魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第十一話

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 敵は「布」を広げ、至近距離からそれを振り下ろした。

疾風迅雷の一撃だった。

もし私に先程覚醒したばかりの執念がなければ、反応できず勝敗は決していただろう。


私は相手の両手首をがっしりと掴んで抑えた。

布は重力に従わず、振られた形状のまま空中に立っている。

やはりこれは魔法で作られただけ。

実体はない。

接触すれば危険だが、主の意識を乱して消滅させることは出来るだろう。

計略を巡らせていた時、目の前に黒いモヤが広がった。

同時に、両手の中にあった感覚が消えた。

敵の両手はすり抜け、接触物を消滅させる布が、最後に残った魔力を削り取った。

「身体能力ではそちらに分があります。それでも私が近接攻撃に踏み込んだのは、自信があるからですよ」

全身の力が抜けていく。

私はぺたんと地面に座り込んだ。

敗北だ。


 疲労も相まって、帰りはとにかく陰鬱な気持ちだった。

「不合格の場合、城下町での暮らしを保証する」

閣下は言っていたので、そこでの暮らし方に希望を見出し、僅かでも心を照らそうとばかりしていた。

「グレア様」

今更何を言おうというのか。

私はあえて返事しなかったが、向こうは勝手に話し出す。

「先程は素晴らしい戦いでした。発想力、魔力、泥臭さに精神力、どれを取っても現に城内で働いている魔法使いに匹敵するでしょう。私からは強く推薦しておきますね」

「…でも私は負けたんですが」

そう答えると、相手は沈黙した。

少し経って、

「…実は勝敗は評価基準ではありません。合格者の中に、今まで私に勝てた人はいませんでしたから。それに、グレア様は歴代の合格者と比べてもかなり優秀です。そんなに悲しまないでください」

「本当ですか?」

「ええ」

その返事は確かに質量を伴っていた。

少し気持ちが楽になった。

「秘密のラーラ」、この人の「秘密」が一つ明らかになった。


 城にて、初めて見る顔が出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ」

薄水色の長い髪を後ろで一つ縛りにした美少年。

睫毛が長く、目もつぶらで、中性的な顔立ち。

着こなした燕尾服を見るに、「執事」という感じだ。

「閣下がお呼びです。汚れをお落としになってからいらしてください」

「はい」

何とも感じがいい人だ。

城に来てから出会いに恵まれている。


 浴場から出て、正装に着替えた。

浴場は男女で仕切られ、広大な湯船があり、勤務者皆で使用する。

「秘密のラーラ」も砂まみれの筈だが浴場では会わなかった。

疲労から、何度か湯中で寝落ちしかけた。

 不安と期待を胸に抱きつつ階段を上った。

例の割れた壺のある作業部屋に、既に一同が集結していた。

「本人が来た。始めよう」

閣下が椅子から立ち上がった。

その手には、青の宝石の付いた金属製のネックレスが握られていた。


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