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5章

隣国の王様の知恵

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「ほう…」
いち早く我に返ったシュグタイルハンの王様はニヤニヤし始めた。

「…セナ。セナは狙われたんだぞ?」
ブラン団長が慌てて聞いてきた。

「うん。そうだね。でもトリスタン君は命令されたんだよ。でも結局私に隷属の首輪は付けなかった。付けなければ自分は殺されるのが分かっているのに。
誰が悪いってあの魔法省の老害。トリスタン君は被害者だよ」

「…」
ブラン団長は黙ってしまった。

「しかし…「“マルトリートメント”」」
国王が何か言いかけたのを遮る。

「マルトリートメント?」
国王が首を傾げる。
王太子もブラン団長もシュグタイルハンの王様も揃って首を傾げている。

「マルトリートメント。身体的、性的、心理的虐待及びネグレクトの事。今回は過干渉もある。
トリスタン君は赤ちゃんの頃から身体的、心理的に虐待されて言う事を聞かなければいけないと刷り込まれていた。出来損ないだと言われ続け、反抗すれば肉が裂けるまでムチで叩かれる。
そりゃあ嫌でも言う事聞くでしょう?それでも、ちゃんと心があるトリスタン君は優しいよ」

「そんな事が…」
国王が絶句した。

「だからそんな老害からの命令に背いて、私を思ってくれたトリスタン君を解放してあげたい」

「それを聞いたら納得する部分もあるが……しかしそうなると他の貴族への示しがつかん……」
国王が言う。

「なら殺せばいい」
ずっと黙っていたシュグタイルハンの王様が言い放った。

(あ゛?人の話聞いてないの?)

「そんな殺気を飛ばすな。続きを聞け。殺せばいいと言ったのは、殺した事にすればいいという事だ。表向きは処刑なりした事にして名前を変えれば、平民としてなら生きられるだろう。髪の毛等を染色すれば“似ている”程度で済む。子供ならば成長するしな」

私が睨むとシュグタイルハンの王様が真意を説明した。

「なるほど。それなら可能ですね……しかし、あの家系の者を全員内密に極刑とは出来ません。全員を極秘にしてしまうと、王家と裏で繋がっていて逃れたと考える貴族が出て来てしまうでしょう」

王太子が反応する。

「それなら、処分を見せる必要があるな」

「はい。重要人物であるトリスタンは特に。しかし、どう見せ付けるのかが問題です。今回当主だけは内密に処分した事にして、他の人物は慣例通りに処罰をしようと思っていたのです」

「そうだな……手っ取り早いのは処刑を見せる事だが、実際に処刑をしないとなるな……精巧な人形か何かを作りそれを目の前で処刑して見せるとかか?」

《((セナ様。セナ様は幻影魔法使えないのですか?))》

王太子とシュグタイルハンの王様の会話を聞いていたら、ウェヌスに念話で聞かれた。
幻影魔法なんて使った事がないから分からない。
私が分からないと言うと、クラオルがガイにぃに確認したらしく出来ると思うと言われた。
全員に幻影魔法を使うのは私の負担が大き過ぎるから、映画館のように投影する魔道具を作る事をオススメされたらしい。

『((エイガカンが分からないけど、ガイア様がそう言ってたわ))』

《((なるほど。セナ様は理解しているのですね?魔道具の核はセナ様に作っていただく事になりますが、どのような物か説明していただければ、他の部位は精霊の子に頼めばすぐに完成させられると思います))》

「((ふむ。映画館ね……))ねぇ、見たものを記録する魔道具って存在するの?」

ガイにぃから聞いた方法が怪しまれずに済むのかを確認しようと、王様達に聞いてみる。

「ん?記録する魔道具は存在するな。ただ、音のみだ。この魔道具はダンジョンで見つかったものだけだ。解析をしているが、今のところ世界に二つか三つしか存在していない」

「なるほど。録音だけなのね。録画は出来ないのか……」

「なんだ?欲しいのか?国宝級の代物だぞ?」

「いや。いらない。その処刑を見せるのは私がなんとか出来そうなんだけど、どうやったとか詮索されたくないんだよね」

「なるほどな。その方法を教えてくれるなら協力してやろう」

シュグタイルハンの王様がドヤ顔で言ってきた。

「協力?」

「魔道具を使ったと言いたいんだろ?魔道具はダンジョンで見つかる事が多い。音を記録する魔道具はオレの国のダンジョン産だ。オレの国はダンジョンが多いから、オレが持っている魔道具を使ったという事にできる。どうだ?」

「それはありがたいけど、本音は?」

「オレの国はダンジョンで成り立っている。ダンジョン目当てに冒険者が集まり、冒険者と商売をするために人が集まる。オレが持っているとすれば、オレの国のダンジョン産だと噂になる。オレの国のダンジョンに人が来る事になるだろう。人が来れば金が回る。金が回れば国民が潤う」

