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7章

飛んで飛んで回る

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 今日も朝早くから転移で飛んで、目指すはカリダの街。慣れるために、みんなには気配を消してもらって何回も転移魔法を使う。
 カリダの街に着く頃には魔力の大幅消費で疲労感が否めなかった。

「さすがにこう何回も転移すると疲れるね……」
『普通の人はこんなにポンポン転移なんかできないわよ。大丈夫? 休む?』
「ヤバくなったらマジックポーション飲むから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 疲れている私をグレンが抱っこしてくれて、カリダの街で一番最初に向かったのはビーフシチューの熊屋さん。
 まだ朝と呼べる時間のため開いているか心配だったけど、過去二回ともお世話になったお姉さんがお店の中に入れてくれた。

「こんにちは!」
「おや、久しぶりだね! 食べていくかい?」
「お久しぶりです! ううん。今日もお願いしたいの」
「そうかい! こっちへおいで。旦那ー! ちょっとー!」
「なんだー!? っておお! シチューの子じゃねぇか。久しぶりだな!」
「お久しぶりです!」
「オレを呼ぶってことは鍋か?」

 おぉ! 察しがよくて助かる!
 でも、明日また飛んでくるつもりはないので今日の夕方までに作れる量をお願いすると、なんと超特急で作ってくれるらしい。
 私が飛んで喜ぶと「ワハハハ!」と豪快に笑いながら頭を撫でてくれた。
 お鍋を渡してお願いしたら、本来の目的であるデタリョ商会に向かう。

 デタリョ商会に入ると、受け付けのお姉さんが驚愕の表情になり、「おっ、お待ち下さいませ!」と言って走って行ってしまった。
 前に来たときもあのお姉さんが走っていた気がする。
 もう一人の受け付けのお姉さんは初めて見る顔で、受け付け近くにあるソファに案内してくれた。

「セナ様、お久しゅうございます」
「お久しぶりです! お姉さん、おじいちゃん呼びに行ってくれてありがとう」

 私がいつも走ってくれるお姉さんにニッコリとお礼を言うと、息切れが治っていないまま「い、いえ!」と顔が真っ赤になってしまった。おじいちゃんの後ろに立っている執事のお兄さんまで顔が赤くなっていて首を傾げる。
 風邪でも流行っているんだろうか?

「お姉さんと執事のお兄さん、大丈夫?」
「「だ、大丈夫です!」」

 休みたくない理由でもあるのか、おじいちゃんが休ませてくれないのか、わからないけど「無理はしないようにしてね」と伝えて、私はおじいちゃんと一緒に応接室に移動した。

 応接室に着くと執事のお兄さんの顔の赤みは引いていて大丈夫そうに見える。
 お兄さんが淹れてくれた紅茶を飲んでから、グレンとジルベルト君を紹介した。

「セナ様のお仲間様でしたか。以後お見知りおきをお願い致します」
「今日来たのはね、スライムのドロップ品についてなの」
「ドロップ品でございますか? 失礼ですが、あれらは全て使い道がなく我が商会では取り扱っておりません。たまに大量に持ち込まれて、気の毒なので格安で買い取ったりも致しますが……」

 やっぱりそうか……まぁ、そうだよね。鑑定にも使用用途不明って書かれちゃうのは知られていないんだろうし。

「この街の近くにあるダンジョンでもスライム出るんだよね?」
「はい。確かスライムとアホスライムとグルルスライムだったと記憶しております」

 グルルスライムは初めて聞いたぞ! わからないけど、今までのスライムから考えると多分使えるものだと思う。

「グルルスライムは、一匹のスライムの上にもう一匹がくっ付いているスライムです。別名ダブルスライムと呼ばれています。確かドロップ品はベタベタするドロッとした液体だったと思いますが……」
「はい。その通りです」

 ジルベルト君が説明してくれたのを考えると鏡餅みたいなスライムだと思うんだけど、ベタベタするってノリじゃない? 名前もグルーっぽいし……

「そのグルルスライムのドロップ品って今あったりする?」
「確認して参りますっ!」

 私が聞くと執事のお兄さんが確認しに行ってくれた。
 待っている間にスライムとアホスライムのドロップ品で作ったものを見せながら説明すると、おじいちゃんが顔を赤くして興奮し始めてしまった。さっきまでの温厚そうな雰囲気はどこへやら、若返ったようにハキハキと私に質問してきて、戻ってきた執事のお兄さんが目を丸くして驚いている。

