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13章

スカウト先と地図

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 タルゴーさんにレシピの説明をしながら馬車で揺られること数時間。ミカニアの街に到着した。
 冒険者ギルドの馬車置き場に着いたところで、ジルにギルドマスターを呼びに行ってもらう。
 現れるなり平身低頭で元ギルド職員だったあの子のことを謝られた。
 何とか宥めて顔を上げたギルマスにくだんの魔物を紹介すると、ギルマスは人面猫に驚いて腰を抜かし、面白いくらいに取り乱した。

「こ、こちら魔物ですか!? 何か怪しげな実験とかでこうなったのではなく!?」
「こういう魔物なんだって。珍しいみたいだよ」
「いくら珍しくても……得体の知れない不気味さが怖いです。しかもこの顔で人語も喋るとなると、殺めることも素材を取ることもはばかられますね……」
「野に放つのは止めてね。遭遇した冒険者のトラウマになっちゃう。私の家族を追い回されても困るし、ギルドに引き取って欲しいの」
「うぅ……セナ様からの頼み……いや、しかし……どうすれば……」
「ちょっとよろしいですの?」

 ギルマスが頭を抱えて唸っていると、タルゴーさんが声をかけた。

「我がタルゴー商会が引き取ってもよろしいですわ」
「え……それは助かりますが……」

 堂々と言い切ったタルゴーさんにギルマスが困惑の表情を浮かべる。
 見世物にでもするのかと思ったら、どうやら違うらしい。
 言葉を濁らされたけど、この人面猫にピッタリの仕事があるんだって。

「それなら、従魔契約した方がいいかも。契約すればケガさせられたりしないし、必要なとき以外は影に入ってもらえるよ」
「わたくしにもできますの?」
「できなくはないと思うけど、タルゴーさんの従魔がこれは流石に……魔力が強い他の人の方がいいと思う」
「なるほど。契約はどうやってしますの?」
「相手が納得したところで名前付けてあげればいいんだよ」

 早速交渉するというタルゴーさんのためにギルマスが檻を用意。
 檻に入れたところで拘束を解き、ウェヌスを呼んで起こしてもらった。

『ニャ? 出してニャー!』

 起きた途端、騒ぎ始めた人面猫にタルゴーさんが「お黙りなさい」とピシャリと言い放つ。

「いいですの? あなたは殺されるところでしたのよ?」
『ニャんでニャーン! ひどいニャー!』
「ですから、わたくしの商会の従業員と契約致しませんこと?」
『ニャ? 契約?』
「あなたは男性がお好きなのでしょう? とある場所にいる男性でしたら好きなだけ追いかけ回して構いませんわ」
『ホントニャ!?』
「嘘はつきませんわ。仇なすスパイや盗人ですもの。完膚なきまでに心を折っていただけると助かりますわ。その代わりその場所以外では大人しくすること、契約者他、わたくしやダーリの言うことも聞くこと。そうすれば男性だけではなく、衣食住を保証してあげますわ。約束できますの?」

 さっきは濁らされたけど、バッチリどういう仕事をさせようとしているのかわかっちゃったよ……
 スパイなんかは私のレシピのせいもありそう。何も言われてないけど、商売敵からちょっかい出されてるんだろうね。申し訳ない……
 タルゴーさんの説明を受けて、人面猫は目を輝かせた。

『約束するニャ!』
「いい子ですわね。契約者と契約したらそこから出してあげますわ」
『ニャ!?』
「契約したらすぐに男性と会わせてあげますわ」
『わかったニャ! 楽しみニャーン』

 納得した猫はうっとりと頬を染める。そんな人面猫の入った檻をダーリさんが運んで行った。
 タルゴーさんはその様子を見て不敵な笑みをもらしている。
 人面猫さえもスカウトするタルゴーさんの商会長たる強さを実感した瞬間だった。
 人面猫も喜んでたし……これでいいのかな?

