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第三部 12章
侮れない子供達
しおりを挟む挨拶が一段落したころ、私達はようやくベビーカステラに口を付けた。
ずっとひっきりなしで食べられなかったんだよね……
エルミス、プルトン、ウェヌスが会場中を飛び回って情報収集。
幼稚園から小学校低学年くらいの子達は好きなお菓子の話や勉強の話など、可愛らしい話題が多かったんだけど……
問題はこの中でも比較的大きな小学校高学年から中学生くらいの子達。どこそこの国がヤバいとか、誰々は関わらない方がいいとか、政治や領地の話など、子供なのに話している内容は驚きのものがほとんど。
大抵の子は親に私達と接点を持てと言われているらしく、挨拶が終わっている子もチラチラとこちらを窺っている。
うん。これは三人共離れない方がよさそうだね。トイレ行くときも一緒に行こう。連れションだ連れション。
私に何かあったらグレンがキレるし、スタルティに何かあったら私がキレる!
一人、うんうんと頷いていると、ジルに不思議そうに首を傾げられた。
「セナ様、いかが致しました?」
「危ないから一緒にいようね」
「どいつですか?」
「いやいや! まだ何も起きてないから! 起きるかもわかんないから!」
「起きてからでは手遅れなので、先手を打ちましょう」
グレンもそうだけど、ジルもパーティーに来てから不穏すぎるよ!
「ジールー」
「ふはは。ジルベルトは敵に回したくないな」
「スタルティ様、笑いごとではありません」
「くくく。そうだな。セナは狙われやすい」
「えぇ!? それ、嬉しくない!」
スタルティはむくれる私を宥めるかのように頭を撫でてくる。
そんなんじゃ誤魔化されないぞ!
笑うスタルティに抗議の視線を送っていると、後ろから「失礼」と声がかけられた。
振り向いた先には爽やかに微笑む男の子。
咄嗟にジルに庇われた私は、ジルの背中から窺う。
「失礼。警戒させてしまったね。僕はヴィルシル国第二王子、フラーマ・ヴィルシル。ちょっと事情があって、今来たところなんだ。挨拶が遅れてしまい、申し訳ない」
そう自己紹介した男の子は赤とオレンジを混ぜたような髪色に、同じ色の瞳を持った中学生くらいの男子。
その子の後ろに同じくらいの年齢と思われる男の子三人と女の子二人のグループが立っている。
第二王子は続けて、そのグループの子達の名前を上げていく。
連れの子達は宰相や他国との交渉にあたる人物など、国の重要ポジションに就いている役人の子供らしい。
ジル情報によると、ヴィルシル国はキアーロ国の隣りにある大きな国だそう。
「最後に、従兄弟にあたるレイン」
第二王子からの紹介で、グループの後ろに隠れていた少年が現れた。
ジルが自己紹介をしている間も、その少年を見たことある気がして見つめてしまう。
少年はちょっと気まずそうに視線を彷徨わせている。
「セナ嬢の噂は隣国の僕の耳にも届いているよ。キアーロ国にて天災級の魔獣を倒し、国王に意見。その後、国内を大々的に改革させた。さらに……」
「あぁ! あのときの手袋少年!」
「セナ、人を指さすのはダメだ」
思い出した私がビシッと少年を指さすと、スタルティに腕を下ろされた。
「セナ様、お知り合いですか?」
「あれだよ。セミ……じゃなくて、ミンミンエビ釣ってたときに私が話してた子」
「あのときの……しかし、手袋というのは?」
「あぁ、それはね、雨避けのシートとタオルあげたら『これやる!』って渡されたんだよね。これだよ」
「これはヴィルシル国の王族のみ使用を許されている紋章ですね……」
「あ、そうなの? キレイな刺繍だな~としか思ってなかった。じゃあ、これ返さないとだね」
話していたジルから視線を外して、少年を見ると、何故か顔を真っ赤にしてジルを睨んでいる。
え? 何で? ジルは説明してくれただけだよね?
「ふふふ。それはレインがあげた物だから、持っていて構わないよ」
「……セナ、持っていてあげた方がいい」
「ふーん?」
王子だけじゃなくてスタルティにも言われ、私は手袋をしまう。
ジルの眉間にシワが寄ったままだから、念話でどうしたのか聞いてみたけど「何でもありません」と答えられてしまった。
「まさかレインと知り合いとはね。昨日レインが不機嫌だった理由がわかったよ」
「兄上!」
「ごめん、ごめん。……さて、僕の国ヴィルシル国はセナ嬢、及びニェドーラ国と対立する気はない。その証拠にこれをあげるよ」
王子がスタルティに渡したのは一通の手紙。
何故かウィンクをされ、驚いた私をジルが再び背中に庇う。
王子達は「ではまたね」と揃って料理のテーブルへ向かって行った。
気になった私達は会場を抜け、廊下の片隅で手紙をチェック。もちろん人がいないことを確認したし、結界を張って音漏れも防止した。
手紙に書かれていたのは、このパーティーの招待客の詳細。主要人物のみだけど、国の情勢や裏の顔の情報まで載っていた。
例えば、初っ端の女の子べギーちゃん……の親。ヴァリージェ国の国王トエシェ・ヴァリージェ。
見た目 → オークの方がマシ。から始まって、国庫はほぼ空、娘をダシに婚姻を迫る、王たる素質なし、趣味は赤子になりきること……なんて、ボロクソに書かれている。
赤ちゃんプレイ云々は知りたくなかった情報だよ……元々知れ渡っている内容にちょっと足した感じかな?
「これを渡した真意が知りたいね……情報渡したんだから、何かしろって言われるのとかはちょっとなぁ……何ていうか、口では取り繕ってたけど、裏がありそうな気がするんだよね。初対面だから、信用できるかわからないし、全てを鵜呑みにはできない」
「ヴィルシル国はシュグタイルハン国ほどではありませんが、歴史が古い大国です。元々は火山によって栄えた国ですが、噴火によって甚大な被害を受けた国でもあります。一度しか行ったことはありませんが、僕が訪れた街では農業や畜産に力を入れている印象を受けました」
なるほどねぇ……街にもよるのかもしれないし、勝手なイメージだけど、火山なら武器と防具の種類が豊富そう。
第二王子のことは何か知らないのかと聞いてみると、第二王子は優しくて聡明だと言われているらしい。
私には裏があるようにしか見えない微笑みは、国内の女子人気が高いそう。
三人で相談した結果……ジィジに丸投げすることにした。
国交をどうするかはジィジが決めることだからね! 面倒なんてのはちょっとしか思ってないよ!
ちょうどいいとトイレに寄ってから会場に戻る。
会場では、べギーちゃんが料理コーナーに張り付いてバクバクと消費していて、周りの子達をドン引きさせていた。
その後私達に話しかけくる人はおらず、平和な時間だった。
結局、べギーちゃんは時間終了まで食べ続け、山盛りだったお菓子やパンのほとんどはべギーちゃんのおなかの中へ。さらに近くにいた使用人に「部屋で食べる」とお土産まで持って帰って行った。
恐ろしい食欲……グレンと張れる気がする……
部屋に戻った私達は、同じく戻ってきたジィジに受け取った手紙を渡し、エルミス達が仕入れてくれた情報を共有。
ジィジによると、大人のお茶会より子供達の方がよっぽど役に立つ情報だったらしい。
それなら参加した甲斐があったね!
グレンが鑑定した内容をジィジに教えていたみたいで、私達からの情報と総合的みて、国交の話をする国、そこまでは至らないけど連絡を取る国、関わらない国、と決めるそう。
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