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ガリア帝国編

メリアリア・カッシーニ編11

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 年が明けてー。

 日付は1月の18日、火曜日になっていた、メリアリアの誕生日は22日の土曜日なので、あと4日後に迫っていたのだ。

 今年も去年に続いてカッシーニ家(ハーズィ)から正式な招待状が届いたのだが、既にクリスマス会にも招待されていた蒼太達一家はその席で“誕生日会にも来て欲しい”旨の言付けを受けていたから、“喜んで出席する”と言う返答をしていたのだ。

「今年も家は、近親者だけで済ますつもりだから!!!」

 学校が始まって、二人で登校している最中にメリアリアが告げた。

「でもパーティー自体は盛大にするつもりだってパパが言っていたの、だから必ず来てね?約束よ?」

「うん、解った。必ず行くね?」

「ねえ蒼太、それともう一つあるのだけれどー」

 とメリアリアが申し訳なさそうな、それでいて神妙そうな面持ちとなってこの二つ年下の幼馴染(ボーイフレンド)に告げて来る。

「もし蒼太の方で負担になるようだったなら、無理にプレゼントを持って来なくとも良いのよ?クリスマスにもあんなに素晴らしい刀を贈ってもらったのだから!!!」

 とメリアリアが告げるがクリスマス会にも参加を促されていた蒼太一家はメリアリアのために、一振りの太刀を用意して彼女に贈ったのであるモノの、しかもそこにはある、スペシャルな仕掛けが施されていた、と言うのは蒼太自身の発案でまだ未熟な、とは言えども彼が清十郎と楓の監修の元で必死になって祈りを捧げ、刀自体に“退魔の呪(まじな)い”を、それも念入りに掛けたモノをプレゼントとして贈ったのであった。

 既に呪文も使えるようになっていた上に、何度も練習して臨んだモノだったから、特に難解な箇所は無かったし、また術式自体に確かな手応えを感じた蒼太はだから、今度の誕生日会にも再び、“魔除けの願掛け”を施した品をメリアリアにプレゼントとして贈るつもりであり、その為にここ数週間、準備をし続けてきたのである。

 だから。

「全然、平気だよ?メリー。負担になんか、なってないから!!だからそんな事、言わないでよ。大丈夫だから。ね!!?」

「う、うん。それだったのならば、良いのだけれど・・・!!!私、もしかして我が儘を言って蒼太を困らせてしまっているのではないかしら、って思ってしまったモノだから・・・!!!」

「全然、そんな事は無いってば!!!」

 とメリアリアからのその言葉に、蒼太が驚いてそう応えるモノの、彼女はいつも自分と一緒にいてくれるこの少年に仄(ほの)かな恋心と感謝と同時に、“もしかして自分は我が儘を言って、蒼太に迷惑を掛けているのではないか?”と言う恐怖を抱いてしまっていたのだ。

「僕、メリーと一緒にいられて本当に楽しいもん、凄く嬉しいもん。嘘じゃ無いよ?誓って言う!!!」

「本当に!!?」

「うん、本当に!!!」

 蒼太からのその言葉にホッと胸を撫で下ろしながらも“良かった!!!”と呟いて漸く幾分、気が軽くなったメリアリアはまた、それと同時に自身も喜びを覚えて心が底から暖かくなって来るのを感じるモノの、蒼太は自分と一緒にいられる事が“凄く嬉しい”と言ってくれたのであり、思いを寄せている人が、自分と同じ気持ちを共有してくれていたと言う事が、堪らなく幸せで快活で、どうにも止まらなくなってしまった。

「そうよね、ごめんなさい。変な事を言ってしまって!!!でも良かったわ?蒼太が私と気持ちで・・・!!!」

「うん・・・っ!!!」

 それを聞いた蒼太もまた、嬉しい心持ちになってしまっていた、彼は純粋に“良かった”と思っていた、“メリーが自分と同じ気持ちで本当に良かった”と。

 そうだ、メリアリアが蒼太に対して抱いていたように、蒼太もまた、メリアリアの事を意識していた、まだ“一緒にいて楽しい”だとか“気分が安らぐ”と言ったそんな感じのモノであったがそれでも、朧気ながらも“好き”だと言う気持ちはあったし、それになによりかによりの話としては、“友達を超えた大切な人”と言う認識もこの頃になるとハッキリと芽生えつつあったのだった。

