魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第二十一話

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 敵はみるみる大きさを増し、その剣と頭部は二つになった。

「なにこれ…」

事前の説明では、このような事態については一切言及されなかった。

私は、考えを改めた。

敵は両手の剣を威勢よく振りかぶると、先程よりも遥かに早くこちらに迫ってきた。

私は「風射フォリム」を試みたが、全く間に合わない。

慌てて地面を転がり、なんとか事無きを得た。

私の数十cm横には、大きく深く、十字の痕が付いていた。

恐怖に駆られながら地面を走り回っていると、後方にラーラが現れ、両腕を含む敵の大部分が闇に喰われて消滅した。

二本の剣が落下し、ギラついた音を立てる。

「この死霊、何かが変です! 後方支援はなしで、ここからは二人でやりますよ!」

「はい!」

私も立ち止まり、敵と相対した。

敵は再び魂たちを集め、その霊体を超速で再生している最中だった。

「おっ、おっ」

と呟きながら自分の身を不思議そうに見つめる姿が、変に不釣合いで滑稽で不気味とさえ思った。

大火球ビシア」をぶつけた。

だが、対象はけろりとした様子で、平然と構えを取り直した。

そんな敵の大部分をラーラは魔法で再び消滅させ、言った。

「『光槍グシャルボーレアス』以外使用しないでください。悔しいかもしれませんが、それがこの戦いを終わらせる鍵になります」

「…わかりました」

中身まで見透かされていたことも含めて癪だったが、大人しく応じることにした。

片手に魔力を充填し、その出力をどんどん高めていく。

その間、敵は雄叫びを上げながらその腕をブンブンと振り回し、ラーラを追いかけていた。

ラーラは「距離を抹消する」魔法、「影渡りヌイコーゼ」を連続発動し、鋼の猛吹雪を紙一重で避けつつ、敵を私から遠ざけてくれた。

とうとう彼女の背中が木の幹に触れた時、私は攻撃の準備が出来た。

「ラーラ様!」

その手からすべてを解き放つ。

「行きます!」

光線が指先から飛び出し、相手の胸に風穴を開ける。

敵の動きが止まり、その穴を始点として綿あめが水に溶けるように消滅していく。

何とか倒したようだが、私も疲労ゆえに跪いた。

「ふう」

ラーラが吐息をつき、私の方に歩み寄る。

「まさかこんなことになるなんて…でも、何とか任務完了ですね」

次の瞬間、なにやら透明な球体が霊体から飛び出し、地面の上に浮いているのが見えた。

それは大きくなり、一人の人間の姿になった。



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