「ふぅ。年甲斐もなくはしゃいでしまいました」
「これはもうレシピとして商業ギルドに登録してあって、タルゴー商会に製作販売許可を出してるの。それで、この街の近くのダンジョンでもスライムが出るって聞いたから、おじいちゃんも販売するかな?って思ったの」
「我々もよろしいのですか?」
「もちろん! でも、私は卸せないから売るなら作ってもらいたいの」

 私から説明を引き継いで、ジルベルト君がドロップ品だと公表しないなど、レシピ使用の際の注意事項を説明してくれた。
 おじいちゃんは笑顔で了承してくれ、一緒に商業ギルドに行くことが決まった。

 商業ギルドに向かう前に、執事のお兄さんが持ってきてくれたグルルスライムのドロップ品を鑑定してみると【グルスラ液】。ドロッとした液体が小瓶に入っていて、これも【スライム液】同様、使用用途不明となっていた。
 少量指先に付けてみると、正にノリ。文房具の液体ノリよりは固いけど、でんぷんノリよりはゆるい。

 ちょっと実験だと、少し水分を蒸発させたノリでメモ帳を作り、逆に薄めたノリ付箋ふせんを作ってみた。
 私が作ったものを見ておじいちゃんはものすごく大興奮。血圧を心配しちゃうくらい興奮していて、執事のお兄さんが慌てていた。
 ノリで作ったものも販売したいとのことだったので、作ったメモ帳と付箋を持って商業ギルドに向かい、レシピ登録と使用の許可を報告した。
 お昼ご飯に誘ってもらったけど、私は行きたい場所がある。おじいちゃんとバイバイして屋台でお昼ご飯を買ったら裏路地から転移。

 転移先はキヒターのいる教会。毎度の如くキヒターがお出迎えしてくれた。
 前にあったときにちゃんと紹介していなかったので、ジルベルト君にキヒターを紹介したんだけど…………「精霊ではなく妖精だったのですね。妖精にも愛されるなんて、さすがセナ様です」とまた変な納得のされ方をされてしまった。

《今日はどうしたんですか?》
「今日はキヒターに会いにきたんだよ。遊びに来るって言ったのにいつもバタバタしちゃってたから」
《わぁーー!! 嬉しいです!》

 買ってきたお昼ご飯を広げてみんなで食べる。キヒターはやっぱり魔力水が好きらしい。
 キヒターの薬草畑を見に行くと見慣れない草が生えていた。

《そうだ! 珍しいものを見つけたので増やしてみました!》

 キヒターが言う珍しいものは私が見慣れないと思っていた草だった。名前は【キョーニンそう】。水仙のような花が散ったあと、実はならずに胡桃くるみほどの大きさの種ができるらしい。
 名前からして杏仁豆腐が作れそう。あれは杏仁霜きょうにんそうだけど。

 キヒターにキョーニンそうの種をもらい、早速教会のキッチンで粉にして杏仁豆腐を作ってみる。
 作ったひとつをみんなで試食をすると、本格杏仁豆腐! スライム液を手に入れててよかった!
 あまりの美味しさにみんなが食べたがり、杏仁豆腐のお皿があっちこっちと回し酒のようにぐるぐると回っている。

「すごいよ、キヒター! 杏仁豆腐が食べられるなんて思ってなかった! ありがとう!」
《エヘヘ》

 キヒターに抱きついて満面の笑みでお礼を言うと、《いっぱい育てます!》と言ってくれた。
 その後は一緒に近くの森を散歩したり、フライングディスクやダーツなど作っていた遊び道具でキヒターを構い倒した。

 夕方まで遊び、キヒターから大量の薬草をお土産にもらって再び転移でカリダの街に戻る。
 熊屋さんはビーフシチューの鍋を二つ作ってくれていた。ビーフシチューを受け取って代金を支払うと、「夜飯に食え」とステーキを四枚もプレゼントしてくれた。
 お肉大好きなグレンの目がキラリと光り、〈わかっておるではないか!〉と熊みたいな店主とガッチリ握手をしていた。セリフが悪役っぽいけど、お気に入り認定したらしい。

 熊屋さんを出て、また転移を繰り返してミカニアの街の宿屋まで戻った。

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