231 / 538
9章
消された記憶
しおりを挟む「まず、ジ……トリスタン君が幼い頃、家の書庫からどこかに飛んだんだよね?」
「なぜそれを……」
「どうやって行って、どうやって戻ってきたの?」
「知らん」
「本当に?」
「本当だ……」
うーん……。嘘つくなって言ったし、本当に知らないのか……
「それなら質問を変えるよ。その場所に心当たりはあるんだよね? それはどこなの?」
「祖先の隠れ家だ。ワシすらも……ワシですらも行けなかったというのにっ! ワシが行けぬのに、使えんアレが祖先に選ばれたなど許せんっ! だから……」
「だから?」
「記憶を封印した」
なるほど。記憶をいじったんじゃないかと思ってはいたけど、僻みと妬みからか……
たぶんジルは先祖返りだから、何かが反応したんだろうな……っていうか、ジルって覚醒してないときも、お城の私の部屋に侵入しようとしてた諜報員を軽~く葬ってたし、充分強かったと思うんだけど……
祖先ってイグ姐が前に言ってた強いハイエルフかな?
「そんな簡単に記憶って消せるの?」
「消すのではない、封印だ。禁忌魔法だができなくはない。封印するために殺す寸前まで痛めつけたからか、魔法の代償からかアレの髪が黒くなったが」
老害に怒りをぶつけたかったけど、ウェヌスが握りしめていた私の手を取って止めた。
《お待ち下さい。セナ様のお手が汚れてしまいます》と言うウェヌスと『そうよ。神達にお仕置きしてもらいましょ』と言うクラオルも、怒りのオーラを纏っている。
「ふぅー。ヒュノス村って聞いたことある?」
「ない」
「創世の女神は?」
「創世の女神……世界を作ったと言われている神か」
「それだけ?」
「他に何がある?」
全然めぼしい情報が手に入らない! 私の質問の仕方が悪いのか……
「書庫から隠れ家にいけるって、言わば転移でしょ? やり方、もしくは起動のし方って伝わってないの?」
「わかっていたらとっくにやってる。アレに聞いたが、わからんとぬかしおった」
「やり方はわかるのに、自分は行けない……とかかと思った。トリスタン君に言って欲しい情報仕入れてきてもらえばよかったのに」
「全て終わり、倒れたアレを見て気が付いた。だが、一度封印したものを解く魔法はない」
(んん? じゃあ、何で今回夢に見たんだろ? パパ達が何かしたのか……それとも村の何かに反応したのか……自然に思い出すってこともありえなくはない……かな?)
「じゃあ……眠ったまま起きない病気については?」
「それはいろいろやり方がある。ひとつ目は……」
老害は〝眠ったまま起きなくさせる〟方法を語った。
体の機能を麻痺させる毒薬、強い睡眠薬、状態異常の魔法……中でもエグいと思ったのは植物のタネを埋め込み、体を侵蝕させるやり方だった。
(うぅ……気持ち悪っ……聞いてるだけで具合悪くなってきちゃう)
「もういいよ……そんなグロい話を聞きたかったんじゃない……」
「そうか。まだあるがな」
「起こす方法を知りたいんだよ」
老害は記憶を探しているのか、空を見つめた後、ポーションや薬草について話し始めた。
老害の薬草についての知識は、知らないことがないんじゃないかというくらい造詣が深かった。私が本で読んだ初級ポーションの作り方は、本当に初級だったらしい。
「まさか、お茶の葉の一番茶みたいに葉っぱの新芽のみを使うとか、作る物によって使用する葉っぱを選択するとかで効果が変わるとは……」
「より効果が期待できる。祖先はワシより詳しい。ワシの知識は祖先の書物によるものだ」
「マジか……奥が深いのね……」
薬草について語る老害は少し楽しそうだった。私がちょこちょこ質問していたせいで知識を披露できるのが嬉しかったのかもしれない。
(そういう知識を、人を陥れるために使うんじゃなくて、助けるために使えば良かったのに……)
「……貴様は祖先の隠れ家に行くつもりなのか?」
「そのつもりだよ」
「貴様なら行けるのかもしれんな……今、話していて思い出したことがある。祖先は隠れ家をいくつか持っていたと伝わっている。邸の書庫から全てに行けるのかはわからん。まぁ、もう既になくなっている場所もあるかもしれんがな」
「なるほど」
もし、書庫からいくつかの場所に通じていた場合……ジルが行った場所に飛べるとは限らないのか。でもこれは現場を調べなきゃわかんないんだよね。
「ありがと」
「なぜ礼を言う」
「ん? 答えてくれたじゃん。薬草のことも教えてくれたし、何かしてもらったらお礼を言うのは当たり前でしょ? それが例え、その首輪のせいでもね」
「そうか……当たり前か……なんの裏もない礼など言われたのはいつぶりだったか……」
遠い目をし始めた老害を見て、もしかしたら老害も被害者だったのかもしれないなと思った。
ジルを虐待していた事実は覆らないし、老害の過去を確かめる気もないけど。
話し終わった私が離れようとすると、呼び止められた。
「待て。アレが隠れ家に移動した書庫は四階だ。貴様が何を調べているかは知らんが、地下七階にある隠し書庫も調べてみるといい」
「わお! ありがと!」
今度こそ牢から離れると、待っていたブラン団長に抱っこされた。
ブラン団長達はさっさと離れようとしているのか、来たときよりも早足で塔の階段を登っていく。
「地下七階に書庫などなかったと思いますが……」
「さっき隠しって言ってたから、僕達じゃ見つけられてないのかも」
「……また調べる必要があるな」
「ん? 調べたときに老害に確認してないの?」
「……いや、した。確か、あのときは……〝貴様らが見つけられなかったのならそうなんだろう〟と、言ってたな……」
視点が合っていなかったから、目が見えないのかと思っていたと、ブラン団長は続けた。
「たぶんだけど……魔力に反応するとか、隠蔽されてるのかもだね。もしかしたら、老害が知らない隠し部屋もあるかも」
「……そんなことあるのか?」
「可能性としてはね。ジルは行動を制限されてたから、邸の全部はわからないって言ってたよ。それが代々受け継がれてたら、ありえると思う」
私の発言でブラン団長達は顔を見合わせ、どうするか相談し始めた。
結局、調べられるほどの人材がいないので、王族私有地として立ち入り禁止のままにするらしい。
そのうち暇になったら私が調べてもいいけど、今はグレンとガルドさん達の方が比べるまでもなく優先。いつ暇になるかはわからないし、ブラン団長も私に頼む気はないみたい。
塔から出ると既に日が暮れかけていた。時間が惜しい私は、お願いしてそのまま老害の邸に連れて行ってもらった。
老害の邸は前に一度、貴族エリアを回ったときに見ていたけど、他の貴族宅とは比べ物にならないくらい大きい。ブラン団長に聞いたところ、地上五階、地下十階から成り立っているらしい。
門を通るときに、一瞬だけ何かプヨンとした弾力を全身で感じた。おそらく結界だと思う。
ブラン団長達は何回も訪れているみたいで、慣れた手つきで鍵を開けてくれた。
目指すは、教えてもらった四階の書庫。ブラン団長達も覚えきれてないみたいで、見取り図を見ながら案内してくれた。って言っても、大変だからとフレディ副隊長が抱っこしてくれたので、私は楽ちんだ。
ブラン団長達を巻き込みたくはないので、書庫の前で待っていてもらうことにした。ものすごく渋られたけど、私ならどこか知らない場所に飛ばされたとしても、転移で戻ってこられるからね!
転移魔法陣が作動するかもしれないから、一週間は居なくなっても騒がないこと、あまりに遠くてすぐに戻れない場合は近くの街から連絡することを約束した。大陸外とかからならわからないけど、たぶんクラオルファミリーのところにはすぐ飛べると思うんだよね。そしたらすぐに戻って来られる。
608
お気に入りに追加
24,648
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。