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ガリア帝国編
メリアリア・カッシーニ編9
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「パパ、ママ!!」
「おじさん、ちょっと聞きたい事があるんだ!!」
「・・・・・?」
「なんだい?急に。改まって・・・!!」
その夜。
出先から戻ってきたダーヴィデ達を捕まえて蒼太とメリアリアはその日、自分達の身の上に起きた事を説明した、エトワール・ノイエの古城跡地でキアラと言う少女の幽霊と出会った事、彼女から聞かされた10支族の事、そして自分達カッシーニ家がそれを探す使命を帯びている事等を。
「キアラは言っていたわ、“失われた10支族を探し出す事が自分達の悲願なのよ”って。私、繰り返しお願いされたわ!?」
「おじさん達、何か知っているの?キアラの言った事は、本当なんですか!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
(10支族だと・・・!?)
(何故それを、メリアリアちゃん達カッシーニ家の人々が探し求めているのかしら・・・?)
それを聞いたダーヴィデ達は思わず黙りこくってしまい、清十郎達もまた、各々思案を巡らせていたモノの、彼等も彼等でなぜダーヴィデ達が10支族を求めるのか、どうしてそれを知っているのか、と言う謎が解けずにおり些か困惑していたのである。
「ダーヴィデ伯爵。私達は席を外しておりましょうか?」
「いやいいのですよ清十郎殿、楓殿も。しかしそうか、キアラと言う名のスピリットが、お前と蒼太君にそんな事を告げて来たのか・・・!!」
「お前達にこれを語って聞かせるのは、些か時期が早いと思っていたんだけどねぇ・・・!!」
そう言うと、ダーヴィデ達は重い口を開け始めるが、それによると今から凡そ2700年ほど前に、12支族で纏まっていたヘブライ族が10支族と2支族とに別れてそれぞれ王国を形作っていたのだがその内10支族の北イスラエル王国がアッシリアに、次いで南のユダ王国もバビロニアに敗北して民は散り散りになり、特に南方のユダ王国の民達はその大半が虜囚となった。
ところが。
アッシリアはバビロニアに滅ぼされ、そしてそのバビロニアもまた、ペルシャ帝国のキュロス2世に滅ぼされてしまい、そのお陰もあってバビロニアに捕らえられていたユダ王国の民達は結局は、自分達の元いた土地へと帰還する事が出来たのであるモノのしかし、帰ってみると、本来ならば彼等共々解放されている筈の10支族の姿が何処にも無くて、慌てて記録を追ったのであったがしかし、民達がアッシリアに連行された形跡も無くて、即ち彼等は歴史の表舞台よりある日忽然と姿を消してしまったのだった。
2支族は困惑した、同胞達が全くいなくなってしまい、その影も形も見当たらなくなってしまったのだから、当然である。
以降、“失われた10支族”が何処へ行ったのか、それを調べる事がユダ王国の末裔達の最大急務の一つとなった、というのであり、これが10支族にまつわる、今現在において理解が出来ている記録の全てだと言う事だったのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
“そんな話があったなんて”、とメリアリアが驚愕した表情のままに口を開くが、なるほどそこに関しては良く解った、しかし。
問題は別にあった、どうしてその10支族とやらを、自分の家が探し出さなければならないのか、と言う事が今一ピンと来ないのである、一体どう言う事なのであろうか。
「それはね?メリアリア」
ダーヴィデが娘の疑問に対して口を開いた。
「私達の一族が、その10支族の一つ、“アシェル族”の血を引いているからなのだよ?」
「比率的にはそんなに多くは無いけどね?当時リュディア地方の都市サルディスにいた御先祖様が、その地に流れ着いて来た“アシェル族の一派”を保護して血縁関係を結んだ事が、その始まりなんだそうだよ?」
「・・・・・」
「信じられないわ・・・!!!」
メリアリアがまた口を開いた、“私達の中に、そんな大昔の一族の血が混じっていたなんて”と、驚愕しながらそう告げて。
「それで?」
メリアリアが続けて尋ねた、“10支族の人達は、何処に行ってしまったの?”とそう言って。
「・・・・・」
「それがねぇ、解らないんだよ・・・!!!」
そんな愛娘からの問い掛けに、ダーヴィデが困ったような表情を浮かべて沈黙し、代わって答えたベアトリーチェもまた、難しそうな面持ちでそう告げるが、その後2000年にも渡って彼等を含めた多くの存在が、“失われた10支族”の調査を行って来たモノの、結局はだれも彼もがその正体に辿り着く事は出来なかった、と言うのである。
「ある人達は、首都サマリアがアッシリア軍によって包囲されてしまう前に、船に乗って東の果てを目指して旅立った、と言うんだけどね?なんせ誰も見た訳では無いし、2000年も前の話だからねぇ・・・!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それを蒼太達は黙って聞いていたモノの、彼は父親である清十郎へとチラチラと視線を送っていた、“言ってあげれば良いのに”と、そう思っていたのであるモノの、何をか、と言えばそれは、現在では混血が進んでしまったモノの、かつて彼等の故国である日本に、遥か西方から渡来した一族が存在しており、彼等は淡路島や四国の剣山一帯にコミュニティを持っていた事、日本語のカタカナと古代ヘブライ文字とが恐ろしいほど酷似している事、ワッショイやハラグロイ、アカン(イカン)等、日本語と古代ヘブライ語で共通している言葉がある事、そしてー。
神前で行われる神事が、双方共に非常に似通っている事等を伝えてあげれば良いのに、とそう考えていたのである。
きっとダーヴィデ達は喜び勇んで調査に乗り出すであろうし、その結果として日本と今現在のユダヤ人の人々の距離は一気に縮まる事だろうに、しかし。
清十郎は(楓もだが)一切、何も言わなかった、自分達が言う必要が無い、と言わんばかりの態度である、蒼太はちょっぴり悔しかったがしかし、清十郎に言われた事を思い出していたのである、“今は誰にも言ってはならない”と、“それは神との約束だから”と。
だからそれを聞いた蒼太もまた、黙って口を噤んだまま、何一つ喋らなかった、自身の生い立ち等も聞かされていたモノの、それも含めて全てを秘匿したのである。
「キアラは言っていたわ、その10支族の長こそが、この世に光りをもたらしてくれる、“神の教え”を受け継いでいるのだと!!」
「そんな事まで喋ったのか!?」
「随分とお喋りな幽霊もいたもんだね!!」
と、ダーヴィデ達は思わず感心すると同時に呆れてしまっていた、何処の世界に秘密の教えをペラペラとバラしてしまう幽霊がいると言うのであろうか。
「それってどう言う事なの?家とどんな関係があるの?私達の家の使命って一体なんなの?パパ、ママ!!」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
“今はまだ”と暫しの沈黙の後でダーヴィデ達は口を開いた、“話せることは多くは無い”とそう言って、しかし。
“これ以上、我が家の秘密が外に漏れ出す事は避けたい”とそれだけは力強く言い放った。
「とにかくだ。明日、そのキアラとか言う少女の霊に良く申し聞かせて急いで成仏させねばならん!!」
「これ以上、変な噂が広がっちまっても困りもんだしねぇ・・・!!」
ダーヴィデ達はそう告げると、明日の準備の為にその日はそれでお開きとなって、それぞれの子供達は親に率いられて部屋へと入ったモノの、蒼太もメリアリアも中々寝付けなかった。
明けて次の日の朝ー。
