魔王メーカー

壱元

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第三章

第十一話

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 大陸中東地域、センジャカッサル朝、その国土の中心部にあるエセセ山に本拠地を置く暗殺者集団「代理人キシムス」。

「彼ら」がいつからこの世界に存在しているか、それを知る者は居ない。

魔力の痕跡とその持ち主さえ特定できるほど高度な「魔力探知」を始めとする非 元素属性、「闇」属性魔法と、暗殺に特化した体術とを組み合わせた独自の暗殺術を用い、あらゆる時代で暗躍してきた。

キリカはそんな「彼ら」の中の「落ちこぼれ」であった。

物心ついた頃から毎日欠かさず毒を飲み、肌に薬品を塗り、刃を振るってきた。そういった生活に疑問を持つことはなかった。

また、能力の低さを理由に齢十二にして「処理」される側に回ることにも。

 事件は「運命の日」前日の午前に起きた。

いつも通り山中の各地で戦闘訓練に勤しんでいた彼らを襲ったのは、一羽の巨大な怪鳥であった。

それは瞬く間に設備を機能停止に追い込み、優秀な仕事人を幾人も葬った。

大虐殺を奇跡的に生き残った、「廃棄物」として処理されるはずだった少女は、本能に従い、ただ己の生存率を高める選択をした。

彼女は荒野を三日三晩飲まず食わず不眠不休で歩き続け、首都イルセパンの市場に辿り着いた。

強奪や窃盗以上に合理的な手があることを知っていた彼女は、「騙す」為に十二年間研ぎ澄まされてきた美貌を利用した。

イルセパン富豪の所有物になった彼女は、そこで初めて「愛」と呼ばれるものを知った。

歪な形の「愛」だとはいえ、それに包まれているのは幸福でもあった。

だが、その幸福も長くは続かなかった。

主人が商いに失敗し、なんと一夜にしてほぼ全資産を失ったのだ。

困った男は、生活の足しにしようとキリカを奴隷商に売り払い、商人は浅黒い肌が珍しがられる西方へと彼女らを連れ去った。

 ケンダル王国南方エレマス地方のある市場にて、最高級品として誰にも手を出されなかったキリカは、一人の地味な身なりの少年に買われた。

彼は地元の魔法学校を首席で卒業し、一人で冒険者として活動していた。

彼こそが、後の「奇跡のマギク」である。

彼は貴族の息子だったが、自らの後継を望み貴族学校に入れたがる父親に魔法学校入学を反対されていたため、金銭的支援も使用人も全くついてこなかった。

とはいえ、例を見ない「特待生制度」と精力的な冒険者としての活動のおかげで財産面は潤沢な彼は、父親と関わりがなく、今後も関わらずに居続けてくれる優秀な手伝いを探していた。

見立て通り、キリカは従順で「誠実」で完璧に全てをこなして見せた。

雇用開始から一か月のある夜、二人は部屋で向き合って椅子に座り、対等な立場で語らった。

そのうち主人はキリカに彼女自身の過去を聞かせてほしいと言った。

キリカはただ機械的に、習慣的に情報を伝えただけだったが、彼女の話にいつしか主人は泣き出し、嗚咽し、終わるや否や、

「大変だったな」

と言った。

「君にはなんの罪もない。なのに何も教えられず、ただ機械として利用されて塵紙のように捨てられるだけ。優しくて真面目な君は、愛されて当然なのに、今まで誰にも本当の意味で愛されたことはないんだ」

彼はそう言ってキリカを優しく抱擁した。

「これから僕が君に本当の幸せを教えるよ」

マギクはその後、彼女と対等な立場で接し、ことあるごとに「君はどう思う」「自分で考えてごらん」と呼びかけ続けた。

彼の努力の甲斐もあって、キリカは「自分」を得た。同時に、”自らの意思”に基づいて彼に好意を寄せるようになった。

 三年後の夜、彼女は並外れた「魔力探知」能力を買われ、「想い人」に個人任務を託された。

(これ、失敗できない…)

彼女は短剣を構えた。

(貴重な「魔麻布」も食べたし、マギクが期待してくれてるから、絶対に仕留めないと…)

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