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第二部 10章

マースールー迷宮たる所以【11】

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 マップで確認すると、現在地は七十六階層。ガーゴイルの魔法陣で一気に下層に転移させられたらしい。
 みんなに伝えると今後どうするかの相談が始まった。
 私が食べ終わったシャーベットの食器を集めていると、ガルドさんの横に見覚えのあるモノが置いてあった。

「あれ? その木刀って……」
「あぁ。呪淵じゅえんの森でセナが置いていったやつだ。さっき俺の剣が折れちまってな、悪いが使わせてもらった」
「ずっと持っててくれたんだね!」
「……短剣もある」

 コルトさんが私が作った石の短剣も見せてくれた。
 カリダの街にいた頃はまだ覚えてたけど……ぶっちゃけ忘れてたよ。

「懐かしい……」
「セナに返そうと思ってな。何回か戦闘で使わせてもらっちまったが……」
「全然いいよ! むしろよく壊れなかったね~! ガルドさん達の役に立ったみたいでよかった!」
「これ、壊れる気配ないぞ?」
「そうそう。短剣も丈夫で、モルトが持ってた普通の短剣より斬れ味よくてさー」

 え? ただの石器なのに? 有り合わせで作ったやつだよ?

「このボクトー? にも短剣にもオレっち達何回も助けられたんだよー」
「それ、森にある物で適当に作ったやつだから、そんなに褒められるとちょっと恥ずかしいね……今ならもう少しマシなの作れるけど作ろうか?」
「……お守り。ダメ」

 コルトさんは短剣を大事そうにしまった。
 木刀はまだしも、石器は恥ずかしいから回収しようと思ってたのに、コルトさんに見抜かれているなんて!

「どうしても?」
「そうですね。自分達のお守りですので」
「捨てるっつーなら俺達が持ってても構わないだろ?」
「むぅ……」

 ニヤリと笑うガルドさんに私が唸ると、「それに今、剣が折れた俺には必要だしな」なんてガルドさんに言われてしまった。
 さらに「思い出がつまってますしね」なんてモルトさんからの追加口撃こうげきに私は降参。
 新しいのを作って石器は出さないようにお願いしよう!



 休息を取った私達はモンスターハウスから続く唯一の通路に足を踏み出した。
 あ、ちなみにネラース達が集めてくれたドロップ品はプロテイン(中)と魔物が装備していた武器と防具だった。
 ただ、武器と防具は壊れているものが多い。おそらく、ドロップした後に他の魔物に踏み付けられたんだと思う。

 通路には相変わらず罠が仕掛けられていたけど、さっきよりは少ない。ただ、罠の隠し方が巧妙になってきているらしく、進むスピードが遅くなっている。
 ネラース達によって隠し部屋の宝箱も見つかった。中身は……残念ながらダンベルや手足に着けるウエイトだったけど。

『わっ!』

 ネラースが床にあったスイッチを踏んだらしく、驚いた声が聞こえた。

「な、なんだ?」
「また何かの罠でしょうか?」

 壁も床もガタガタ揺れ始め、私達は警戒しながらキョロキョロと顔を動かす。
 ガタン! と大きな音がした瞬間――足元がグラっと大きく揺れた。
 滑り台のように床が斜めになり、ガルドさん達を乗せたネラース達は滑らないように耐えている。

「みんな! うぶっ」

 私達の上から大量の水が流れてきて、私はウェヌスの腕から落ちてしまった。
 耐えていたネラース達も水流で流され、私達は溺れそうになりながら下層へ運ばれる。

「うわっ! ゔっ! ぶぎゃっ! いってて……大丈夫!?」

 勢いよく滑り台の床から放出され、私はキレイに着地……なんてできるはずもなく、背中でバウンドした後、海老反り状態で顔面から落ちた。かなり痛い……
 離れないようにと抱きしめていたクラオルとグレウスとポラルを確認すると、目を回してはいるものの、ケガもなさそうで安心した。
 周りにはガルドさん達とネラース達が散らばっていて、グレンとジルと精霊達は上から降りてきた。アルヴィンに抱えられていたジルは水流に巻き込まれなくて済んだみたい。

《セナ様! 申し訳ございません!》
「クラオル達が大丈夫だから大丈夫だよ~。私よりガルドさん達とネラース達をお願い」

 ウェヌスは私にヒールをかけた後、みんなにも回復をかけてくれた。すると唸っていたネラース達もガルドさん達も頭をフルフルと振りながら起き上がった。

「大丈夫?」
「なんとかな……お前さんは大丈夫か?」
「うん」
「酷い目にあったねー」

 水流に巻き込まれた私達は全身ずぶ濡れ。パパ達が作ってくれた服じゃなくてパーカーを着ていたことが仇になった。あげくに床に放り出されたから土汚れもついている。
 服をキレイにしてから周りを見てみると、温室みたいな場所だった。多種多様な木が植わっている。

「魔物の気配はないけど……ここって植物園? っていうかこの香り!」
〈なんだ? セナ?〉

 クンクンと匂いを辿る。

「え? なにこのパック」

 木に、麦茶パックみたいな不織布のパックがぶら下がっている。

「クラオル、あれ取ってもらってもいい?」

 快く承諾してくれたクラオルは、二つほどパックをつるで取ってくれた。
 ハサミがないので風魔法で切って中身を確認すると、一袋目は黄緑色の種だったけど、二袋目は見覚えのある焦げ茶色のモノ。試しに舐めてみると苦い!

「やったー! コーヒーだー! しかもインスタント! クラオル、コーヒーだよ~!!」
『わかった! わかったから落ち着いて!』
「ってことはさ、こっち多分生豆だよね!?」
「おいっ! 勝手にいなくなるなって言ってるだろ!」

 私が大興奮しながらクラオルに話しかけていると、ガルドさん達がやってきた。

「ガルドさん! コーヒーだよ! コーヒー!」
「なに、なにー? 食べ物ー?」
「飲み物! 食べ物にも使えるけど」
「美味しいのー?」
「慣れたら美味しいよ!」
〈コーヒー? カフィの実と書いてあるぞ? しかも〝眠気に勝てる〟なんて……毒じゃないのか?〉

 そういえば毒の有無確認する前に舐めちゃってた。
 一応自分でも大丈夫か確認すると、ちゃんと無毒だった。よかった、よかった。

「毒じゃないから大丈夫だよ。ちょっとこれ大量に収穫したいから、待っててもらってもいい?」
「そろそろ夜ご飯の時間だし、ちょうどいいから、ここで野営にしよー。オレっちご飯作ってるから、ガルドさん達手伝ってあげてー」
「ありがとう!」

 ジュードさんの計らいで、みんなに手伝ってもらう。コーヒーパックを全部収穫し、木も二本ほど無限収納インベントリへ。これはコテージに植えるつもり。
 さらにアセロラとリンゴサイズのブルーベリーまでゲットできて私はウハウハ!

 食後にコーヒーを飲もうとすると、グレンに〈眠らないつもりか?〉と聞かれ、みんなに反対されてしまった。
 飲みたかったのに……没収までしなくても……
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