「なるほどね。宣伝か……他意は?」

「セナがどうやるのか知りたいのもあるが、気に入ったからというのがデカいな。セナはこちらから寄らない限り関係を断ちそうだしな」

「うっ……」
『分かってるわね……』
クラオルが感心した様に呟いた。

「その様子を見ると図星のようだな」

「否定出来ない……」

「なぜ、そんなに貴族を嫌う?」

「人を人だと思わないやつが多いから。お金と権力で全てを自分の思い通りにしようとするじゃん。自分じゃ何も出来ないのに、やってもらうのが当たり前。お礼や謝罪もしないなんて好きになれる訳がない。平民のおかげで貴族が裕福な暮らしが出来ている事を理解していないのに、見栄とプライドの塊で選民意識だけはある。それがご貴族様でしょ?」

「あまり否定は出来ないな」

「だから関わりたくないんだよ」

「なるほどな。オレはセナと関わりたいから引き下がるつもりはない。だが、別に利用しようなどと無謀な選択はしない。オレの国に遊びに来て面白い話など聞けたらいいとは思うがな。それで教えてくれるのか?」

「ちょっと特殊な幻影の魔道具だよ」

「ん?それでは幻を見せるだけだろ?」

「特殊なって言ったでしょ?音を記録できる魔道具があるなら、目で見てる情景を記録出来る魔道具があってもおかしくないでしょ?」

「ほう……なるほど。確かにそんな魔道具が存在していてもおかしくはないな。その魔道具で見せた幻影を記録した物だと説明するんだな?」

「そうそう。話が早くて助かるよ。魔道具の出処でどころは聞かないでね」

「いいだろう。乗ってやる。その代わり、オレの国に遊びに来い」

「遊びに行くのはいいけど、国賓とかは止めてね。息苦しいのは嫌」

「オレも堅苦しいのは好きじゃないからな。好きな宿に泊まればいい」

「それならいいよ」

「ならば決まりだな。次の謁見時にセナが魔道具で処刑を見せる。その魔道具はオレの国のダンジョンで見つかった記録の魔道具。存在しない物だから、今回使った事で魔道具が壊れた事にでもすればいいか。マルフト陛下にドヴァレーもそれでいいだろう?」

シュグタイルハンの王様は私との確認を終え、国王達に許可を促した。

「えぇ。構いません。コチラとしてはありがたいです。アーロンもありがとうございます」

「そうだな……ドヴァレーには貸しにしておくか。その方が取り締まりにやる気が出るだろ?」

「アーロンは相変わらずですね。分かりました。構いません。しっかりと取り締まりましょう」

王太子とシュグタイルハンの王様は、目と目で何か会話をしてガッチリと握手をした。
そう言えば、友達だとブラン団長が言ってたもんねぇ。
年下であるシュグタイルハンの王様の方がしっかりしているように見えるけど、その瞳は挑戦的だ。
シュグタイルハンの王様がちょっかいを出して、王太子があしらう感じだろうか。

「処刑のやり方に何かこだわりは?」

話しを進めようと握手をしたままの二人に話しかける。

「通常でしたら、処刑場にて執行人に処刑されます。罪の重さによってはその後さらし首になったりもします」

「ふーん。なるほど。処刑場だと確認取られたら終わりだからな……内密に処刑したって言うなら、私が酷いと思う方法でもいい?」

「はい。構いません」

「老害とトリスタン君の処刑だと分かればいいんだよね?」

「はい」

「分かった。本当にトリスタン君を自由にしてくれるんだよね?」

王太子との会話を終わらせ、ずっと黙っている国王に確認を取る。

「あぁ……セナ殿が望んだからな。王都で生きる事は顔見知りの貴族もいるため厳しいだろうが、他の街なら平民として生きられるだろう。問題を起こさぬ様に監視を付ける事になるだろうが……証明するために先に彼を釈放しよう。ブラン、トリスタンをここへ呼んで来てくれ」

国王がブラン団長に言うと、ブラン団長は私の頭を撫でた後部屋を出て行った。


「まさか自分を狙った者を助けようとするとはな。金も名誉も望めば何でも手に入れられるのに人助けか?」

ブラン団長が出ていくのを見送ると、シュグタイルハンの王様がニヤニヤしながら聞いて来た。

「お金はマザーデススパイダーとムレナバイパーサーペント倒した報酬で貰ったから別に困ってない。今回のは完全に私の自己満足。トリスタン君にとっては処刑や奴隷となるよりも嫌かもしれない。でも私はトリスタン君が処刑されるのはやっぱり納得出来ない」

ニヤニヤ顔のシュグタイルハンの王様に返す。

「助けた後はどうするんだ?」

「トリスタン君の好きにすればいいと思う。普通に生活出来るくらいの準備はしてあげるよ。トリスタン君の意思を否定する気はないから、旅をしてもいいと思うし、今まで我慢していた分好きな場所で自分の思いのまま生きればいい」

「婚姻したいとかじゃないのか?」

「はぁ?トリスタン君にも好みくらいあるでしょ。助けたんだから婚姻しろなんて言わないよ」

敬語じゃなくても何も言われないので、遠慮も無くなった。

「なんだ。つまらん」

シュグタイルハンの王様はアテが外れたらしく、途端につまらなさそうになった。

(私が惚れたからだと思ったのか……笑った顔は可愛いとか、紅茶が美味しいとかは思うけど、中身30歳からしたら犯罪臭しかしないわ)



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