「ねえ、ところで蒼太?」

「うん?なにさ、メリー・・・」

「蒼太は私の事、今年は誘ってくれないの?」

「えっ!?何にさ?」

「もうっ。解ってるくせに!!!」

「!?!?!?!?」

「蒼太の、お誕生日会によ?」

「あっ!?」

 いけないと、蒼太は思った、メリアリアの誕生日会に夢中になるあまりにすっかり忘れてしまっていたのだが、そうだった、来月の2月は今度は自分の誕生日会があるのであり、そこに去年に続いてメリアリアを招待しなければならない。

「でもメリー、僕んちの誕生日会って、メリーの所のやつに比べれると、すっごく小さくて恥ずかしいよぅ・・・っ!!」

「あらっ!!?」

 とそれを聞いたメリアリアが蒼太に言った、“蒼太、忘れちゃったの!!?”とそう告げて。

「言ったでしょう?“心や気持ちが大事なんだ”って。一番大事な事は、心や気持ちが込められているかどうかよ?パーティーの規模なんて、そこは大した問題じゃ無いわ!!!」

「う、うん。それはよく解っているんだけど・・・!!!」

「それに楓おばさまの作る手料理は、本当に見事で美味しかったわ、家のシェフ達に負けない位にね?だから蒼太ももっと自身を持って良いわ、本当よ!!?」

「そ、そうかな・・・?」

 と、それを聞いた蒼太はまた嬉しくなってしまい、些か照れ笑いを浮かべていた、彼は別にマザコンでは無かったのだけれども、それでも、やはり母親の事は大好きで父と並んで自慢の母でもあったから、その母の事を褒めてもらえた事は素直にうれしかったのである。

 だけど。

「有り難う、メリー!!!でも、僕・・・!!」

「もう、蒼太ったら。言ってくれたら私と合同のパーティーにしてあげたのに!!なんなら今からでもやってあげましょうか!!?」

「い、良いよ、大丈夫だよ、ちゃんとやるから!!そ、それにそんな事したら、せっかく来てくれた親族の人達に悪いじゃんか!!」

「あらっ!!?」

 とそれを聞いたメリアリアが再び、ツインテールの髪の毛をファサッと揺らしながら蒼太に向き直って言った。

「別に気にしなくても良いのよ?あの人達だって単にお祭り騒ぎがしたくて来ているだけだから。それにあなたの事だって、父が話して聞かせているし、中には“会ってみたい”って思っている人だっているのよ?悪い感情を持っている人なんて、いやしないわよ!!?」

「うん、有り難う。でも平気だよ?ちゃんと誕生日会は家で開くから・・・」

「本当に?蒼太・・・!!!」

「うん、本当に。約束するよ、メリーも招待するから・・・!!!」

「・・・・・!!!」

 とそう言ってそれでも、何処か申し訳なさそうに、それでいて寂しそうに微笑む蒼太を見ている内にメリアリアは叫んでいた、“来年は家で一緒に誕生日会をしましょう!!?”とそう言って。

「ええっ!?い、良いってば、メリーッ!!!」

「ダメよ、蒼太。未来の旦那様の誕生日会を共に祝えないなんて、妻として失格だわ?それに私、あなたの事もキチンとお祝いしてあげたいの!!!」

 とメリアリアは告げた、“二人で共に、盛大に誕生日をお祝いしましょう!!?”とそう言って。

「今年は蒼太が開くって言うからそれで良いとしても。だけど来年からは二人で一緒にお祝いしましょう?私、蒼太ともっと二人で過ごしたいもの。ね?蒼太だってそうでしょう!!?」

「当たり前じゃないか!!!」

 と蒼太は本気でそう応えた。

「僕も、メリーと一緒だよ?メリーと一緒だと楽しいし、嬉しいもの。僕だってメリーと一緒にいたいよ、ずっとずっと側にいたいし、いて欲しい!!!」

「良かった!!!」

 とそれを聞いたメリアリアはまたニッコリと微笑んで蒼太へと向き直るモノの、メリアリアは少年のこう言う自分に向ける必死さと言うか真剣さが、何よりも眩しくて喜ばしいモノだったのだ、凄く確かなモノに感じられて満たされるモノだったのだ。

「私も、なるべく蒼太と一緒にいたいの、だからね?来年からは、私と一緒に誕生日会をして、一緒にみんなに祝ってもらいましょう?一緒に美味しい料理を食べて、お話しをして、プレゼントも交換しあって。みんな蒼太と一緒が良いの!!!」