その日は朝から凍えるような寒さであり、吐く息がその前以上に白く映えた、空は灰色に掻き曇り、季節外れの雨が降っていたモノの、しかしそれでも行かないわけにはいかなかった、キアラとの約束があるのである。
それにいい加減、そんな少女を放っておいては今後の自分達の活動にも支障を来すし管理会社の人員達にも申し訳ない、と考えたダーヴィデ一行は意を決しては雨の降り頻る中を“エトワール・ノイエの古城”へと向けて出発していった、昨日は蒼太と駆けっこをしたあの小高い丘も野山も何もかもが一面、空から滴り落ちてくる水の雫に濡れていて、それはそれで取っても幻想的だったのだが今はそれにゆったりと浸っている場合でも無かった、もし強制的に成仏させる、と言う事にでもなっているのであれば、戦闘は避けられない見通しである、蒼太もメリアリアも須(すべから)く身の引き締まる思いがしていた。
やがてー。
城に着くと昨日は確かに開いていた筈の鍵が、今日に限ってしまっていた、キアラが締めたのであろうか、まるでこれから起きる事を予期して抵抗でもしているのであろうか。
「・・・・・」
「パパ・・・」
「大丈夫だ・・・」
蒼太とメリアリアから視線を送られたダーヴィデは、落ち着き払ってそう言った、彼は予(あらかじ)め、スペアの鍵を持っており、それを鍵口に差し込むとー。
“ガチャン”と音がするまで回してエントランスの扉を開けるとー。
そこは一見、昨日とは何も変わらない城であったがしかし、やはり何かが違っていた、何というかこう、城全体の雰囲気が重苦しくて暗いのだ、それにー。
昨日はそんな感じはしなかったモノの、今日に限っては明らかに此方(こちら)を拒否するかのような、そう言った感覚を受けるがどうやらキアラはダーヴィデ達の事を、歓迎してはいないらしい。
「どうやらあんまり、歓迎されてはいないようだ・・・!!!」
「そのようですな・・・」
清十郎の言葉に、彼方此方に目をやりながらもダーヴィデが頷くモノの、それ程までに城の内部の雰囲気は昨日、子供達から聞かされていたモノとは掛け離れており、多少、“そう言った経験”を積んだ者であるならば、明らかに“城の主”が自分達を受け入れてはいない事がよく解ると言うモノだった、とにかく空気が身体全体にのし掛かって来るように重たくて、粘りっ気があるそれである、誰かに見られているかのような感覚も強く纏わり付いて来て背筋がゾッとし、一歩進む毎に体力が余計に消耗されてしまう気がするのだが、しかし。
「・・・えいっ!!!」
と突然、傍らに控えていた清十郎が胸の前で数珠を組んだ両手を重ね合わせると両足を踏ん張って気合い一閃、自身の霊力をぶち当てると、次の瞬間、自分達の背中から寒気が抜けて、それと同時に上の階から“ドカーン”と言うような、何かが吹き飛ばされたような音が聞こえてきた、清十郎が刹那の間に高い霊力を迸らせてキアラの妖気を吹き飛ばしてみせたのである。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「どうだ?少しは楽になっただろう?」
「有り難う、清十郎殿・・・」
驚き戸惑う子供達に、清十郎が優しく告げると、ダーヴィデが彼に再び答えて礼を述べた、どうやらダーヴィデも同じ事をしようとしていたらしく、胸元で手を組んで法術陣を出現させていた。
「いえいえ、大丈夫ですこれくらいは。さ、行きましょう」
“ですが”と清十郎がダーヴィデに告げた、“簡単にはいきそうにありませんな?”と。
「どうやらそのようですな。相手は随分とこの世に、この城に愛着と言うか、執着を持っているようだ!!」
「ええ。まだ子供の内に亡くなったそうですので、尚更遊びたくて仕方が無いのでしょう・・・」
そう述べると一行は清十郎を先頭にして、2階への階段を探して歩み始めた、城の中はとにかく広くて荘厳、雄大であり、往事の繁栄振りを偲ばせる。
廊下に掘られた彫刻や絵画、シャンデリアやロウソク立て等はいずれも見事と言う他無く、この地にやって来た“カッシーニの分家筋”の権勢がよくよく理解する事が出来たのだ。
「2階に昇る階段は何処かな・・・?」
「そこの奥よ・・・!!」
「こっち。この大広間を抜けたところ・・・」
蒼太とメリアリアがそう言うモノの、そこは確かに昨日、二人がキアラの霊と出会った場所でもあった、どうやら彼女はあの場所に一番よく出没するらしい、何となく雰囲気と言うか波動が濃い。
そんな事を二人が考えているとー。
不意に大広間のテーブルの上に並べられていたスプーンやナイフ、フォークや皿等がガタン、ガチャガチャと独りでに揺れて乱れて蠢き始め、しかもその内の幾つかが此方に向かって飛翔して来るでは無いか。
「メリー、危ない!!!」
「きゃっ!!?」
咄嗟に蒼太が背中を晒して少女を庇うが冬の気候の中での事、厚手な格好をして来た事が功を奏してメリアリアには勿論、彼女を庇った蒼太にも傷一つ付かなかった。
ただし。
「ふぅ・・・っ。はぁー、ビックリした・・・」
「蒼太っ!!?」
メリアリアが叫ぶと今度はディッシュが数枚、蒼太目掛けて飛んで来るモノの、それを蒼太は避けずに全て自身の身体で受け止めて見せた、避ければメリアリアに当たってしまうために他に方法は無かったのであるモノの、今回もそれ程強いダメージは負わずに済み、例えるなら背中に雪合戦をしていて、その雪の玉を当てられた程度の感触である。
それよりも。
「蒼太君、大丈夫か!?」
「僕は平気だけど、お皿が・・・」
「何を言っているんだ、君の方が心配だ、怪我が無くて良かった・・・!!」
「有難う御座います、おじさん・・・。メリーは大丈夫だった?」
「うん、蒼太のお陰で平気よ!!?でもごめんなさい、私のせいで・・・!!!」
「僕は全然、大丈夫さ!!これぐらいでやられるほど、柔じゃないよ!!!」
「ふ・・・っ!!」
それを聞いた清十郎が思わず吹いてしまうモノの、今度は笑っていられる事態などでは決して無かった、残りのナイフやフォークの群れが一斉に、蒼太達目掛けて襲い掛かってきたのである。
ところが。
今度は大人達が黙ってはいなかった、子供達の前に颯爽と立ちはだかった清十郎とダーヴィデが、それを自らのオーラを込めた手刀で全て叩き落として見せたのである、流石にこの時の蒼太にはそんな芸当はまだ出来なかったから、思わず“凄い・・・”と唸ってしまうが、しかし。
「何を言っているんだ蒼太君、君にもこれ位は出来るようになってくれなければ、困るぞ!?」
「その通りだ、蒼太。お前は私達を凌がなければならないのだからね・・・!!」
そう言うと二人は更にまた、襲い来るナイフやフォークの群れを武器も使わず弾き飛ばして無力化し、最終的には蒼太の元へは一個たりとも、その鋭峰が届く事は無かった。
「さっ。もう大丈夫だ・・・!!」
「もう、後は飛ばせるモノは無いだろうからな・・・!!」
「うん、お父さん、そしておじさん有り難う。って言うかおじさん達、凄く強いんだね!?」
「いやいや、なになに。強いと言うのだったら君の方が強いさ。何しろ咄嗟にメリアリアを庇ってくれたのは君だったのだから・・・!!」
「本当さ、蒼太。ああ言う時にこそ、人の本性はでるもんさね。あんたはもう立派な戦士だ、勇敢で優しい男の子だよ!!」
「・・・・・」
「・・・・・!!!」
すると。
それをニッコリと笑いながらそう告げるダーヴィデとベアトリーチェの言葉を聞いて一瞬、何事かを言おうとしてしかし、やはり俯いてしまう蒼太へとメリアリアが抱き着くと“有り難う蒼太?”と告げた、“あなたは私を守ってくれたのよ?”と、“私、とっても嬉しいの!!!”とそう言って。
「だからもっと胸を張って?蒼太。あなたは私の、大切な旦那様なんだから・・・!!!」
「なにっ!?」
「あ、あんた達、いつの間に・・・?」
「・・・・・っ!!」
「・・・・・っ!?」
するとそれを聞いたダーヴィデとベアトリーチェが驚愕し、清十郎と楓がハッとなったがそうなのだ、この時初めてメリアリアは蒼太の事を公式に、しかも両親達の目の前で自分の旦那様と認めた訳であり、そしてそれはダーヴィデ達もまた、驚きはあったモノの“まさか”というよりも“やはり”と言った感情の方が強く出ていて特に反対意見を述べなかった。
