423 / 509
第9章 恋と別れのリグレット
第401話 恋と別れのリグレット② 〜友達〜
しおりを挟む「彩音ちゃん、今日もありがとう」
夕飯を食べたあと、夜の8時過ぎに、母の倉色 稜子が迎えにきた。
あや姉が住んでいる家は、元は、父が住んでいた実家。まるで武家屋敷のように趣のあるその家に、あや姉は、数年前まで祖母と一緒に住んでいた。
だけど、祖母が他界してからは、この広い家に、あや姉、一人。
そして、当時の35歳の私の母は、あや姉にとっては、5歳年上の義理のお姉さんにあたる人だったけど、二人の仲はとても良好で、母も一人暮らしのあや姉のことは、よく気にかけていた。
「いつも悪いわね、彩音ちゃん。この子達の面倒見て貰って」
「いいよ、いいよ。あかり達がくれば、私も楽しいし」
「ふふ。ありがとう。何も変わったことはなかった?」
「うん、大丈夫。あ、いやいや、あったよ、変わったこと! 稜子さん聞いてよ。今日あかり、告白されたんだって!」
「ちょ、ちょっと、あや姉!?」
母が来るなり、いきなり告白のことを暴露したあや姉に、私は驚き、同時に顔を真っ赤にした。
だって、まだ中学生だったし、正直、親に告白されたことを知られたのが、すごく恥ずかしくて……
「あら? あかりも、もうそんな年頃になっちゃったの?」
すると、母が、少し驚きつつも穏やかに話しかけてきて
「誰に告白されたの?」
「ど……同級生の……山野くん」
「あぁ、あの落ち着いた感じの子? 優しそうな子だったし、あかりが付き合いたいなら、お母さんは応援するけど」
「え!? なんで、そうなるの!?」
「だって、ダメって言って影でこっそり付き合われても困るじゃない。まぁ、お父さんは反対するでしょうけど」
「あー、確かに兄貴は反対するかもね」
すると、母の話に、あや姉が相槌を打ちながら加わった。
「娘に彼氏ができたなんて言ったら、兄貴、発狂しそう! でも、大丈夫だよ! 兄貴が何か言ってきたから、私からガツンと言ってやるからさ!」
「言ってやるからって……! なんか、付き合う方向で話が進んでない!?」
「だって、卒業したら、山野くんとは会えなくなっちゃうんでしょ? せっかく告ってくれんだからさー」
「そ、そうだけど……っ」
あや姉の言葉に、私は困り果てた。
山野くんは、きっといい人。だから、耳のことを話しても、受け入れてくれるかもしれない。
でも、この頃の私は、恋というものを、まだよく分かってなかった。
人を好きになるという感情も、付き合った先に、なにがあるのかも。
だって、男の子と付き合うなんて、まだ、ずっと先の話だと思っていたから──
「でも、私……山野くんのこと、まだよく知らないし……っ」
「だから、それは付き合ってからでも」
「ふふ、彩音ちゃん、あまりあかりをいじめないで。あかりには、そういう恋愛は、向いてないのかもしれないわ」
「え?」
すると、母が私の気持ちを察したのか、優しく声をかけてくれた。
「確かに、若い頃の恋って、けっこう盲目的よ。勢いで付き合って、すぐに別れちゃう子もいっぱいいるし。でも、あかりは、昔から気を使いすぎるところがあるから、そういう恋は向いてないのかも。ねぇ、あかり。まずは、お友達からでいいんじゃないかしら?」
「お友達?」
「そうよ。とりあえず『お付き合いはできないけど、連絡先を教えて』って言ってみれば? 今のあかりは、学校にいる山野くんしか知らないわけでしょ。なら、LIMEでやり取りしたり、一緒に遊んだりして、また別の山野くんを知ってみればいいんじゃないかしら。それで、あかりも『好きだな』って思えるようになったら、お付き合いすればいいわ」
「そ、そっか……好きになってから」
確かに、母の話には、納得のいく部分もあった。
すぐに付き合うのは無理でも、ちゃんと好きになってからなら、いいと思ったから。
「うん。分かった……明日、そう話してみる……っ」
真冬の玄関先で、私は恥じらいながら、そう答えた。
友達は、だいたい女子ばっかりだったし、私のスマホの中に男子の連絡先なんて一つも入ってなかった。
だからか、凄く緊張したけど、少しだけ勇気を出してみようと思った。
でも、緊張から少し俯いた瞬間、視線の先に泣きそうになってる理久が見えた。
「え、理久!?」
「うぇぇぇぇん! お姉ちゃんのバカー! お付き合いしないっていったのにー!!」
「ちょ、ちょっと、お付き合いはしないよ! 連絡先を交換するだけ!」
「でも、連絡先交換したら、男の方からLIMEきまくって、オレと遊んでる時に返信したりするんだろ!」
「そ、それは、そうかもしれないけど」
「ヤダー! 絶対やだー! オレ、お姉ちゃん、取られたくないもん!!」
「取られるなんて、そんなことにはならないよ! 私、理久のこと大事だし、一緒に遊んでる時に返信したりしないから! ちょっと理久、泣かないでー!!」
涙声で、ギュッと抱きついてきた幼稚園児の弟を抱きしめながら、私は必死に慰めた。だけど、あまりの号泣する理久を見て、あや姉は
「ねぇ、稜子さん。理久、何とかしないと、このままじゃ、重度のシスコンになっちゃうよ?」
「大丈夫よ。小学校の高学年くらいになれば、お姉ちゃんより、お友達になるわ!」
「そうかなー?」
母と二人、不安そうに話していたその会話は、冬の空に、静かに溶けていった。
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる