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第9話『お二人は『聖女』というものを御存知ですか?』 2/3
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確かにそう。オーロさんの言う通りなのだ。
聖女と呼ばれる存在はその多くが、権力者や一部の悪意ある人間に利用されてきた。
無論歴史上に残っている事など殆ど無いが、悲劇的な最期を迎えた人など数えきれない程にいる。
「しかし。それで世界が平和になるのなら、私は良いと思います。過去の歴史では戦争が多く起こっており、魔物が原因で起こった事件も数えきれません。しかし、聖女が居れば、もう誰も傷つかず泣かない世界が出来るのです」
「気に入らんな。そいつは大人の理屈だろう。お前の意思はどうした。聖女候補ミラ。お前が聖女となれば、もはや今日みたいな旅は出来ん。待っているのは保護という名の監禁だ。生涯自由を奪われて、安全という名の檻の中で過ごす事になるぞ。それが嫌だから、こうして飛び出したんじゃないのか?」
「……いえ。私は、自らの役目から逃げるつもりはありません。今こうして世界を歩いているのは、最後の思い出作りです。心残りがない様に」
私はキュッと胸の前で右手を握り締めながら、唇を噛み締めて笑う。
だって、私はこんなにも幸せだ。
愛する家族に囲まれて、今もこうして優しい人達に助けられて、夢を叶えている。
これ以上ないくらい幸せな存在だろう。
「だから、私、とても幸せなんです」
オーロさんとシュンさんは私を見て、深いため息を吐いた。
その姿に私はビクッと震えてしまったが、二人は別に私を怒る訳では無いらしい。
「これだから子供というのは苦手なんだ」
「っ! あの、シュンさん、ごめっ」
「シュン」
「あぁ、分かっている。すまんな。ミラ。そういう意味じゃない。俺はお前を嫌っている訳じゃないんだ」
「……え?」
「子供はな。もっと我儘を言うべきだ。怖いなら怖いと言えば良い。聖女になぞなりたくない。自由になりたいと、そう願うなら言え。その程度、容易く叶えてやる」
「な、何を言っているんですか。相手は世界ですよ。拒否すれば、何をされるか分かりません」
「それがどうした。俺の敵じゃない」
「っ」
「天霧家初代当主は、その奥義『天斬り』にて、天をその言葉のごとく斬ったという。そして、その『天斬り』を成した刀がこの『島風』だ。その速さは人の理解を越え、その斬撃を世界に刻み込むだろう」
「い、意味が分かりません」
「……うむ。つまり、天斬りは」
「おいおい。ミラはそういう事を聞きたいんじゃないぞ。シュン」
私が首を傾げるのと同じく、シュンさんも首を傾げる。
その姿が何だかおかしくて、私は思わず笑ってしまった。
聖女と呼ばれる存在はその多くが、権力者や一部の悪意ある人間に利用されてきた。
無論歴史上に残っている事など殆ど無いが、悲劇的な最期を迎えた人など数えきれない程にいる。
「しかし。それで世界が平和になるのなら、私は良いと思います。過去の歴史では戦争が多く起こっており、魔物が原因で起こった事件も数えきれません。しかし、聖女が居れば、もう誰も傷つかず泣かない世界が出来るのです」
「気に入らんな。そいつは大人の理屈だろう。お前の意思はどうした。聖女候補ミラ。お前が聖女となれば、もはや今日みたいな旅は出来ん。待っているのは保護という名の監禁だ。生涯自由を奪われて、安全という名の檻の中で過ごす事になるぞ。それが嫌だから、こうして飛び出したんじゃないのか?」
「……いえ。私は、自らの役目から逃げるつもりはありません。今こうして世界を歩いているのは、最後の思い出作りです。心残りがない様に」
私はキュッと胸の前で右手を握り締めながら、唇を噛み締めて笑う。
だって、私はこんなにも幸せだ。
愛する家族に囲まれて、今もこうして優しい人達に助けられて、夢を叶えている。
これ以上ないくらい幸せな存在だろう。
「だから、私、とても幸せなんです」
オーロさんとシュンさんは私を見て、深いため息を吐いた。
その姿に私はビクッと震えてしまったが、二人は別に私を怒る訳では無いらしい。
「これだから子供というのは苦手なんだ」
「っ! あの、シュンさん、ごめっ」
「シュン」
「あぁ、分かっている。すまんな。ミラ。そういう意味じゃない。俺はお前を嫌っている訳じゃないんだ」
「……え?」
「子供はな。もっと我儘を言うべきだ。怖いなら怖いと言えば良い。聖女になぞなりたくない。自由になりたいと、そう願うなら言え。その程度、容易く叶えてやる」
「な、何を言っているんですか。相手は世界ですよ。拒否すれば、何をされるか分かりません」
「それがどうした。俺の敵じゃない」
「っ」
「天霧家初代当主は、その奥義『天斬り』にて、天をその言葉のごとく斬ったという。そして、その『天斬り』を成した刀がこの『島風』だ。その速さは人の理解を越え、その斬撃を世界に刻み込むだろう」
「い、意味が分かりません」
「……うむ。つまり、天斬りは」
「おいおい。ミラはそういう事を聞きたいんじゃないぞ。シュン」
私が首を傾げるのと同じく、シュンさんも首を傾げる。
その姿が何だかおかしくて、私は思わず笑ってしまった。
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