 人面猫のことが解決した私達は商業ギルドに向かい、レシピを登録。
 それとなーくスパイとかその他諸々大丈夫なのか聞いてみたんだけど……逆に私が狙われてるのかと勘違いされ、誤解を解くのが大変だった。
 その後は真っ直ぐ宿に戻ってきた。
 疲れた心にはモフモフが一番。

「あぁ……癒される……」
『うふふっ。主様ったら……』
〈明日はどうするんだ?〉
「タルゴーさん関係が一段落したからねぇ。どうしようか? 何かしたいことある??」
「僕は特にありませんが、セナ様はお疲れのように見受けられます。ゆっくりと休まれるのはいかがでしょうか?」
〈ふむ。そうだな。セナはゆっくり休め。われは少し出かけてくる〉
「大丈夫だよ?」
〈セナはすぐ無理するからダメだ。わかったな?〉
「……はーい。明日は宿にいる」

 不承不承頷くとグレンに頭を撫でられた。
 心配性だなぁ……
 グレンに明日用のご飯とお小遣いを渡そうとすると、二、三日かかるかもしれないと言われた。

「あれ? そうなの?」
〈配下のやつらがうるさいからな〉
「あぁ! なるほど。じゃあもっとご飯持ってく?」
〈うむ!〉

 満面の笑みで頷いたグレンに作り置きしていたスープやおかず、オニギリにパンを渡す。あのドラゴン達にも配れるよう、特にパンは大量に。
 ジルもお出かけするか聞いてみたんだけど、私の警護のために一緒にいるんだって。久しぶりの自由時間なのに「セナ様と共にいる方が有意義です」なんて絶好調の信者発言をされてしまった。

 夜ご飯まではまだ時間があるので、私はシノノラーにもらった地図を眺める。
 子供の落書きのような地図は何度見ても場所の特典ができない。
 マップと見比べようと何ともなしにメニューからマップを開くと、〝更新しますか?〟と文字が現れた。
 何がアップデートされるのかわからないけど、〝はい〟を選択。すると画面上では砂時計がクルクルと回り、持っていた地図が燃えるように消えてなくなってしまった。
 シノノラー地図がマップにインストールされたみたい。

「おぉ! パパナイス! ん~……ドコだ?」

 マップを動かしながら地図に描かれていたバツ印を探す。

「あ! あった! ……ねぇ、ジル。あのパーティーにいた腹黒王子ってキアーロ国の隣りの国って言ってたよね?」
「はい。南東の火山がある方の国がそのヴィルシル国です」
「だよねぇ……あの王子のところは行きたくなかったんだけどな……」
〈あの王子?〉
「パーティーのときに他の出席者の情報書いた手紙もらったんだよ」
〈あぁ! ジルベルトが要注意と言っていたやつか〉
「はい。国民には人気が高いですが、セナ様に色目を使っていましたし……なんと言ってもあのレインという人物が危険です」

 レイン君って手袋少年だよね? あの子の方が危険はなさそうな気がするんだけど……ジルの中でどういう位置付けなんだろう?

〈行くのか?〉
「シノノラーにもらった地図が火山のところを示してるんだよね……」
「セナ様は行きたいのですか?」
「気にはなるよね。シノノラーが渡してくるくらいだから何か使えるものありそうじゃない?」
「そうですか……火山でしたらヴィルシル国の王都からは離れています。王都に寄らなければ彼らに会う確率は減るかと思います」
「そうしようかな? どのみち東の海に行きたいから、火山にだけ寄り道して抜けちゃえばいいよね」

 話がまとまったところで、ラゴーネさんがご飯を運んで来てくれた。
 今日のご飯は肉団子スープとサラダ、じゃが芋の炒め物とパン。グレンとジルにはさらに大量のベーコンステーキが用意されている。

「おぉ! 今日も美味しそう!」
「ありがとうございます。ごゆっくりお召し上がりください」
「そうだ! ラゴーネさん、明日ちょっと時間作ってもらえる? 午前か午後どっちか都合のいい方。それとも明日は難しい?」
「いえいえ。セナ様のためでしたら一日でも大丈夫でございます」
「そんな時間かかないと思う」
「では午前でもよろしいでしょうか?」
「うん! ありがとう。よろしくね」

 ラゴーネさんは笑顔で返事をしてお仕事に戻って行った。
 食事をスタートすると、グレンはベーコンステーキの味付けが気に入ったみたいで、また食べたいとリクエストされた。
 一口味見させてもらったら、塩加減が絶妙であと引く美味しさだった。
 これは明日ぜひ聞かなくちゃ!

 食後はみんなに協力してもらって明日用にいろいろ制作。
 つまみ食いするグレンにクラオルからカミナリが落ちたり、アルヴィンが焦がしてジルに冷ややかな目を向けられてしょげたり……てんやわんやの楽しい時間だった。

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