあるし、遠慮しないで食べてくれると嬉しいな」
「……よろしいのですか?」
「もちろん! 食べて、食べて!」
遠慮されないように無限収納から二ホール出すと、安心したのか食べるスピードが上がった。
三ホールを食べ切った三人がチラチラと食べ終わったお皿を見ていたので、「明日中には食べ切ってね」と三ホールプレゼントしておいた。
昨日のベーコンステーキの味付けを聞くと、料理人さん達は嬉々として作り方を教えてくれた。
私が聞いたことでレシピメモの疑問点を質問され、コツを教えてあげる。
料理人さん達は早速簡単なスムージーから挑戦すると言うので、ラゴーネさんと食堂に移動した。
「本当にセナ様には感謝してもしきれません。井戸も陛下からの感謝状も……お守りまでいただきましたのに、今回はレシピの話や貴重な料理まで……」
「井戸はギルドの依頼受けただけだし、感謝状はラゴーネさんの行いに対してアーロンさんがお礼を伝えたんだよ。レシピはタルゴーさんがいるから話がしやすいなって思っただけ。そんなにかしこまられちゃうと申し訳ないから、普通がいいな? 泊まりに来にくくなっちゃう」
「セナ様……かしこまりました」
ラゴーネさんは恐縮した様子から一転していつも通りに微笑んでくれた。
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