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9章
隠れ家
しおりを挟む書庫に入り、一緒にいてくれている四人に協力してもらって、書庫の中の捜索を始めた。
書庫は、王城の書庫よりは狭いけど、パッと見だけでも貴重そうなものが多そうに見える。古代文字のものがほとんどで、新しそうなものは数冊しか見当たらなかった。
しかも、この部屋は薬草や毒草など植物に関係する書物で統一されているらしい。
系統別でまとめられた書庫だとしたら、いったい何部屋書庫があるんだろうか……もしかしたらお城の蔵書より多いかもしれない。
一時間も経たないうちに、部屋全体を調べてくれていたウェヌスに呼ばれた。
一箇所の本棚から魔力を感じたらしい。散らばっていたみんなにも、ウェヌスが言う本棚を調べてもらう。
《セナ様! この本だと思います》
「おぉ! ありがとう!」
ウェヌスに渡された本は【エルフと薬草】というタイトルの本だった。
パラパラと捲っても特に気になるところはない。
「ん? この裏表紙のところに付いてるのって魔石??」
よく見なければ気が付かないくらいの小さな魔石で、装飾が施されていた。
四人に声をかけ、何かあっても対処できるように結界を身に纏うように張った。
警戒しながら魔力を流した瞬間、空中に大小様々な魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣は私を取り囲み、激しく発光した。
あまりの眩しさに目を閉じて、再び目を開けると床以外本に埋め尽くされた家にいた。
「え? おぉー」
『移動したわね』
《((セナ様!?))》
「あれ? ウェヌス?」
キョロキョロしていると、ウェヌスから念話が届いてウェヌスがいないことに気が付いた。
指輪でウェヌスを呼ぶとギュッと抱きしめられた。目の前から私が消えたので焦ったらしい。
肩に乗っていたクラオル達とおなかに引っ付いていたポラルは一緒にきたから、魔石に魔力を流した人とくっ付いていなきゃダメなのかもしれない。
飛ばされた家は、ログハウスみたいな大きさの家だった。ホコリひとつ落ちておらず、家主がちょっと出かけているだけみたいな雰囲気。
家には小さな台所やトイレやシャワー室もあったけど、全ての壁や天井は本棚になっていて家主がどんだけ本が好きなのかが否が応でも理解できた。
ウェヌスいわく、魔法で落ちない・濡れない・劣化しないようにされているらしい。この家全体的に魔力が満ちているんだそう。
「これだけ本があるのに不思議と圧迫感がないねぇ~」
『ねぇ、主様。ここはどこなの?』
「ん~とね、北の大陸にある森みたいだよ。違う大陸で、キアーロもシュグタイルハンもかなり離れてるね。ただ、完全に森の中で周りに何もないっぽい」
マップを確認してクラオルに答えると、ウェヌスが風の子を呼んで辺りを調べてくれることになった。
ウェヌスはここがどこだか予想が付いてるみたいだけど、確証がないと教えてもらえなかった。
「さて、じゃあ私達はあの村の伝承について調べないと。小さいジルが読んだとしたら、天井の本じゃないと思うんだよね……床に近いところから見ていこうか?」
『わかったわ!』
〝ジルが読んだ本〟とサーチしてみても反応がなかったので、手探りで調べるしかない。
ここにある本は全て古代文字だから、クラオル・グレウス・ポラルは見た目の単語だけを頼りに探してくれている。
三時間ほど探していると、焦ったようにウェヌスに呼ばれた。得体の知れないものがここに近付いてきているらしい。
一時中断して、隠密マントを羽織って入り口が見える場所に身を隠した。
程なくして、私と同じくらいの身長の赤い三角帽子に赤いベストを着た人物が、鍵を開けてガチャりとドアから入ってきた。
《誰かいんだか~?》
そう言いながら家の中を窺うその人物は、おじさんとおじいさんどっちともとれるような年齢不詳の顔立ちで、優しそうな目をしていた。ただ、歯はサメみたいにギザギザ。
《また坊主か~?》
(ん!? 坊主ってジルのこと?)
