メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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ガリア帝国編

メリアリア・カッシーニ編10

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 城に取り憑いていた幽霊であるキアラを強制的に成仏させた後も、六人の古城探索は粛々と続けられた、2階部分にはさしたる問題も発見も無くて、一行は程なく3階へと向けて歩を進ませ始めたのだがその3階部分においてー。

 メリアリアはまた一つ、己の家の秘密を知る事となった、一振りの剣と錫杖と共に。

 そこは、途中までは何事も無い、2階までと同じ造りとなっていたモノの、ある場所からは先は頑丈な鉄格子によって封印が為されており、管理会社の手入れもまた、行き届いてはいなかったのだ。

「おじさん・・・!!」

「パパ、これって・・・っ!?」

「大丈夫だ」

 些か心配そうな面持ちを向ける子供達に対してダーヴィデが告げて聞かせた、“ここから先は一族だけが入れる秘密の場所なのだ”と、“だから管理会社の人達にも遠慮をしてもらったのだよ”と。

「こんな事もあろうかと、ちゃんと鍵は持って来てある・・・!!」

 そう言うとダーヴィデは懐から幾つかの鍵がついている鉄の輪を取り出してはその内から一つの鍵を取り出して、その鉄格子の鍵穴に差し込んだ、すると。

 400年も経っていたにも関わらずに鍵はスムーズに回って行き、ガチャリと音を立てて開け放たれては一行をまるで待ち侘びていたかのように封印が解かれて行った。

「・・・・・」

「・・・・・」

(この先に、何があるんだろう・・・!!)

「・・・・・」

「・・・・・」

 “行こうか?”と告げるとダーヴィデが再び先頭を切って歩き出した、彼はまるでこの城の構造を熟知しているかのような歩き方で的確に全員を目的の場所である、“当主一族の生活スペース”へと導いて行ったがそこは殊更豪勢な造りとなっていた、少なくとも当時としては充分にその部類に入っていたであろう事が伺えるモノの、見事な調度品の数々に古びた机、そして本棚。

 カーテン付きのベッドに化粧台等が備え付けられており、単に絢爛豪華なだけでなく、往時としては最先端の設計思想と技術によって建てられ、設備を誇っていた事が伺えるが、しかし。

「・・・・・!?」

「剣(つるぎ)だわ・・・!!」

 それだけでは無かった、“当主の間”には数本の、古びた剣と一本の樫で出来た杖が壁際に無造作に立て掛けられていて、しかもまだ輝きと耐久力とを誇っていた。

「・・・この“樫の杖”、凄い頑丈そう。まだ硬いし重さもある!!」

「こっちの“レイピア”もまだ鋭いわ?傷や錆び一つ付いて無い!!」

「当時の当主の持ち込んだモノだな」

 子供達のその反応を見たダーヴィデが告げるがしかし、彼の見るところ別段、“愛用の品”と言うわけでは無さそうだった、ここに残されていた事からも明らかだし、何某かの愛着や念が籠もっている様子もない、おそらくは元々の持ち主から置き去りにされた後で外界からも隔離され、人どころか虫も湧かなかった為に保存が利いた為に、往時の姿を保ったままで保存がなされていたのであろう事が伺えるが、さて。

「・・・・・っ。こっちは本棚みたいだね?」

「何を調べてたのかしら?こんなにも沢山の本を持ち込むなんて・・・!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 過去の宝物や重厚な造りの書物を目の前にして物珍しそうに燥ぎ回る子供達を見つめつつ、ダーヴィデは清十郎に言葉を掛けていた。

「君達には言っておかねばならない事がある」

「・・・・・」

「例の10支族の話なのだがな・・・

「・・・・・」

「実はここ最近の研究で、どうやらその大部分が東に向かって旅立ったらしい事が解って来たのだ・・・!!」

「・・・・・」

「彼等の大部分はペルシャやインディア、ネパール、ヒマラヤ、ミャンマー、シャム、そして中統、高麗を経て、大八洲に向かった事が確認されている」

「・・・・・」

「特に日本での調査結果は非常に興味深いモノだった」

「・・・・・」

「カタカナは古代ヘブライ文字とほぼ似ているし、言葉もそのままヘブライ語が訛ったモノが数多く残されている!!」

「・・・・・」

「君達の天皇家の16菊花紋もエルサレム神殿に掘られていた菊の御紋と瓜二つだ!!」

「・・・・・」

「文化にしてもそうだ、特に神前における儀式には非常に似通っている部分が多々ある!!」

「・・・・・」

「君達の日本は古代においては葦原中津国(あしはらなかつくに)、または瑞穂国(みずほのくに)と呼ばれていたそうだな?“アシハラミズホラ”、それは古代ヘブライ語で“遙かなる理想郷、約束の地カナン”を意味する。それに京都にある平安京だってそうだ、あれをヘブライ語読みすれば“エル・シャローム”つまりは“エルサレム”となるんだ!!」

「・・・・・」

「遺伝子も、調べさせてもらったよ。その結果は“ユダヤ人と日本人は先祖を共にする”との結果が示された!!」

「・・・・・」

「そしてもう一つ。君達の事も、調べさせてもらったんだ。日本と言っても元々は東北地方に住んでいて、時代と共に西日本に移り住んで来た、と言う事もな」

「・・・・・」

「君達は元々、高い霊能力を持っていたそうだな?そして今度はその力を駆使してそこで魔法使いやゴーストバスターズのような事を生業にしていた事も知っている。更には淡路島や徳島等で、高い霊的資質を持っている、地元の神官や修験者の家系の娘達と婚姻を結んで行った事も、キチンと調べさせてもらっているのだ」

「・・・・・」

「時にはそう言った地方で、古くから続く豪族の末裔達とも交わって行った事もな!!」

 “何故なのだ?”とダーヴィデは告げた、“何故君達は何も言わないのだ?君達は我々の同胞なのだろう?何故頑なに隠そうとするのだ?”と。

「・・・・・」

 “神との約束だからだ”と、それに対して清十郎はダーヴィデに応えて言った、“時が来るまでは何人たりとも、何一つとして明かしてはならない”と。

 だから。

「申し訳無いのだが・・・。我々が君達に言える事は何も無い」

「むうう・・・!!」

「なんてこった!!」

 それを聞いたダーヴィデとベアトリーチェは天を仰いで唸ってしまった、彼等としてみればどうしても、清十郎に話を聞きたかったのであったが“神との約束である”と言われてしまえばそれ以上、追求する事は出来ない。

 第一に清十郎の(これは楓も同じだったが)性格ならば、例えどんな拷問を課せられても絶対に口を割らないだろう事は想像に難くないし、それになによりかによりの話としては“神との約束”であると言う、それでは無理矢理聞き出す事事態がNGではないか。

「日本人達の内でも、特に淡路島と中国、四国等に住んでいる人々が、ヘブル人と同じ遺伝子を持っている事も解っているのだ」

「・・・・・」

「清十郎、もう時は来ているよ、神との約束はもう既に果たされようとしている。共に祝杯を挙げよう、君達は知っているのだろう?我々には教えられない“何か”を!!」

「・・・・・」

「どんなに荒唐無稽な話でも良い、教えてくれ。“アミシャーブ”の友人達にも話して聞かせなければならないのだ!!」

「・・・イスラエルの誇る、“対10支族用専門調査機関”アミシャーブか。君達があんな所にまで関わりを持っていたとは!!」

 “だが”と清十郎は告げた、“何も言う事は無い”とそう言って。

「清十郎・・・!!」

 ダーヴィデが続けて何かを言おうとした、その時だ、“パパ!!”とメリアリアが尋ねて来た。

「・・・メリアリア、どうしたんだい?」

「この本、難しい字が多くてよく読めないんだけど。でも一応、さっきのキアラに付いて書かれている事が解ったの!!」

「ここの王様は、キアラの事を凄く可愛がっていたみたいなんだ、だからキアラがいなくなってしまって凄く辛かったって書いてあるんだ!!」

「・・・でも。だけどそれだけじゃないの!!」

 メリアリアが両親に問い質した。

「ここにある“ユダの償い”ってどう言う事なの!?“私達がそれに巻き込まれてやる義理は無い”って書いてある、“最愛の娘を失ってまで、私達は何をしにここまで来てしまったのだろうか”って・・・!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ユダってあのユダの事?メシアをお金と引き換えに売った、あの“裏切り者のユダ”の事なの?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「でもここには“ユダの王国”って書いてあるの。どう言う事だか訳が分からないわ!?ユダってあのユダの事じゃないの?“巻き込まれる”ってどう言う事なの?どうして分家筋とは言えども、私達カッシーニ家の人間がこんな事を書き記しているの?ねぇ、教えて、パパ、ママ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “メリアリア”と、そんな娘からの必死の訴えにダーヴィデが静かにしかし、何某かの覚悟を決めたような表情で落ち着き払って語り始めるモノの、それによると、“ユダ”とはイサヤ(イエス・キリストの本名)を売り払ったとされる“イスカリオテのユダ”の事では無くてそれ以前、遙か古に存在していた王国の名前である、と言う。

「これはもう知っているとは思うが我々には10支族の血が入っている事は既に述べたな?」

「・・・・・っ。ええ、聞いたわ?」

「もともと我々の御先祖様の一柱である“アシェル族”を始めとする10支族は、本来であれば12支族で“イスラエル”と言う一つの王国を形成していたのだ」

「・・・・・」

「所がそれがあるとき、仲違いを起こして北の“イスラエル王国”と南の“ユダ王国”とに分裂してしまったのだよ」

「・・・・・」

「時折、和平を結んで協力する事はあったモノの、しかし二つの国は基本的にはいつも争っていてな。そしてそんな事を繰り返している内に国力は弱体化して遂にはイスラエル王国はアッシリアに攻め込まれてしまったのだ」

「同族同士だったのに?」

「時の国王が、重税を課していたのだ。それを支持しようとした2支族と、止めさせようとした10支族との間で喧嘩になってしまったんだな、それが元で国が二つに別れてしまった。・・・話を元に戻すぞ?アッシリアに攻め込まれたイスラエルを、しかしユダ王国は結局は、滅び去るまで助けなかった」

「・・・・・」

「そして今度は自分達がバビロニアに滅ぼされたのだがこれが終わってエルサレムに帰った時にはもう、イスラエル王国の国民達であった筈の10支族は大半が、忽然とその姿を消してしまい、何処にもいなくなってしまっていたんだ」

「・・・・・」

「ユダ王国の民達は恐れ慄き、神に尋ねてみたそうだ、すると神はこう言われたのだとか。“お前達は同胞を見殺しにした”と。“お前達に祝福はもはや与えられないであろう”と」

「・・・・・」

「“10支族は新たな国を求めて旅立った”、“私は彼の者達を今一度、祝福してみよう”と。“しかしもし、お前達が彼等の国を見つけて危急の際に今度は助けてやるのならば、お前達にも祝福の分け前を与えてやろう”と。そう言う事を言われたそうなのだ」

「・・・・・」

「それが“ユダの償い”・・・?」

「・・・・・」

 黙りこくってしまったメリアリアの代わりに尋ねるかのように蒼太が発したその言葉に、ダーヴィデが頷いて応えるモノの、彼は更に続けてこう述べたのである、“そう言う事もあって今日でも、ユダヤ人達は必死になって、残りの10支族の行方を追っているのだ”と。

「この城の主であった、私達の分家筋がこの地にやって来たのも、ここで改めて情報を収集する為でもあったのだよ」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

「「・・・・・」」

「・・・・・」

 “為でもあった、と言うことは”と子供達は口々に言い放った、“別の目的があった、と言う事よね?”とそう続けて。

「その目的って一体、何?家は一体、何に巻き込まれていたの?パパ、ママ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 そのメリアリアからの追求に、二人は難しそうな表情をして考え込むモノの、暫くするとー。

 互いの顔を見合わせながらも頷き合い、話を続けた。

「メリアリア。お前は“聖杯”を知っているかい?」

「・・・メシアが“最後の晩餐”で使ったとされている杯の事ね?勿論、知っているわ!!」

「ではその後で、聖杯がどうなったかに付いては知っているかい?」

「それは・・・。分からないわ」

「そうだよ、聖杯の行方は誰にも解らなくなっちまったのさ!!」

 ベアトリーチェが告げるが彼女によると当時、バチカンからの命令で“テンプル騎士団”を始めとして各地の有力者達に御触れが出されたそうなのだ、曰く“メシアの足跡を辿ってその亡骸や聖遺物を持ち帰れ、子孫がいるなら連れ帰れ”と。

「それというのもねぇ、“最後の晩餐”と“磔刑”の後でも余りにも彼方此方(あちらこちら)で“メシアを見た”と言う情報が寄せられてね、それでバチカンも本気になった、と言うわけさね!!」

「しかしその行方はようとして知れなかった、時代が下ってテンプル騎士団が壊滅させられた後も調査はずっと続いたのだが結局は何も、出て来るモノは無かったのだ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「我々カッシーニが分家筋を動かしたのも、そうしたバチカンの要請を無視出来なくなってしまったからだった。しかしそれだけでは無い、さっきも言ったがそれと同時進行で、“失われた10支族”の調査も続けられていたのだ」

「もしそれに成功したなら、私達は神の更なる祝福を得る事が出来る。10支族は今一度の祝福が約束されているからね、しかも同胞達で国を作っていると言う、そりゃ御先祖様だって必死にはなるだろうさ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 ダーヴィデとベアトリーチェの言葉を、蒼太とメリアリアは黙って聞いていたモノの、“同族捜し”と“聖杯探索”とを一遍にやろうとした結果がこれだった訳であり、隣国とは言えども異国の地までやって来させられた挙げ句の果てには娘までも亡くしてしまった当主の無念さは想像を絶して余りあるモノがあっただろう、それでいたたまれなくなって、娘の匂いの染み付いたこの城を、思い出の詰まったこの城を娘の魂ごとこの地へ置き去りにして自分達は逃げるようにしてエトルリアに帰って行った、と言うのが(日記から推測するに)事の真相だろうと理解する。

 要するにこの城は当主に取っては悲しみの記憶の象徴であり、忌むべき存在そのものだったのであろう、それでまだ、霊力があったにも関わらずにこの世に留まり続けていた娘の霊と相対する事もせず、語って聞かせる事も無くガリアを引き上げてしまったのだった。

 とすればやはり、父達の判断は正しかった事になる、父達はある意味では実の父親に見捨てられ、勝手気ままにこの世に留まり続けるしか無かったキアラを、ちゃんと本来いるべき世界へと導いてあげたのである、なんて勇気のある、立派な行いなのであろうか。

 二人はまだ、ある程度はゴーストから身を守ったり、それらを払い除ける事は出来ても成仏させてやれるだけの力量は持ち合わせてはいなかったから今回、父達を連れてきたのはやはり、良い判断だった、と言うべきだろうと自分自身で納得していた。

 特に、蒼太は。

(いつかは僕も、あんな事が出来るようになりたい!!)

 まだまだ遠い父の背中を思ってますます、己の研鑽に磨きを掛ける事になるのだったが、一方でメリアリアもメリアリアで漸くにして事態の合点が行っていた、そう言う理由だったのであれば、わざわざ当時のカッシーニ家からすれば余所の国の、こんな萎びた渓谷にまで出先して来たのも頷ける話しではある。

「・・・それで。パパ達は、今もその“10支族”を探しているの?」

「勿論だよ、メリアリア。我々の悲願だからね・・・!!」

「“神様の祝福”を、受けたいから・・・?」

「それもあるけどね。やはり何だかんだ言っても一番は、先祖に報いてやりたいのだ。正直に言ってしまって私達にはもう、充分に過ぎる程神から祝福をいただいているのだ、もっともそれが何なのかは秘密だがね?」

 と、ちょっと悪戯っぽく微笑んだダーヴィデだったがやがてニヤッと笑うと子供達に告げた、“その内、君達にもちゃんと教えるからね?”とそう言って。

「・・・さて。城の探索も粗方済んだし、役目も無事に果たせた訳だ、そろそろ」

 “帰ろうか”とダーヴィデが告げると、一同がそれに頷いた、しかし。

「待って!!」

 途中でメリアリアが声を掛ける。

「まだ、お庭が見れていないわ!!お庭を見ても良いでしょう?パパ!!」

「ああ、良いとも!!」

 娘の嘆願に、ダーヴィデが快く頷くと、帰りは別のルートを通って本当に城を1週してから帰路に着いた、“もう本当に何も無いのか?”と言う事を完全に見て回ったのであるモノの、そんな城の中庭に着いた途端、メリアリアは“うわあぁぁぁっ!?”驚きの声を挙げた。

 そこには。

「凄いっ。バラの花がいっぱいだ!!」

「本当に、素晴らしい香りだわ。みんな庭の彼方此方(あちらこちら)に植えられていて。それがこんなにも咲き乱れている!!」

 蒼太とメリアリアが口々に叫び驚くモノの、そこは確かに“荊の園”とよんでも差し支えない程に、バラが根を張り蔦を伸ばし、庭全体を埋め尽くしていた、そこにあった屋根付きのガーデンパーゴラの至る所にも立派な荊が巻き付いていた。