それほど二人の仲の良さは突出していたのであり、いつも一緒にいて同じ時を共有し続けていたのであるが、それに加えてー。
清十郎達もダーヴィデ達もそれぞれ、自分達の家に伝わる秘密の卜占を行って彼等の運命を知っていたから驚く事は何も無かったのであるモノの、しかし。
「・・・蒼太君。君は将来その。家に本気で婿入りしてくれるつもりでいるのかな?」
「・・・・・」
そのダーヴィデの問い掛けに、蒼太はコクンと頷いた、彼は決して軽い気持ちで応えた訳では勿論無くて、芯から覚悟を決めての返答だったのであるモノの、それを見たダーヴィデは一回“ハアァァッ!!”と天を仰いでゆっくりと息を吐いて応えた。
「それじゃあ君の事は息子として扱う事にするとしようか!!」
“蒼太”とダーヴィデはここに来て初めてこの将来の婿養子の事を呼び捨てで呼んだ、まだ5歳であり幼少の砌(みぎり)ではあったけれども、もうこの瞬間から、蒼太はカッシーニ家に入る事が決まってしまったのであり、そして彼はー。
他の二人の花嫁の家にも同等の扱いをするとして、婿養子として入る事が決まってしまっていたのであった。
「蒼太、頼もしきわが息子よ、娘をどうかよろしく頼むよ?」
「はい、おじさん。どうか宜しくお願い致します!!」
自らの呼び掛けにそう応える蒼太の姿を満足そうに眺めてダーヴィデは、次いで清十郎達へと向き直った。
「この子は家でもらう、確かにな」
「・・・恐縮です!!」
「どうか宜しくお願い致します・・・!!」
「友よ、もう他人行儀な挨拶はいらぬ。私の事は気兼ねなく“ダーヴィデ”と呼んでくれ」
「そうか・・・!!」
それを聞いた清十郎は改めてそう頷くと、ダーヴィデに対して尊称を付けなかった、“ダーヴィデ、息子を宜しく頼むよ”とそう言ってお辞儀をしたのだ。
「ああ。確かにこの子はもらい受けたよ!!」
そう応えて満足そうに蒼太を見つめるダーヴィデの瞳には、並々ならぬ期待感と暖かさとが込められていたのであるが、しかし。
「私の事も、ベアトリーチェと呼んでおくれよ、清十郎、楓。私もその方が気が楽だしね!!」
「宜しくお願いね?ベアトリーチェ・・・」
「・・・よろしい」
と自分達も挨拶を交わす夫人達を前にして、それを見たダーヴィデは再び嬉しそうに頷くと“しかし”と一息置いてから告げた。
「今は取り敢えず、キアラの霊を鎮めなければならないな!!」
「うむ、それが先決だな・・・!!」
清十郎の意識もダーヴィデのそれも、今やキアラの討伐に向いていた、もはや自分の可愛い子供達にまで手を出した以上は放っておけない所か勘弁する気等は全く無くて、寧ろ今すぐにでも“強制的に”あの世に送り込んでしまいたい所である。
一方で。
事ここに至って子供達にも異論は全く見受けられなかったがしかし、本音を言えば彼等はもう少し、キアラと話がしてみたい、等と考えていたのであり、蒼太もメリアリアも互いに“相手を攻撃した事は許せない”としながらもそれでもやはり、キアラが根っからの悪霊のようには思えなかったのであった。
だから。
「ねえお父さん・・・」
「どうしてもキアラは成仏させなければダメなのかしら?」
「・・・・・?」
「当然だろう?君達にもこんな事をするようなスピリットなのだ、悪霊化する前に、あの世に行ってもらった方が良いからね!!」
「悪いけどね、蒼太、メリアリア。私もこの人の意見に賛成さね。こんな事をするようじゃ、いつ悪霊化してもおかしくは無いからねぇっ!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
その質問に対するダーヴィデの言葉を受けて、ベアトリーチェまでもがそう告げるモノの、それを聞くと蒼太もメリアリアもそれ以上に強くは、何も言い返せなくなってしまっていた、事実としてキアラが敵対行動を取ってきたのは事実であり、そこには何ら異論を挟む余地がないからだ。
しかし。
「ねえお父さん、おじさん。キアラともう一度だけ、話がしてみたいんだ!!・・・だめ、かな?」
「危険な事はしないわ、危なくなったらすぐ止めるから!!だからお父さん達、お願いよ。もう一回、キアラと話をさせて?」
「・・・・・」
「うーむ・・・!!」
それを聞いた清十郎とダーヴィデは、また唸ると同時に考え込んでしまっていた、正直に言って二人としてみれば、キアラと言うのは元がそうでは無かったとしてもいまや、悪霊化する一歩手前のような存在に映っていたのであり、非常に危険な存在であると認識して差し支えない、と考えられていたのであって、そしてそれは楓もベアトリーチェも同じであった。
しかし。
「キアラが今、君達の知っている彼女と同じ状態かどうかは解らないよ?その排他的意志は本物だからね?」
「・・・・・っ。うん、解ってる!!」
「解っているわ・・・!!」
「もし危なくなったらその時はもう容赦しない、僕らは敢然と彼女の前に立ちはだかって強制的に成仏させる、それでも良いかい?」
「うん、それでいいよ!!」
「構わないわ。だからお願いよ、もう一回だけ、話をさせて・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「うーん・・・」
子供達のその言葉に、その場にいた大人達4人は思わず唸って考え込んでしまっていた、本音を言えば反対であり、そもそも論として子供達の身の安全を考えるのならば、どうすれば良いのか、と言うその決定に是非も無かった。
「メリアリアを一番最初に行動して守ってくれたのは蒼太だ、だから私は蒼太の決断を支持するだろう!!」
「うむ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
父親達二人はそう言って納得したモノの、母親達はそうでは無いらしかった、正直に言って暫くの間は逡巡しており、どうしたモノかと考えていたモノの、しかし。
「子供達がそうしたい、と言うのであれば・・・」
「仕方が無いねぇ、それに確かにメリアリアを一番最初に助けてくれたのは蒼太なんだから、私達もそこに異論を挟む余地は無いよ?」
“ただし”とベアトリーチェは二人に向けて告げたのだった、“危ない真似は、これっきりにしておくれよ?”と、“あたしゃ心配でしょうがないよ”と。
「・・・うん、解ってる。おばさん、有り難う!!」
「大丈夫よ、無茶はしないから!!」
そう言うと二人はそれまでの清十郎に代わって、先頭切って歩き出した、その足取りは軽くて自信に満ち溢れており、子供達はそれでも、約束通りに大人達がキチンと後を着いて来れる位の速さで城内の探索を開始する。
昨日の段階では結局、1階の階段の踊り場でキアラの霊としゃべっただけで2階へは上がっていなかったから、今日はその続きと言う事になるのだが、階段の踊り場まではなんなくやって来た二人であったがその先に行くのは少し躊躇われた、明らかにキアラは二人も拒否しているように感じられたのである。
しかし。
「・・・・・」
「・・・・・」
“行こう?”と蒼太が告げると、メリアリアも黙って頷いた、そうして注意深く一歩一歩、それでも確かな足取りで階段を昇りきると、そこには2階のフロアが広がっており、見た感じは1階のそれと大差無いように思えるモノの、しかし。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
(す、凄い“妖気”だ・・・!!!)
(こ、これが本当に、キアラの波動なの・・・!!?)
二人は思わず、内心で驚愕してしまっていたモノの、それ程までに“そこ”に堪っていた怒りと悲しみのオーラは激しいモノがあり、かつ濃厚であったのだ。
それでも。
(・・・こんなモノに、負けるもんか!!!)
(こっちにだって、聞きたい事はあるんですからね!!!)
