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5章

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シュグタイルハンの王様と話していたら、王太子に呼ばれる。

「セナ殿。トリスタンを釈放するとして、どう説明しますか?」

「どうとは?」

私が返事をする前に、なぜかシュグタイルハンの王様が王太子に返した。

「今回の事で、トリスタンは自分が処罰される事は理解しています。普通に自由だと言った所で納得するでしょうか?」

「演出が必要という事か。それなら案があるぞ」

シュグタイルハンの王様が大雑把に説明を始める。
なんと、小説に有りそうな話だった。意外にもシュグタイルハンの王様は乙女心をくすぐるのが上手いのかもしれない。
ただ、私は読むのは好きだけど演技となったら話は別だ。

「なるほど。その後はトリスタン次第か…その案に乗ってみよう」

シュグタイルハンの王様の案を聞いて国王が答えた。

「服や名前も必要ですね」
王太子が顎に手を当てながら考えている。

「名前は自分で考えさせればいいんじゃないか?」

「そうですね。とりあえず、平民の服を用意させましょう」

王太子は人を呼んで平民の服を何着か用意する様に指示を出して下がらせた。

「あとはどこで暮らさせるかだな」

「自由にとの事ですのでここ王都以外で選ばせるべきでしょう」

「ブラン団長が戻ってくるよ」

私をそっちのけでどんどん話が進んでいる。これは演技をすることが決定らしい。
ブラン団長の気配を感じて、三人に教えてあげた。

「では、先程の通りに」

王太子の一言でシュグタイルハンの王様のアイディアのポジションに着いた。
ドアの正面に国王。国王の左隣りにシュグタイルハンの王様。反対の右隣りに王太子。私とグレンは王太子から少し離れて並んだ。


――――トントントントン
――――カチャ

「お連れしました」
ブラン団長がトリスタン君を連れて戻って来た。

「失礼致します」
ブラン団長に続いて、トリスタン君がキッチリと頭を下げてから入って来る。

トリスタン君はブラン団長に続いて国王の前まで進み、床に片膝をつき頭を下げた。

「なぜ呼ばれたか分かるか?」
トリスタン君が頭を下げたのを見てから、重々しく国王が口を開いた。

「恐れながら、処罰に関してかと予想しておりました」
取り乱したりせず落ち着き払ってトリスタン君が答える。

「そなたが予想していた通り処遇が決まった」

「はい」

「トリスタン・プラティーギア。そなたは我が国の恩人であるセナ殿に隷属の首輪を付けて配下にしようとした。それはとても許しがたい事である。
そしてプラティーギア家の今まで犯した犯罪も明るみに出た。
よってそなたは処刑となる。何か言いたい事はあるか?」

(プラティーギアって家名だったのか)

「……いえ。ありません」
頭を下げた状態のまま淡々と答えているけど、一瞬私の足元を見た気がした。

「ふむ。ならば、これより執行しよう。セナ殿頼む」
国王が私の名前を呼ぶとトリスタン君がピクッと反応した。

短剣を持ちトリスタン君に近付いて、トリスタン君の結んである髪の毛を持ち上げる。

「(セナ様……お手を汚させてしまい申し訳ありません。しかし、僕は最後までセナ様に救っていただける事を嬉しく思います)」
微動だにせずに私にだけ聞こえる程の小声でトリスタン君が言う。

私はトリスタン君に答えないまま、まとめている紐の所をスパンっと切った。
私の手の中にはトリスタン君の髪の毛の束。


「これにてトリスタン・プラティーギアは処刑された。以前までの名を使う事は出来ない。そなたは今は“名無し”である」

「え……」
あまりにも理解出来なかったようで、顔を上げてからハッとしてまた頭を下げた。

「よい。おもてを上げよ」
トリスタン君は国王に言われておずおずと顔を上げた。

「セナ殿がそなたが自由に生きる権利を報酬として欲しいと希望したのでこうなった。これは決定事項だ。異論は認めない。平民となり別の名前で生きて行け」

「そんな……」

「執務室で処刑など有り得んだろう。セナの優しさに感謝するんだな。金も名誉も選ばずお前の自由を選んだ。本来ならば有り得ん。セナの優しさを胸に刻み真っ当に生きろ」

シュグタイルハンの王様がなぜか得意げにトリスタン君に言い放った。
(なんで得意げなの?そう言えばいつの間にか私の事呼び捨てになってるわ。まぁ、私もタメぐちだもんね)

「そんな……セナ様……僕なんかのために……」

「ごめんね。嫌かもしれないけど、私はやっぱり処刑なんて納得出来なかったんだ。私はあなたに生きていて欲しいの。平民になっちゃうけど、これからはしがらみも無く自由だよ。前に最後までは聞けなかったけど、やりたい事があるんでしょう?」
私が話している途中で、泣き出してしまったので頭を撫でてあげる。

「これから生まれ変わった気持ちで精進しろ。必要な名前は自分で考えろ」

「な、まえ……は……」

「なんだ?」

泣いているのにさっさと言えと圧を出すシュグタイルハンの王様。
(落ち着くまでちょっと待ってあげてよ!)

