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第二章 前編
第十二話
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私はシーゾ・ハシレオス・レイホーン ジャサー辺境伯と向き合った。
「グレア、四日間にも及ぶ技能試験、ご苦労であった。それらに於ける貴殿の功績を踏まえ、ここに貴殿をーー」
私は全身を耳にして次の言葉を待った。
「貴殿を『魔法近衛兵』ラーラの補助兵に命ずる」
伯爵は手に持っていた金のネックレスを私の首に掛けた。
「皆の者よ、『印』を掲げよ」
円卓の十人は私と揃いのネックレスを掛けていたが、伯爵の命を受け、それに付いている宝石を掌に載せ、首に掛けたまま高く掲げた。
彼らの宝石は水色の光を放ち始めた。
これにて私は城の一員となった。
近衛兵の「補助兵」というのは、『円卓』の一つ下の位を意味する。また、俸給は毎月末に支払われ、基本給に加え、任務内容次第で増額するらしい。
補助兵は城の一階から四階にて住み込みで働き、「近衛兵」や「正規軍」の補助として警備や治安維持、さらには敵対勢力の排除を行う。
この地位に任命された以上、『円卓』にて伯爵たちと食事を行うことは出来ない。だが、
「ひとまずは、これで最後なんだ。今日くらい、良いじゃないか」
と閣下の計らいで、出席が許された。
運ばれてきたのは、白パンとステーキ。
この美食を楽しめるのも最後だと思うと何とも惜しく、必死だった。また、私は凄まじく疲労していたし、ステーキは思ったより分厚くて固く、噛む度に耳障りで下品な咀嚼音を立ててしまった。
食事を終え、顔を上げると、一同が揃って私に視線を送っていた。
特に、私にテーブルマナーを仕込んだサノーネのそれは、刃のように鋭利で、私を戦慄させた。
彼女は憤怒に身体を震わせながら起立した。私は動揺してカトラリーとコップも落としてしまい、火に油を注ぐ…
「貴女、今まで自分が何をしていたかお分かり!?」
叫び、こちらに近寄ろうとした。
だがその時、閣下が制止した。
「いや、私が仕置く」
その顔、声色、雰囲気、どれもあの優しい閣下ではなかった。
「付いてこい」
私に拒否権はない。
円卓の間を抜け、作業部屋を抜け、階段を下り、地下まで辿り着いた。
薄暗い中、ぼんやりと鉄格子のようなものが見えた。
一体どのような罰を受けるのだろう、絶食より酷いのでなければいいな、伯爵に限ってはそんなことはしないだろう、という私の淡い期待は早々に打ち砕かれる。
次の瞬間、私は突き飛ばされ、牢内の石床に叩きつけられた。
「伯爵」は茫然自失の私の髪を鷲掴みして頭を引き寄せ、頬の辺りを思い切り殴った。
私は吹き飛んで再び床に叩きつけられ、その後も何度も何度も殴られた。
男の息遣いは荒く、顔は暗闇の中でわかる程に上気し、口元や目元は緩み、歪んでいた。
ひとしきりいたぶった後、そいつは幸せそうに言った。
「ひとまずは、これで最後なんだ。今日くらい、良いじゃないか」
「あ…ああ…」
私は横たわったまま独り泣いていた。
その時、コツコツと、少しばかり覚束無い足音が聞こえた。
「助けに来ました。グレア様」
幼気で柔らかな声だった。
「グレア、四日間にも及ぶ技能試験、ご苦労であった。それらに於ける貴殿の功績を踏まえ、ここに貴殿をーー」
私は全身を耳にして次の言葉を待った。
「貴殿を『魔法近衛兵』ラーラの補助兵に命ずる」
伯爵は手に持っていた金のネックレスを私の首に掛けた。
「皆の者よ、『印』を掲げよ」
円卓の十人は私と揃いのネックレスを掛けていたが、伯爵の命を受け、それに付いている宝石を掌に載せ、首に掛けたまま高く掲げた。
彼らの宝石は水色の光を放ち始めた。
これにて私は城の一員となった。
近衛兵の「補助兵」というのは、『円卓』の一つ下の位を意味する。また、俸給は毎月末に支払われ、基本給に加え、任務内容次第で増額するらしい。
補助兵は城の一階から四階にて住み込みで働き、「近衛兵」や「正規軍」の補助として警備や治安維持、さらには敵対勢力の排除を行う。
この地位に任命された以上、『円卓』にて伯爵たちと食事を行うことは出来ない。だが、
「ひとまずは、これで最後なんだ。今日くらい、良いじゃないか」
と閣下の計らいで、出席が許された。
運ばれてきたのは、白パンとステーキ。
この美食を楽しめるのも最後だと思うと何とも惜しく、必死だった。また、私は凄まじく疲労していたし、ステーキは思ったより分厚くて固く、噛む度に耳障りで下品な咀嚼音を立ててしまった。
食事を終え、顔を上げると、一同が揃って私に視線を送っていた。
特に、私にテーブルマナーを仕込んだサノーネのそれは、刃のように鋭利で、私を戦慄させた。
彼女は憤怒に身体を震わせながら起立した。私は動揺してカトラリーとコップも落としてしまい、火に油を注ぐ…
「貴女、今まで自分が何をしていたかお分かり!?」
叫び、こちらに近寄ろうとした。
だがその時、閣下が制止した。
「いや、私が仕置く」
その顔、声色、雰囲気、どれもあの優しい閣下ではなかった。
「付いてこい」
私に拒否権はない。
円卓の間を抜け、作業部屋を抜け、階段を下り、地下まで辿り着いた。
薄暗い中、ぼんやりと鉄格子のようなものが見えた。
一体どのような罰を受けるのだろう、絶食より酷いのでなければいいな、伯爵に限ってはそんなことはしないだろう、という私の淡い期待は早々に打ち砕かれる。
次の瞬間、私は突き飛ばされ、牢内の石床に叩きつけられた。
「伯爵」は茫然自失の私の髪を鷲掴みして頭を引き寄せ、頬の辺りを思い切り殴った。
私は吹き飛んで再び床に叩きつけられ、その後も何度も何度も殴られた。
男の息遣いは荒く、顔は暗闇の中でわかる程に上気し、口元や目元は緩み、歪んでいた。
ひとしきりいたぶった後、そいつは幸せそうに言った。
「ひとまずは、これで最後なんだ。今日くらい、良いじゃないか」
「あ…ああ…」
私は横たわったまま独り泣いていた。
その時、コツコツと、少しばかり覚束無い足音が聞こえた。
「助けに来ました。グレア様」
幼気で柔らかな声だった。
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