魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
82 / 134
第二章 後編

第十九話

しおりを挟む
   戦いはまだまだ終わらない。

蔦は先程よりも早く激しくのたうち回り、風を切りながら打ち付ける。

私は前方から迫る蔦を、「風射フォリム」で移動してギリギリの距離を保ちつつ、「火球パシア」より大きく、「大火球ビシア」より手頃な「中火球ミドシア」で根元から刈り取った。

そこで右手側からもう一本が現れ、一瞬にして私の横を通過して行った。

「ぐっ…うっ」

脇腹にいつかのように焼き焦げるような痛みを覚え、思わず座り込む。

尖った先端に切り裂かれたようだ。もしかしたら内臓もやられているかもしれない。

少し弱気になったが、何とか立ち上がり、戻ってきた先程の蔦による追撃を「風射」の使用で軽く飛び上がって回避する。

そして「中火球」で根本を焼き切る。脅威は無くなった。今だ。

「風射」を応用して滑空し、花の真上に達した。

根に近い位置にある短い茎。その断面に降り立ち、両掌を乗せた。

茎が徐々に赤く発光し、遂には爆ぜるように高く燃え上がった。

炎はさらに、屋根の下に張り巡らされている部分へも伝染し、今度こそ文字通り敵を「根絶やし」にした。

    私は屋根に座り込み、上着を脱ぎ、腹にきつく巻いて応急処置をした。

素肌に雨の冷たさが染み、私は思わずくしゃみをした。気付けば鼻水も出ている。

自己犠牲だけで済めば良かったのだが、私は結局失敗したのに気付いた。

…屋根の内側から煙が上がり始めた。


    その後、私は腹の傷は数時間で完治したものの、重い風邪を患った。「太陽センズム」は病気については治してくれないようだ。

結局三日間ほろ苦い薬を飲みながらもずっと寝続け、外に出向いての情報収集はその間お預けとなった。

だが、クオーテがやたらと見舞いに来て、色々と情報を渡してくれた。

    火事は、たまたま雨の中外に放置してあったバケツや水瓶を使って鎮められたらしい。基本的に石造りなので大して燃えなかったという。

    城を襲ったのは「巨人花ジヴォイデフレイン」という植物系の魔物だった。巨大な種子の内部に大量の魔力と栄養を圧縮した状態で蓄え、十分な水分と日光さえあれば数時間で成体にまで生長出来るという、驚異的な特性で名が通っているという。

    この事件は悪意を伴って人為的に引き起こされたものだと断定された。というのも、「巨人花」は大陸の南方の一部地域にしか自生していないのだ。

だが肝心の事件の犯人については特定できなかった。

街の住民は巨大な赤い鷹だとか、緑色の不思議な服を着た人間だとか色々言っているが、現在懸賞首として挙げられている者の中にも、他地域で目撃された奇妙な事柄の中にもそれらしいのはなく、真相は不明である。


「グレアさん」

クリロンでの六日目にして、風邪に罹って三日目の夕方、今日もやって来たクオーテがふと優しい笑顔で語りかけてきた。

「明日辺りに風邪は治るだろうってお医者さんは言っていますよね。もしそうなったら、僕と一緒に出掛けてみませんか?   きっと失望させませんから。剣や魔法の訓練の後でも前でもいいですよ」

「一つ聞いてもいいですか。どうして、そんなに私に拘るのですか?」

「そりゃ、グレアさんのことは尊敬していますから。…ねえ、駄目でしょうか?」

悪い気はしない。それに、クオーテには利用価値があるはずだ。

「分かりました。そこまで熱心に言うなら」

「やった。ありがとうございます」

このようにして、翌日の城下町巡りの''連れ''ができた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...