《オイの主に誓って乱暴したりせんから出てきてくんろ~》
クラオル達と確認して私が姿を現すと、おじさんは目を丸くした後ニッコリと微笑んだ。
《坊主かと思うたが、女子だったか。おめさも迷子か?》
「ううん。書庫の本からここにきたの」
《したら主の子孫か?》
「その主がわからないけど、たぶん違うよ」
《ん? んん? おめさはナニモンだ?》
《そう言うあなたはレッドキャプスですよね? セナ様から離れて下さい》
ウェヌスが睨みつけながら私を背に隠した。
レッドキャプスって確か……キアーロ国の王城の書庫で読んだ本に出てきたよね? エルフの森にいて斧で問答無用に襲いかかってくるんだっけ? 斧を持ってるようには見えないんだけど……
《おぉ! オイを知っとるか。んだんだ。オイはレッドキャプスだ。今は主の家さ管理しとるだがな。おめさは精霊か》
ウェヌスの背中から顔を覗かせると、レッドキャプスのおじさんはニコニコと嬉しそうな顔をしていた。とても残虐には見えない。
ウェヌスの服を引っ張ると、ウェヌスが少し警戒を解いてくれた。
「ねぇ、おじさんはジ……トリスタン君と会ったことあるの?」
《あぁ~。あの坊主はそげな名前だったかもしんねな~。帰り方さ、わかんねぇって泣くから送ってやっただ》
なるほど。ジルが言ってた赤いものってこの人物のことか。
《おめさからあの坊主の魔力ば感じっが、兄妹だか?》
「兄妹じゃないけど、一緒にいるよ。たぶん魔力はコレじゃないかな?」
ジルから受け取ったお守りを見せると、《そりゃ坊主が握りしめてたやつだな》と納得してくれたみたい。
襲いかかってきたりせずニコニコと会話ができているので、おじさんにいろいろと質問を投げかけた。
このログハウスが建っている場所は迷いの森。
おじさんが主と呼んでいたのは、ココの家主であるジルの先祖――ハイエルフ。大昔に助けてもらったらしく、契約はしていないけど忠誠を誓ったんだそう。
主亡き今、各地に散らばる彼の隠れ家を仲間と共に守っている。
レッドキャプスについて聞いてみると、森の剪定をするのに斧を持ち歩き、同時に森の治安のために魔物を間引きしている。そして迷子を見つけたら安全な場所に送ってあげているらしい。
書庫で読んだレッドキャプスの情報は、デタラメだった。たぶん、ニュアンスの違いとか、言い回しとかが間違って伝わったんだと思う。〝森で迷う=ヤバい〟が、〝森でレッドキャプスに会う=ヤバい〟みたいな。
迷いの森はエルフの森とも呼ばれていて、この森の離れた場所に隠れるようにしてエルフが暮らしている集落があるらしい。
迷いの森は、妖精や精霊がいっぱいいると本に書かれていたのに……今は精霊も妖精も少数しかいないんだそう。
ウェヌスが精霊帝となる以前から、いつの間にか精霊は近付かなくなったためウェヌスも詳しくは知らないらしい。
《この辺りの精霊は、精霊の国に帰ってこず、ずっと森の中で生活しています。私が精霊帝となる以前から、どんな子がどれだけこの森にいるのか正確に把握できておりません》
「そうなの?」
《はい。大昔にエルフの里と軋轢があったと言われておりますが、それも定かではありません。精霊の国を出る子は人と関わりたい子や、人里に興味がある子がほとんどですので、ココではなく街に行く子が多いのです》
《んだな~。オイはエルフの里のやつらさ、ようわからん。主はエルフの里ば出身だが、里さ帰るの嫌がっておった。じゃからオイも里の方さば、よう近付かん》
プルトンとエルミスに念話で聞いてみても、プルトンは《他に楽しいところがあるんだから、わざわざエルフの森になんか行かないわ》と返ってきて、エルミスは《儂は呪淵の森の〝聖泉の楽園〟が気に入っていた》と、二人ともエルフの森の存在を思い付きもしなかったらしい。
時代の流れかね?
「ふーん。そうなんだ。まぁ、精霊の子が大丈夫ならいいかな?」
《何かあれば連絡がくると思いますので》
「そっか! ちょっと行ってみたい気もするけど、なんにしても今回のことが解決してからだね」
きっと美男美女がいっぱいいるに違いないし、美味しいものもあるかも!
ジルも行きたかったら、このログハウスからエルフの森を探して行ってみるのもいいかもなぁ~。逆に嫌がったら辞めておかないとね。
《おめさは、なしにココさ来ただ?》
「ヒュノス村の伝承を調べたくて来たの」
《ヒュノス村……主が若い頃に寄った村だの》
「知ってるの!?」
《あぁ。主から聞いたでな。それについては……ちと待っちょれ》
レッドキャプスのおじさんは迷うことなく、本棚から一冊の本を持ってきてくれた。
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