魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
126 / 205
第三章

第二十一話

しおりを挟む
「残念ですが、望みは薄いかと…」

最初にやって来た医者はそう言った。

二人目も、三人目も同様の診察結果を口にした。

最後に来たのは、「キリカナム教団」の構成員によって私が襲われ、致命傷を負ったときに診てくれた医者だった。

「お久しぶりです、グレア様。まさか、今度はラーラ様の方を診ることになるとは思いませんでしたよ」

「私も。今回はどうかよろしくお願いします」

経験豊富な彼は、丁寧かつ効率的に作業を進めていった。

私は緊張で汗を流しながら、静かにその様子を見つめていた。

「…わかりました」

三十分程経っただろうか、医者は作業を止め、こちらを真っ直ぐ見つめて、柔らかな口調で告げた。

その診断内容を聞いて、私は膝から崩れ落ちた。

というより、崩れ落ちたのは私の世界そのものなのかもしれない。


 最後の医者は診断結果を告げた後、こう補足した。

「ですが、決して希望を捨ててはなりません」と。

「意識と魔力が戻らないということ以外、正常に生命活動をしているのです。こうした場合、ふと目覚めることがあるのです。ラーラ様が『いつ目覚めてもおかしくない状態』であると、私は私の医者としての人生経験の全てを以て保証致します」

私はその言葉を信じるしかなかった。でなければ、心が壊れてしまう。

とても戦術のことなど考えられなかったので、私は気持ちを整理する為に一日の休暇を貰った。


 長い長い夜が明け、迎えた翌日。

午前中、私は気が付くとラーラのもとへ行っていた。

ラーラは相変わらず安らかな顔をして、優しい寝息を立てていた。

私はその傍へ行き、その頭をそっと撫でた。

掌に伝わるさらさらとした髪の質感と温もり…

まるで昼寝でもしているかのようだ。

でも、目覚めない。

もしかしたら、もう永遠に。

ラーラは自らの存在が原因となって、母親と友人、そして故郷を滅ぼされた過去があり、その消えない深い傷こそが私と彼女を繋ぐ楔にもなった。

ゼゼゾームと戦った時、ラーラは催眠状態の私を、自分の命を犠牲にしてまで元に戻してくれた。そして、今度は私を城まで運ぶ為に自分を犠牲にした。

「どうして…貴方は、そんなに自分のことを粗末にできるの…?」

私の頬に大粒の涙が伝う。

どうして、この人は負わなくていい分の責任まで無理に背負っていこうとするのだろうか。

こんな小さな背中に…


「責任は取らせてもらいます。必ず貴女を守りますから」…


そんな言葉が突如頭の中に流れた。

私はハッとして、息を詰まらせた。

私が彼女にそう言わせなければ…私があの時、傷ついた掌を見せなければ、こんな展開にはならなかったのではないか。

私が…ラーラを殺したのではないか。

かつて私はアルクを殺した。

私は大事な人を、二度も殺した…。

その事実に気付いた時、身体がずしりと重くなった。

罪悪感が全身に覆いかぶさったのだ。

私は決心した。

この戦いが終わったら、どこか、人知れぬ辺境で、もう全てを終わらせてしまおうと。

今まで生きていて辛いことばかりだった。それもこれまでだ。

そう考え出したら、気持ちが楽になり、身体も軽くなった。

明日以降の戦術会議にも集中できそうだ。


 翌日、敵方の軍勢がジャサー地方領域内に入ったことを聞いた。

開戦は三日後だと推定される。

私達は緊張感を胸に、この戦いに確実に勝利する為にはどうすればよいか議論していた。

「よろしいのですか? それでは、グレア様の負担が最も大きくなってしまいます」

「構わない。それで勝てるなら」

会議は予定より早く、半日で終了し、決戦の為の準備に時間が割かれた。

 時間はあっという間に過ぎ、気付けば開戦当日になった。

私は望遠鏡片手に、デザ村近くの森で待機していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...