48 / 67
本編
48
しおりを挟むジョイ殿下はグロリアスの二つ下で23歳、ジョスリン殿下は17歳で、僕より二つも年下の学生だ。今回はジョスリン殿下がウィンストン王都内の学園へ留学に来るのに、ジョイ殿下が視察と銘打ってくっついてきたと言う。
「妹が安全だとわかれば帰るさ!ついでに大変革をしたあちこちを視察して、我が帝国に取り入れられればと思い、やって来た!」
「確かに、色々と慌ただしいですから。安全を確認することは、第一優先ですね」
「まさしく、そうだ!しかし、ウィンストン領に入った時点で確信した!ここは大丈夫だと!」
ジョイ殿下が言うのも、理由がある。
ウィンストン王都――旧ウィンストン領は、まだ崖の境界線を保ったままなのだ。
その崖には、これまでより強固でしっかりとした橋を掛けて馬車でも通れるようにしてあるが、入門検査がしっかりしているおかげで、新王都内の治安はかなり高水準と言っていいだろう。ジョイ殿下の、大事な妹御を預かるのに不足はないと、自負している。
「そう言って頂き、光栄です。皇女殿下が、素晴らしい学園生活を送れると嬉し――――」
「シオン殿。ちょっといいだろうか?」
ちょいちょいと手招きをされる。殿下の目線の先は、僕と同じ。先ほどから畳み掛けるようにグロリアスに話しかけているジョスリン殿下と、夜中に仄かに照らされた神像のように、怪しげな微笑みを浮かべたまま動かないグロリアス。
「すまないな。ジョスリンは、グロリアスに会うのは初めてで……まさか、こんなことになるとは」
「帝国では、グロリアスは、皇女様にお会いしたことは……」
「吾輩の個人的な知り合いだから、帝城で会ったことはないんだ。とは言え、あやつは大物になると確信していたから、是が非でも縁を繋げたくて、よく酒場で飲んだよ。はぁぁ、ジョスリン……」
「…………念の為、確認ですが、ジョスリン殿下にご婚約者は……」
「ああ、もちろんいる!カベリオン公国の公子でね!ジョスリン好みの顔ではないが、落ち着いて優しい、物腰柔らかなお人だ。小国だが歴史は長く、ジョスリンを幸せにしてくれるだろう婚約なのだが、困ったな、あれではすっかり忘れているようだ…」
「……あまり、お見せ出来ないお姿のような」
「違いない。グロリアスは既婚者だというのに……本当にいつのまにか結婚を……いや、しかし友人の結婚ほど喜ばしいものもないな。ハッ!結婚祝い!吾輩としたことが!吾輩の秘蔵の、音楽再生魔道具はどうだろうか!」
「……殿下、話が逸れてしまいましたね。お気持ちはとても嬉しいですが。ありがとうございます」
ペチンと額を叩くジョイ殿下をジト目で見ると、気まずそうにきゅっと唇を丸めていた。
ジョスリン殿下は、背の高いグロリアスをうっとりと見上げ、腕を組み胸を強調しながら話している。
『そういえば、グロリアス様。わたくし、つい最近まで暴徒がいると伺っておりましたの。よろしければ、王都を案内してくださいませんこと?わたくし、こわくて……』
『……………………ジョイ殿下も、皇女殿下の側近も、そこらの貧弱で単純な暴徒などに遅れをとることは無いでしょう。そもそも、ウィンストン王都に暴徒などおりませんが……』
『でも……、念には念を、と言いますでしょう?グロリアス様がいらしたら、どんな粗暴な暴徒も、たちまち逃げてしまうでしょう……』
『ですから、元々いません』
思わず、スン、となった。
僕は割と、目つきは悪い方だと思う。怖いと言われることも多い。だからか、ジョイ殿下もぎょっとして引いていた。
「本当に、すまない!妹は、世間知らずの箱入り娘で、これまで我儘が通らなかったことがなかったから……悪気はないんだ。暫くしたら目が覚めると思う!」
「ジョスリン殿下は、これまでああいった様子を見せたことが?」
「………………ないなぁ………………」
「ということは、初恋の、一目惚れ、ということですか」
スン。
僕の冷え切った視線に当てられ、グロリアスが身震いをしている。そのままじぃ、と見ていると、皇女殿下をほっぽってこちらにやってきた。
「シオン。そんなに熱く見つめられたら、俺、期待しちゃうけど……」
僕の銀の耳のてっぺんに、口付けを落として。
それから額、こめかみ、耳に首筋。グルーミングみたいに、次々と唇で触れていく。こ、こら。そんなことされたら、僕、ドキドキして絆されてしまうじゃないか。
『アチャア……じょ、ジョスリン、部屋へ行こう。我々は、お邪魔だ』
『嫌、嫌ですわ!ああもうっ、お兄様!』
ジョイ殿下の呆れたような声を他所に、僕はグロリアスにされるがまま。
でも、グロリアスの首元を引き寄せて、揺さぶるように囁く。
「グロリアス。君は、僕のだからね?」
475
お気に入りに追加
877
あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる