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第二章 前編
第十四話
しおりを挟むラーラは照れ笑いを浮かべた。
それはぎこちなく、緊張しているのが感じられた。
「貴女のことを誤解していました」
彼女はそう言って、再びベッドの上に座り込んだ。
「貴女とは腹を割ってお話ができそうなので、本当の姿でお話したくて」
そうは言ったが、彼女はしばらく黙ったまま、目を逸らし、その床に届かない足をぱたぱたさせていた。
「あの…」
彼女がやっと喋りだした。
「この姿を自分から見せるのは初めてなんです。ど、どうですか?」
私は気高い彼女に対して、正直に言って良いものかと、少し思案した末、率直な感想を述べた。
「かわいい、と思います」
しばし沈黙が続いた。その間、ラーラの顔が、まるで果実が熟す様にだんだんと赤らんでいくのが面白かった。
「かわいい、ですか。でしたら、良かったです」
「一つ、質問してもよろしいですか?」
「は、はい!?」
「ラーラさんは先程、偽りなくお話をしたいと仰りましたが、これだけ動揺されていてはお話できないのではないでしょうか?」
私がこう言うと、ラーラは目を閉じて深呼吸を繰り返した。
表情の変化を見るに、平常心を取り戻したようだった。
「失礼しました」
彼女は余裕ある笑みを浮かべる。
「貴女はご自身について色々と話してくれました。ですから、私も自分の話をしましょう」
「…お願いします」
彼女は語り始めた。
「私:ラーラは、数年前、このケンダル王国のドマ地方という所で産まれました。
父親は魔物で、私が生まれる前に討伐されましたが、詳細はわかりません。母親は普通の人間で、身分は高くなく、裕福ではありませんでしたが、私のことを大切に育ててくれました。
私には同世代の人間の友人もいました。彼らも魔物の血が流れる私にも別け隔てなく接してくれ、幸福でした。
…しかしある日のこと、王国の騎士団が町を通りかかりました。彼らは通りかかった住民に対し、突然剣を抜いて攻撃し始めました。…町が恐怖に支配され、住民がパニックに陥る中、『悪魔を匿う悪民に罰を』と叫びながら、彼らは虐殺を続けました。
…彼らは人を殺しながら笑っていました。そのうち我が家にも押し入り、私の母親を目の前で殺しました。私は、母親が作ってくれた時間を使って必死に逃げ、生き残りました。
…後で聞いた話によると、その街の住民は文字通り全滅し、騎士団は不祥事を働いたとされましたが、裁判の結果無罪となり、むしろ英雄視する人もいるそうです…」
彼女の顔からはいつの間にか笑みが消えていた。
彼女は静かに虚空を凝視し、ただ一言、ぽつり。
「まあ、よくある話です」
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