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第二章 前編
第二十六話
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実際に立ち合ってこそ戦士の真価を知ることができる。
敵の目線で味方の持つ「厄介さ」を発見できれば、支援もしやすくなる。
そういうことで、最終調整として、グレアVSバセリア、ラーラVSバセリアが企画されたのだ。
私は腕輪がすっぽ抜けないよう入念に準備し、相手と向き合った。
「疾風のバセリア」。
未だ剣の柄に手をかけてすらいない剣士が浴びせてくる鬼気に身体が震えていた。
「抜刀するぞ。本当にいいのだな?」
「はい。お願いします」
震える声で応答。
「鞘ではなく、本物の刃と向き合う感触を知っておくことが大事だと思うので」
「分かった」
バセリアはゆっくりと相棒を引き抜き、両手で構えた。
「危険だと判断したら、すぐに介入します」
審判のラーラはそう喚起し、勢いよく手を振り下ろした。
「始め」
その瞬間、7mはあったであろう敵との距離は1mに縮まっていた。
私は左に飛び出したが、彼女の読みの範疇であったようで、追うように繰り出された斬撃が結界を生み出した。
怯むな、と自分に言い聞かせ、私は至近距離で「火球」二発を放った。
初弾は防がれたが、二つ目は敵の脚にぶつかり、結界を生成させた。
すぐに暇になった両手から風を発射する。
今度は、亡霊と戦った時のような弱い「風射」ではない。
地面を抉るほど暴力的な「穹砲」。
地表に舞い上がった小石や砂で厄介な「煙幕」を掛け、私は宙高く飛び上がった。
「火球」を次々生み出し、地上に連続投下する。
砂煙の下で光る幾つかの赤色が上空からも確認できた。
いつまでも空中に留まっては居られない。
「風射」で落下速度と位置を調整しつつ、砂煙が晴れる前に降り立った。
その時、煙が一瞬で全て吹き飛び、バセリアが私の間合いの中に現れた。
そして私に反応させる隙も与えず、残る魔力を切り飛ばし、そのまま動作を止めた。
時間にして凡そ四十秒。
あっという間だった。
バセリアに残されていた魔力は約七割だった。
実力の違いを痛感させられた。
だが、特段気分が沈むこともなかった。
むしろ二日後に差し迫った決行日の事を考えると、大船に乗ったようなつもりであった。
「さあ、次はお前だ。ラーラ」
「休憩しなくてよいのですか?」
「私は大丈夫だ。お前がいいのならすぐに始めるぞ」
こんな具合で、間髪を入れず私に審判の役目が回ってきた。
私は達人二人の闘いに期待と不安を胸に抱きながら、手を振り上げ、そして降ろした。
「始め」
敵の目線で味方の持つ「厄介さ」を発見できれば、支援もしやすくなる。
そういうことで、最終調整として、グレアVSバセリア、ラーラVSバセリアが企画されたのだ。
私は腕輪がすっぽ抜けないよう入念に準備し、相手と向き合った。
「疾風のバセリア」。
未だ剣の柄に手をかけてすらいない剣士が浴びせてくる鬼気に身体が震えていた。
「抜刀するぞ。本当にいいのだな?」
「はい。お願いします」
震える声で応答。
「鞘ではなく、本物の刃と向き合う感触を知っておくことが大事だと思うので」
「分かった」
バセリアはゆっくりと相棒を引き抜き、両手で構えた。
「危険だと判断したら、すぐに介入します」
審判のラーラはそう喚起し、勢いよく手を振り下ろした。
「始め」
その瞬間、7mはあったであろう敵との距離は1mに縮まっていた。
私は左に飛び出したが、彼女の読みの範疇であったようで、追うように繰り出された斬撃が結界を生み出した。
怯むな、と自分に言い聞かせ、私は至近距離で「火球」二発を放った。
初弾は防がれたが、二つ目は敵の脚にぶつかり、結界を生成させた。
すぐに暇になった両手から風を発射する。
今度は、亡霊と戦った時のような弱い「風射」ではない。
地面を抉るほど暴力的な「穹砲」。
地表に舞い上がった小石や砂で厄介な「煙幕」を掛け、私は宙高く飛び上がった。
「火球」を次々生み出し、地上に連続投下する。
砂煙の下で光る幾つかの赤色が上空からも確認できた。
いつまでも空中に留まっては居られない。
「風射」で落下速度と位置を調整しつつ、砂煙が晴れる前に降り立った。
その時、煙が一瞬で全て吹き飛び、バセリアが私の間合いの中に現れた。
そして私に反応させる隙も与えず、残る魔力を切り飛ばし、そのまま動作を止めた。
時間にして凡そ四十秒。
あっという間だった。
バセリアに残されていた魔力は約七割だった。
実力の違いを痛感させられた。
だが、特段気分が沈むこともなかった。
むしろ二日後に差し迫った決行日の事を考えると、大船に乗ったようなつもりであった。
「さあ、次はお前だ。ラーラ」
「休憩しなくてよいのですか?」
「私は大丈夫だ。お前がいいのならすぐに始めるぞ」
こんな具合で、間髪を入れず私に審判の役目が回ってきた。
私は達人二人の闘いに期待と不安を胸に抱きながら、手を振り上げ、そして降ろした。
「始め」
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