そう思うと蒼太もメリアリアも再び、一歩一歩、確かめるように床を踏み締め歩み始めた、年月を経たフロアは二人が歩く度にギイィィッ、ギイィィッと軋んで撓み、不気味な音を響かせるがしかし、蒼太達はお互いの存在と、己の意志に勇気を持ってそれに立ち向かい、少しずつ少しずつ、“妖気”の濃い方向へと向けて歩を進めて行った。
やがて。
「ううっ。ヒック、グス・・・ッ!!」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
2階の大広間が近付くに連れて、誰かがすすり泣いているかのような声が聞こえて来た、二人はそれに聞き覚えがあった、キアラだ、キアラが泣いているのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は頷き合うと、ゆっくりと大広間に入って行った、すると。
果たしてそこには、一人の少女が蹲(うずくま)りながらベソを掻いていた、二人の予想通りキアラである、昨日と同じ服装のまま、姿形も何もかもが同じでただし、表情と様相だけが違っていた。
「・・・キアラ」
そう声を掛けた蒼太に振り向けた顔はそれでもまだ、人間の原型を留めていた、霊と言うのは基本的に実体が無く、しかも向こうは意識が全てを決定する世界であるため、その自分の今現在、抱いている感情、意志等が立ち所に波動となって己自身に反映される。
喜びや安らぎの中にいる霊ならば、それは光りのオーラを纏った優しい表情となり、反対に怒りや憎しみを抱けば抱くほど、ドス黒い波動を放つ、化け物のような形相となって行くのである。
まだ今現在はラキアラの姿形は人間のそれである、悪霊とは化していない事が伺えるが、さて。
「どうして?どうしてなの?私は何にも悪いことはしていないのに・・・。どうして皆して私を苦しめようとするの・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「貴方達、私を無理矢理あの世に送り込む気でしょ?知っているんだからね!!?」
「キアラお願い、話を聞いて?」
「みんな君のことを思っているからこうして来てくれたんだよ?」
「・・・うそ」
その言葉を聞いた瞬間、キアラがゾッとするような声で二人に告げた。
「なら、ねぇ。私と遊んでよ?遊んで?ねえねえ・・・っ!!」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
“メリー、下がって!!”と蒼太は素早くそう言うと自身は再びメリアリアを庇う位置に立ちはだかるが、それを見たメリアリアは素直に彼の言葉に従うと、少しずつ後退を開始した。
「・・・・・」
「・・・・・」
(いかんな・・・)
一方で。
それを見ていた清十郎とダーヴィデは、素早く臨戦態勢を整えると子供達に自分達の後ろにまで下がるように伝えて、己自身は正面に出て行って直接、キアラと対峙した。
「君がキアラか!?」
「・・・・・」
「娘にまだ、伝えてはならない事を勝手に伝えてくれたようだな?」
「・・・・・」
「君はこの世の住人では無い、潔く成仏したまえ!!」
「・・・いや」
“いやあああぁぁぁぁぁっ!!!”とキアラが叫ぶと同時に全身からドス黒い波動が溢れ出して来た、紛れもなく悪霊化する一歩手前であり、このままでは大変な事になってしまうことが、ハッキリと見て取れた、今回、このまま事態が進めば城は呪われ、それどころか“同調の原理”で付近にいる悪霊達をキアラは次々と呼び込む結果となってしまうだろう、もはや手段は限られている。
強制的にあの世へと送り込んで無理矢理にでも成仏させる、それしか無い。
意を決すると清十郎とダーヴィデは、改めてキアラに向き直りそれぞれ、両手を合わせて呪(まじな)いの言葉と真言とを唱えて気合い一閃、自らの練り上げられた光りの波動をキアラへと叩き付けた。
瞬間に。
キアラが再び吹き飛ばされて行き、床にズダアアアァァァァァンッ!!!!!と叩き付けられる。
霊体と言えども何らかのダメージを負ったのであろう、キアラが苦しそうに呻くモノの、そんな彼女を清十郎が間髪入れずに呪(まじな)いで雁字搦めにして身動きを封じ込め、そしてその間にー。
ダーヴィデが天使達に祈りを捧げてあの世から迎えに来てもらった。
「いやあああぁぁぁぁぁっ!!!嫌だ、嫌だ、嫌だあぁぁぁっ!!私はもっと遊びたいんだっ。成仏なんてしたく無いんただあああぁぁぁぁぁっ!!!」
喚き散らすキアラはしかし、天使達に両手両脚を押さえ付けられてはまるで連行される犯人のようにあの世へと強制的に連れて行かれ、ここに400年来この地で過ごして来たスピリット・キアラは無事に成仏を果たす事となったのである。
「おそらくあれでは向こうに着いても暫くは駄々を捏ねるだろうな・・・!!」
「しかしこの世でそれをやられてはかなわん。霊魂はやはり、霊魂の住むべき世界に住むべきだ・・・」
「全くだねぇ、あの子がもし。ウチらの秘密を来る人来る人に漏らしでもしたなら、今後の家の運営や、私達の活動にも支障を来(きた)す所だったよ・・・」
「・・・・・」
大人達は皆口々にそう言い合っては事が滞りなく済んだ事にホッとして、安堵の表情を浮かべるモノの、子供達は必ずしもその限りでは無かった、確かに今回は、この方法が一番良かったとは思うしこれしか他に方法が無かった事も頷けるモノの、しかし。
(・・・・・)
(・・・・・)
“キアラともう少し、お話しがしてみたかった”と二人は思った、そうしたら双方に納得出来る解決策もあったかも知れない、と言うのに。
「・・・・・」
「・・・・・」
(お父さん達を連れて来たのが、早すぎたのかも知れない・・・)
二人は思ったが、こんな事なら自分達だけでまずは入って、キアラに話を聞くだけ聞いてから、その上で説得に出ても良かったのかも知れなかった、そうすればこんなに急にキアラの態度が急変する事も無かったのかも知れなかったが、しかしその一方で。
二人には父親達の決断の方が正しかった事も解っていた、今回あのまま事態が進めば早かれ遅かれこう言う手段に出るしか無かったであろう事も理解出来ていたつもりであった、結局、キアラにしたっていつかは旅立たなければならなかったのだし、それに無事に成仏出来たのだから良かったのだろうと考える。
「・・・・・」
「・・・・・」
(でもキアラは私達にまだ、何かを話したがっていた、それって一体・・・!?)
それが聞けなかった事が悔やまれるモノの、しかしそれでも二人は今、安らぎと静寂の中にいた、城は嘘のように落ち着きを取り戻し、あの重苦しく立ち込めていた雰囲気は雲散霧消して落ち着いた荘厳さに相応しい清廉な空気が流れ始めていたのだ。
「これで今後は、この城も祟りに怯えることなく一般の人にも開放が出来る、いや有り難う清十郎。助かったよ!!!」
「いや、ダーヴィデの祈りも見事なモノだった。まさかあんなに素早く天使達を召喚するとは・・・」
「管理会社の人にも連絡しないとねぇ、“もう幽霊はいなくなった”って・・・!!」
「みんなホッとするでしょうね。話を聞く限りじゃああの子、他の人達の前にも顔を見せていたみたいだったから・・・!!」
ダーヴィデやベアトリーチェ達の会話を背後で聞きながら、蒼太とメリアリアは改めて、城の探検を父親に申し出てみた。
もう幽霊がいないのであれば、今度こそ自由に城内を彼方此方(あちらこちら)移動して、見てみたいと考えていたのである。
「構わんが一応、みんなで移動してみよう。もう大丈夫だとは思うが万が一にもまだ幽霊等がいたならかなわんからな」
そう言って明るく笑うと。
ダーヴィデは今度は自分が先頭に立って先へ先へと進み始めた、その後を清十郎が努め、子供達を真ん中において母親達が最後尾を固める。
こうして6人は城の残りの部分の探索を開始した、そこに残されていた往時の人々の日記や隠されていた宝物等から、自分達に纏わる更なる秘密が明らかになるとも知らずに。
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蒼太君の家は元々、先祖代々東北地方に住んでいました(そこでお殿様の陰陽師や退魔士等を生業にしていたのです)。
それが安土・桃山時代に西国(中国・四国地方等)へと国替えが行われた際に大名家にくっ付いて移住して行き、そのままそこに住み着いて現地の人々と混血して行きました(そんな訳ですので蒼太君の家には過去に淡路島と徳島県と島根県から何人かお嫁さんが入っています、だから彼等にも“10支族”の血は“それなりには”入っている訳なのです←そう言う意味ではメリアリアちゃんとは遠い親戚に当たるのです)。
そして更に時代が下った大正時代の初め頃に“鍋島のお殿様”から特に、直々に命令を受けてエウロペ連邦の国々の動向を探る為にガリア帝国へと“潜入”して現地に溶け込んだのですが。
それ以来、彼等は故国である大八洲皇国とガリア帝国とを行ったり来たりする生活を続けていたのです(ただし結婚に関しては純血を守るために“なるべく大八洲の人間のみとするように”と家訓で定められていたのですが、蒼太君はメリアリアちゃんとアウロラちゃんとオリヴィアちゃんと結婚する訳ですのでここに来てそれは破られる事になる訳なのです)。
ただしそう言うのを蒼太君はまだ、メリアリアちゃんには秘密にしています(大半教えられていない、と言うのもありますが)、何故ならば神様との約束だからです(神様との修業の際に、神様が直々に“お主の番(つがい)となるべき存在の女子(おなご)達には言っても良い”と言って下さるのですが、その時までは言えないのです。
そしてもう一つ、この時蒼太君はまだ5歳です、普通に考えるならばこの時期に両家で婚約を結ぶ、等というのは考えられませんが、清十郎達もダーヴィデ達も、それぞれの家に伝わりし“秘密の占術”を用いて既にお互いがお互いの結婚相手である事を(そしてついでに言えば蒼太君にはあと二人ほど妻が出来る事等も)キチンと熟知しているのです。
なのでそう言う事もあってダーヴィデはもうこの時期に、“将来的に蒼太君を我が家にもらう”事等を清十郎と約束している訳なのですが、蒼太君に対しては“まだ小さいから何だかよく解ってはいないだろう”と言う事で、“もう少し時が行ったら改めて説明をして、その上で正式に、本人から言質を取ろう”と考えていた訳です。
ところが蒼太君が途中で一度いなくなってしまった為に、“どうしたものか?”と思っていたのですが(本人が無事である、と言う事は、占いで知ってはいたのですが)。
結局、彼は帰って来ました(しかもその時にはメリアリアちゃんと婚約を結んだ状態で)、それで改めて二人を祝福して認め、第165話において親として婚約を公認のモノにした、と言う訳です(それまでは“生きている”と言う卦は出ていても実際、自分の目で見るまでは、“信じられない”、と言う思いの方が強かったのと、“蒼太は幼かったから、もしかしてもう忘れてしまっているのかな?”と言う思いがあったのです。それでそう言う事もあって、二人が婚約を結んで自分達の目の前に現れた時には驚くと同時に、だけどすんなりとそれを受け入れた、と言う訳です)。
そう言う訳で御座います。
敬具。
ハイパーキャノン
「おじさん、ちょっと聞きたい事があるんだ!!」
「・・・・・?」
「なんだい?急に。改まって・・・!!」
その夜。
出先から戻ってきたダーヴィデ達を捕まえて蒼太とメリアリアはその日、自分達の身の上に起きた事を説明した、エトワール・ノイエの古城跡地でキアラと言う少女の幽霊と出会った事、彼女から聞かされた10支族の事、そして自分達カッシーニ家がそれを探す使命を帯びている事等を。
「キアラは言っていたわ、“失われた10支族を探し出す事が自分達の悲願なのよ”って。私、繰り返しお願いされたわ!?」
「おじさん達、何か知っているの?キアラの言った事は、本当なんですか!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
(10支族だと・・・!?)
(何故それを、メリアリアちゃん達カッシーニ家の人々が探し求めているのかしら・・・?)
それを聞いたダーヴィデ達は思わず黙りこくってしまい、清十郎達もまた、各々思案を巡らせていたモノの、彼等も彼等でなぜダーヴィデ達が10支族を求めるのか、どうしてそれを知っているのか、と言う謎が解けずにおり些か困惑していたのである。
「ダーヴィデ伯爵。私達は席を外しておりましょうか?」
「いやいいのですよ清十郎殿、楓殿も。しかしそうか、キアラと言う名のスピリットが、お前と蒼太君にそんな事を告げて来たのか・・・!!」
「お前達にこれを語って聞かせるのは、些か時期が早いと思っていたんだけどねぇ・・・!!」
そう言うと、ダーヴィデ達は重い口を開け始めるが、それによると今から凡そ2700年ほど前に、12支族で纏まっていたヘブライ族が10支族と2支族とに別れてそれぞれ王国を形作っていたのだがその内10支族の北イスラエル王国がアッシリアに、次いで南のユダ王国もバビロニアに敗北して民は散り散りになり、特に南方のユダ王国の民達はその大半が虜囚となった。
ところが。
アッシリアはバビロニアに滅ぼされ、そしてそのバビロニアもまた、ペルシャ帝国のキュロス2世に滅ぼされてしまい、そのお陰もあってバビロニアに捕らえられていたユダ王国の民達は結局は、自分達の元いた土地へと帰還する事が出来たのであるモノのしかし、帰ってみると、本来ならば彼等共々解放されている筈の10支族の姿が何処にも無くて、慌てて記録を追ったのであったがしかし、民達がアッシリアに連行された形跡も無くて、即ち彼等は歴史の表舞台よりある日忽然と姿を消してしまったのだった。
2支族は困惑した、同胞達が全くいなくなってしまい、その影も形も見当たらなくなってしまったのだから、当然である。
以降、“失われた10支族”が何処へ行ったのか、それを調べる事がユダ王国の末裔達の最大急務の一つとなった、というのであり、これが10支族にまつわる、今現在において理解が出来ている記録の全てだと言う事だったのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
“そんな話があったなんて”、とメリアリアが驚愕した表情のままに口を開くが、なるほどそこに関しては良く解った、しかし。
問題は別にあった、どうしてその10支族とやらを、自分の家が探し出さなければならないのか、と言う事が今一ピンと来ないのである、一体どう言う事なのであろうか。
「それはね?メリアリア」
ダーヴィデが娘の疑問に対して口を開いた。
「私達の一族が、その10支族の一つ、“アシェル族”の血を引いているからなのだよ?」
「比率的にはそんなに多くは無いけどね?当時リュディア地方の都市サルディスにいた御先祖様が、その地に流れ着いて来た“アシェル族の一派”を保護して血縁関係を結んだ事が、その始まりなんだそうだよ?」
「・・・・・」
「信じられないわ・・・!!!」
メリアリアがまた口を開いた、“私達の中に、そんな大昔の一族の血が混じっていたなんて”と、驚愕しながらそう告げて。
「それで?」
メリアリアが続けて尋ねた、“10支族の人達は、何処に行ってしまったの?”とそう言って。
「・・・・・」
「それがねぇ、解らないんだよ・・・!!!」
そんな愛娘からの問い掛けに、ダーヴィデが困ったような表情を浮かべて沈黙し、代わって答えたベアトリーチェもまた、難しそうな面持ちでそう告げるが、その後2000年にも渡って彼等を含めた多くの存在が、“失われた10支族”の調査を行って来たモノの、結局はだれも彼もがその正体に辿り着く事は出来なかった、と言うのである。
「ある人達は、首都サマリアがアッシリア軍によって包囲されてしまう前に、船に乗って東の果てを目指して旅立った、と言うんだけどね?なんせ誰も見た訳では無いし、2000年も前の話だからねぇ・・・!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それを蒼太達は黙って聞いていたモノの、彼は父親である清十郎へとチラチラと視線を送っていた、“言ってあげれば良いのに”と、そう思っていたのであるモノの、何をか、と言えばそれは、現在では混血が進んでしまったモノの、かつて彼等の故国である日本に、遥か西方から渡来した一族が存在しており、彼等は淡路島や四国の剣山一帯にコミュニティを持っていた事、日本語のカタカナと古代ヘブライ文字とが恐ろしいほど酷似している事、ワッショイやハラグロイ、アカン(イカン)等、日本語と古代ヘブライ語で共通している言葉がある事、そしてー。
神前で行われる神事が、双方共に非常に似通っている事等を伝えてあげれば良いのに、とそう考えていたのである。
きっとダーヴィデ達は喜び勇んで調査に乗り出すであろうし、その結果として日本と今現在のユダヤ人の人々の距離は一気に縮まる事だろうに、しかし。
清十郎は(楓もだが)一切、何も言わなかった、自分達が言う必要が無い、と言わんばかりの態度である、蒼太はちょっぴり悔しかったがしかし、清十郎に言われた事を思い出していたのである、“今は誰にも言ってはならない”と、“それは神との約束だから”と。
だからそれを聞いた蒼太もまた、黙って口を噤んだまま、何一つ喋らなかった、自身の生い立ち等も聞かされていたモノの、それも含めて全てを秘匿したのである。
「キアラは言っていたわ、その10支族の長こそが、この世に光りをもたらしてくれる、“神の教え”を受け継いでいるのだと!!」
「そんな事まで喋ったのか!?」
「随分とお喋りな幽霊もいたもんだね!!」
と、ダーヴィデ達は思わず感心すると同時に呆れてしまっていた、何処の世界に秘密の教えをペラペラとバラしてしまう幽霊がいると言うのであろうか。
「それってどう言う事なの?家とどんな関係があるの?私達の家の使命って一体なんなの?パパ、ママ!!」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
“今はまだ”と暫しの沈黙の後でダーヴィデ達は口を開いた、“話せることは多くは無い”とそう言って、しかし。
“これ以上、我が家の秘密が外に漏れ出す事は避けたい”とそれだけは力強く言い放った。
「とにかくだ。明日、そのキアラとか言う少女の霊に良く申し聞かせて急いで成仏させねばならん!!」
「これ以上、変な噂が広がっちまっても困りもんだしねぇ・・・!!」
ダーヴィデ達はそう告げると、明日の準備の為にその日はそれでお開きとなって、それぞれの子供達は親に率いられて部屋へと入ったモノの、蒼太もメリアリアも中々寝付けなかった。
明けて次の日の朝ー。
その日は朝から凍えるような寒さであり、吐く息がその前以上に白く映えた、空は灰色に掻き曇り、季節外れの雨が降っていたモノの、しかしそれでも行かないわけにはいかなかった、キアラとの約束があるのである。
それにいい加減、そんな少女を放っておいては今後の自分達の活動にも支障を来すし管理会社の人員達にも申し訳ない、と考えたダーヴィデ一行は意を決しては雨の降り頻る中を“エトワール・ノイエの古城”へと向けて出発していった、昨日は蒼太と駆けっこをしたあの小高い丘も野山も何もかもが一面、空から滴り落ちてくる水の雫に濡れていて、それはそれで取っても幻想的だったのだが今はそれにゆったりと浸っている場合でも無かった、もし強制的に成仏させる、と言う事にでもなっているのであれば、戦闘は避けられない見通しである、蒼太もメリアリアも須(すべから)く身の引き締まる思いがしていた。
