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7章
閑話: その後の応接室
しおりを挟むセナ達が去ったあと、娘に再び謹慎を言い渡して帰らせ、ギルマスは紅茶を飲みながら息を吐いた。
「本当に慈悲深き方ね」
「あぁ……助かったな」
「ドラゴンのグレン様はもちろん、セナ様も強いのでしょう?」
「あぁ。あの幼さからは想像もできん。セナ様の肩に乗っていた従魔以外にも従魔がいた。あの少年もこの街の冒険者より強いぞ」
ギルマスは先程の少年――ジルベルトを思い浮かべた。
怒りを抑えながら淡々と無表情で事実を述べていたジルベルトも、まだ幼いと言えるほどの若さだった。
自分の娘と比べたら天と地……いや、比べることが間違っている。
ジルベルトはセナのことを女神のようだと表現していた。その表現は間違っていない。可憐な容姿をしていて、頭の回転は早く、言葉を選び、他者には慈愛の心を持っていた。誰しもが惹き付けられるだろう。そう、自分のように……
――とギルマスは思った。
「救世主ですね」
「あぁ……あのオークの大群がこの街を襲っていたら、ただでは済まなかった。ダンジョンもこの国の精鋭の冒険者を呼んでも無理だっただろうな」
セナから売れる素材のリストを受け取ったとき、二人はとても驚いた。
詳細に書かれていたのにも驚いたが、量とモノに驚愕したのだ。
通常のダンジョンでは手に入らない高級なものが揃っていた。魔道具、宝石、レアドロップ……これだけのものならばそれ相応の強さだったに違いない。
隣国キアーロの冒険者ギルドから、セナが納品する素材は最高級品だと知らせが来ていなければ、出された素材を全て買い取ることはできなかった。
倉庫に出してもらったモノもまた良質のもので、わかりやすく種類毎にまとめてくれ、あげくに解体までしてくれていた。
氷のテーブルをわざわざ作り、その上に解体されたオークを乗せる気遣いまで忘れない。
解体されたオーク肉は余計な傷などなく、これも最高レベルの腕で解体されたことがわかった。
それを見て、ギルド職員は皆揃ってセナのファンと化した。
倉庫を出る前に「大変だと思うけど、頑張って下さい」とセナに応援してもらったことも大きい。
「本当に、女神がこの街を助けにきてくれたのだと思います」
「天使じゃないか?」
サブマスはセナの笑顔を思い起こしながらギルマスに返した。
道中も戦闘中も周りに気を配り、ギルマスの娘をフォローしていた優しい子。
ドラゴンのグレンやジルベルトがセナのことが大好きなのは見ていてわかった。
小さくて可愛らしく、無意識に従魔を撫でていた少女。キョトンとした顔も、コテンと首を傾げる姿も愛らしかった。
不思議と惹き付けられ、庇護欲を刺激される。
女神よりも天使の表現の方がサブマスには適切な表現に思えた。
「なんにしても素晴らしい方です」
「あぁ、そうだな」
「問題はあの子ですね……」
「あぁ。付いて行かせないようにしなければな」
一つのことにしか頭が回らないギルマスの娘のことを考えて、二人は揃ってため息を吐いた。
「あの人物はしばらく聴取という名目で隔離ですよね? その後王都に連行すると」
「あぁ、陛下から通達だ。まさかあの方がセナ様に目をつけるなんてな」
「本当に。陛下がどんな罰を下すにせよ、セナ様と遭遇しないようにしなくては」
セナをストーカーしていたあの貴族の少年は、ジルベルトが怒りの手紙をしたためたことによって、何をしたのかアーロン国王に筒抜けだった。
そのアーロンから冒険者ギルドや兵士にも伝えられ、ここニャーベルの冒険者ギルドの職員と街を守る兵士からは白い目で見られている。
セナに近付かせてはならないと全員に認識された。
「連続で問題を起こした私達もお咎めは免れないでしょうね」
「王都のギルドからの連絡を待つしかないな」
「そうですね。ひとまずセナ様に迷惑をかけないように、この街の傲慢な貴族や商人に目を光らせましょう」
ギルマスとサブマスは目を合わせ、二人揃って頷いた。
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