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7章

B・B・A

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 ジルベルト君の武器を新調するため、宿のラゴーネさんに紹介してもらった武器屋さんへ。
 グレンとジルベルト君が店主と武器について話していたんだけど、私にはよくわからなかった。

〈まぁ、前に買ったやつよりはマシというところだな〉
「以前よりも扱いやすいです」
〈あとは投擲ナイフか。それならこれだな〉
「決まったー?」

 クラオルとグレウスをモフモフしながら待っていた私は二人に声をかけた。
 ジルベルト君が見せてくれた片手剣は、確かにキアーロ国の王都で買ったものよりかはマシだけど、私にはそんなに差がないように見える。鑑定してようやく使われている鉱石や耐久性が違うことがわかった。

「おいくらですか?」
「んん!? 嬢ちゃんが払うんか?」

 カウンターに近付いて値段を聞くと、店主のマッチョのおじさんに驚かれた。
 小声で「こいつらに脅されてんのか?」と聞かれて思わず吹き出してしまった。

「アハハ! 違うよ~。仲良しだから大丈夫!」
「ほんとか?」
「ホント、ホント! ふふっ。心配してくれてありがとう」

 私が笑って返したからか一応は納得してくれたみたいだけど、主にグレンに探るような視線を送っているのはお店を出る最後まで変わらなかった。

「セナ様ありがとうございます」
〈なぜわれは睨まれていたんだ? セナが笑っていたから大丈夫だと思ったが……〉
「ふふっ。一番年下の私がお金払ったからグレンに脅されてると思ったんだって」
〈ムッ〉

 教えてあげるとグレンがくちを尖らせた。
「まぁまぁ」と宥めながら街を散策する。
 ミカニアの街は他の街と広さはあまり変わらないのに、道が入り組んでいて階段がやたら多い。一人だったらマップを見なければ確実に迷子になる。
 クラオルにも『主様は迷子になりそうだから一人で歩いちゃダメよ?』なんて言われちゃった。

 午前中は歩き回り、お昼はグレンが〈いい匂いがする〉という定食屋さんに入った。
 グレンが嗅ぎつけただけあってお肉の種類が豊富で、グレンは食べ比べ五種類セットを頼んでいた。
 全体的に味が濃いのは街の特徴なのかもしれないな~と思いながらも店員さんのオススメを食べ進め、食べきれなかったご飯はグレンとジルベルト君が食べてくれた。



 冒険者ギルドに到着すると、倉庫に案内されたんだけど……なぜか倉庫には似つかわしくないソファとテーブルが用意されていた。
 聞いてみると、「セナ様を立たせたまま待たせるなんてできません!」と言われてしまい、私のために用意してくれたことがわかった。
 国賓扱いしないって話だったけど、充分特別扱いだと思う。

「セナ様にお手紙が届いてます!」
「ありがとうございます」

 スタッフさんに渡された手紙は、アーロンさんとサルースさんからだった。
 アーロンさんの手紙は「王都で待ってる」という簡潔な内容だった。
 サルースさんからの手紙は一言で表現するなら“注意”。
 まとめると――シュグタイルハン国の冒険者ギルドから私が到着したと連絡がきたのに、四日後にピリクの街でレシピ登録、さらに次の日カリダの街でレシピ登録なんて前代未聞。ドラゴンの目撃情報はないけど、目立ちたくないって言うなら目立つ行動はするんじゃないよ。ってことが便箋三枚にビッシリと綴られていて、最後の一枚はシュグタイルハン国で素材を売る際の目安金額が書かれていた。
 転移ができることは知らないから、グレンのせいだと思ったんだと思う。金額はわざわざ調べてくれたみたい。優しいツンデレだ。


 冒険者ギルドのギルマスから商業ギルドのギルマスを紹介され、ギルマス二人に手渡されたのは欲しい素材リストだった。
 リストには買い取り金額とどれくらいの量が欲しいかも書かれていて、話が早い。
 倉庫の中にポンポンッと指定された量を出していく。“オーク一体分くらいの肉”と書かれていても私はわからないから全部無限収納インベントリ任せで私は楽チン!

「これで全部ですね」
「「ありがとうございます!」」

 今回は先に渡していた見本の素材も全部買い取ってくれるらしいので、引き取る素材はなかった。
 リストに金額が書いてあっただけあり、計量するだけなので二時間ほどで書類作成と換金をしてもらえるらしい。
 他にも何か売りたい素材があれば買い取ってくれるとのことだったので、今まで狩ったいらない素材をお願いした。
 こちらは素材のチェックがあるため、明日の夕方に代金の支払いをしてくれるらしい。

 待っている間にサルースさんにお手紙の返事と、ブラン団長への手紙を書いて送ってもらった。

〈明日は何するんだ?〉
「どうしようか? 何か依頼受けてもいいけど……」
「それなら受けてもらいたい依頼があるんだけど、どうかな?」

 まだまだ待ち時間があるのでグレンと話していると、冒険者ギルドのギルマスに付いてきていた中学生くらいの女の子がズイッと寄ってきた。
 確かこの子は素材の見本を渡すときに、応接室で紅茶を淹れてくれた子だったと思う。

〈フンッ! セナを利用する気か?〉
「えぇー。そんなんじゃないよ。こんな魔獣倒せるお兄さんなら余裕だと思うの。アタシ一人じゃ怖いけど、この子じゃできないようなサポートもできるから一緒に行ってもらえない? あ! アタシも冒険者なんだ~」

 なんだろう。ものすごくトゲがある言い方をされている気がする。
 しかも“きゅるん”と効果音が付きそうな上目遣いでグレンを見つめていらっしゃる。

生憎あいにくババアに興味はない。気持ち悪い目を向けるな〉
「なっ……!」
「ヴッ! げほっげほっ」

 グレンのババア発言にビックリして、飲んでいた紅茶が気管に入ってしまい咳き込んでしまった。

〈セナ、大丈夫か?〉
「セナ様っ」

 むせている私を二人が心配して背中をさすってくれる。

「なんで……」
〈貴様小人族だろ。126歳でその見た目なら魔力はそこそこあるようだが、われのセナを侮辱するなら容赦はせん。大体、コレを倒したのはわれではなくセナだ。勘違いもはなはだしい!〉
「そんなの信じられない! アナタが倒したんでしょ?」
「…………ふぅ。グレン、女性にはババアなんて言っちゃダメだよ。女性は何歳いくつになってもレディなんだから失礼でしょ」

 咳が落ち着いた私がグレンに注意すると、女の子は驚きの表情に変わった。
 え? なんで? 私変なこと言ってないと思うんだけど……

「なっ、なんなのよ! ちょっと陛下に気に入られてるだけのくせに! 男を侍らせてる余裕ってわけ!? アンタよりアタシの方が可愛いわ!」
〈「『『』』」〉
「ひぃっ!」

 私以外の全員が反応して殺気を放ってしまい、女の子は白目を剥きながら泡を吹いて倒れてしまった。

〈グルルル……貴様のようなゴミと一緒にするな!!!!〉
「セナ様ってよろしいですか?」

 倒れた女の子を気にも止めず、グレンは怒ってグルグルと喉を鳴らしているし、ジルベルト君はナイフを片手に物騒な発言してるし、精霊達もクラオル達も魔法を発動させようとしてるし……
 これはマズイ。とってもヤバい。殺人事件の現場になっちゃう!

「はいはい、ストーップ! みんな落ち着いて」
〈なぜ止める!?〉
万死ばんしあたいします」
「いかがいたしました!? 何か問題でも!?」

 騒いでいたら素材をチェックしていたスタッフさんが呼んだのか、書類作成のために倉庫からいなくなっていた冒険者ギルドのギルマスが走ってきた。
 ギルマスに説明すると平伏叩頭へいふくこうとうする勢いで謝ってくれ、女の子はどこかに連れて行かれた。
 甘すぎる!と、いまだに怒りが収まらないみんなに、落ち着くようにと以前作っていたメレンゲ菓子を食べさせたけど、そもそもなんでこうなったのかがよくわからない。
 勘違いはどうでもいいし、グレンの失礼な発言を注意しただけなのに……なんで「陛下に気に入られてるだけ」や「男を侍らせている」や「アタシの方が可愛い」と言われたんだろうか?

「ジルベルト君に一目惚れでもしたのかな? グレンばっかり見てた気がするんだけど……あ、グレンと契約したかったのかな?」
『ハァ、主様……たぶんだけど、ジルベルトじゃなくてグレンの方よ。従魔だって知らないんじゃない? さっきのは、「アンタよりアタシの方が可愛いんだからその男寄越しなさいよ!」って意味だと思うわ』
「あぁ! なるほど!」

 クラオルに言われてようやくわかった。
 そういえばグレンってイケメンだったね! イケメン二人に挟まれている私にムカついたってことね! グレンは従魔だし、ジルベルト君は洗脳されて信者化しちゃってるし、どっちも不可抗力なんだけどなぁ……
 二人とも家族だから離れるのは寂しいけど、二人が望むならちゃんと解放するのに。

『全く、主様と比べるなんておこがましいわ!』
《セナちゃん、気にしちゃダメよ! セナちゃんの方が何万倍も可愛いわ!》
「ありがと~。でも全然気にしてないから大丈夫だよ」

 クラオルとプルトンがフォローしてくれるけど、私より可愛い子なんていっぱいいるに決まってる。過去に会った女性達は美女が多いし、外見決めるときにパパ達に普通でいいって言ったしね。
 そんなことより私のために怒ってくれるなんてみんな優しい!

『(んもう……相変わらずズレてて無自覚なんだから)』
「ん? なーに?」
『なんでもないわ。主様、今日はフレンチトーストが食べたいわ』
「いいよ~。夜ご飯のデザートで食べようね」


 その後、冒険者ギルドのギルマスに謝られまくりの精算を終えてギルドを出たんだけど、なぜかグレンに抱っこされて宿に戻ることになった。

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