上 下
182 / 538
7章

増える信者

しおりを挟む




 買い物とお昼ご飯を済ませて、プルトンがあの子供がいないかをチェックしてくれた後ギルドに入ると、ニコニコと笑顔を振りまくお兄さんに迎えられた。

「お待ちしてました。グレン様の解体の腕は素晴らしいですね! 魔物大量発生スタンピードだとお聞きしていたので、損傷の激しいものが出されるかと思っていたんです。ギルマスには丁寧に解体しろと言われていて、ドキドキだったんですよー。しかし! 我々を気遣っていただき、解体されたモノも腕もいい。オーク肉を氷のテーブルに出すなど扱いも繊細で、我々も見習わなければならないと話しておりました」
「そうなんですね」

 応接室に案内されている間に、お兄さんが説明してくれた。
 つまり、グロいオークを解体しなくて済み、素材の質がいいからあんなに喜んでたのか。謎が解けたわ。


 応接室ではギルマス親子とサブマスが既に待っていてくれた。

「大変申し訳ございませんでしたっ!」
「どうぞおすわり下さい」

 私達が応接室に入るなり、娘が土下座になって私達はビックリ仰天。
 しかも母親ギルマスは娘を放置して、私達にソファを勧めてきた。

「ええっと……」
「セナ様はお気になさらずとも大丈夫です」

 いや、気にするなって無理でしょ。

「とりあえず、娘さんもソファに座りましょうか」
「本当に慈悲深いお方だったのだな……」

 はい? 王様とか貴族ならいざ知らず、普通の人は目の前の土下座をスルーはできないと思うよ?
 さすがの私もそこまで図太くはない。

 全員が座ると、母親ギルマスから「こちらが当ギルドの買い取り金額になります」と一覧表を渡された。

「素晴らしい品の数々でした」
「そうですか」

 チェックすると、あのしょっぼい微々弱魔道具と真珠パールが意外にも高かった。
 真珠パールもクラオルに言われて劣悪品中心に出したんだけど……
 それ以外は全体的に少し高いくらいで、特に間違いもなかったので了承して大量の金貨が入った袋を受け取った。

 エメラルドとまだ使えそうな魔道具類は、みんなに言われて売り物リストには載せていない。
 もちろん使える蜂蜜やフンコロガシのフンや黒真珠ブラックパールも。
 載せていたなら買い取り金額はいくらになったんだろうか……いや。買い取ってすらもらえないかもしれない。


「大変申し訳ございませんでした! セナ様の言う通り、鍛えることに致しました!」

 私達の精算が終わった瞬間に娘がガバッと頭を下げた。

「セナ様は迷惑をかけたわたしにもずっと優しかった。その……漏らしてしまったときもわたしのことを気遣ってくれた。そこでようやく冷静になれたんだ。セナ様を慕いたい気持ちがわかった。セナ様に言われた言葉を昨日一日考えたんだ……セナ様は正義感は立派だと、心と身体を鍛えるべきだと。だから鍛えたいと思う」
「あぁ……えっと……頑張ってください?」

 最後が疑問系になってしまったのは仕方ないと思う。だって私は「正義感は立派」って言ったんだもん。
 ものすごくポジティブにとらえられているらしい。

〈付いてこようなどと思うなよ?〉
「えぇ、本当に。この愚女ぐじょまでも気遣って頂けるなんて、ジルベルト様がセナ様を女神様のようだと仰る意味がわかりました。付いて行ったところで邪魔にしかならないでしょう」
「ぐぅっ……しかしっ、強くなったあかつきには……」

 いや、ご勘弁願いたい。私には秘密が多すぎる。酔っ払ったあげくに情報漏洩をするような人とはなるべく関わりたくない。

「私は大した人間じゃないですし、付いてこられても困ります。あなたの周りには素敵な人が多いんですから、私ではなくギルマスとサブマスを見習った方がいいと思いますよ。まずは初心に返って冒険者として経験を積むべきでは?」
わたくし達を素敵なんて……やはりお優しいのですね」

 いや、違うよ! 押し付けてるだけだよ! ごめんね!
 そんなことは言えないので、微笑むに留めておいた。

「そういえば怪鳥は狩ったのか?」
「えぇ。狩りましたね。その帰りにあの少年を見つけたので」
「そうか……売ってもらいたいが可能か?」

 肉は食べたいし、骨は鶏ガラスープとして使いたい。
 グレンから〈売るのか? 売らないよな?〉と視線で訴えてくる。

「部位によりますね」
「肉は〈ダメだ〉」

 サブマスにかぶせてグレンが拒否すると、「クチバシや爪は?」と聞かれたので「大丈夫です」と答えた。
 いくつ欲しいのか聞いてみると「そんなにあるのか!?」と驚かれた。

「えっと……三十はありますね」
「あの怪鳥を三十……」

 ブチ切れたみんながダメにしちゃった素材もあるし、少ない数字を言ったんだけどそれでも多かったらしい。

「あの怪鳥はバラけて行動していて、生息する場所も場所ですので、一匹狩るのも大変なのです。それを三十もだなんて、さすがセナ様ですね」
「その情報行く前に教えて欲しかったです……」

 うっとりとした表情で語るギルマスに、本音が漏れてしまった。

「すまん。言ってなかったな……買い取りした後だから……五匹分でもいいか?」
「いいですよ」

 五匹分ってことは……クチバシ一に対して足の爪が四だよね? ちょっと自信ないから無限収納インベントリに「五匹分のクチバシと爪」と念じながら出したものをテーブルの上に広げた。
 良かった。合ってた。

「まぁーーーーーー! 怪鳥まで解体してあるのですね! しかも傷も見当たらないなんて!」

 テンションの上がったギルマスの勢いに、私は乾いた笑いで誤魔化した。
 サブマスがすぐに精算してくれ、再びお金の入った袋を受け取る。怪鳥のクチバシと爪はそこそこいい値段だった。

「グレン様の解体の腕は素晴らしいです! ぜひうちのギルドの者にコツなどを教えていただきたいです!」
われはセナのためにしか動かん〉
「そう……ですよね。大変失礼いたしました」

 これ以上ここにいたらボロが出ちゃいそうな私はさっさと退散するに限る。
 挨拶もそこそこにギルドを後にした私は、その後応接室でどんな会話が繰り広げられていたのかを知る由もない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。