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第9話『お二人は『聖女』というものを御存知ですか?』 1/3

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夕食を終え、二度目となる火の傍でお話の時間だ。

私の一番楽しい時間である。

「お二人は『聖女』というものを御存知ですか?」

「あぁ」

「この世界で知らん奴は居ないだろう」

火の向こうで、それぞれカップを持ちながら私の話に頷いてくれる。

それに感謝しつつ、私は話を進めた。

「そうですね。では、聖女の定義については御存知でしょうか」

「定義? 知らんな」

「国連議会に認められた奴じゃないのか?」

「そうですね。確かにオーロさんの言う通り、世界国家連合議会で全会一致した場合のみ、『聖女』という称号と地位がその個人に与えられます。そして聖女となった者は冒険者組合に登録され、聖女として世界を巡り、その力を使っていく事になります。ただし、聖女の活動に関しては、全て国連議会で可決されたものに限定される為、聖女に個人が依頼する事は出来ません。これが世界の常識ではあります。しかし、国連議会が生まれるよりも以前にも聖女と呼ばれる方々は存在しました。ではどの様にして聖女という存在を定めているのか」

私は紅茶を一口飲み、話を続けた。

私にも大きく関わってくる話を。

「歴史上、最も古くに聖女と呼ばれた人は、通称始まりの聖女……または光の聖女とも呼ばれた聖女アメリア様です。そしてアメリア様の最も大きな特徴としては癒しの魔術があります」

「……ふむ」

「アメリア様が表舞台に立つよりも前から癒しの魔術という物は存在していました。しかし、それは火の魔術で患部を焼き、血を止める事であったり、水の魔術で綺麗な魔力の多く含んだ水を飲ませ、本人の生命力を底上げする様な物が主体でした。ですが、アメリア様の奇跡はその様な魔術とは大きくかけ離れたものでした」

私はコップを近くの台の上に置き、ナイフを拾って自分の指を傷つけた。

そして、すぐに癒しの魔術を使ってその傷を塞ぐ。

「それこそが光の精霊に力を借りた癒しの魔術なのです。本人の治癒力を向上させる訳でもなく、ましてや傷を焼いて塞ぐ事でもない。傷があった事すら分からないくらいに完全な治癒をする。この魔術を使う事が出来る存在が、聖女と呼ばれる存在です。まぁこの技術自体はアメリア様ではなく聖女セシル様が確立した物ですが」

「なるほどな。これで病も傷も治す事が出来るって言うんなら、どの国も欲しがるのはよく分かる。戦争するにもこんな便利な存在は居ないからな。いや、だからこその抑止力か。誰も独占出来ない位置に聖女をおいて、例え戦争が起こっても、聖女の存在により戦争で勝つ事は困難。そうなれば世界は平和、か?」

「そう、ですね」

オーロさんの言葉に私はやや俯きながら、頷いた。
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