魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第十三話

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 私の身体に触れたその手は暖かく、優しかった。

「肩を貸します。立ち上がってください」

真っ黒な布が私の顔に触れた。

「秘密のラーラ」が私を助けに来たのだと、ここで理解した。

二人はゆっくりと階段を上り、とある部屋に辿り着いた。

彼女は躊躇なく扉を開ける。

中はオイルランプの光によって明るく、ベッド、机、鏡、椅子、浴槽があった。

灯りも含め、全てが一人用だ。

「秘密のラーラ」は魔法で水を生成して布巾に染み込ませ、優しく拭いてくれた。

「…怪我”自体は”思ったよりも大したことがないようですね」

鏡に映った自分の顔を見ると、確かに、出血量はそれなりだが、あれだけ殴打されていながら腫れや打撲痕は殆ど見あたらない。

「どうぞ、座ってください」

私は指示されるまま椅子に座り、彼女は相変わらずの黒ずくめでベッドの上に座り込んだ。

「お辛いのはわかっています。私にしてほしいことがあれば遠慮なく言ってくださいね。或いは、貴女がそれで楽になるなら、お帰りになっても構いません」

いくらか気力が甦ってきていた。

「…なら、私の話を聞いてくださいませんか?」

 私はここまでの私の人生について、心の赴くままに語った。

生まれ持った「異常性」に虐げられてきたこと、大切な人を自らの手にかけ、それがきっかけで皮肉にも正真正銘の「怪物」になり、全てを失ったこと、そして、やっと辿り着いた安息の地で裏切られ、今は何も信用できないこと。

「…辛いです」

いつの間にか涙が溢れていた。

歪んだ視界の中、黒い影が近づき、私の涙を優しく指先で弾き、頭を撫でた。

「よしよし。今は信用しなくてもいいですが、少なくとも私は貴女の味方ですよ。…ちゃんと年相応な所もあるのですね」

彼女は私の方を見て、何やらはっとしたようだった。

すぐに布巾を取り、私の頭をそっと拭いた。そして、ローブの袖をじっと眺めた。

拭き残していた私の血で汚れてしまっていたのだ。

「ごめんなさい」

真っ赤に染まった布巾の事も含めて私は謝った。

彼女は袖を見つめたまま、暫く何も言わなかったが、そのうち小声で「よし」とだけ呟いた。

棚から何やら丸い物を取り出すと、魔力を吹き込んだ。

それらは紫色に光りながら部屋の中を浮遊し、海月のように漂う。幻想的な空間が出来上がった。

「心が落ち着く光を出す魔具です」

彼女はそう言うと、突如ブーツを脱ぎ始めた。

真っ白な足は想像よりもずっと華奢で、裸足で立つと、私よりも背が小さかった。

次に彼女は手袋を脱いだ。

そして、ローブに手をやり、ボタンや金具やネックレスを取り外した。

ローブが地面に落ち、見えたのは頭から生えた立派な二本角だった。

これが魔物の持ち物なのは間違いなかった。だが、私は不思議と恐怖を感じなかった。

何故なら、そこにいたのは紫色のツーサイドアップの髪と薄紫色のつぶらな目を持つ、照れ気味の小さくて可愛らしい女の子だったからだ。


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