「メリー・・・!!!」

 “うん、解った!!!”と蒼太は頷いていた、彼としても、ここまでメリアリアに言ってもらえたのならば、無下に断る訳には行かないし、第一その理由が無い、それになによりかによりの話としては、彼だってメリアリアと一緒にいたいのであり、それを推奨しこそすれ、拒絶する訳など、どこにもあろう筈も無かったのである。

「じゃあ来年からは、楽しみね!!?パパもママもきっと喜ぶわ、だって二人とも、蒼太の事が本当に大好きだもの!!!」

「おじさんもおばさんも、とっても明るくて優しい人達だから、僕も大好きだよ!!?」

「・・・・・っっっ❤❤❤❤❤❤❤」

 その言葉を蒼太が発した途端に、メリアリアは堪らなくなって蒼太に抱き着いていた、蒼太がその場のノリや雰囲気で言葉を変えたり、お世辞を言ったりする人間で無い事は、メリアリアが一番、よく知っている、つまりは本心から出た言葉なのであろう。

 まだ5歳で少し言葉遣いに辿々しい所もあるけれど、それでも彼の放つそれは、しっかりとした真実の重みを含んでいた、だからこそメリアリアは嬉しくて仕方が無くなってしまったのである、彼が本心から自分の両親に対してそう思ってくれているのだ、と感じた時に、そんな彼への猛烈なまでの感謝と感激とで、遂には自分を抑える事が、全く出来なくなってしまったのだ。

「蒼太っ!!!」

「うわっ!!?」

 付近に人がいない事をいい事に、登校する途次(みちすがら)だと言うにも関わらずにメリアリアは少年に抱き着いたまま身体をグイグイッと擦り寄せてくる。

「蒼太っ、蒼太蒼太蒼太蒼太蒼太っ。蒼太ああぁぁぁっっ!!!!!」

「う、うわああぁぁぁっ!!?メリー、ちょっと
・・・っ!!!」

「いやああぁぁぁっ!!!蒼太っ。蒼太、蒼太ああぁぁぁっっっ❤❤❤❤❤❤❤」

 メリアリアはもう夢中になって蒼太に己を曝け出し、その全てを捧げるかのようにしてその身を力いっぱいに押し付け続ける。

 いつ通行人が来るかも知れないと言うのに、そんな事等お構いなしに抑えきれなくなってしまった蒼太への思いを爆発させては彼に抱き着き、艶やかなその肢体を余す事無く密着させた。

 やがて。

「スンスンッ。はあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!?ふうううぅぅぅぅぅ・・・・・っっっ!!!!!」

 漸く心が満たされたのか、最後に蒼太の匂いを嗅いでそれを、肺いっぱいにまで吸い込ませると、名残惜しそうに抱擁を解いては我が身を離す。

 一歩下がって彼の両手を握り、笑顔でニッコリと微笑むと、“行きましょ!?”と告げては再びとなる、学校への道を急ぐが、そんな日常を繰り返している内に、アッという間に4日間が過ぎ去ってしまい、土曜日の朝となった。

 メリアリアの誕生日会は朝の10時から始まるために、タキシードや燕尾服、そしてドレス等に身を包んだ蒼太達一行は約束の時間10分前には会場であるカッシーニ家の邸宅に到着するように逆算して家を出発するべく準備を整えていた、すると。

(あ、あれぇっ?おかしいな、メリーの気配がする・・・!!?)

 そう感じて蒼太がしかし、“だけどメリーは、今日はパーティーの準備で大忙しな筈だけれども・・・?”等と疑問に思っていると突然“ピンポーン”、と家のチャイムが鳴り響いて何事かと思ってインターホン越しに出てみると、なんとそこには今日のパーティーの主役である筈のメリアリア・カッシーニその人が立っていたのだ。

「蒼太、蒼太いるのでしょう?お迎えに来たの、一緒に行きましょう!!?」

「・・・・・っ!!!」

 蒼太はビックリしてしまった、正直に言って招待をしてくれた側が招待された方を迎えに来る、等と言う話は後にも先にも聞いた事が無かったのである。

 だけど。

「蒼太!!!」

「うわっ!!?」

 蒼太がガチャリ、ガコンとドアの二重施錠共々ロックを外して取っ手を引き下げ、ドアを開くとメリアリアが感極まって蒼太にいきなり抱き着いて来た。

 この時のメリアリアは全身を純白のボールガウンとオペラグローブを装着しており、足も白いパーティー・サンダルと言った、一見すると花嫁の様な出で立ちをしていて、その格好のまま、蒼太に抱き着いて来たのである。