やがてー。
城に着くと昨日は確かに開いていた筈の鍵が、今日に限ってしまっていた、キアラが締めたのであろうか、まるでこれから起きる事を予期して抵抗でもしているのであろうか。
「・・・・・」
「パパ・・・」
「大丈夫だ・・・」
蒼太とメリアリアから視線を送られたダーヴィデは、落ち着き払ってそう言った、彼は予(あらかじ)め、スペアの鍵を持っており、それを鍵口に差し込むとー。
“ガチャン”と音がするまで回してエントランスの扉を開けるとー。
そこは一見、昨日とは何も変わらない城であったがしかし、やはり何かが違っていた、何というかこう、城全体の雰囲気が重苦しくて暗いのだ、それにー。
昨日はそんな感じはしなかったモノの、今日に限っては明らかに此方(こちら)を拒否するかのような、そう言った感覚を受けるがどうやらキアラはダーヴィデ達の事を、歓迎してはいないらしい。
「どうやらあんまり、歓迎されてはいないようだ・・・!!!」
「そのようですな・・・」
清十郎の言葉に、彼方此方に目をやりながらもダーヴィデが頷くモノの、それ程までに城の内部の雰囲気は昨日、子供達から聞かされていたモノとは掛け離れており、多少、“そう言った経験”を積んだ者であるならば、明らかに“城の主”が自分達を受け入れてはいない事がよく解ると言うモノだった、とにかく空気が身体全体にのし掛かって来るように重たくて、粘りっ気があるそれである、誰かに見られているかのような感覚も強く纏わり付いて来て背筋がゾッとし、一歩進む毎に体力が余計に消耗されてしまう気がするのだが、しかし。
「・・・えいっ!!!」
と突然、傍らに控えていた清十郎が胸の前で数珠を組んだ両手を重ね合わせると両足を踏ん張って気合い一閃、自身の霊力をぶち当てると、次の瞬間、自分達の背中から寒気が抜けて、それと同時に上の階から“ドカーン”と言うような、何かが吹き飛ばされたような音が聞こえてきた、清十郎が刹那の間に高い霊力を迸らせてキアラの妖気を吹き飛ばしてみせたのである。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「どうだ?少しは楽になっただろう?」
「有り難う、清十郎殿・・・」
驚き戸惑う子供達に、清十郎が優しく告げると、ダーヴィデが彼に再び答えて礼を述べた、どうやらダーヴィデも同じ事をしようとしていたらしく、胸元で手を組んで法術陣を出現させていた。
「いえいえ、大丈夫ですこれくらいは。さ、行きましょう」
“ですが”と清十郎がダーヴィデに告げた、“簡単にはいきそうにありませんな?”と。
「どうやらそのようですな。相手は随分とこの世に、この城に愛着と言うか、執着を持っているようだ!!」
「ええ。まだ子供の内に亡くなったそうですので、尚更遊びたくて仕方が無いのでしょう・・・」
そう述べると一行は清十郎を先頭にして、2階への階段を探して歩み始めた、城の中はとにかく広くて荘厳、雄大であり、往事の繁栄振りを偲ばせる。
廊下に掘られた彫刻や絵画、シャンデリアやロウソク立て等はいずれも見事と言う他無く、この地にやって来た“カッシーニの分家筋”の権勢がよくよく理解する事が出来たのだ。
「2階に昇る階段は何処かな・・・?」
「そこの奥よ・・・!!」
「こっち。この大広間を抜けたところ・・・」
蒼太とメリアリアがそう言うモノの、そこは確かに昨日、二人がキアラの霊と出会った場所でもあった、どうやら彼女はあの場所に一番よく出没するらしい、何となく雰囲気と言うか波動が濃い。
そんな事を二人が考えているとー。
不意に大広間のテーブルの上に並べられていたスプーンやナイフ、フォークや皿等がガタン、ガチャガチャと独りでに揺れて乱れて蠢き始め、しかもその内の幾つかが此方に向かって飛翔して来るでは無いか。
「メリー、危ない!!!」
「きゃっ!!?」
咄嗟に蒼太が背中を晒して少女を庇うが冬の気候の中での事、厚手な格好をして来た事が功を奏してメリアリアには勿論、彼女を庇った蒼太にも傷一つ付かなかった。
ただし。
「ふぅ・・・っ。はぁー、ビックリした・・・」
「蒼太っ!!?」
メリアリアが叫ぶと今度はディッシュが数枚、蒼太目掛けて飛んで来るモノの、それを蒼太は避けずに全て自身の身体で受け止めて見せた、避ければメリアリアに当たってしまうために他に方法は無かったのであるモノの、今回もそれ程強いダメージは負わずに済み、例えるなら背中に雪合戦をしていて、その雪の玉を当てられた程度の感触である。
それよりも。
「蒼太君、大丈夫か!?」
「僕は平気だけど、お皿が・・・」
「何を言っているんだ、君の方が心配だ、怪我が無くて良かった・・・!!」
「有難う御座います、おじさん・・・。メリーは大丈夫だった?」
「うん、蒼太のお陰で平気よ!!?でもごめんなさい、私のせいで・・・!!!」
「僕は全然、大丈夫さ!!これぐらいでやられるほど、柔じゃないよ!!!」
「ふ・・・っ!!」
それを聞いた清十郎が思わず吹いてしまうモノの、今度は笑っていられる事態などでは決して無かった、残りのナイフやフォークの群れが一斉に、蒼太達目掛けて襲い掛かってきたのである。
ところが。
今度は大人達が黙ってはいなかった、子供達の前に颯爽と立ちはだかった清十郎とダーヴィデが、それを自らのオーラを込めた手刀で全て叩き落として見せたのである、流石にこの時の蒼太にはそんな芸当はまだ出来なかったから、思わず“凄い・・・”と唸ってしまうが、しかし。
「何を言っているんだ蒼太君、君にもこれ位は出来るようになってくれなければ、困るぞ!?」
「その通りだ、蒼太。お前は私達を凌がなければならないのだからね・・・!!」
そう言うと二人は更にまた、襲い来るナイフやフォークの群れを武器も使わず弾き飛ばして無力化し、最終的には蒼太の元へは一個たりとも、その鋭峰が届く事は無かった。
「さっ。もう大丈夫だ・・・!!」
「もう、後は飛ばせるモノは無いだろうからな・・・!!」
「うん、お父さん、そしておじさん有り難う。って言うかおじさん達、凄く強いんだね!?」
「いやいや、なになに。強いと言うのだったら君の方が強いさ。何しろ咄嗟にメリアリアを庇ってくれたのは君だったのだから・・・!!」
「本当さ、蒼太。ああ言う時にこそ、人の本性はでるもんさね。あんたはもう立派な戦士だ、勇敢で優しい男の子だよ!!」
「・・・・・」
「・・・・・!!!」
すると。
それをニッコリと笑いながらそう告げるダーヴィデとベアトリーチェの言葉を聞いて一瞬、何事かを言おうとしてしかし、やはり俯いてしまう蒼太へとメリアリアが抱き着くと“有り難う蒼太?”と告げた、“あなたは私を守ってくれたのよ?”と、“私、とっても嬉しいの!!!”とそう言って。
「だからもっと胸を張って?蒼太。あなたは私の、大切な旦那様なんだから・・・!!!」
「なにっ!?」
「あ、あんた達、いつの間に・・・?」
「・・・・・っ!!」
「・・・・・っ!?」
するとそれを聞いたダーヴィデとベアトリーチェが驚愕し、清十郎と楓がハッとなったがそうなのだ、この時初めてメリアリアは蒼太の事を公式に、しかも両親達の目の前で自分の旦那様と認めた訳であり、そしてそれはダーヴィデ達もまた、驚きはあったモノの“まさか”というよりも“やはり”と言った感情の方が強く出ていて特に反対意見を述べなかった。
それほど二人の仲の良さは突出していたのであり、いつも一緒にいて同じ時を共有し続けていたのであるが、それに加えてー。
