上 下
265 / 537
第二部 10章

マースールー迷宮たる所以【12】

しおりを挟む


 朝食後、お楽しみのコーヒータイム。
 私が久しぶりのコーヒーに幸せを感じていると、みんなはくちに含んだ瞬間「ぶっ!」と吹き出した。
 苦すぎて驚いたらしい。
 ちゃんと牛乳と砂糖も用意して「味見しながら調節してね」って言ったのに……
 結局、子供でも飲めるくらいのコーヒー牛乳……しかも練乳入りにしてようやく飲めるようになった。ブラックはダメだけどこれは気に入ったみたい。



 ここは九十八階層。昨日の滑り台でまた一気に下層へ運ばれたらしい。
 よくよくマップを確認すると、森の広場タイプだった。上がる階段はないから、どこからか落ちて来ないと到達出来ない場所。
 下へ降りる階段は昨日コーヒーを採取しているときに見つけていた。

 みんなで階段を降りると、待ち構えていたのはボス部屋だった。
 ボス部屋の扉はガガガガガと今にも壊れそうな音を立てながら開いていく。
 中は過去のボス部屋よりもかなり広く、武装した二足歩行のマッチョ猿がわんさか。さらに奥には、一際存在感を放つ二十メートルはありそうな大猿。
 大猿はあのバトルマンガの満月見て変身した感じだし、二足歩行のほうは「惑星から来たんですか?」って聞きたいくらい目付きが鋭い。

 私達を見つけた大猿の咆哮で空気がビリビリと震え、私達に緊張が走った。

〈カイザーコングか……これはキツいぞ……セナ! 油断するな! 伝説レジェンド級だ!〉
伝説レジェンド級!?」

 グレンの言葉にガルドさん達は驚きの声を上げ、すぐに武器を構えた。
伝説レジェンド級って何!? グレンがキツいって前の天災級より強いってことだよね!?)
 私が質問する前に大きな岩が飛んできて、私達はジャンプでけた。そこから猿の攻撃が始まり、私達は会話もできないまま戦闘が始まってしまった。

 猿達は統率が取れていて、まず私達に突撃してきたのは歩兵部隊。
 剣や槍などで攻撃を繰り出しながらガムシャラに向かってくる。仲間がられようがお構いなし。
 モンスターハウスほどの強さはないけど、ガルドさん達にはスピードと攻撃力を上げるように魔力をまとわせた。
 ネラース達は巨大サイズになって猿達がまとまらないように攻撃してくれている。

〈セナ! 油断するな!〉
「ありがとう!」

 飛んできた岩をパンチで壊してくれたグレンに注意された。
 岩を飛ばしてきたのはカタパルトみたいな投石機を動かしている猿。投石部隊?

 グレンがみんなに注意したからか、みんないつもの戦闘より真剣。
 一時間も経たないうちにほとんどの猿は狩られ、残すところは大猿と大猿を守るように構えているマッチョゴリラ。

『主様、アポの実食べてちょうだい』
「プルトン、ガルドさん達にコレ渡して」

 ネラース達が戦ってくれている間に、私はリンゴを丸かじり。プルトンにリンゴポーションを渡してもらうように頼んだ。
 他のみんなは魔力も体力も大丈夫らしい。
 リンゴを食べて回復した私が大猿を見上げると、目が合った。

――――グオォォォォォ!!!!

 咆哮の声が大きすぎて、頭がグワングワンする。
 大猿は自分の胸をドコドコと叩きながら足踏み。部屋全体がグラグラと揺れ、天井からパラパラと砂が落ちてきた。

「ゔぅ……さっきまで大人しかったのに何で興奮し始めたの!?」
『知らないわ!』
〈来るぞ!〉

 グレンに言われた瞬間――大猿は私達を叩きつぶすように上から一気に手を振り下ろした。

「あっぶな……」

 動きが大きくてわかりやすいから難なくけられたけど、当たったら骨折じゃ済まなさそう。
 精霊達が魔法、ネラース達が物理で攻撃を繰り返しているけど効いている気配がない! あのウェヌスの破壊光線でさえも!
 煩わしいのか大猿が吼えると私達に衝撃波が襲い掛かってきた。その衝撃波でガルドさん達が壁まで吹き飛ばされてしまった。

「ガルドさん!」

 大猿はニヤリと口許を歪ませ、歩き出した。狙いは……ガルドさん達だ。
 これはマズイ。とってもマズイ。

「グレン!」
〈わかった!〉

 グレンを呼び、私は大猿に向かって走り出す。
(ガルドさん達から意識を逸らさないと!)
 グレンがドラゴンに変化して炎を吐くと、大猿は一瞬目を丸くさせ、グフグフと嬉しそうに笑った。

 グレンが気を引いてくれている間に大猿の腕を駆け登り、腕を切り落とそうと刀で切りつける。

「ぬあ゛ぁ! 抜けない!」

 筋肉に挟まれたのか刀が二の腕に食い込んだまま抜けなくなってしまった。
 焦った私が刀を抜こうとしていると、切羽詰まったような声でガルドさんに呼ばれた。

「セナ!」
「え? うぁっ!」
『主様!?』

 大猿は反対の手で私を握り、『ウホォー!』と叫んだ。間一髪でクラオルとグレウスを肩から逃がしため二人は捕まらずに済んだ。
 潰されるかと身体強化で防御力を上げたけど、大猿は一向に握力を強めない。

――〈貴様ぁぁぁぁーーー!〉――

 グレンはドラゴンのまま怒りに身を震わせて、大猿に殴りかかった。
 対する大猿は私を両手で包み、グレンに背を向ける。

「え?」

 グレンの渾身のパンチで大猿は少しよろめいたけど、私を包む両手はそのまま。
 どういうことだと見上げると、心なしか私を見つめる目が優しい気がする。みんなが心配して私の名前を呼んでくれているけど、状況が理解しきれず反応できない。

 大猿の体が視界を妨げていてみんなの様子が見えない。
 グレンが繰り返し殴っているのか、振動が大猿の腕から伝わってくる。そんなグレンを大猿が睨み付けながら振り向くと、クラオルとプルトンの悲鳴が聞こえ、続けて何かが壁にぶつかった音が響いた。

(もしかしてグレンが吹き飛ばされた? 私の大事な家族を?)
 先ほどガルドさん達が吹き飛ばされたときのグッタリした様子が脳裏によぎる。
 何で私を握り潰さないのかはわからないけど、冗談じゃない!

 私の内側から怒りのあまり魔力が溢れ出すと、大猿が驚いたように目を丸くさせた。
 魔力をウニのように凍らせ、大猿の手の中から脱する。そのまま頭目掛けて再び腕を駆け登った。

「ウチの家族に何すんじゃぁぁぁぁい!!」

 頭の上でジャンプして、自分自身の重量とスピードを上げ、これでもかと身体強化で硬くした右足で脳天目掛けてかかと落とし。
 大猿が『グフォ』と白目を剥いた瞬間――ボフン! と白い煙りのエフェクトが出た。

「うわ!」
あるじ!》

 大猿が消え、私は床に真っ逆さま。床にぶつかる前にエルミスが助けてくれた。
 心臓がバクバクしたまま私がお礼を言うと、エルミスは《心配した》とギュッと抱きしめてくれた。

『ウキュ~』
「ん? 何の声?」
『ウキュキュ』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。