 顔には薄らとナチュラル・メイクが施されていて頭には光沢のある真っ白なリボンを付けており、全身からは彼女の体臭である、高貴なるバラの花糖蜜の匂いが鼻腔を強く擽って来る。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “どう、かな・・・?”と一頻り、抱擁を交わした後でメリアリアが身体を密着させたまま、蒼太に尋ねて来るモノの、正直に言って、蒼太はビックリとしてしまっていた、この時のメリアリアの行動にもだがそれ以上にその美しさと気品にである、それ程までにその時のメリアリアは美しく輝いて見えたのだった。

「綺麗だよ。うんと綺麗で可愛いよメリー、本当に花嫁様みたいだ!!!」

「・・・・・っ。ありがとう!!!!!」

 蒼太の言葉にそう言って応えると、メリアリアはもう一度、少年へと強く抱き着いた、彼にこそ一番、言ってもらいたい言葉であったしそれになにより、蒼太にだけは一番、認めて欲しかったのである。

「さあ、蒼太。行きましょう?今日は私達のパーティーなんだもの、あなたと私のね?主役がいなくちゃ、始まらないわ!!!」

「ええっ!?ぼ、僕も?なんで?」

「だってあなたは私の旦那様になる人なんだもの、私の、妻のエスコートをして下さらなきゃならないのっ!!!」

「え、えっ!?でも僕、エスコートなんかしたこと無いよ!!?」

「いつもしてくれていたじゃない!!?私を助けてくれた時みたいに手を取って、私を導いてくれれば良いんだわ。ねっ?お願い蒼太、やって欲しいの、私、蒼太にやって欲しいの。どうしてもお願いしたいのっ!!!」

「う、うーん」

「蒼太お願い、いいでしょ?ねっ?」

「・・・・・」

「蒼太、お願いよ・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解ったよ”と、唐突にメリアリアから言われたその言葉にも蒼太は何とか頷いてみせた、“僕、やってみる!!!”とそう告げて。

「・・・・・っ。嬉しいっ!!!」

 そんな幼馴染(ボーイフレンド)の気概と覚悟に、メリアリアはそう頷くと再び彼に抱き着いては熱い抱擁を交わすが二人がそうこうしている内に、すっかりと清十郎と楓の準備も整った。

「おや?メリアリア嬢。こんな所まで迎えに来てくれるとは・・・!!」

「蒼太、あなたも隅に置けなくなったわね!!」

 と、幼馴染(ガールフレンド)に抱き着かれている我が子を見るなり、二人はそう言って声を掛けて来るモノの、それを聞いたメリアリアはそれでも暫くの間は蒼太の事を抱擁しつつも離さずにおり、そして蒼太も蒼太でそんな彼女の事を優しく包み込んでいたのであるが、やがてどちらともなく腕を解くと名残惜しそうにお互いを見つめて身体を離した。

 そしてー。

「本日は私のパーティーに出席していただきまして、誠に有難う御座います、おじ様、おば様。お迎えにあがりましたので、どうかごゆるりと楽しんで行って下さいませ!!」

 そう言って、純白のボールガウンの裾を掴んで会釈をすると蒼太の手を引いて“行きましょう?”とそう告げる。

「蒼太、行こう?みんな待っているわ!!!」

「うん!!!」

 その言葉に頷くと、蒼太は彼女に導かれるまま迎えのリムジンへと乗り込むと、その後に清十郎達が続いてバタンと扉が閉められる。

 続いて運転手が運転席に着くと、リムジンはゆっくりと発進して行った、行き先はカッシーニ家の館であり、こことは目と鼻の先だからそれ程の長旅にはならなくて済んだが以外と車だと時間が掛かり、それでも蒼太達が門に入って館の玄関口に到着したのは開始の20分は前だったから、時間的には大分短縮された事になる。

「清十郎!!」

「やあダーヴィデ!!」

「良く来てくれたね?楓も見違えたね?ドレスアップ、中々似合っているよ!!」

「有り難う、ベアトリーチェ。貴女も流石に伯爵夫人と言った出で立ちだわね!!」

 館に到着した蒼太達をダーヴィデ達が出迎えるがそこには既に親族達が詰め掛けて来ており、メリアリアの将来の旦那様を一目見ようと詰め掛けて来る。

「君が蒼太君か?」

「まだ、随分と小さいんだな?」

「まあまだ5歳だもんね?私達の事も解らないかな?」

「・・・・・」

「・・・・・」

 叔父(伯父)や叔母(伯母)、そして様々な従姉妹連中(彼等も大抵は恋人を連れて来ていた)に囲まれながらも蒼太とメリアリアはしかし、口々に“おめでとう!!”と言われて祝福された、従兄弟達からしてみれば、年の離れたメリアリアも妹みたいなものだったのだが蒼太もまた、弟のように映ったらしく、概ね歓迎ムードであっさりと受け入れてくれていたのだ。

 そんな中で。

「行きましょう?蒼太!!!」

「う、うん・・・!!!」

 やや緊張気味の蒼太を、メリアリアが引っ張って行ったが彼女が何処に行くのか、と言えばそれは宴会場の最奥部分、その中央に設えられたスピーチ台である、彼女はここで8歳になるスピーチを行う事になっており、残った時間でそのリハーサルをやるために(そして蒼太に会場を一通り案内させる為に)、自分の歩く道筋や挨拶の手順の確認等を行いつつも彼の手を引っ張っては彼方此方に連れ回して行く。

 テーブルの上には見た事も無い料理が所狭しと並べられていた、ハーブ鳥の丸焼きや超特上肉のシャトー・ブリアン、特製ソースの掛けられているローストビーフの塊やシーザーサラダやフレンチサラダ、木苺のタルトタタンにブルーベリーのソースの掛かったレアチーズケーキ、そしてチョコレートムースに芳醇な匂いの漂う焼きプリン等が、しかも招待客のそれだけでは無くて、使用人達の分までしっかりと用意されていたのだ。

 勿論、食べ物だけが運ばれて来るのでは無い、客達の喉を潤せる様にと各種アルコール類やジュース、紅茶や水等も準備されており、この会に参加する者達が心置きなく寛(くつろ)げる為の配慮がそこかしこになされていた。

「去年もそうだったけれども。メリー、優しいね。みんなの分まで用意しているなんて!!!」

「あ、あらっ!!?」

 と、メリアリアは少し照れたように顔を俯かせて応える。

「私は、ただ当然の事をしているだけだわ。だってみんなにだって、ちゃんとお祝いしてもらいたいし。それに楽しんでもらいたいもの!!!」

 “それに”とメリアリアは更に続けて言った、“私一人の力ではないわ”と、“お金を出してくれているのは、パパとママなんだから”、と。

「それに、料理を作ったり、会場を用意してくれているのもみんなだしね?結局は、大勢の人達に支えてもらっているんだから、私達!!!」

「うん、そっか。そうだよね!!!」

「そうよ?だから私達は幸せにならなければいけないのっ!!!ねえ蒼太?」

「・・・・・?」

「幸せになりましょうね?私達・・・!!!」

「・・・・・っ。うん、僕、メリーと幸せになる!!!」

「・・・・・っ❤❤❤❤❤❤❤」

 “よろしいわ!!!”と蒼太のその言葉にメリアリアが少し赤く上気した、しかし満足そうな顔で頷くと、ちょうど時間が来たらしくて会場がシーンと静まり返る。

「お集まりの紳士淑女の皆さん、今日はよく来て下さった・・・!!」

 まずはダーヴィデのスピーチから始まって、次はメリアリアの挨拶である、と言ってもそんな長々とした挨拶をするつもり等は毛頭無い、誰もそんなモノは望んではいない事は、自分達が聞く側に建たされる恒例の、“校長先生のお話”からも明らかである。

 それに。

「蒼太」

「・・・・・?」

「次は、私が挨拶をする番なのよ?さあ壇上まで私を連れて行って。そのまま手を握っていて!!!」

「解った!!!」

 そう言って頷くと蒼太は彼女の手を取って、スピーチ台までエスコートして行ったのだが、それが中々様になっている、蒼太はいつもこうなのである、普段はボケーッとしている様に見えているくせにその実、いざの際には腹を決めてちゃんと自分の事を守り導いてくれるのだ。

 メリアリアはそれが凄く嬉しかったのであり、非常に頼もしく感じてもいた、現に彼と一緒だと勇気がもらえた、蒼太といると不思議と気分が落ち着いて来て、“さあやるぞ!!”、“やってやるんだ!!”と言う心持ちにさせてくれるのである。

 一人では心細い事であっても、蒼太がいれば何でも出来そうな気がして来たし、なによりかによりの話としては、彼と一緒に過ごす時間は彼女にとっては本当に掛け替えのないモノであって、そう言う事もあったからメリアリアは、少しでも蒼太に側に居て欲しくて、彼と共にありたくってこの少年に、特にエスコートをお願いしたのであった、それで。

「では本日のパーティーの主役に登場していただこう。我が最愛の娘である、“メリアリア・サーラ・デ・カッシーニ”、並びにその伴侶となるべき幼馴染(ボーイフレンド)の男の子“ソウタ・アヤカベ”だ!!」

 そう言ってダーヴィデから紹介がなされた後にー。

 蒼太に手を引かれたメリアリアはゆっくりと壇上に上がって行ってはスピーチをした、曰く、“今日は私どもの為に、こんなにも大勢の方々にご出席いただきまして、大変恐縮で御座います”、“ささやかながらお食事等もご用意致しておりますので皆様どうかごゆっくりとお寛(くつろ)ぎなさっていって下さいませ!!”との事であったのだが、その挨拶が終わった途端に。

 会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった、8歳の女の子が行ったモノとしてはこれは、非常に堂々として画期的なモノだったのだ。

「メリー。スピーチ格好よかったよ、本物のお姫様みたいだった!!!」

「ウフフフ・・・ッ。有り難う、蒼太!!!」

 蒼太に手を引かれてスピーチ台から降りた後で、当の本人から掛けられたその言葉に照れたように微笑みながらそう答えると、メリアリアはまたもや蒼太に熱い抱擁を交わすがその間にも誕生日会の準備は素早く行われて行き、遂には宴本番となった。

 パーティーは、立食方式に行われており、みんなそれぞれの取り皿に切り分けられた料理を好きなだけ盛り込んではワイワイ、ガヤガヤと何事かを話し合いながら、食事会を楽しんでいる、その最中。

 メリアリアは蒼太と共に、両親に付き添われつつも関係者各位に挨拶に回っていた、メリアリアは“身内だけのパーティーにする”と言っていたモノの、その参加者数は結構なモノであり、彼等が絆を大事にする一家である事が伺えるが、さて。

「蒼太、蒼太・・・っ!!!」

「・・・・・?」

 一通り、挨拶も終わって次は何をしようか、等と思っていると蒼太は突然、メリアリアからパーティー会場を抜け出して3階にある、自分の部屋へと連れ込まれた、そこで。

「蒼太っ!!!」

「・・・・・!!!」

 メリアリアは三度蒼太に飛び付いては抱き締め、その匂いで、その感触で、その温もりで己の肺と心と魂を満たすモノの、一方の蒼太もまた、最初こそ突然の事で驚き戸惑ってはいたモノの、やがて身体から力を抜いて彼女にその身を預けると同時に自らもしっかりと彼女を抱擁し、二人はそのまま、暫くの間は密着しつつも時を過ごすが、やがて満たされたのかどちらともなく腕を解くと見つめ合い、微笑み合った、そして。

「踊ろう?蒼太!!!」

 メリアリアがそう提案すると、蒼太は黙って頷いた、メリアリアがそうしたいのならば、そうさせてあげたかった、何しろ今日のメリアリアは自分だけのお姫様なのであり、花嫁様なのだ、それならば王子として、そして花婿として出来る限りの事はしてあげたいと考えていたのである。

 メリアリアが掛けた曲はまたしてもワルツだった、蒼太と二人っきりでゆっくりと踊れるこの旋律がメリアリアは大のお気に入りであり、そして彼とそうして過ごす時間こそが、なにより心が喜びで満たされる瞬間だった、夢中になれる一時だったのである。

 程なくして曲が始まるとー。

 その調べに乗せて二人は踊りを踊って行った、メリアリアは勿論の事、蒼太もまた手慣れたモノで曲が終わるまで、平然と二人で踊りきった。

「もう1回いい?」

「全然、良いよ?何度でも踊ろうメリー。二人でずっとずっと、何度でも何時までも、二人で・・・!!!」

「・・・・・っ❤❤❤❤❤❤❤」

 その言葉にメリアリアはまたあの衝動を感じて自らが抑えられなくなり、蒼太の事を抱き寄せる、“私はこの人と抱きあっていたい”と思った、“この人と一つになりたい”と思った、“解け合いたい”と思ったのである。

 その魂の底から迸って来た、慟哭とも言える強い思いに突き動かされるようにしてー。

 メリアリアは蒼太の事を、何時までも何時までも抱き続けていた、蒼太も蒼太でそんな彼女の事を受け止め続ける。

 まるで二人以外の時間が止まってしまったかのような、その空間の中で。

 少年と少女は何時までも抱擁を交わしつつ、己の全てで相手の全てを余すこと無く感じ続けていたのである。
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