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第三章
第十話
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「影渡り」で宙へと飛び出し、間一髪で奇襲から逃れた魔王の卵たち。
それを静かに睨む「金級」パーティ「夜明けの旅団」メンバー、「紅き黒猫」のキリカ。
ラーラ同様「闇」魔法の使い手である彼女は、グレア達が往路に残した微量な魔力を辿り、生身で南北横断してここまでやって来たのである。
グレア達は空中で素早く言葉を交わし、互いの顔を見合わせて力強く頷いた。
二人が落下する。
着地と同時にキリカが「影渡り」する。
「やあっ!」
グレアが叫び声とともに「隼斬り」を放つ。
二枚の刃はかち合い、グレアが敵を押しのける。
グレアが隙を逃さず、すかさず追撃を与える。
その刹那、敵は全身をしなやかにくねらせ、攻撃を避けながら懐に入り込もうとする。
だが、それを途中で止め、キリカは地面を蹴って素早く側転し、自ら離れる。
先程までキリカの立っていた場所を、「星滅刀」の黒く鋭い一閃が横切る。
敵はラーラの攻撃に気付いていたのだ。
両者ともに絶好の機会を逃したが、「次の機会」により近かったのは人数で「猫」に勝るグレア達の方であった。
グレアは剣の先端に魔力を溜め、そこから敵の眼球目掛けて「鎌鼬」を飛ばした。
一発目は躱されるが、二発目は頬を浅く切り裂き、鮮血が風に乗って後方へ飛んでいく。
「相方」の稼いだ時間でラーラは両手に十分な魔力を蓄えた。
全ての指から一本ずつ「闇針」を放出する。
関節が曲がるごとに向きが変わるが、キリカは必死で身を翻し、攻撃を紙一重で回避する。
グレアも剣を右手一本で支えながら、左手で「絹糸」の網を張り巡らす。
白黒な死の有刺鉄線の中を、盗賊は二つ名の通り身軽に跳び回る。
だが左太腿と右肩に被弾されると、たまらず「網目」の間を縫って上方向への「影渡り」で空中へ逃げ出した。
(妙ですね…)
ラーラは考えた。
(あの短剣は「見かけ以上に刃渡りが長い」か、中距離を攻撃できる強力な「闇」魔法があるか、そうじゃないとあんなに太い樹をあれほど綺麗に斬ることは出来ない。でも、何故かこんなにリスクを背負ってまで接近戦を選んでいる…)
「…めんどうくさいな」
満身創痍の暗殺者が、空中でひとり呟く。
「でも、しょうがないか」
彼女は肩を覆っていた布に噛み付くと、そのまま引き千切って飲み込んだ。
謎だらけな敵の「奇行」を目の当たりにしたグレアは、牽制の為に落下中の敵目掛けて「中火球」二つを放った。
次の瞬間、空中に現れた黒色の球体中にそれらは吸い込まれて消滅する。
だが彼女らが焦ったのはその後だった。
消滅した黒い球体の向こう側に「使い手」の姿はなかったのだ。
気付いた頃にはもう遅い。
大急ぎで上半身を反らしながら振り返ったグレアの左腕が、根元から切断されて地面に落下する。
髪の毛や耳たぶ、大量の血液がそれを追うように続いて落ちる。
「があああああああ!!!」
声にならない悲痛の悲鳴。
「グレア様ァア!!」
ラーラが半狂乱で「影渡り」して敵に近付き、腕を振り回し、矢継ぎ早に「星滅刀」、「喰」、「闇球」を繰り出す。
キリカは一歩も動かずその場で刃を振るう。黒い斬撃が短剣の周辺に出現し、魔力で劣るラーラの連続攻撃を次々正面から打ち消していく。のみならず、最後に放った斬撃はラーラの方へ真っ直ぐ飛んでくる。
我を忘れ、理性を投げ捨て、攻撃に全神経を集中していたラーラに回避する術はなかった。
突如、ラーラは横から何者かに激突され、その人物と一緒に激しく地面を転がった。攻撃は真横をすり抜けていった。
「お許しください、ラーラ様」
身を挺して命を救ったのはグレア。
「駿馬」の速度を維持したまま、身体全体という大きな面積でぶつかる。
衝撃は大きく、ダメージは少なく。機転を利かせた苦肉の策だった。
グレアは立ち上がると、剣を構えて敵と対峙した。
剣を握る手は「二本」だった。
「キリカナム教団」から盗んだ「接木」が機能し、斬り落とされた左腕をくっつけたのだ。