「僕、バラって大好きなんだけど。だけど本当に凄いね、このお庭は。手入れがされていない所を見ると多分、野生のバラなんだろうけれども!!!」

「あらっ!!?」

 とそれを聞いたメリアリアもまた、ツインテールをフワリと揺らしつつも蒼太に向き直って応えた。

「私だってバラは好きよ?蒼太。家にもいっぱい植えてあるでしょ?あれだって少しはママが買ってきてくれたモノもあるけれども、基本的にはみんな私が植えたモノだからね!!?」

「そうだったの!!?」

 メリアリアのその言葉に、蒼太はビックしてしまっていた確かにカッシーニ家(ハーズィ)の庭にはそれは見事なバラ園があってそこには四季性の真っ赤なバラが1年を通して花を付けており、荊もまた育っていたのだ。

「だけど家の子達も立派なモノだけど。ここも中々のモノよ?見て?あそこのガーデンパーゴラの上にまで蔦が伸びて彼方此方で花を咲かせているわ!!?」

 メリアリアの言う通りでここのバラ園は凄かった、まるで辺り一面を埋め尽くすかのようなバラが、それこそ狂い咲きと言っても良いが、庭の其処此処(そこここ)で花を付けており、思わず見る者の感動を誘うが、しかし。

「記録によるとな。ここは“契約の庭”と言われていたようなのだ」

「「契約の庭!?」」

「そうだ」

 ダーヴィデが説明を続けるモノの、ここはこの城の主が(つまりはキアラの父が)目的の達成と悲願の成就とを願ってそう名付けたらしい、との事だったがその際、特に“バラを植えた”と言う記録は無かった為に、花は後世に何処かしかから飛来してここに自生したのだろう、多分。

「いやはや、それにしても凄いな、ここのバラは。思わず見ていて心が現れるようだ!!」

「本当にねぇ、これ程見事な庭があるなら、ここを別荘にでもして眺めて暮らしていたいもんだね」

「契約の庭・・・!!」

 ダーヴィデとベアトリーチェがそう言って賞賛の言葉を口にするモノの、一方でメリアリアは何事かをブツブツと考えていたのだが、やがて。

「そうだわ!?ねえパパ!!」

 と顔を上げてそう叫ぶとダーヴィデに再び願い出た。

「?」

「“当主の間”の鍵を、貸してくれる?」

「・・・それは別に構わないが。しかし一体、何をするつもりだね?」

「うん、ちょっとね!?」

 とそう応えて鍵をもらうと、蒼太に“一緒に来て?”と告げては彼の手を引っ張って、3階部分にあった当主の間まで連れ立っていった、そして。

 程なくしてそこにあった剣と杖とを携えて二人で戻ってくると、庭のガーデンパーゴラの中央に立って言った。

「蒼太、ここで私達も契約しましょう!!」

「・・・・・?」

「誓って?蒼太。ずっと二人で一緒にいるって。ううん、もし仮に。私達が離れ離れになってしまうことがあったとしても、必ず私の所に帰って来るって!!!」

「メリー・・・!!」

「願いを込めて、この剣とロッドをここに突き立てるのよ?交差させるようにしてね。それで大人になってから、またここに二人で来るの。そしてね?その時にこの剣とロッドを二人で引き抜こう?約束だからね!!?」

「・・・・・っ。うん、解った!!!」

 “約束するよ”と蒼太は言った、そうしてー。

 自らはロッドを手に取り、祈りを捧げて地面に斜めに深く突き刺し、一方のメリアリアはレイピアを持って同じように誓約を交わし、願いを込めてやはり斜めに深く地中へと突き立てるようにする。

「大人になったら二人でここに来ましょうね?絶対よ?」

「うん、解ってる。絶対に二人で来るよ、メリーと二人で絶対に!!!」

「本当に?絶対にだからね!!?」

「うん、本当に!!!」

「誓って?蒼太!!!」

「うん、誓う!!!」

「私達は、二人で絶対にここに来るのよ?誓約を成就させてね?約束だからね!!?」

「うん、約束する、絶対に守るよ!!!」

 そう言うと二人は手を繋いで見つめ合い、微笑み合った、雨はいつの間にかに上がっていた、歩き出す二人の頭上には彼等を祝福したかのように、金色に輝く太陽が燦々と光り輝いており、その契約を見届けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 読者の皆様方こんにちは、ハイパーキャノンと申します。

