116 / 155
第三章
第十二話 前編
しおりを挟む
ラーラが後方に「影渡り」しての攻撃の警戒にあたっている間、グレアとキリカは静かに睨みあっていた。
(次で仕留める…)
(この勝負、次で決着するな)
三人のうち、二人が同時に動き出す。
勝負は一瞬で決した。
グレアは剣を振るった。だがそこに敵の姿はなかった。
キリカは懐に入った。
彼女の黒い斬撃は、グレアの首を切断する。
しかしここで不思議なことが起こった。
刃は確実に首の中を貫通し、肉の中を横へと通り抜けた。
キリカの腕は確かであり、その感覚に狂いは断じてなかった。
なのに、事実として、グレアの首は繋がったままなのである。
グレアの反撃の一撃が、一瞬にしてキリカの右腕を身体から切り離す。
先程のことだ。
グレアが立ち上がり、両手で剣を構えて敵と向かい合う。その時にラーラに囁きかけた。
「隙を作ります。だから追撃を」
グレアは返事を聞く前に敵とかち合った。
その踏み出しは速くも、斬撃は遅かった。刃に纏わりついた「闇」によって、文字通り瞬く間にグレアは首を切断された。
そう、キリカの攻撃はあまりに速かった。速すぎたのだ。そして洗練されすぎていた。
だから切断面積は最小限で、刃が入ってから切断完了するまでに要した時間は、例えば血液が噴き出すより遥かに短かった。
断頭後の人間の意識の有無については様々議論があるが、あまりに常軌を逸した短時間であれば「消える」方が難しいのではないだろうか。
そして「思考」はその超短時間に追いつくスピードの持ち主である。
だから、グレアの脳から発せられた「頸部への『接木』発動の命令」は切断直後、切断前と”ほぼ変わらない”位置・状態のまま存在している、切断された頸部をごく自然に繋ぎ合わせることに成功した。
非情にも、彼女は唯一無二の右腕を喪失して初めてようやく自分の置かれた状況を理解し、魔法を使って距離を取った。
しかしながら、彼女の「理解」は少しばかり浅かった。
「あ」
「影渡り」した先の地面に左足が「喰われ」た。
今度もまた状況を飲み込めないまま、地面に臥せる。
彼女が「落ちこぼれ」たる所以はここにあった。
見る者全てが心を奪われる美貌、閉所では無双の中近距離戦闘能力、痕跡からそれが誰のものかさえ特定できてしまう魔力探知能力…
彼女は闇討ちや騙し打ち、市街戦向けに「設計」されたのだが、それらに必要不可欠なある要素が欠けていた。
いくら「魔麻布」が貴重で高価で、かつ「引き換えに体力を消耗する」というデメリットがあろうと、相手が「銀級」を軽く屠る強豪で、さらには自分が相手に数で負け、魔力残量で劣っているならば傷を負う前に迷わず使用するのが筋であろう。
少なくとも他の「夜明けの旅団」メンバーならばそうしただろう。
彼女は、少々愚鈍だったのである。
(次で仕留める…)
(この勝負、次で決着するな)
三人のうち、二人が同時に動き出す。
勝負は一瞬で決した。
グレアは剣を振るった。だがそこに敵の姿はなかった。
キリカは懐に入った。
彼女の黒い斬撃は、グレアの首を切断する。
しかしここで不思議なことが起こった。
刃は確実に首の中を貫通し、肉の中を横へと通り抜けた。
キリカの腕は確かであり、その感覚に狂いは断じてなかった。
なのに、事実として、グレアの首は繋がったままなのである。
グレアの反撃の一撃が、一瞬にしてキリカの右腕を身体から切り離す。
先程のことだ。
グレアが立ち上がり、両手で剣を構えて敵と向かい合う。その時にラーラに囁きかけた。
「隙を作ります。だから追撃を」
グレアは返事を聞く前に敵とかち合った。
その踏み出しは速くも、斬撃は遅かった。刃に纏わりついた「闇」によって、文字通り瞬く間にグレアは首を切断された。
そう、キリカの攻撃はあまりに速かった。速すぎたのだ。そして洗練されすぎていた。
だから切断面積は最小限で、刃が入ってから切断完了するまでに要した時間は、例えば血液が噴き出すより遥かに短かった。
断頭後の人間の意識の有無については様々議論があるが、あまりに常軌を逸した短時間であれば「消える」方が難しいのではないだろうか。
そして「思考」はその超短時間に追いつくスピードの持ち主である。
だから、グレアの脳から発せられた「頸部への『接木』発動の命令」は切断直後、切断前と”ほぼ変わらない”位置・状態のまま存在している、切断された頸部をごく自然に繋ぎ合わせることに成功した。
非情にも、彼女は唯一無二の右腕を喪失して初めてようやく自分の置かれた状況を理解し、魔法を使って距離を取った。
しかしながら、彼女の「理解」は少しばかり浅かった。
「あ」
「影渡り」した先の地面に左足が「喰われ」た。
今度もまた状況を飲み込めないまま、地面に臥せる。
彼女が「落ちこぼれ」たる所以はここにあった。
見る者全てが心を奪われる美貌、閉所では無双の中近距離戦闘能力、痕跡からそれが誰のものかさえ特定できてしまう魔力探知能力…
彼女は闇討ちや騙し打ち、市街戦向けに「設計」されたのだが、それらに必要不可欠なある要素が欠けていた。
いくら「魔麻布」が貴重で高価で、かつ「引き換えに体力を消耗する」というデメリットがあろうと、相手が「銀級」を軽く屠る強豪で、さらには自分が相手に数で負け、魔力残量で劣っているならば傷を負う前に迷わず使用するのが筋であろう。
少なくとも他の「夜明けの旅団」メンバーならばそうしただろう。
彼女は、少々愚鈍だったのである。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる