245 / 530
第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【12】
しおりを挟む朝食後、お楽しみのコーヒータイム。
私が久しぶりのコーヒーに幸せを感じていると、みんなは口に含んだ瞬間「ぶっ!」と吹き出した。
苦すぎて驚いたらしい。
ちゃんと牛乳と砂糖も用意して「味見しながら調節してね」って言ったのに……
結局、子供でも飲めるくらいのコーヒー牛乳……しかも練乳入りにしてようやく飲めるようになった。ブラックはダメだけどこれは気に入ったみたい。
◇
ここは九十八階層。昨日の滑り台でまた一気に下層へ運ばれたらしい。
よくよくマップを確認すると、森の広場タイプだった。上がる階段はないから、どこからか落ちて来ないと到達出来ない場所。
下へ降りる階段は昨日コーヒーを採取しているときに見つけていた。
みんなで階段を降りると、待ち構えていたのはボス部屋だった。
ボス部屋の扉はガガガガガと今にも壊れそうな音を立てながら開いていく。
中は過去のボス部屋よりもかなり広く、武装した二足歩行のマッチョ猿がわんさか。さらに奥には、一際存在感を放つ二十メートルはありそうな大猿。
大猿はあのバトルマンガの満月見て変身した感じだし、二足歩行のほうは「惑星から来たんですか?」って聞きたいくらい目付きが鋭い。
私達を見つけた大猿の咆哮で空気がビリビリと震え、私達に緊張が走った。
〈カイザーコングか……これはキツいぞ……セナ! 油断するな! 伝説級だ!〉
「伝説級!?」
グレンの言葉にガルドさん達は驚きの声を上げ、すぐに武器を構えた。
(伝説級って何!? グレンがキツいって前の天災級より強いってことだよね!?)
私が質問する前に大きな岩が飛んできて、私達はジャンプで避けた。そこから猿の攻撃が始まり、私達は会話もできないまま戦闘が始まってしまった。
猿達は統率が取れていて、まず私達に突撃してきたのは歩兵部隊。
剣や槍などで攻撃を繰り出しながらガムシャラに向かってくる。仲間が殺られようがお構いなし。
モンスターハウスほどの強さはないけど、ガルドさん達にはスピードと攻撃力を上げるように魔力を纏わせた。
ネラース達は巨大サイズになって猿達がまとまらないように攻撃してくれている。
〈セナ! 油断するな!〉
「ありがとう!」
飛んできた岩をパンチで壊してくれたグレンに注意された。
岩を飛ばしてきたのはカタパルトみたいな投石機を動かしている猿。投石部隊?
グレンがみんなに注意したからか、みんないつもの戦闘より真剣。
一時間も経たないうちにほとんどの猿は狩られ、残すところは大猿と大猿を守るように構えているマッチョゴリラ。
『主様、アポの実食べてちょうだい』
「プルトン、ガルドさん達にコレ渡して」
ネラース達が戦ってくれている間に、私はリンゴを丸齧り。プルトンにリンゴポーションを渡してもらうように頼んだ。
他のみんなは魔力も体力も大丈夫らしい。
リンゴを食べて回復した私が大猿を見上げると、目が合った。
――――グオォォォォォ!!!!
咆哮の声が大きすぎて、頭がグワングワンする。
大猿は自分の胸をドコドコと叩きながら足踏み。部屋全体がグラグラと揺れ、天井からパラパラと砂が落ちてきた。
「ゔぅ……さっきまで大人しかったのに何で興奮し始めたの!?」
『知らないわ!』
〈来るぞ!〉
グレンに言われた瞬間――大猿は私達を叩きつぶすように上から一気に手を振り下ろした。
「あっぶな……」
動きが大きくてわかりやすいから難なく避けられたけど、当たったら骨折じゃ済まなさそう。
精霊達が魔法、ネラース達が物理で攻撃を繰り返しているけど効いている気配がない! あのウェヌスの破壊光線でさえも!
煩わしいのか大猿が吼えると私達に衝撃波が襲い掛かってきた。その衝撃波でガルドさん達が壁まで吹き飛ばされてしまった。
「ガルドさん!」
大猿はニヤリと口許を歪ませ、歩き出した。狙いは……ガルドさん達だ。
これはマズイ。とってもマズイ。
「グレン!」
〈わかった!〉
グレンを呼び、私は大猿に向かって走り出す。
(ガルドさん達から意識を逸らさないと!)
グレンがドラゴンに変化して炎を吐くと、大猿は一瞬目を丸くさせ、グフグフと嬉しそうに笑った。
グレンが気を引いてくれている間に大猿の腕を駆け登り、腕を切り落とそうと刀で切りつける。
「ぬあ゛ぁ! 抜けない!」
筋肉に挟まれたのか刀が二の腕に食い込んだまま抜けなくなってしまった。
焦った私が刀を抜こうとしていると、切羽詰まったような声でガルドさんに呼ばれた。
「セナ!」
「え? うぁっ!」
『主様!?』
大猿は反対の手で私を握り、『ウホォー!』と叫んだ。間一髪でクラオルとグレウスを肩から逃がしため二人は捕まらずに済んだ。
潰されるかと身体強化で防御力を上げたけど、大猿は一向に握力を強めない。
――〈貴様ぁぁぁぁーーー!〉――
グレンはドラゴンのまま怒りに身を震わせて、大猿に殴りかかった。
対する大猿は私を両手で包み、グレンに背を向ける。
「え?」
グレンの渾身のパンチで大猿は少しよろめいたけど、私を包む両手はそのまま。
どういうことだと見上げると、心なしか私を見つめる目が優しい気がする。みんなが心配して私の名前を呼んでくれているけど、状況が理解しきれず反応できない。
大猿の体が視界を妨げていてみんなの様子が見えない。
グレンが繰り返し殴っているのか、振動が大猿の腕から伝わってくる。そんなグレンを大猿が睨み付けながら振り向くと、クラオルとプルトンの悲鳴が聞こえ、続けて何かが壁にぶつかった音が響いた。
(もしかしてグレンが吹き飛ばされた? 私の大事な家族を?)
先ほどガルドさん達が吹き飛ばされたときのグッタリした様子が脳裏によぎる。
何で私を握り潰さないのかはわからないけど、冗談じゃない!
私の内側から怒りのあまり魔力が溢れ出すと、大猿が驚いたように目を丸くさせた。
魔力をウニのように凍らせ、大猿の手の中から脱する。そのまま頭目掛けて再び腕を駆け登った。
「ウチの家族に何すんじゃぁぁぁぁい!!」
頭の上でジャンプして、自分自身の重量とスピードを上げ、これでもかと身体強化で硬くした右足で脳天目掛けてかかと落とし。
大猿が『グフォ』と白目を剥いた瞬間――ボフン! と白い煙りのエフェクトが出た。
「うわ!」
《主!》
大猿が消え、私は床に真っ逆さま。床にぶつかる前にエルミスが助けてくれた。
心臓がバクバクしたまま私がお礼を言うと、エルミスは《心配した》とギュッと抱きしめてくれた。
『ウキュ~』
「ん? 何の声?」
『ウキュキュ』
1,148
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜
咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。
元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。
そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。
「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」
軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続!
金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。
街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、
初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊!
気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、
ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。
本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走!
ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!?
これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ!
本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。