清十郎達もダーヴィデ達もそれぞれ、自分達の家に伝わる秘密の卜占を行って彼等の運命を知っていたから驚く事は何も無かったのであるモノの、しかし。
「・・・蒼太君。君は将来その。家に本気で婿入りしてくれるつもりでいるのかな?」
「・・・・・」
そのダーヴィデの問い掛けに、蒼太はコクンと頷いた、彼は決して軽い気持ちで応えた訳では勿論無くて、芯から覚悟を決めての返答だったのであるモノの、それを見たダーヴィデは一回“ハアァァッ!!”と天を仰いでゆっくりと息を吐いて応えた。
「それじゃあ君の事は息子として扱う事にするとしようか!!」
“蒼太”とダーヴィデはここに来て初めてこの将来の婿養子の事を呼び捨てで呼んだ、まだ5歳であり幼少の砌(みぎり)ではあったけれども、もうこの瞬間から、蒼太はカッシーニ家に入る事が決まってしまったのであり、そして彼はー。
他の二人の花嫁の家にも同等の扱いをするとして、婿養子として入る事が決まってしまっていたのであった。
「蒼太、頼もしきわが息子よ、娘をどうかよろしく頼むよ?」
「はい、おじさん。どうか宜しくお願い致します!!」
自らの呼び掛けにそう応える蒼太の姿を満足そうに眺めてダーヴィデは、次いで清十郎達へと向き直った。
「この子は家でもらう、確かにな」
「・・・恐縮です!!」
「どうか宜しくお願い致します・・・!!」
「友よ、もう他人行儀な挨拶はいらぬ。私の事は気兼ねなく“ダーヴィデ”と呼んでくれ」
「そうか・・・!!」
それを聞いた清十郎は改めてそう頷くと、ダーヴィデに対して尊称を付けなかった、“ダーヴィデ、息子を宜しく頼むよ”とそう言ってお辞儀をしたのだ。
「ああ。確かにこの子はもらい受けたよ!!」
そう応えて満足そうに蒼太を見つめるダーヴィデの瞳には、並々ならぬ期待感と暖かさとが込められていたのであるが、しかし。
「私の事も、ベアトリーチェと呼んでおくれよ、清十郎、楓。私もその方が気が楽だしね!!」
「宜しくお願いね?ベアトリーチェ・・・」
「・・・よろしい」
と自分達も挨拶を交わす夫人達を前にして、それを見たダーヴィデは再び嬉しそうに頷くと“しかし”と一息置いてから告げた。
「今は取り敢えず、キアラの霊を鎮めなければならないな!!」
「うむ、それが先決だな・・・!!」
清十郎の意識もダーヴィデのそれも、今やキアラの討伐に向いていた、もはや自分の可愛い子供達にまで手を出した以上は放っておけない所か勘弁する気等は全く無くて、寧ろ今すぐにでも“強制的に”あの世に送り込んでしまいたい所である。
一方で。
事ここに至って子供達にも異論は全く見受けられなかったがしかし、本音を言えば彼等はもう少し、キアラと話がしてみたい、等と考えていたのであり、蒼太もメリアリアも互いに“相手を攻撃した事は許せない”としながらもそれでもやはり、キアラが根っからの悪霊のようには思えなかったのであった。
だから。
「ねえお父さん・・・」
「どうしてもキアラは成仏させなければダメなのかしら?」
「・・・・・?」
「当然だろう?君達にもこんな事をするようなスピリットなのだ、悪霊化する前に、あの世に行ってもらった方が良いからね!!」
「悪いけどね、蒼太、メリアリア。私もこの人の意見に賛成さね。こんな事をするようじゃ、いつ悪霊化してもおかしくは無いからねぇっ!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
その質問に対するダーヴィデの言葉を受けて、ベアトリーチェまでもがそう告げるモノの、それを聞くと蒼太もメリアリアもそれ以上に強くは、何も言い返せなくなってしまっていた、事実としてキアラが敵対行動を取ってきたのは事実であり、そこには何ら異論を挟む余地がないからだ。
しかし。
「ねえお父さん、おじさん。キアラともう一度だけ、話がしてみたいんだ!!・・・だめ、かな?」
「危険な事はしないわ、危なくなったらすぐ止めるから!!だからお父さん達、お願いよ。もう一回、キアラと話をさせて?」
「・・・・・」
「うーむ・・・!!」
それを聞いた清十郎とダーヴィデは、また唸ると同時に考え込んでしまっていた、正直に言って二人としてみれば、キアラと言うのは元がそうでは無かったとしてもいまや、悪霊化する一歩手前のような存在に映っていたのであり、非常に危険な存在であると認識して差し支えない、と考えられていたのであって、そしてそれは楓もベアトリーチェも同じであった。
しかし。
「キアラが今、君達の知っている彼女と同じ状態かどうかは解らないよ?その排他的意志は本物だからね?」
「・・・・・っ。うん、解ってる!!」
「解っているわ・・・!!」
「もし危なくなったらその時はもう容赦しない、僕らは敢然と彼女の前に立ちはだかって強制的に成仏させる、それでも良いかい?」
「うん、それでいいよ!!」
「構わないわ。だからお願いよ、もう一回だけ、話をさせて・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「うーん・・・」
子供達のその言葉に、その場にいた大人達4人は思わず唸って考え込んでしまっていた、本音を言えば反対であり、そもそも論として子供達の身の安全を考えるのならば、どうすれば良いのか、と言うその決定に是非も無かった。
「メリアリアを一番最初に行動して守ってくれたのは蒼太だ、だから私は蒼太の決断を支持するだろう!!」
「うむ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
父親達二人はそう言って納得したモノの、母親達はそうでは無いらしかった、正直に言って暫くの間は逡巡しており、どうしたモノかと考えていたモノの、しかし。
「子供達がそうしたい、と言うのであれば・・・」
「仕方が無いねぇ、それに確かにメリアリアを一番最初に助けてくれたのは蒼太なんだから、私達もそこに異論を挟む余地は無いよ?」
“ただし”とベアトリーチェは二人に向けて告げたのだった、“危ない真似は、これっきりにしておくれよ?”と、“あたしゃ心配でしょうがないよ”と。
「・・・うん、解ってる。おばさん、有り難う!!」
「大丈夫よ、無茶はしないから!!」
そう言うと二人はそれまでの清十郎に代わって、先頭切って歩き出した、その足取りは軽くて自信に満ち溢れており、子供達はそれでも、約束通りに大人達がキチンと後を着いて来れる位の速さで城内の探索を開始する。
昨日の段階では結局、1階の階段の踊り場でキアラの霊としゃべっただけで2階へは上がっていなかったから、今日はその続きと言う事になるのだが、階段の踊り場まではなんなくやって来た二人であったがその先に行くのは少し躊躇われた、明らかにキアラは二人も拒否しているように感じられたのである。
しかし。
「・・・・・」
「・・・・・」
“行こう?”と蒼太が告げると、メリアリアも黙って頷いた、そうして注意深く一歩一歩、それでも確かな足取りで階段を昇りきると、そこには2階のフロアが広がっており、見た感じは1階のそれと大差無いように思えるモノの、しかし。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
(す、凄い“妖気”だ・・・!!!)
(こ、これが本当に、キアラの波動なの・・・!!?)
二人は思わず、内心で驚愕してしまっていたモノの、それ程までに“そこ”に堪っていた怒りと悲しみのオーラは激しいモノがあり、かつ濃厚であったのだ。
それでも。
(・・・こんなモノに、負けるもんか!!!)
(こっちにだって、聞きたい事はあるんですからね!!!)
