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9章

手記とトラップ

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 私がその場でおじさんから受け取った本を読み始めると、ウェヌスに持ち上げられてイスに座らされた。
 ウェヌスとおじさんが話している隣りで、日記のように書かれている本を読んでいく。

 ――私はアプリークム国から街道を通ってヒュノス村に入った。
 村には流行病はやりやまいが蔓延していて、それが旅人のせいだと村人が話しているのを聞いた。旅人を歓迎してはいないらしいが、街道沿いにあるため旅人は多かった。拒否しきれないんだろう。
 この村は私には不思議な魔力が溢れているように感じた。調べたい私が泊まりたい旨を伝えると、渋られたが結局泊まることを許してくれた。
 この流行病はやりやまいを治すついでに、この村のことを調べようと思う――

 紅茶のいい香りが漂ってきて、本から顔を上げるとウェヌスがキッチンを使って紅茶を淹れてくれていた。

《セナ様、何かわかりましたか?》
「ちょっと読んだだけだけど、村の伝承のその後の話あったじゃん?」
《女神の呪いを旅人が解決してくれたと、言っていたのですよね?》
「そうそう。その旅人がここの家主みたい。ただ、この手記だと女神の呪いじゃなくて、ただの流行病はやりやまいになってるんだけどね。たぶんそうだと思う」

 私がウェヌスに内容を話していると、おじさんは《んだんだ》と、懐かしむようにウェヌスが淹れてくれた紅茶を飲んでいた。
 私が再び本に目を落とすと、ウェヌスとおじさんも再び話し始めた。

 ――流行病はやりやまいだと思っていたが、どうも違うらしい。私の薬草の知識をってしても、病に侵されている村人を助けることはできなかった。毎日誰かしらが死んでいく。おのれの不甲斐なさが悔やまれる。
 ある日、古参の村人が「女神の呪いだ」と呟いていたのを聞き、呪いのことを調べることにした。

 (中略)

 呪いの観点から考察しても、どうも腑に落ちない。だから女神について調べ始めた。

 (中略)

 私は薬草を採取するために入った森で、泉を見つけていた。泉の近くには小さな神殿があり、おそらくそこが女神が降臨したと伝わっている場所だと思われる。

 私が神殿に向かうと、見たこともない不思議な生き物が泉のふちに倒れていた。危険はないと判断して回復してやると、なんと意思疎通ができた。
 おのれを神の使いだと名乗り、自分のミスの後始末を協力しろと言う。
 聞いた詳細をまとめると……神に頼まれ、ここ一帯を守護してきた。しかし、村人の信仰心が薄まったため思うように動けない。そのせいで、本来ならば浄化するべきものを誤って解き放ってしまった……と、いうことだった。
 延々と自分がどれだけ大変かを語られ、正直辟易へきえきとしてしまったが、病に侵されている人を助けることができるらしい。

 数日、この神の使いの手足となり素材集めに奔走ほんそうした。特殊なものが多く、集めるのに苦労したが、珍しい物を扱えて私は不謹慎だが楽しかった。
 完成した物を配ると、人にもよったが数日もすると生きながらえていた人達は病を克服できた。
 今回の一件を村人に伝えると、女神の呪いだと誤った解釈されてしまったが、祈りを欠かさないように後世に伝えていくと約束してくれた。
 今回作った薬は、他言無用と注意されたから別に記録して封印しておこうと思う――

 長い! 間の考察だけで五ページびっしり!
 村の伝承についてはわかったけど、肝心なことがわからないじゃないの! 一番重要なレシピが書いてないなんて!

「むぅ……」
《セナ様、いかが致しました?》

 書いてあった内容をかいつまんでみんなに説明すると、おじさんが他のレッドキャプスに問い合わせてくれることになった。
 誰かがレシピの在り処を聞いたことがあるといいな。



 時間がかかると言われて、私達は一度老害の家に戻ってきた。
 書庫を出ると、ブラン団長達に取り囲まれてケガの有無を確認された。
 転移した際の発光が廊下にも漏れていたらしく、ブラン団長達はヤキモキしていたらしい。

 今日はもう遅いので、街でご飯をご馳走してもらい、お城に泊めてもらうことになった。
 パパ達に会いたかったけど、クラオルに《寝なさい!》と怒られて、大人しくベッドに入った。



 翌朝、私達は再び老害の家へ。
 今日の目的は地下七階の書庫。あの老害が言うなら何かあると思うんだよね。
 地下は魔道具の明かりがついているのに薄暗く、ひんやりとしていて不気味な雰囲気。
 抱っこで運んでくれているブラン団長の服を掴む手が無意識に強くなると、ブラン団長は安心させるようにポンポンと背中を叩いてくれた。

 地下五階より下はあまり使われていなかったらしく、ホコリっぽいわジメジメだわで空気が悪い。
 目的の地下七階に着くと、モワッとした魔力を感じた。ウェヌスもゾワゾワするみたい。
 魔力を目指して入り組んだ廊下を進むと、突き当たりの部屋に辿り着いた。
 警戒しながらドアを開けると、部屋の異様さに私は息を呑んだ。

「うわ……」
「……セナ?」
「これ……奥の壁魔石でできてるよ」
「「「は!?」」」
「たぶん、ここだね」

 部屋そのものは、会議室のような大きいテーブルとイスがあるだけ。
 老害が言っていた隠し書庫かはわからないけど、魔石の壁なんて異常だと思う。ジルに念話で確認すると、ジルは地下三階より下に降りたことがないらしい。

 ウェヌスにも協力してもらって壁を調べていると、スイッチのように出っぱった魔石があった。
 押してみると、カチッと音がして右から何か飛んでくる気配がした。

「セナさん!」

 パブロさんが私の右側にシュンッと移動してくると、カランカランと何かが落ちた音がした。
 音の正体を確認しようとパブロさんの影から顔を覗かせると、床に弓矢が落ちていた。

「……パブロ助かった。まさかトラップがあるとは……」
「はぁ―。めちゃくちゃ焦った。セナさんケガは?」
「パブロさんが守ってくれたから大丈夫! ありがとう!」

 弓矢にはポラルの糸が絡んでいて、ポラルも咄嗟に守ろうとしてくれたのがわかった。
 いつの間にか天井に移動していたポラルに念話でお礼を言うと、スルスルと降りてきてくれたので撫でてあげる。

 これ気をつけないと、私だけじゃなくてブラン団長達にも被害が出ちゃう。どうしようか……

「……セナ。セナを置いて俺達だけでは部屋から出ないからな」
「う……まだ何も言ってないのに」
「……まだ?」
「ナンデモアリマセン」

 言う前にブラン団長にクギをさされてしまった。
 ブラン団長達も一緒だと無茶はできない。
 私が隷属の首輪を老害に装着した。いわば私は老害の〝ご主人様〟なワケで……でも私が死んだからって解放されるワケじゃない。実際死んだことになってるし、何よりも国家反逆罪だ。
 勘でしかないけど、私にケガをさせたかったわけじゃないと思う。マジで忘れてたパターンかもしれない。


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