神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第15章 オーディション

第206話 人助けと住宅街

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「あかりちゃん、ごめんね。買い出しに行く途中だったのに」

「いいえ、気にしないでください」

 午前9時過ぎ──

 あかりは、住宅街の中で、30代くらいの女性と話しながら歩いていた。

 あのあと、洗濯物を干し着替えたあと、あかりは近くのスーパーに出かけた。

 先月オープンした新しいスーパーだ。

 近所に出来たため、まとめ買いをする際に、とても助かっているのだが、そのスーパーに到着する前、道端に女性がうずくまっているのを見つけ、あかりは声をかけた。

 どうやら、この女性は妊娠中のようで、傍らには、3歳くらいの女の子も一緒だった。

 大きなお腹を抱えているのに、小さな子供と、買い物袋を2つも手にしていて、あかりは、大変だろうと、その女性の荷物を代わりに持ち、一緒に家まで向かうことにした。

「本当に助かったわ。妊娠中に子供連れて買い物するって、結構大変で……」

「今、何ヶ月なんですか?」

「実は、もう臨月なんだー。いつ産まれてもおかしくないって」

「え! そうなんですか!? 大変ですね、そんな時に旦那さんが出張だなんて……」

「あはは、ほんとだよ! いつもは、旦那が荷物持ってくれるんだけど、さすがに冷蔵庫が空になるとまずいしさ。だから、あかりちゃんが声掛けてくれて、助かったわ」

 女性がにこやかに笑うと、あかりもそれにつられて微笑んだ。すると、女性は娘の手を引きながら

「あかりちゃんは、子供好き?」

「え?…………ん?」

「?……子供、好き?」

「あ、はい、好きです!」

「あ~やっぱり。子供の扱い手馴れてるなーって思ったんだ。うちの子も、もう懐いたみたいだし」

「私、年の離れた弟がいるので、多分、そのせいかも……でも、手馴れているわけでは」

「あ、弟いるんだ!」

「はい。今じゃ、かなり小生意気になっちゃいましたけど」

「あはは、じゃぁ、うちもあかりちゃんとこと一緒かなー、お腹の赤ちゃん男の子みたいだから」

 すると、女性はお腹をさすりながら、愛おしそうに目を細めた。

「男の子ってやっぱり、やんちゃなのかな~?もう胎動激しくて」

「ふふ、生まれてくるのが、楽しみですね」

「ほんと……、ただ、それだけで十分だわ」

「…………」

 なんの障害もなく──その言葉に、あかりは一瞬言葉を詰まらせた。

 だが、お腹を撫でる女性の手元を見つめると、また優しく微笑むと

「そうですね……私も、そう思います」




 ◇

 ◇

 ◇



 そして、その後、暫く歩くと、目的地である女性の家に着いた。

 荷物を中に入れ、女の子と少しだけ話をすると、女性が、またあかりに話しかける。

「あかりちゃん、ありがとう!」

「いいえ、お役に立てて良かったです」

「い……っ」

 だが、その瞬間、女性は急にお腹を押さえ、呻き声をあげた。

「あの、大丈夫ですか? まさか、陣痛が始まったとかじゃ」

「だ、大丈夫。最近、よく前駆陣痛があるから、またそれかも……ちょっと様子見てみるね」

「でも、旦那さん、出張中なんですよね?」

「大丈夫、大丈夫! 近くに、姉と姪っ子が住んでるし、何かあったら応援を頼めることになってるから!」

「そうですか。なら、いいですけど……無理はしないでくださいね? あの、早く横になった方が」

「うん、そうするわ。本当にありがとう……ほら、バイバイは?」

「お姉ちゃん、ばいばーい」

「バイバイ」

 女の子に手を振り、扉が閉まるのを見届ける。すると、あかりは、その後、広く辺りを見回した。

 あかりの家からも、そう遠くないこの地域には見覚えがあった。

 春頃、一度だけ、エレナに連れられて、この辺りに来たことがある。

 車がやっと離合できそうな、住宅街の狭い道路。そして、あかりがいる、この道の突き当たり。

 そのT地路を右に曲がった先には、エレナの家がある。

(……何考えてるの。家には行っちゃダメ)

 もし、ミサさんに見つかると、大変なことになる。

 だが、あれから一切連絡はなく、オマケに今日はオーディションの日。

 いろいろな不安が渦巻いているせいで、なかなかその場から立ち去ることが出来なかった。

 進む事も、戻ることも出来ず、あかりは、再びその路地の先を見つめた。

(きっと今頃、オーディション会場にむかってる頃よね? なら家には…………え?)

 だが、その瞬間、路地の先に、ふわりと靡くが見えた。

 光に反射してキラキラと輝くその髪と、その小さな人影には、見覚えがあった。

 その路地を、俯きながら歩く少女。

 そして、それは──

「エレナちゃん!!」

「ッ──!?」

 瞬間、あかりが叫べは、路地の先にいた少女が顔を上げた。

 だが、その顔は、酷く意気消沈した覇気のない表情をしていた。

 それを見て、あかりは──

「エレナちゃん、なんで? 今日は……っ」

「──ッ!」

 だが、あかりの顔を見るなり、エレナは逃げるように駆け出した。

 路地の先から、消えたエレナ。そろ瞬間、あかりは、慌てて、エレナのあとを追いかける。

「待って! 待って、エレナちゃん!!」

 閑静な住宅街には、あかりの張り詰めた声が響いた。

 小さな不安は、更に大きくなって、あかりの額には、じわりと嫌な汗がにじんだ。

 どうして?
 どうして、ここにいるの……?

 だって、今日は


 オーディションが、ある日なのに──…


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