そう思うと蒼太もメリアリアも再び、一歩一歩、確かめるように床を踏み締め歩み始めた、年月を経たフロアは二人が歩く度にギイィィッ、ギイィィッと軋んで撓み、不気味な音を響かせるがしかし、蒼太達はお互いの存在と、己の意志に勇気を持ってそれに立ち向かい、少しずつ少しずつ、“妖気”の濃い方向へと向けて歩を進めて行った。
やがて。
「ううっ。ヒック、グス・・・ッ!!」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
2階の大広間が近付くに連れて、誰かがすすり泣いているかのような声が聞こえて来た、二人はそれに聞き覚えがあった、キアラだ、キアラが泣いているのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は頷き合うと、ゆっくりと大広間に入って行った、すると。
果たしてそこには、一人の少女が蹲(うずくま)りながらベソを掻いていた、二人の予想通りキアラである、昨日と同じ服装のまま、姿形も何もかもが同じでただし、表情と様相だけが違っていた。
「・・・キアラ」
そう声を掛けた蒼太に振り向けた顔はそれでもまだ、人間の原型を留めていた、霊と言うのは基本的に実体が無く、しかも向こうは意識が全てを決定する世界であるため、その自分の今現在、抱いている感情、意志等が立ち所に波動となって己自身に反映される。
喜びや安らぎの中にいる霊ならば、それは光りのオーラを纏った優しい表情となり、反対に怒りや憎しみを抱けば抱くほど、ドス黒い波動を放つ、化け物のような形相となって行くのである。
まだ今現在はラキアラの姿形は人間のそれである、悪霊とは化していない事が伺えるが、さて。
「どうして?どうしてなの?私は何にも悪いことはしていないのに・・・。どうして皆して私を苦しめようとするの・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「貴方達、私を無理矢理あの世に送り込む気でしょ?知っているんだからね!!?」
「キアラお願い、話を聞いて?」
「みんな君のことを思っているからこうして来てくれたんだよ?」
「・・・うそ」
その言葉を聞いた瞬間、キアラがゾッとするような声で二人に告げた。
「なら、ねぇ。私と遊んでよ?遊んで?ねえねえ・・・っ!!」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
“メリー、下がって!!”と蒼太は素早くそう言うと自身は再びメリアリアを庇う位置に立ちはだかるが、それを見たメリアリアは素直に彼の言葉に従うと、少しずつ後退を開始した。
「・・・・・」
「・・・・・」
(いかんな・・・)
一方で。
それを見ていた清十郎とダーヴィデは、素早く臨戦態勢を整えると子供達に自分達の後ろにまで下がるように伝えて、己自身は正面に出て行って直接、キアラと対峙した。
「君がキアラか!?」
「・・・・・」
「娘にまだ、伝えてはならない事を勝手に伝えてくれたようだな?」
「・・・・・」
「君はこの世の住人では無い、潔く成仏したまえ!!」
「・・・いや」
“いやあああぁぁぁぁぁっ!!!”とキアラが叫ぶと同時に全身からドス黒い波動が溢れ出して来た、紛れもなく悪霊化する一歩手前であり、このままでは大変な事になってしまうことが、ハッキリと見て取れた、今回、このまま事態が進めば城は呪われ、それどころか“同調の原理”で付近にいる悪霊達をキアラは次々と呼び込む結果となってしまうだろう、もはや手段は限られている。
強制的にあの世へと送り込んで無理矢理にでも成仏させる、それしか無い。
意を決すると清十郎とダーヴィデは、改めてキアラに向き直りそれぞれ、両手を合わせて呪(まじな)いの言葉と真言とを唱えて気合い一閃、自らの練り上げられた光りの波動をキアラへと叩き付けた。
瞬間に。
キアラが再び吹き飛ばされて行き、床にズダアアアァァァァァンッ!!!!!と叩き付けられる。
霊体と言えども何らかのダメージを負ったのであろう、キアラが苦しそうに呻くモノの、そんな彼女を清十郎が間髪入れずに呪(まじな)いで雁字搦めにして身動きを封じ込め、そしてその間にー。
ダーヴィデが天使達に祈りを捧げてあの世から迎えに来てもらった。
「いやあああぁぁぁぁぁっ!!!嫌だ、嫌だ、嫌だあぁぁぁっ!!私はもっと遊びたいんだっ。成仏なんてしたく無いんただあああぁぁぁぁぁっ!!!」
喚き散らすキアラはしかし、天使達に両手両脚を押さえ付けられてはまるで連行される犯人のようにあの世へと強制的に連れて行かれ、ここに400年来この地で過ごして来たスピリット・キアラは無事に成仏を果たす事となったのである。
「おそらくあれでは向こうに着いても暫くは駄々を捏ねるだろうな・・・!!」
「しかしこの世でそれをやられてはかなわん。霊魂はやはり、霊魂の住むべき世界に住むべきだ・・・」
「全くだねぇ、あの子がもし。ウチらの秘密を来る人来る人に漏らしでもしたなら、今後の家の運営や、私達の活動にも支障を来(きた)す所だったよ・・・」
「・・・・・」
大人達は皆口々にそう言い合っては事が滞りなく済んだ事にホッとして、安堵の表情を浮かべるモノの、子供達は必ずしもその限りでは無かった、確かに今回は、この方法が一番良かったとは思うしこれしか他に方法が無かった事も頷けるモノの、しかし。
(・・・・・)
(・・・・・)
“キアラともう少し、お話しがしてみたかった”と二人は思った、そうしたら双方に納得出来る解決策もあったかも知れない、と言うのに。
「・・・・・」
「・・・・・」
(お父さん達を連れて来たのが、早すぎたのかも知れない・・・)
二人は思ったが、こんな事なら自分達だけでまずは入って、キアラに話を聞くだけ聞いてから、その上で説得に出ても良かったのかも知れなかった、そうすればこんなに急にキアラの態度が急変する事も無かったのかも知れなかったが、しかしその一方で。
二人には父親達の決断の方が正しかった事も解っていた、今回あのまま事態が進めば早かれ遅かれこう言う手段に出るしか無かったであろう事も理解出来ていたつもりであった、結局、キアラにしたっていつかは旅立たなければならなかったのだし、それに無事に成仏出来たのだから良かったのだろうと考える。
「・・・・・」
「・・・・・」
(でもキアラは私達にまだ、何かを話したがっていた、それって一体・・・!?)
それが聞けなかった事が悔やまれるモノの、しかしそれでも二人は今、安らぎと静寂の中にいた、城は嘘のように落ち着きを取り戻し、あの重苦しく立ち込めていた雰囲気は雲散霧消して落ち着いた荘厳さに相応しい清廉な空気が流れ始めていたのだ。
「これで今後は、この城も祟りに怯えることなく一般の人にも開放が出来る、いや有り難う清十郎。助かったよ!!!」
「いや、ダーヴィデの祈りも見事なモノだった。まさかあんなに素早く天使達を召喚するとは・・・」
「管理会社の人にも連絡しないとねぇ、“もう幽霊はいなくなった”って・・・!!」
「みんなホッとするでしょうね。話を聞く限りじゃああの子、他の人達の前にも顔を見せていたみたいだったから・・・!!」
ダーヴィデやベアトリーチェ達の会話を背後で聞きながら、蒼太とメリアリアは改めて、城の探検を父親に申し出てみた。
もう幽霊がいないのであれば、今度こそ自由に城内を彼方此方(あちらこちら)移動して、見てみたいと考えていたのである。
「構わんが一応、みんなで移動してみよう。もう大丈夫だとは思うが万が一にもまだ幽霊等がいたならかなわんからな」
そう言って明るく笑うと。
ダーヴィデは今度は自分が先頭に立って先へ先へと進み始めた、その後を清十郎が努め、子供達を真ん中において母親達が最後尾を固める。
こうして6人は城の残りの部分の探索を開始した、そこに残されていた往時の人々の日記や隠されていた宝物等から、自分達に纏わる更なる秘密が明らかになるとも知らずに。
ーーーーーーーーーーーーー
蒼太君の家は元々、先祖代々東北地方に住んでいました(そこでお殿様の陰陽師や退魔士等を生業にしていたのです)。
それが安土・桃山時代に西国(中国・四国地方等)へと国替えが行われた際に大名家にくっ付いて移住して行き、そのままそこに住み着いて現地の人々と混血して行きました(そんな訳ですので蒼太君の家には過去に淡路島と徳島県と島根県から何人かお嫁さんが入っています、だから彼等にも“10支族”の血は“それなりには”入っている訳なのです←そう言う意味ではメリアリアちゃんとは遠い親戚に当たるのです)。
そして更に時代が下った大正時代の初め頃に“鍋島のお殿様”から特に、直々に命令を受けてエウロペ連邦の国々の動向を探る為にガリア帝国へと“潜入”して現地に溶け込んだのですが。
それ以来、彼等は故国である大八洲皇国とガリア帝国とを行ったり来たりする生活を続けていたのです(ただし結婚に関しては純血を守るために“なるべく大八洲の人間のみとするように”と家訓で定められていたのですが、蒼太君はメリアリアちゃんとアウロラちゃんとオリヴィアちゃんと結婚する訳ですのでここに来てそれは破られる事になる訳なのです)。
ただしそう言うのを蒼太君はまだ、メリアリアちゃんには秘密にしています(大半教えられていない、と言うのもありますが)、何故ならば神様との約束だからです(神様との修業の際に、神様が直々に“お主の番(つがい)となるべき存在の女子(おなご)達には言っても良い”と言って下さるのですが、その時までは言えないのです。
そしてもう一つ、この時蒼太君はまだ5歳です、普通に考えるならばこの時期に両家で婚約を結ぶ、等というのは考えられませんが、清十郎達もダーヴィデ達も、それぞれの家に伝わりし“秘密の占術”を用いて既にお互いがお互いの結婚相手である事を(そしてついでに言えば蒼太君にはあと二人ほど妻が出来る事等も)キチンと熟知しているのです。
なのでそう言う事もあってダーヴィデはもうこの時期に、“将来的に蒼太君を我が家にもらう”事等を清十郎と約束している訳なのですが、蒼太君に対しては“まだ小さいから何だかよく解ってはいないだろう”と言う事で、“もう少し時が行ったら改めて説明をして、その上で正式に、本人から言質を取ろう”と考えていた訳です。
ところが蒼太君が途中で一度いなくなってしまった為に、“どうしたものか?”と思っていたのですが(本人が無事である、と言う事は、占いで知ってはいたのですが)。
結局、彼は帰って来ました(しかもその時にはメリアリアちゃんと婚約を結んだ状態で)、それで改めて二人を祝福して認め、第165話において親として婚約を公認のモノにした、と言う訳です(それまでは“生きている”と言う卦は出ていても実際、自分の目で見るまでは、“信じられない”、と言う思いの方が強かったのと、“蒼太は幼かったから、もしかしてもう忘れてしまっているのかな?”と言う思いがあったのです。それでそう言う事もあって、二人が婚約を結んで自分達の目の前に現れた時には驚くと同時に、だけどすんなりとそれを受け入れた、と言う訳です)。
そう言う訳で御座います。
敬具。
ハイパーキャノン
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