「……生きる事が許されるのでしたら……名前は……セナ様に付けていただきたいです」
深呼吸をした後、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「私?」

「はい。生まれ変わるのでしたらセナ様に付けていただいた名前がいいのです」

「えっと……ジル……ジルベルトとか?」

「ジルベルト……素敵な名前をありがとうございます」
噛み締めるように呟き、土下座をし始めてしまった。

(ヤバい。たしかジルって報復って意味が込められてた気がする。咄嗟に思い付いたのがそれだった……凄い喜んでて違う名前をって言いづらい)

「そんな簡単にいいの?」

「はい。セナ様に付けていただけた名前ですので」

「いいならいいんだけど……」

老害が虐げて来た子が幸せに生きるって意味で、老害に対しての報復って事にすればいいかな?と、一人で言い訳する。
幸せかどうかは本人にしか分からないけど、幸せでいて欲しいと思う。


「では、今この瞬間よりそなたの名はジルベルトとなった。準備が全て整ってからとなるが、平民として暮らす街の望みは後ほど聞こう」

「ありがとうございます」
再び土下座をしながらお礼を言う。

「この件はこの場のみとなる。全員他言無用だ。アーロン殿にはこの件の証人となっていただく」

国王の言葉に全員頷いた。

「では、下がってよい。準備ができたら追って連絡する」

「かしこまりました」
もう一度土下座をしてからブラン団長に連れられて部屋を出て行った。


「座りましょう」
王太子が全員に促しソファに座る。


「セナ殿。これでよいか?」

「うん。ありがとうございます」

「先に報酬の話しをしてしまったが、進捗状況を説明しよう。
セナ殿のお陰で、暴れる事も無く淡々と質問に答えている。当初は処刑の予定だったが、これからも情報を引き出すために隔離して生かすことにした。ただ生きているとなると、命を狙われる危険があるため生かしておく事は極秘だ。表向きは処刑したとする。これは先程セナ殿が魔道具を使って処刑を見せてくれるとのことなので、問題はないとしよう。他の者は慣例通りの処刑と犯罪奴隷となる。
魔法省のトップが捕まったため、魔法省内も調べている所だ。おそらく、これは時間がかかる。
元正妃とその他はブランから聞いたと思う。以上となるが、何かあるだろうか?」

「んー。私は別に国のやり方に口を出す気はない。ただちゃんと手綱たづなを取らないと国家転覆するよってだけ。しっかり調べているならいいんじゃない?
影として働いていた人をスカウトするって手もあるけど、人柄とか分からないから微妙かもね」
苦笑いをしながら国王に返した。

「そうか……その手もあるのか……」

「そういうのは私じゃなくて、王太子さんとシュグタイルハンの王様に聞けばいいんじゃない?
私はまつりごとはわからないよ」

「アーロンだ。アーロン・シュタイン。敬語は必要ないが、名前くらいは覚えろ」

シュグタイルハンの王様が食い気味に発言してきた。

「あー、はい。アーロンさん」

私が名前を呼ぶと満足そうに頷いた。


「では、我々は引き続き調べます。謁見については早くやらないと貴族にあらぬ噂を流されますので、明後日には謁見として発表したいと思います。メダルの件や魔道具の件がありますのでセナ殿にも参加していただきます。
貴族への説明は全てこちらがします。メダル讓渡の際に、名前をお呼び致しますので前に出ていただきメダルに魔力を流していただければ、登録が完了となります。日数が短いですが、魔道具は大丈夫でしょうか?」
王太子が一気に説明をし終え、聞いてきた。

「分かった。魔道具は大丈夫だと思う」

「ありがとうございます。以上となります。ご足労ありがとうございました」
王太子が締めると国王も一緒に頭を下げた。

「はーい。じゃあ私は部屋に戻る」

ソファから立ち上がりドアに向かう。

「はい。ありがとうございました」

「あ!先に言っておくけど、謁見終わったらもう一人主要なご貴族様捕まえるから。その後の取り調べとかよろしく」

ドアから出る瞬間に振り向いて言い、言い終わった瞬間にドアが閉まった。

「「え!?」」
「ハーハッハッハ!」

部屋の中から国王と王太子が驚いた声と、シュグタイルハンの王様のアーロンさんの笑い声が聞こえたけど放置して部屋に戻る。




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