神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
424 / 554
第9章 恋と別れのリグレット

第402話 恋と別れのリグレット③ 〜障碍〜

しおりを挟む

 次の日──中学校に行った私は、山野やまのくんに声をかけようと様子をうかがっていた。

 昨日の母の話を聞いて、付き合うのは、まだ無理でも、友達なら大丈夫だと思ったから。

 だけど、声をかけようとしても、いざとなると、緊張して声をかけられず。

(どうしよう……全然、話しかけられない……っ)

「あかりちゃーん!」

 すると、机に座り項垂うなだれていた私に、友人の一人が声をかけてきた。

 私と同じ、学校指定の紺のセーラー服を着て、明るく声をかけてきたのは、藤崎ふじさき 一織いおり

 彼女は、小学校から一緒にいるクラスメイトで、私の難聴のことを知っている数少ない友人の一人だった。

 と言っても、難聴のことは、それとなくクラスには広まっていたとは思う。

 先生は、当然知っていたし、学校で聴力検査をする時は、いつも一番、最後に検査されていたから、私の耳が聞こえないことに気づいていた人も、それなりにいたかもしれない。

「ねぇ、昨日の呼び出し、なんだったの? もしかして告白?」

「ちょっと、一織ちゃん、声が大きい……!」

 すると、突然教室の中で、そんな話を一織ちゃんはにされて、私は顔を真っ赤にして狼狽ろうばいした。

 教室の奥には、山野くんもいたし、聞こえたら、どうしよう。すると、一織ちゃんは、何かを察したのか、声量を抑えつつ、私に顔を近づけてきた。

「えーと、どっちだっけ?」

「あ、こっち」

 どっちの耳に話しかけるか迷っている一織ちゃんに、私が”左耳”を傾ければ、一織ちゃんは、その後、的確に話をふってきた。

「なに? やっぱり告白の呼び出し?」

「う、うん」

「マジ! 付き合ったの?」

「付き合ってないよ」

「えー、なんでー! あかりちゃんに彼氏が出来たから、ダブルデート出来るのに!」

「ダブルデートって……っ」

 ちなみに、一織ちゃんには彼氏がいる。

 弓道部の部活仲間で、クリスマス前に一織ちゃんの方から告白して、付き合うことになったばかり。

 そして、その時は、私も一緒になって喜んだ。

 一織ちゃんが、その子のことを好きだったのはしってたし、告白が成功した時は、凄く嬉しくて。

 ただ、仲のいい友達に彼氏ができて、ちょっとだけ、寂しくもあったけど。

「なに、イマイチだった? ていうか、相手は誰?」

「相手は、山野くん」

「うっそ!?」

「ちょっと声大きい! それに、イマイチってわけじゃ…山野くん、いい人だと思うし。でも付き合うのは、まだ早いし、とりあえず、お友達からにして、LIME交換してみようかなって」

「おーなるほど! で、交換したの?」

「まだ……なかなか、話しかけられなくて」

「それこそ、友達みたいに話しかければいいじゃん」

「そんな簡単に言わないで。一度告白されちゃうと、これまでと同じようには、振る舞えないっていうか……っ」

 ただのクラスメイトだった人が、自分に好意を抱いていると分かった瞬間、それまでとは違って見えた。

 相手の気持ちを知ってしまうと、きっと知らなかった頃には戻れないのだと思った。それに

「山野くん、私の耳のこと、どう思うかな?」

 あやねぇの話を思い出して、少しでも山野くんのことを知っている一織ちゃんに聞いてみる。すると

「別に大丈夫だと思うけどなー。全く聞こえないわけじゃないし。まぁ、人より聞き間違いは多いし、たまに、変な返答する時はあるけどね」

「え、変な返答!?」

「うん。この前、私が『ポメラニアン、可愛い~』って言ったら『カメレオン?』って聞き間違ってたじゃん! あれはマジ爆笑だったから!」

「だ、だって、そう聞こえたんだもの!」

「他にも、みりんをキリンと聞き間違ったりとかしてたよねー。会話噛み合わなくて、何度笑わされたことか」

「う……ごめん」

「あはは。別に、責めてるわけじゃないよ。聞き間違いなんて誰にでもあるしさ。それに、そんな所も含めて、私は、あかりちゃんといるのが楽しいし。だから、いつか、そういう弱点みたいな所もまとめて、あかりちゃんのことを好きになってくれる人が現れたら、私も嬉しいな」

「一織ちゃん」

「だから、頑張ってね! そして、いつか彼氏が出来たら、絶対ダブルデートしよう! ラビットランドに行こうよ! あかりちゃんが、どんな彼氏を連れてくるか、今から楽しみ!」

「ちょっと、気が早すぎるよ」

 一織ちゃんの話に、私はくすくす笑いだした。

 片耳難聴に対する人々の反応は、いいものから、悪いものまで、それぞれだった。

 見えない障碍しょうがいは、なかなか理解されない。

 時には、必要以上に重く受け止め、あまり関わりたくないと言う人もいれば、逆に片耳きこえるんだから、なんの問題もないでしょ?と、軽く受け止められる場合もある。

 もちろん、それは、その人たちの主観だし、決して間違いではない。

 だけど、難聴のことを打ち明けるのは、あくまでも、で、相手に、あれこれ求めたいわけじゃないし、悲劇のヒロインになりたい訳でもない。

 ただ、純粋に、知っていて欲しいだけ。

 無視をしているわけじゃないと。
 ただ、聞こえなかっただけなのだと。

 難聴であるが故に生まれてしまう誤解を、誤解のままで終わらせないように、人を不快なままにさせないように、ただ、知っていて欲しいだけ──

 そして、一織ちゃんは、そんな私の難聴のことを、決してタブー視することなく、柔軟に受け入れてくれた人だった。

 中途半端な障碍を持った子ではなく、それすらも個性だというように、ありのままの私を受け入れてくれた。

 それが、すごく心地よくて、なにより、ありがたかった。

 だから、一織ちゃんの言う通り、難聴のことも含めて、私を好きになってくれる人が現れたら、どんなに素敵なことだろう。

 あの頃の私は、そう思っていた。

 不完全な私を、ありのまま受け入れて、普通の女の子として接してくれる。

 そんな素敵な人が、現れたらいいなって……

 でも、そんな女の子としての些細な夢が打ち砕かれるのも、そう遠い話ではなかった。

 それは、それから一ヶ月後の二月中旬。

 チラチラと雪が降り積もる、寒い冬のことだった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...