379 / 538
第三部 12章
ドラゴン襲来
しおりを挟む翌日から私には大量の手紙が届くようになった。
個人的なお茶会への招待状だ。
それは私だけだったり、スタルティと私の二人だったり、スタルティだけだったりとバラバラ。
私は面倒だから全部断ったけど、スタルティはいくつかに参加していた。
面白そうだと情報収集に行ったプルトンによると……ほとんどが私のレシピ目当てで親に言われてお茶会を開いた子だった。一人だけクラオルとグレウス狙いの子がいて、その子は私の中でブラックリスト入り。
お茶会を断ると、今度は面会を求める手紙が届くようになった。
内容らしい内容はなく、〝ぜひ一度お話を〟なんて書かれていた。
これももちろん拒否!
まだ見つけていない食材や素材があるかもしれないけど、それを王様達が把握しているとは思えない。
冒険者とか商人だったら話したら、何かしら発見がありそうなんだけどね。
ドナルドさんとアーノルドさんのおかげで、私達がどこに滞在しているのかはバレていない。
私達を守ってくれている暗部の人達にパンやポーションを差し入れ。アーノルドさんからのリクエストで、一度夜ご飯にも招待した。
◇
ニキーダとアチャはタルゴー商会のリシータさんと仲よくなっていて、連日商会に通っている。
ジィジはお仕事。
念のため、ニキーダ達にはプルトン、ジィジにはエルミスに護衛を頼んだ。
暇な私はスタルティとジルとグレンと一緒に調べ物をしに書庫へ。
書庫にはパーティーで見かけた子供が三人ほどいたけど、それぞれがバラバラの席に座って本を読んでいる。
〈何を調べるんだ?〉
「前にリシータさんにダンジョンドロップ品一覧をまとめてもらってたんだけど、名前だけじゃわからなくてさ。ドナルドさんが書庫に本があるって言ってたから。グレンはリバーシやってる? 久しぶりでしょ?」
〈いいのか?〉
「防音の結界張れば大丈夫だと思うよ」
ここはアーロンさんの国だから、うるさくしなければ許してくれると思うんだよね。
ガッチリと結界を張り、リバーシをテーブルに広げると、スタルティに「これは?」と聞かれた。
「そっか。スタルティの前でやったことなかったね。あ! それならグレンが教えてあげて?」
〈我がか?〉
「うん。グレンはルールがわかるからピッタリでしょ? 先生ね」
〈先生……仕方ないな! 我が教えてやる!〉
仕方ないなんて言いながら、グレンは嬉しそう。先生と呼ばれたのが嬉しいらしい。
得意気なグレンにスタルティを任せ、私とジルはお目当ての本を探す。
サーチを使っていくつかの本を取り、グレン達の近くに座って読書開始。
紙にメモしながら読み進めていると、素材は使用用途不明のものが多いことがわかった。
使用用途不明というより、使い方がわからないの方が正しいのかもしれない。
例えば……エチルという水風船みたいな魔物と、色違いのアルコルという魔物を一緒に倒すと、エタノル水というスプレー入りの水がドロップ品になるらしいんだけど……これ絶対アルコールだよね。消毒用のエタノールとしか思えない。
これは〝激マズの水〟として冒険者の間ではいらない物。もちろん買い取りもしてもらえないそう。
エタノール飲んだ人、死んだりしてないよね? ご丁寧にスプレイヤー入りとか……おばあちゃんがわざわざそうしたのかな?
「セナ様。この国ではございませんが、セナ様が求めておられる素材と思わしき記述がありました」
「どこどこ?」
「こちらの一文です」
ジルが指さした箇所を見てみると、〝これは臭い空気を取ると言われている〟と書かれていた。
「おぉー! 流石ジル! これ、見てみたいね!」
「商会かギルドで問い合わせてみましょう」
「うんうん! そうしよう!」
もしこれが使えるなら、中敷きに消臭機能が付けられる。リシータさんとの約束が果たせそうだ。
再びメモを取りつつ本を読んでいると、廊下が何やら騒がしい。
――バターン!!
「お嬢!」
派手な音を立ててドナルドさんが飛び込んできた。
「どうしたの?」
「お嬢! ドラゴン呼んだのか!?」
「へ? 何それ?」
「!」
「ちょっと待って!」
踵を返して出て行こうとするドナルドさんの服を掴む。
どういうことか説明を求めると、大量のドラゴンがここ王都に向かってきているとのことだった。
気配を探ると、ドラゴンかはわからないけど、強い魔力がこちらへ向かっていることがわかった。ただ、私でもかろうじてわかる程度。かなり離れているから、ここに確実に来るとは言えないと思うんだけど……
「ねぇ、グレン。ドラゴンの仲間呼んだ?」
〈ん? 仲間?〉
盛り上がっているグレン達の結界を解除して、グレンに聞いてみると首を傾げられた。
「なんかドラゴンが向かって来てるらしいんだけど」
〈んー? ……おぉ! あいつらか! 久しいな!〉
「知り合いか……陛下に伝えてくる」
「何かごめんね?」
謝る私の頭をひと撫でして、ドナルドさんは報告に向かった。
〈リバーシは中止だ! セナ! 行くぞ!〉
何故かテンションの上がったグレンに連れられて来たのは、パーティー会場からほど近い、広いテラス。
そこへ着くと、グレンは〈ん゛! ん゛ー〉と喉を慣らし、空に向かって鳴いた。人型のままでも、ドラゴンみたいな咆哮はできるらしい……
しかも、それが合図だったかのようにこちらに向かっている気配はスピードを上げる。
グレンの声を聞いて、ジィジやアーロンさん、他の王族達までテラス近くに集まってきてしまった。
目視できるほどまで近付いてきたたと思ったら、あっという間にテラスを囲われる。その数、なんと十匹!
――グルァァァァ!
〈ふむ。久しいな〉
――グルグルギャアァァ!
〈ん? いや、忘れていただけだ〉
グレンは笑顔で話しているけど、ドラゴンの鳴き声で空気がビリビリと震えている。
私はグレンのドラゴン姿を見ているから特に怖いとかは思わないけど、兵士さんはガクガク震えながら武器を構えているし、来賓者達は腰を抜かしている。ジィジやアーロンさんまで目を丸くして言葉を失っている。
「ジルとスタルティは大丈夫?」
「はい」
「うん……セナは大丈夫か?」
「グレンの知り合いみたいだし、平気だよ。……これで大丈夫?」
「あぁ……楽になった。ありがとう」
「どういたしまして」
守るように結界を纏わせてあげると、スタルティはホッとした様子で微笑んだ。
570
お気に入りに追加
24,648
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。