 今回の古城探索もまた、とある作品のオマージュだったのですが(もっとも“彼等”は自分達で事件を解決したのですが)、彼等よりもメリアリアちゃん達は年齢がいっていなかったのと、“もしあの時に、互いの両親が健在で一緒だったらもっと冒険も楽なモノになっただろうな”と言う思いがありまして、それでこのようなお話しとなった訳なのですけれども。

 しかしそれだけではありません、このお話しを作るに当たっては、更に幾つもの要素が組み込まれているのです(他にも逆にオミットした部分もあります、それというのも“戦闘シーン”なのですが、本当はキアラちゃんは幽霊ですので影のような形態となり、四方八方に飛び回って相手を攪乱させる、それで清十郎達を苦戦させる、と言う戦法も考えていたのですが、二回目に吹き飛ばされていた時に間髪入れずに清十郎が“金縛りの術”を掛けたためにそれが出来なかったのですね、それとこれは“エルヴスヘイム事件”でもそうだったのですが、このお話しもあくまでも蒼太君とメリアリアちゃんの幼年時代、それも本当にちっちゃい頃のお話しですのであまり戦闘シーンにこだわらない事にしているため、全体的に簡略化するために思い切ってオミットしたのです)。

 このお話しのラストの部分でメリアリアちゃんと蒼太君はバラの咲き誇る“誓約の庭”において、彼等自身の“契約の証”としてそれぞれ、願いを込めた剣とロッドを地面に突き立てるのですがこのくだりは、My Little Loverさんの“Hello, Again ~昔からある場所~”と言う曲を聞いた瞬間にその場面が浮かび上がって来たのです(“また会いましょう”、ですとか“また会えたね”と言った意味の歌です←“ユーチューブ”で視聴が出来る筈です)。

 そしてもう一つが、イスラエルの“消えた10支族”についてなのですが、これが本当に、日本まで来ていた可能性がある、と言う事で、その話も面白いと思って絡めてみたのですね(ある調査機関がDNAを調査したところ、ユダヤ人と日本人のそれは近親者的な間柄らしく、先祖を共にする可能性があるそうです←特に四国や淡路島、中国、近畿地方の一部の地域の方々はそうらしいです)、イスラエルには“アミシャーブ”と言う名の対10支族専門の調査機関があるそうなのですが、そこも今度本格的に(前に行った調査では遺伝子調査まではしていなかった、との事です)“遺伝子の調査をしたい”、と言った旨を申し出ているそうです(ただ日本ではそれは、“個人情報保護”の観点から中々難しいモノがある、との事だそうでして未だに進展はしていませんが)。

 彼等は淡路島に来た後に、四国の剣山へと向かったそうです(そこで独自のコロニーを形成したそうです)、ある方の話によるとイサヤ(イエス・キリスト)もまた、日本に来ていたのだとか(磔刑に処されたのはイエスの弟の“イスキリ”と言う人でありイエス自身は死んではいなかったそうです←ユダは最後の最後でイサヤを守り、イスキリに口付けをしたそうです。これは“ユダの裏切り”のシーンを調べてもらえれば、私の言っている事が解っていただけるかと思いますけれども、それで何も知らない捜査官はイスキリをイサヤだと思い込んで十字架に架けたのだとか)、それで彼は迫害を逃れる為にシルクロードの最終着点、即ち日本までやって来て、四国の“コリトリ”で亡くなったのだとか(四国には本当に、こう言う地名があるそうですよ?他にも“栗支渡神社”なるモノもあるそうです←これで“クリシト神社”と呼びます)。

 私自身はあってもおかしくない話だと思っています(あれだけの霊力があった方ですし、しかも元は大工さんだったそうですから、身体も頑健で体力だってあったでしょう)、それともう一つ、この度目出度く今上天皇陛下は(即ち令和天皇陛下は)“祝之神事”すなわち“ハトホルの秘儀”を受け継がれたのだとか。

 非常に重要な事ですので、心底ホッとしています。

                敬具。

          ハイパーキャノン。
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