(あいつ、腕をくっつけた。おもしろい魔法…帰ったらマギクに話そう…)
「想い人」を頭に浮かべながら、キリカも敵と対峙した。
それを静かに睨む「金級」パーティ「夜明けの旅団」メンバー、「紅き黒猫」のキリカ。
ラーラ同様「闇」魔法の使い手である彼女は、グレア達が往路に残した微量な魔力を辿り、生身で南北横断してここまでやって来たのである。
グレア達は空中で素早く言葉を交わし、互いの顔を見合わせて力強く頷いた。
二人が落下する。
着地と同時にキリカが「影渡り」する。
「やあっ!」
グレアが叫び声とともに「隼斬り」を放つ。
二枚の刃はかち合い、グレアが敵を押しのける。
グレアが隙を逃さず、すかさず追撃を与える。
その刹那、敵は全身をしなやかにくねらせ、攻撃を避けながら懐に入り込もうとする。
だが、それを途中で止め、キリカは地面を蹴って素早く側転し、自ら離れる。
先程までキリカの立っていた場所を、「星滅刀」の黒く鋭い一閃が横切る。
敵はラーラの攻撃に気付いていたのだ。
両者ともに絶好の機会を逃したが、「次の機会」により近かったのは人数で「猫」に勝るグレア達の方であった。
グレアは剣の先端に魔力を溜め、そこから敵の眼球目掛けて「鎌鼬」を飛ばした。
一発目は躱されるが、二発目は頬を浅く切り裂き、鮮血が風に乗って後方へ飛んでいく。
「相方」の稼いだ時間でラーラは両手に十分な魔力を蓄えた。
全ての指から一本ずつ「闇針」を放出する。
関節が曲がるごとに向きが変わるが、キリカは必死で身を翻し、攻撃を紙一重で回避する。
グレアも剣を右手一本で支えながら、左手で「絹糸」の網を張り巡らす。
白黒な死の有刺鉄線の中を、盗賊は二つ名の通り身軽に跳び回る。
だが左太腿と右肩に被弾されると、たまらず「網目」の間を縫って上方向への「影渡り」で空中へ逃げ出した。
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ラーラは考えた。
(あの短剣は「見かけ以上に刃渡りが長い」か、中距離を攻撃できる強力な「闇」魔法があるか、そうじゃないとあんなに太い樹をあれほど綺麗に斬ることは出来ない。でも、何故かこんなにリスクを背負ってまで接近戦を選んでいる…)
「…めんどうくさいな」
満身創痍の暗殺者が、空中でひとり呟く。
「でも、しょうがないか」
彼女は肩を覆っていた布に噛み付くと、そのまま引き千切って飲み込んだ。
謎だらけな敵の「奇行」を目の当たりにしたグレアは、牽制の為に落下中の敵目掛けて「中火球」二つを放った。
次の瞬間、空中に現れた黒色の球体中にそれらは吸い込まれて消滅する。
だが彼女らが焦ったのはその後だった。
消滅した黒い球体の向こう側に「使い手」の姿はなかったのだ。
気付いた頃にはもう遅い。
大急ぎで上半身を反らしながら振り返ったグレアの左腕が、根元から切断されて地面に落下する。
髪の毛や耳たぶ、大量の血液がそれを追うように続いて落ちる。
「があああああああ!!!」
声にならない悲痛の悲鳴。
「グレア様ァア!!」
ラーラが半狂乱で「影渡り」して敵に近付き、腕を振り回し、矢継ぎ早に「星滅刀」、「喰」、「闇球」を繰り出す。
キリカは一歩も動かずその場で刃を振るう。黒い斬撃が短剣の周辺に出現し、魔力で劣るラーラの連続攻撃を次々正面から打ち消していく。のみならず、最後に放った斬撃はラーラの方へ真っ直ぐ飛んでくる。
我を忘れ、理性を投げ捨て、攻撃に全神経を集中していたラーラに回避する術はなかった。
突如、ラーラは横から何者かに激突され、その人物と一緒に激しく地面を転がった。攻撃は真横をすり抜けていった。
「お許しください、ラーラ様」
身を挺して命を救ったのはグレア。
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衝撃は大きく、ダメージは少なく。機転を利かせた苦肉の策だった。
グレアは立ち上がると、剣を構えて敵と対峙した。
剣を握る手は「二本」だった。
「キリカナム教団」から盗んだ「接木」が機能し、斬り落とされた左腕をくっつけたのだ。
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