魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

第十八話

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    窓を破って、緑色の太く長いものが勢いよく室内に突入してきた。

それはしなりながら左右にブンブンと暴れ、門下生たちに肉薄する。

「きゃっ」

一戦目に私の相手となった少女にその鋭利な先端がぶつかりそうだ。

すると、少女の前に道場主が飛び出し、木剣で受け止める。

「ぐっ…」

しかし勢いは想像以上で、道場主は二歩たじろぎ、木剣も真っ二つに折れてしまった。

敵は今度は逆方向に振れながら長さを増し、私のいる方に飛び出してくる。

バセリアが「回生」を使いながら「駿馬」で飛び出し、木剣ごとぶつかって敵を弾き飛ばす。

だが向こうに損傷は無い。

「みんな、逃げろ!!」

バセリアが叫ぶ。

門下生たちは一斉に部屋の隅や外に走り出した。

敵がそれを追うように伸びてくる。

練習用の木剣では歯が立たない。

道場に真剣は置いていない。バセリアも持ってきていない。

だとすれば、物理攻撃は選択肢に入れるべきではない。

その時、私を打ち負かした少年、クオーテがすっと隣に立った。

「貴方は強い。一緒に足止めをして頂けませんか、グレアさん」

無茶だ。

私は敢えてそれを無視して彼の一歩前に飛び出すと、襲い来る敵を「光槍グシャルボーレアス」で穿ち抜いた。

「…よし」

大部分を切断し、敵を沈黙させた。

そこで理解した。

これは大きさこそ規格外だが、植物の蔦だ。上の方から伸びてきている。

丁度その時、城全体がぐらぐらと大きく揺れ、ミシミシと重く軋んだ。

悲鳴や硝子の破砕音や壁か何かの崩落音等が城中のあちこちから風に乗って私の鼓膜を震わせた。

「グレア!   私らは閣下の護衛に向かうぞ!」

「近衛兵」としては、それが正解だろう。だが、私は返事をしなかった。

一連の事件の大元を叩く方が、更なる被害を防ぐという意味でより核心的だと思われたのだ。

伯爵も理解してくれるだろう。理解してくれなかったらその場で「計画」を開始してしまえばいい。

    楽観論を胸に私は雨の中へ窓から身を投げ出した。

「グレアさん!?」

逆さまのクオーテと視線がぶつかる。

私は一回転して地面に向かって「穹砲スラーヴォルト」を放ち、垂直方向に高く飛んだ。

屋根を大きく飛び越えて見下ろした景色は、異様という他なかった。

屋根の上に直径…二十メートルはありそうな、血液のように暗い紅色をした花弁が開いていた。

蔦はそこから現在進行形で城の内外へとぐんぐん伸び続けている。

今にも撃ち抜いてやりたいところだが、上から撃てば距離次第では建物に影響が出ないとも限らない。

懸念無しで戦うのには、やはり水平方向だ。

私は「風射フォリム」で調整しつつ屋根に着地した。

「おっと!」

危うく落ちかけた。雨に濡れて滑るのだ。

足場を安定させてから、敵を視界に捉えた。

「光槍」を放ち、横から花の中央部を撃ち抜く。

だが、

「くっ…」

敵はそれを俊敏に横にずらし、直撃を避けた。

千切れた花びらが空中を舞い、雨に濡れて屋根に張り付く。雨に紛れた焦げの匂いを感じる。

直後、屋根中の蔦が何本も起き上がり、私の方にうねりながら襲い来る。

腕輪はないし、大半の魔法で対処出来ない程には迅い。命中したら即死もありえる。

私は振り下ろされた一本目を滑りながらも横に走って回避、横薙ぎの二本目から屋根に伏せて逃れ、尖った先端を突き出してくる三本目を「風射」で前方に飛んで避けた。

「はあっ…!」

心臓が狂気のように鼓動している。

だが、これで終わりだ。

そのまま「風射」で本体に接近し、「絹糸セーア」を放った。

敵は穴だらけになり、雨中にも関わらず発火している。動きは遅くなっていく。それでも蔦を使って抵抗してくる。

四本が同時に異なる方向からこちらに振り回される。

私は両手を合わせると、手中に魔力を溜め、攻撃が来るすんでのところで離して一気に解き放った。

魔力は全方向に広がり、炎の壁となった。

蔦を焼き尽くし、灰塵へと変えていく。

    壁が消え、本体が再び見えると、私は再度「絹糸」を炸裂させ、バラバラに切り刻んだ。

花は跡形もなく消え去った。

だが、再び建物が揺れ、蔦が持ち上がった。

やはり雑草は根から刈らねば駄目か。

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