魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
126 / 149
第三章

第二十一話

しおりを挟む
「残念ですが、望みは薄いかと…」

最初にやって来た医者はそう言った。

二人目も、三人目も同様の診察結果を口にした。

最後に来たのは、「キリカナム教団」の構成員によって私が襲われ、致命傷を負ったときに診てくれた医者だった。

「お久しぶりです、グレア様。まさか、今度はラーラ様の方を診ることになるとは思いませんでしたよ」

「私も。今回はどうかよろしくお願いします」

経験豊富な彼は、丁寧かつ効率的に作業を進めていった。

私は緊張で汗を流しながら、静かにその様子を見つめていた。

「…わかりました」

三十分程経っただろうか、医者は作業を止め、こちらを真っ直ぐ見つめて、柔らかな口調で告げた。

その診断内容を聞いて、私は膝から崩れ落ちた。

というより、崩れ落ちたのは私の世界そのものなのかもしれない。


 最後の医者は診断結果を告げた後、こう補足した。

「ですが、決して希望を捨ててはなりません」と。

「意識と魔力が戻らないということ以外、正常に生命活動をしているのです。こうした場合、ふと目覚めることがあるのです。ラーラ様が『いつ目覚めてもおかしくない状態』であると、私は私の医者としての人生経験の全てを以て保証致します」

私はその言葉を信じるしかなかった。でなければ、心が壊れてしまう。

とても戦術のことなど考えられなかったので、私は気持ちを整理する為に一日の休暇を貰った。


 長い長い夜が明け、迎えた翌日。

午前中、私は気が付くとラーラのもとへ行っていた。

ラーラは相変わらず安らかな顔をして、優しい寝息を立てていた。

私はその傍へ行き、その頭をそっと撫でた。

掌に伝わるさらさらとした髪の質感と温もり…

まるで昼寝でもしているかのようだ。

でも、目覚めない。

もしかしたら、もう永遠に。

ラーラは自らの存在が原因となって、母親と友人、そして故郷を滅ぼされた過去があり、その消えない深い傷こそが私と彼女を繋ぐ楔にもなった。

ゼゼゾームと戦った時、ラーラは催眠状態の私を、自分の命を犠牲にしてまで元に戻してくれた。そして、今度は私を城まで運ぶ為に自分を犠牲にした。

「どうして…貴方は、そんなに自分のことを粗末にできるの…?」

私の頬に大粒の涙が伝う。

どうして、この人は負わなくていい分の責任まで無理に背負っていこうとするのだろうか。

こんな小さな背中に…


「責任は取らせてもらいます。必ず貴女を守りますから」…


そんな言葉が突如頭の中に流れた。

私はハッとして、息を詰まらせた。

私が彼女にそう言わせなければ…私があの時、傷ついた掌を見せなければ、こんな展開にはならなかったのではないか。

私が…ラーラを殺したのではないか。

かつて私はアルクを殺した。

私は大事な人を、二度も殺した…。

その事実に気付いた時、身体がずしりと重くなった。

罪悪感が全身に覆いかぶさったのだ。

私は決心した。

この戦いが終わったら、どこか、人知れぬ辺境で、もう全てを終わらせてしまおうと。

今まで生きていて辛いことばかりだった。それもこれまでだ。

そう考え出したら、気持ちが楽になり、身体も軽くなった。

明日以降の戦術会議にも集中できそうだ。


 翌日、敵方の軍勢がジャサー地方領域内に入ったことを聞いた。

開戦は三日後だと推定される。

私達は緊張感を胸に、この戦いに確実に勝利する為にはどうすればよいか議論していた。

「よろしいのですか? それでは、グレア様の負担が最も大きくなってしまいます」

「構わない。それで勝てるなら」

会議は予定より早く、半日で終了し、決戦の為の準備に時間が割かれた。

 時間はあっという間に過ぎ、気付けば開戦当日になった。

私は望遠鏡片手に、デザ村近くの森で待機していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...