魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
38 / 154
第二章 前編

第十話

しおりを挟む
   地面が裂け、氷の塊が突き出した。

幾つもの棘が私を貫こうとする。

私は咄嗟の判断で、攻撃に使おうとしていた「火球パシア」を真下に向けて放ち、爆風を使って空中に高く吹き飛んだ。

目の前に結界が展開される。

相手の攻撃からは免れたが、「火球」による反動を攻撃と捉えた腕輪が、結界を生成してしまったようだ。

「そう来ましたか」

「秘密のラーラ」は掌上に黒い球状の物体を生成し、私を目掛け正確に射出した。

「でも空中で出来ることは限られますよ」

攻撃が直撃し叩き落とされた。結界は二箇所に同時展開されている。

「くっ…」

砂まみれになった腕輪を見ると、硝子内の「液体魔力」量は三分の一を切っていた。

相手は恐らくその一割も消耗していないだろう。

このままでは敗北だ。


他の試験に於いて、合格を確信出来るほどの手応えは到底感じられなかった。

それに、実力を証明する機会というのは今日で最後なのだ。

そして、魔法こそが私の一番の能力。

魔法が「最終」にして「大本命」なのだ。

「大本命」で勝てなければ、挽回出来なければ、決して閣下に認めては貰えないだろう。

これまでの人生、生来より纏わりつく数々に負け続けてきた。

取り戻すなら今、この瞬間だ。

なら、勝利の為に醜く足掻こう。


砂を掴みながら立ち上がる。

「…目が変わりましたね」

敵は両手に氷で出来た円盤を生成した。

その縁は鋭利な刃になっている。

「土壇場で何を見せてくださるのでーー」

私は敵の顔を目掛け、砂を投げつけた。

微細な砂粒を腕輪は「攻撃と認識」しなかった。

フードの隙間からもいくらか入り込んだようで、敵は魔法を中断し、苦しげに顔を抑えた。

隙を見て先程の「凍棘レーセシャンガ」の後ろに滑り込み、身を潜める。

ここに来て、あの忌まわしい夜の記憶を、少しずつだが取り戻してきた。

砂粒のように小さく集束させ、大海の水よりも大質量を流し込む…

超高密度の魔力は、掌の上で白く眩しく発光した。

「…そこですね」

予想通り黒い球が飛んで来るのが氷越しに見えた。

その瞬間、私は不服の一撃を放つ。

掌から純白の光線が伸び、氷を突き破り、そのまま敵の方に向かっていく。

風吹きフード閃き、敵の顔は白く照らされた。

薄紫色のつぶらな瞳は大きく見開かれていた。

光線が命中。

刹那、辺り一帯が真っ白になった。

視界が開けた時、敵は煙と結界とに包まれながら地面を転げ回った。

私はもう一度光線を放った。

だが焦り過ぎたようで、途中でバラけ、惜しくも直撃には至らなかった。

敵の光線も発射される。

今度のそれはぐにゃりと湾曲し、氷を突き抜け、逃げる私を追い続ける。

私は意識をそちらに集中させ、本体の動向を見ていなかった。

「秘密のラーラ」は目の前に居た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

処理中です...