38 / 131
第二章 前編
第十話
しおりを挟む
地面が裂け、氷の塊が突き出した。
幾つもの棘が私を貫こうとする。
私は咄嗟の判断で、攻撃に使おうとしていた「火球」を真下に向けて放ち、爆風を使って空中に高く吹き飛んだ。
目の前に結界が展開される。
相手の攻撃からは免れたが、「火球」による反動を攻撃と捉えた腕輪が、結界を生成してしまったようだ。
「そう来ましたか」
「秘密のラーラ」は掌上に黒い球状の物体を生成し、私を目掛け正確に射出した。
「でも空中で出来ることは限られますよ」
攻撃が直撃し叩き落とされた。結界は二箇所に同時展開されている。
「くっ…」
砂まみれになった腕輪を見ると、硝子内の「液体魔力」量は三分の一を切っていた。
相手は恐らくその一割も消耗していないだろう。
このままでは敗北だ。
他の試験に於いて、合格を確信出来るほどの手応えは到底感じられなかった。
それに、実力を証明する機会というのは今日で最後なのだ。
そして、魔法こそが私の一番の能力。
魔法が「最終」にして「大本命」なのだ。
「大本命」で勝てなければ、挽回出来なければ、決して閣下に認めては貰えないだろう。
これまでの人生、生来より纏わりつく数々に負け続けてきた。
取り戻すなら今、この瞬間だ。
なら、勝利の為に醜く足掻こう。
砂を掴みながら立ち上がる。
「…目が変わりましたね」
敵は両手に氷で出来た円盤を生成した。
その縁は鋭利な刃になっている。
「土壇場で何を見せてくださるのでーー」
私は敵の顔を目掛け、砂を投げつけた。
微細な砂粒を腕輪は「攻撃と認識」しなかった。
フードの隙間からもいくらか入り込んだようで、敵は魔法を中断し、苦しげに顔を抑えた。
隙を見て先程の「凍棘」の後ろに滑り込み、身を潜める。
ここに来て、あの忌まわしい夜の記憶を、少しずつだが取り戻してきた。
砂粒のように小さく集束させ、大海の水よりも大質量を流し込む…
超高密度の魔力は、掌の上で白く眩しく発光した。
「…そこですね」
予想通り黒い球が飛んで来るのが氷越しに見えた。
その瞬間、私は不服の一撃を放つ。
掌から純白の光線が伸び、氷を突き破り、そのまま敵の方に向かっていく。
風吹きフード閃き、敵の顔は白く照らされた。
薄紫色のつぶらな瞳は大きく見開かれていた。
光線が命中。
刹那、辺り一帯が真っ白になった。
視界が開けた時、敵は煙と結界とに包まれながら地面を転げ回った。
私はもう一度光線を放った。
だが焦り過ぎたようで、途中でバラけ、惜しくも直撃には至らなかった。
敵の光線も発射される。
今度のそれはぐにゃりと湾曲し、氷を突き抜け、逃げる私を追い続ける。
私は意識をそちらに集中させ、本体の動向を見ていなかった。
「秘密のラーラ」は目の前に居た。
幾つもの棘が私を貫こうとする。
私は咄嗟の判断で、攻撃に使おうとしていた「火球」を真下に向けて放ち、爆風を使って空中に高く吹き飛んだ。
目の前に結界が展開される。
相手の攻撃からは免れたが、「火球」による反動を攻撃と捉えた腕輪が、結界を生成してしまったようだ。
「そう来ましたか」
「秘密のラーラ」は掌上に黒い球状の物体を生成し、私を目掛け正確に射出した。
「でも空中で出来ることは限られますよ」
攻撃が直撃し叩き落とされた。結界は二箇所に同時展開されている。
「くっ…」
砂まみれになった腕輪を見ると、硝子内の「液体魔力」量は三分の一を切っていた。
相手は恐らくその一割も消耗していないだろう。
このままでは敗北だ。
他の試験に於いて、合格を確信出来るほどの手応えは到底感じられなかった。
それに、実力を証明する機会というのは今日で最後なのだ。
そして、魔法こそが私の一番の能力。
魔法が「最終」にして「大本命」なのだ。
「大本命」で勝てなければ、挽回出来なければ、決して閣下に認めては貰えないだろう。
これまでの人生、生来より纏わりつく数々に負け続けてきた。
取り戻すなら今、この瞬間だ。
なら、勝利の為に醜く足掻こう。
砂を掴みながら立ち上がる。
「…目が変わりましたね」
敵は両手に氷で出来た円盤を生成した。
その縁は鋭利な刃になっている。
「土壇場で何を見せてくださるのでーー」
私は敵の顔を目掛け、砂を投げつけた。
微細な砂粒を腕輪は「攻撃と認識」しなかった。
フードの隙間からもいくらか入り込んだようで、敵は魔法を中断し、苦しげに顔を抑えた。
隙を見て先程の「凍棘」の後ろに滑り込み、身を潜める。
ここに来て、あの忌まわしい夜の記憶を、少しずつだが取り戻してきた。
砂粒のように小さく集束させ、大海の水よりも大質量を流し込む…
超高密度の魔力は、掌の上で白く眩しく発光した。
「…そこですね」
予想通り黒い球が飛んで来るのが氷越しに見えた。
その瞬間、私は不服の一撃を放つ。
掌から純白の光線が伸び、氷を突き破り、そのまま敵の方に向かっていく。
風吹きフード閃き、敵の顔は白く照らされた。
薄紫色のつぶらな瞳は大きく見開かれていた。
光線が命中。
刹那、辺り一帯が真っ白になった。
視界が開けた時、敵は煙と結界とに包まれながら地面を転げ回った。
私はもう一度光線を放った。
だが焦り過ぎたようで、途中でバラけ、惜しくも直撃には至らなかった。
敵の光線も発射される。
今度のそれはぐにゃりと湾曲し、氷を突き抜け、逃げる私を追い続ける。
私は意識をそちらに集中させ、本体の動向を見ていなかった。
「秘密のラーラ」は目の前に居た。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる