メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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ガリア帝国編

羊飼いのアベル

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 セックス=必ずしも“愛”ではありません(ましてや望まぬそれを強要されたり無理矢理されたりした場合等は特にそうですが)、ただし。

 本当の意味でのセックスとはやはり、最高の愛情表現の一つであると、私は思うのです。

 だってそれはそうでしょう、何故ならば宇宙からの愛の顕現たる魂を、そして更に言ってしまえばその器と伝道器たる心と肉体までをも(つまりは“己”を形作っている何もかもをも)燃やし尽くして相手に捧げて蕩かせ合い、彼(彼女)と一つに重なり交わり合う(それも相手の全てを認めて受け入れ、受け止め合ったその上でです)。

 それは根源なる霊性から迸りたる“確かなる愛情”、要するに“真実なる愛”が無ければ絶対に出来ない事なのです(これを“真愛(まな)”と呼びます)、そしてそれをこそ、“テイク・オフ”、“心の働き”双方において皆様方に一番、お伝えしたかったのですが。

 自分の文章構成力及び表現力が至らないばかりに、“要するに何が言いたいの?お前”状態に陥ってしまいました、誠にもって申し訳御座いません(改めましてここに謝罪致します)。

 本当に申し訳御座いませんでした、大変失礼いたしました。

                   敬具。

             ハイパーキャノン。
ーーーーーーーーーーーーーー
「こちら“アルフレッド”、店長聞こえますか?繰り返します、こちら“アルフレッド”・・・」

「ザーッ、ザッ。・・・ている、聞こえているぞ、“アルフレッド”。どうした?“トムキャットどら猫”は確保したのか?」

「いいえ、昨日と同じ。今日も“トムキャットどら猫”は動かない」

「・・・・・」

 その応答を聞いた一瞬の沈黙の後で。

 “店長”からは再びとなる質問が発せられた、“トムキャットどら猫”が塒(ねぐら)から動いた形跡はあるのか?”と。

「・・・いいえ、全くありません。“清掃の日”も“店休日”もそうでしたけれども。・・・“分別の日”になっても動く気配は認められない」

「・・・・・」

 “アルフレッド”は粛々と、事実だけを“店長”へと申し渡した、予定日を過ぎても塒(ねぐら)に閉じ篭もったまま、“トムキャットどら猫”は動かなかった、あれほど大胆不敵な犯行を行った張本人とは思えぬほどの大人しさだ。

「“トムキャットどら猫”が“店の品”を持っているのは紛れもない事実だ、おこぼれにあずかろうとする“仲間達”も必ずどこかにいる筈だ、“仲間達”と接触する為に絶対に動くだろう。それまで目を離すな・・・!!何かあったら必ず連絡しろ、必要とあれば人員も回す。以上だ、“アルフレッド”!!」

「了解しました、“店長”・・・!!」

 そう言うと“アルフレッド”は通信を切った、これだけならば例え傍受されていたとしても、何の事かは解らないだろう、極めて安心である。

 それにしても。

「ヴィクトーさん、動かないわね・・・」

「“ガイアの青石”を持っているのは、間違いないんだけどね」

 “もう今日で八日目だよ”と“彼”は、蒼太は言った、このアパートメントの屋根裏部屋へと配置されてから、既にそれだけの日数が経過していた、と言うのにヴィクトーは屋敷に閉じ篭もったままなんら目立った動きを見せる事なく毎日の様に浴びるほどの酒を飲み続けては、そのまま眠りに付いてしまう、と言った事を繰り返していた、波動を精査すればすぐに解るが現状、彼はシラフでいる時の方が珍しく、多量に過ぎるアルコール量を一日中ずっと摂取し続けていたのである。

「・・・・・」

(“誰か”を、待っているのか・・・?)

 酷い時等は足がもつれて転びそうになっている場面すらあったのであるが、そんな彼の行動にはどうにも合点の行かない事の方が多くて現に先週の週末も酒浸りのまま過ごしており終日、泥酔したままソファやベッドにもたれ掛かり、ウトウトとしたと思ったら覚醒してまた酒を飲む、と言った行動を繰り返していたのだ。

 その一方で。

 来客があるとまるで、待ち侘びていたかのように自ら玄関にまで出迎えに行ってはガッカリとした表情と態度で追い返すようにしていたのだが、そんなヴィクトーの様子から蒼太は彼が“誰かを待っているのでは無いのか?”と考えるようになっていった、恐らく近日中にこの邸宅を、尋ねて来る者がいるはずであり、そして間違いなくその人物にこそ、“秘石”を託すのでは無いだろうかと、蒼太は予想していたのである。

 しかし。

(一応、各空港や港湾施設には全てセイレーン及びミラベルのエージェントが潜入して異変がないかをチェックしているし、また国境の検問所にもかなりの人数が動員されている、とオリヴィアから聞かされている。仮に何かあった場合は直ぐにでも警備隊が飛んでくる手筈になっているんだ、この状況下でどうやって秘石を運び出すつもりなのかは、解らないけれども・・・!!)

 それでも、と蒼太は思うがこの厳戒態勢の中を敢えてやって来るのであれば、相手は余程の腕利きか、そうでなければ何か特殊な能力か何かを持っている連中なのかも知れずにいずれにせよ、油断は決して出来ない状況下に置かれているのは違いない。

(考えなければならない事は他にもまだある。そもそも論的な話として、今回の敵が本当に“エイジャックス連合王国”だけなのかどうか、と言う点だ!!)

 “仮に”と蒼太は頭の中で考察を組み立てて行くモノの、仮にもし、今回の件においてエイジャックス連合王国が単独で動いているならば事態はそれほど難しい話では決して無かった、何故ならばその騒動の中心にいるのは間違いなく“M16”と“レウルーラ”と言う国家機密情報院と魔術中枢組織であって、彼等の野望を叩き潰せばそれで済む話だったからである。

 しかし。

(・・・もし。もしこれが、エカテリーナの。つまりはレベッカの手によるモノだったとしたら?そしてもっと言ってしまうのならば、“ドラクロワ・カウンシル”の手によるモノだったとしたならば!!)

 尚も思考を続ける蒼太であったがもし、彼の考えている通りだとすれば今回のエイジャックス連合王国における一連の“ガリア帝国壊乱作戦”の裏には間違いなく、この世界における“ドラクロワ・カウンシル”の意思が働いていた筈であり、そうだとするとその策謀は一過性の、単発的なモノでは決して無く、最低でも周辺諸国数ヶ国をも巻き込んだ、“超国家間規模”での蠢動である可能性が極めて高い。

(フォンティーヌとヴァロワ両家を影響下に置きつつも、外からは“反ガリア同盟”の外圧を掛けて此方を圧迫、エウロペ連邦文化圏内におけるガリアの地位と信頼双方の、極端なまでの低下を目論む。そこまでは読めるとしても、しかし一体、そんな事をして誰の何の得になる?数多ある王国帝国の中でも特に、これだけ執拗に、かつあからさまなまでにガリア帝国だけを狙い続ける理由はなんだ?)

 それがどうにも今現在において、蒼太の心に引っ掛かっていた、最大の関心事の一つであった、特にエイジャックス連合王国については甚だ疑問としか言いようの無い点が幾つもあって、それと言うのはまず第一に何故ここまでガリア帝国を憎むのか、次点で何故“M16”や“レウルーラ”と言った国家の根幹に関わるであろう秘密組織の中枢部分にレベッカのような胡散臭い同志結社の人間を、いつまでも接触させたままでいるのかが、全く以て理解できないでいたのだ。

(あそこの王家は確か、今は“ウィンザー朝”だったな?一昔前のエリザベス一世、ヴィクトリア両女王の時代には積極的な婚約外交を展開してその結果、“ガリア帝国”や“エトルリア”を除く殆どの国の王家にその血が入っている筈だ、・・・例えそれが僅かばかりと言えどもな)

 それにしても、と彼は更に思い至った、“考えてみればエリザベスと言うのも実におかしな名前だな?”と。

(およそ女王に相応しいとは思えない名前だ。“エル・リザード・バース”、即ち“トカゲの神の誕生”と言う意味の名前なんだけれども・・・。どうしてこんな“大魔王”を象徴するかのような名前を大事な王族に付けたのか?ましてやトカゲ族の王の名前なんて・・・)

「すまなんだ」

 “まるでレプティリアンか何かみたいだな?”と、以前ちょっとだけ“鹿島の神”から聞かされた話を思い出していた蒼太であったがあの時、神は確かにそう仰られていた、“こんな事ならば、もっと強硬に反対しておくべきだったよ”と申し訳なさそうにそう告げて。

「わしらの仲間のしでかしてしまった過ちが、こんなにもお主らを苦しめる事になるなんて、思いもよらなんだ。申し訳無い」

「そんなこと・・・」

 蒼太は言った、“神々のせいでは、無いじゃないですか!!”と、“あなた方が意図しておやりになった事では無いのでしょう?”と。

「だったら別に、神々のせいでは無いですよ。それよりも有り難う御座います、僕に修業を付けて下さって。本当に感謝してますよ!!」

「・・・・・」

 “うん・・・”と神はそれでも最後に困ったように、そしてやっぱり嬉しそうに微笑んでくれたのであるモノの果たして、あの笑みが意味する所は一体、何だったと言うのであろうか。

 此方に対する照れ隠しなのか、それとも何か、悠久の時を生きてきた者だけが知る悲しみか、哀愁なのか。

(だけどやっぱり凄いなぁ、神様は。僕なんかが及びもつかないような事でも平然とやってしまうんだから。僕は修業を付けてもらった身だからよく解るけど、あれは間違っても人間がどうこうできるレベルの力なんかじゃ、決して無い。いやそもそも“抵抗する”とか“逆らう”と言った事が絶対に出来ない。神様がもしその気ならば、“指パッチン”一発で人類を救ってやる事も出来るって言うのに、どうしてか神様は“それ”をおやりにはならないんだよなぁ。それだけで全てカタが着くのに、一体・・・)

「・・・なた、あなた!!」

「ええっ?あ、ああ。ごめんね、メリー。なんだっけ・・・?」

 更なる思考の海へと埋没して行く蒼太であったがしかし、その途中で妻から呼ばれ、意識が一気に現実へと引き戻される。

 見るとメリアリアが心配そうな面持ちのままで此方を見つめていた、手には温かな“マルコ・ポーロ”の注がれているティーカップが受け皿ごと持たれており、自分に勧めてくれていたことが伺える。

「大丈夫?ボーッとしていたみたいだったけれども・・・。もしかして見張り、疲れているの?代わりましょうか?」

「あ、ああっ、いやいや!!大丈夫、大丈夫・・・っ!!!」

「・・・そう?それならいいのだけれど」

 “ありがとう”と、自分に対して常に気を配ってくれる愛妻に対して些か慌てて謝辞を言いつつ差し出された熱々のミルクティーを手に取るモノの、それを一口二口啜りながらも蒼太はまた、別の考えに頭を巡らせ続けていた。

 それは言わずもがな、メリアリアとアウロラ、そしてオリヴィアの事だったのだが正直に言って蒼太は誰よりも何よりもメリアリアの事を、この年上幼馴染の美麗嬢な愛妻の事を、この上もなく愛していたのだ。

 だってそれはそうだろう、不器用な部分もあるにはあったがそれでも彼女は子供の頃からずっとずっと一途なまでに純粋なる思いの丈を、比類無き程の激情を蒼太に対して抱き続けて来てくれたのであり、そしてそれはやがては“絶対的”と言って良いほどにまで確固たる真愛の光照へと深化していったのであった、そしてー。

 現に彼女は何度となくその力と輝きとを十全に発揮しては蒼太の事を守り導いて来てくれていたのであり、何があっても決して彼を離す事無く離れる事無く、共に有り続けて来てくれたのである。

 一方で。

 それはメリアリアもまた同じであった、彼女は蒼太にその全てを教えてもらって来たのである、愛し合う事の喜びも、思い合う事の幸せも、支え合う事の大切さも、そしてー。

 己を燃やし尽くしては心と体を重ね合い、魂の底まで一つに解け合う恍惚感と充足感をもー。

 それだけではない、彼女が本当に危機に陥ってしまった時には彼は些かも躊躇う事無く、その身を投げ出そうとしてくれたのであり命を賭けてまで自分の事を助けてくれようとまでしてくれたのだ。

 彼女が一番、心細かったあの時に颯爽と駆け付けて来てくれては、自分を何処かへと連れ去ろうとしていた魔の手を瞬時に打ち払って見せてくれたのであるモノの、だからこそー。

 だからこそメリアリアは絶対に忘れないだろう、あの時の蒼太が見せてくれた、教えてくれた、嬉しさ、喜び、頼もしさ、そして何より、例えようも無い程に暖かくて確かなるその愛を、愛おしさをー。

 蒼太が自分にしてくれたことを、示してくれた思いの丈を、何があっても忘れる事は無いだろう、・・・例えそれ以外の全てを捨てても、忘れ去ってしまったとしても。

 だから。

「ねえ、あなた・・・」

「んん?なんだい、メリー・・・」

「うふふっ。うふふふふふふふふ・・・っ!!!」

 夫への思いを爆発させた愛妻(メリアリア)が堪らなくなって“だぁーい好き!!”と叫ぶと同時に彼へと抱き着き、華奢で艶やかなるその肢体を強く擦り寄せて来るモノの、そんな彼女を自身もしっかりと抱擁しつつも受け止めると蒼太は“僕も!!”と応じて美しいハニーブロンドに覆われているその頭部を、何度も撫でるようにする。

 その言葉には、些かも違えた箇所等微塵も無かった、現に彼女とこうして抱き合い、その温もりに触れているだけで彼は全てを忘れる事が出来ていたのだ。

 特にここ数日の間、何度か頭の中にメリアリアのそれと同時に甲斐甲斐しく自身の世話を焼いてくれているアウロラとオリヴィアのイメージが浮かんでは消えるようになっていたのであるモノのしかし、それらもまた、愛妻と抱擁を交わしている間だけは払拭する事が出来ていた、身も心も彼女の事でいっぱいになるまで満たされていてとてもの事、その他の事を考えるような余念余地など、全く以て存在してはいなかったのである。

(だけどあれもあの時からだったよな?僕がメリーを通して彼女達の事を“花嫁だ”と認識した時から始まった・・・)

 一頻り、彼女と抱き合い続けて見つめ合い、お互いにその存在と温もりとを思う存分堪能した後で“チュ・・・ッ!!”と軽めのキスを交わすと蒼太は見張りに、メリアリアはそのサポートへとそれぞれ戻ると勤しむがその最中に、そんな事を考えていた蒼太が再びの、思考の海へと埋没して行こうとしていた、その時だ。

「・・・・・っ!?」

(な、なんだ?この巨大な“波動”は・・・!!)

 まだ多少、距離があると言うのに蒼太は“それ”をハッキリと感じ取っていた、表面上抑えてはいてもその実、“彼等”の内側には猛烈な勢いで渦を巻く波動の奔流がうねっており、そこから迸って来るパリパリとした静電気のような刺激が肌の彼方此方(あちこち)に突き刺さる。

「・・・・・」

(こいつは、まさか・・・!!)

 驚愕しつつも蒼太はしかし、その感覚には覚えがあった、かつて異世界“ガイア・マキナ”において戦った“ドラクロワ・カウンシル”、その影の処刑執行部隊であった“ジグルー・デップ”と呼ばれていた連中の放つ気配と非常によく似ていたのである。

「あなた・・・っ!!!」

 “リゲルクラスか!?”と考えているとすぐ側に、お代わりの“マルコ・ポーロ”を持って来てくれていたメリアリアが心配そうな面持ちのまま、立ち竦んで此方を見ていた。

 彼女もまた、彼等の波動を感じ取ったのであろう、その表情には多分に警戒の色が浮かび上がっており、全身から放たれるオーラからも“臨戦体勢”に入っている事が見て取れるモノの、しかし。

「・・・彼等は多分、この世界での“ジグルー・デップ”だ」

「・・・“ジグルー・デップ”?」

「うん・・・」

 蒼太が語るがそもそも論として“ジグルー・デップ”とは“古代ケルト語”においては“尖った鋭峰”を差し表す言葉であり、そしてその頂のトップとして君臨していた者こそが、何をかくそうかの有名なるクローヴィス流剣術を扱う剣士、“一等星のリゲル”であった。

 短く切り揃えられた白髪に厳めしい面構えをした、褐色でガタイの良い体格をしていた彼はそれでもまだ弱冠26歳の若さであり、粒揃いな“ジグルー・デップ”においても特に並ぶ者無しの腕利きであった、現に蒼太と戦って敗れるまでは彼は殆ど負け知らずのまま、その名を不動のモノとしていたのであり“一等星のリゲル”の異名は“ジグルー・デップ”のみならずに“ドラクロワ・カウンシル”においても、またその中でも本当に、選ばれたる一握りのモノしか入れない反逆中枢委員会“マジェスティック・トゥエルブ”においてでも、燦然と輝く孤高のエースとしてその実績、信頼度共に二位以下を大きく引き離していたのだ。

「で、でも・・・っ。ソイツって確か、あなたによって打ち倒されたのでしょう?それならば何にも問題は・・・っ!!!」

「いいや、確かにそうなんだけれども・・・!!」

 まるで縋り付くかのように発せられた愛妻(メリアリア)からの言葉に蒼太は頷きながらもそう応えた。

「確かにリゲルは破ったさ、正直に言って物凄い厳しい戦いだったんだけれども・・・。それでも何とかモノにしたよ、もう本当に最後の方は、ただただただただ体力と精神力の勝負だった・・・」

 そう思って蒼太は改めてリゲルとの激戦を振り返るモノの通常、剣士対剣士の戦いにおいては最初の一撃を打ち込んだ時や実力が拮抗している場合を除いては中々に、“鍔迫り合い”等は起こり得ないモノなのである。

 理由は至って簡単であり、そんな事をしても剣が傷付いたり、刃こぼれを起こしたりする上に、なによりかによりの理由としてはあくまで相手を倒すことがその主目的なのであって別段、刃(やいば)同士をかち合わせる必要等は、全くと言って良いほどに存在していなかったからなのであるモノの、そんな中でー。

 二人の打ち合いは実に、決着するまでの30分足らずの間に凡そ一千回を超えていた、地形は山岳で足下は不利、空気も地上よりはやや薄めと言う過酷な状況下の中で、それでも蒼太もリゲルも相手を決して見失う事無く、常にその動きを読み合いながらも必殺の間合いを確保しつつ剣を打ち込み、それを防いでは反撃し、相手の防御ごと、その身を貫く、或いはへし切る、と言った事を繰り返していたのだ。

「正直に言って殺すのは惜しい男だったんだけれども・・・。それでもとてもの事、手加減して勝てるような相手では決して無かった、最終的にはお互いに手詰まりになってしまってそれを打開する為の決め技を放つ事になったんだけれども・・・。その際の速度、威力が相手のそれよりも此方の方が、僅かばかりに勝っていたんだな、それで勝つことが出来たんだよ」

 “それにしても”と語り継ぎつつ蒼太は思った、“クローヴィス流とはつくづく恐ろしい剣術だ”と。

 かつてあれ程古くて完成された剣術と言うモノを蒼太は見たことがない、唯一例外があるとすればそれはあの時ー。

 “神界”での修業の最終段階において神が“試練”として蘇らせた父、清十郎の見せた“大津国流”の“始原法”、それだけだ。

 蒼太が語るがこの時、リゲルが使った剣術奥義(エッセンシャル)と言うものは実に危険極まりないモノだった、それと言うのはー。

 己の中に眠る魔力を憎しみの思念と練り合わせる事で極大化させた挙げ句に更にそれを極限まで高め、そしてそれらを剣に向けて全て集約、その時に生じたエネルギーの力場で波動の“刃”を形成させてはそれを敵に向かって直接に叩き付けるモノだったのだ。

 その余りの威力にエーテルはプラズマ化して放電現象が巻き起こり、それによって生じる衝撃波は金剛石(ダイヤモンド)すらも軽々と真っ二つにしてすり潰して行く事から別命を“ディアマンデ・シェイバー”と呼び表され、畏怖されていた代物だったが、一方でー。

 蒼太の用いたそれは“創世・神龍波”と呼ばれている“大津国流”最大の極意であり、その目的は剣を用いて宇宙における森羅万象の、その悉(ことごと)くを体得する事(要するにこの場合は“全てを切り裂く事”)であってそれ故、技の生成から発動までの大まかな流れは至ってシンプルかつ全ての技の基本を忠実に踏襲しているに過ぎなかったが、先ずは自身の意識、感覚を極限まで研ぎ澄ませては高質化させ、そのチャンネルを5次元世界のそれへと合わせる。

 それと同時に内側に眠る各チャクラ、経絡の働きを最大限に活性化させては膨大なまでの波動エネルギーを“これでもか”と言う位にまで自身に取り入れ、纏わり付かせると同時に己を中心とした“高次元オーラ”の力場を展開して行くのであるモノのこの時、自分という名の“もう一つの小宇宙”を直接使用する事によりエネルギーの収拾率、集約率は格段に跳ね上がる上に形成される強大なる波動力場は周囲の時空を歪曲させて、その歪(ひず)みは更なる膨大なまでのエネルギーを生み出し続けて行くのである、そしてそれらをー。

 “全てを切り裂く”と言う確固たる信念の元、即ち徹底的なまでに純化された己の意思そのものに乗せて発動させるのであるモノの通常、ここまででも充分な程の威力が出せるそれは、更に極限まで集約された5次元世界の波動粒子(超時空粒子)を纏っていた為に、単なる3次元的な物質、エネルギーを切り裂くのみに留まらずに“超時空切断”(即ち5次元余剰に至るまでの“次元そのもの”をも纏めて切断する)をも可能としていて、その上蒼太は秘儀中の秘儀とも言える“神人化”までをも修得していたからその意識は通常の状態でも6次元全域にまで届くようになっていた。

 その為、その領域に存在しているエネルギーすらも取り込めていた“神龍波”の力は凄まじいまでに度を超えて絶大なモノになっていたのであり、刹那の間に解放された膨大極まるエネルギー波は周囲のあらゆる次元、波動、そして事象そのものをリゲルごと切り裂いたその後で、周囲に独特なる鳴韻を轟かせつつもまるで天に昇る神龍のような姿となって大宇宙へと向けて飛翔して行ったのだ。

「強すぎる思念と言うモノは、時として事象を歪めてしまう事があるからね、だからリゲルの剣術が“憎しみ”をその根幹に置いている、と悟った時に、僕には彼の繰り出す最終奥義が何となく読めていたんだよ。それでそれに打ち勝つ為にはその根本を為している思念ごと切り裂く必要があると感じたんだ、その為には生半可な技では不可能だからね・・・」

 “それにしても”とそこまで告げて蒼太は思った、“クローヴィス流とはつくづく恐ろしい剣術だ”と。

 かつてあれ程古くて完成された剣術と言うモノを蒼太は未だかつて見たことがなかった、唯一例外があるとすればそれはあの時ー。

 “神界”での修業の最終段階において神が“試練”として蘇らせた彼の両親の内でも特に父、清十郎の見せた“大津国流”の“始原法”、それだけだ。

(あの時の父の力は圧倒的だった。多分、“神人化”する事が出来なければ僕でも勝つことは能(あた)わなかっただろう、それにしても・・・)

 “神様は厳しい!!”と蒼太は心の底から感じたままを絞り出すがあの時、“神人化”の修法を極める際の最終段階の試練として蘇らされた両親と対峙せざるを得なくなってしまった蒼太はその辛さとやるせなさの余りに流石に涙を流してしまった、それはそうだろう、蒼太は父と母の事が本当に大好きだったし、尊敬も感謝もしていたのである。

 それなのにまだ、10歳と少しの少年の頃に彼等は逝去してしまい、二度と再び会うことは叶わなくなってしまったのである、そんな二人と。

「神様、何故っ!?」

「・・・・・」

 ようやくにして再開できたと思ったなら今度は戦わなくてはならないなんて、冗談では無いと思った、悲しくて悲しくて仕方が無かった、蒼太は思わず叫んでいた、“止めて下さい!!”と。

 地に頭を擦り付けてでも神に頼んで中止を求めた、しかし。

「戦え、蒼太!!」

 神がその願いを聞き入れる事は決して無かった、少し離れた場所の空中で静止したまま腕を組みつつ、事の成り行きを見守っていたのだ。

「どうしてですか?神様っ、何故こんな事を!?」

「前に進むのじゃ、蒼太!!お主が一番、乗り越えなければならないのは父であり母なのじゃ。その影から脱却して見せよ!!」

「そんな・・・、だけど!!」

 “言っておくが”と神は更に続けて言われた、“戦わなければ死ぬだけじゃぞ?”と。

「もしここで死ぬようであればお主は所詮、そこまでの人間であったと言うことじゃ、どうせこの先待ち受けている試練に耐え得る事なぞ、到底出来ぬじゃろうからな。それならばいっその事、ここで引導を渡してやる事こそが、お前と言う人間に関わりを持ってしまった神としての、せめてもの温情なのかも知れん・・・」

「・・・・・」

 “意中の女子(おなご)に会いとうはないのか?”と鹿島の神は続けて告げるが、その言葉にようやくにして蒼太は生きる気力を取り戻したのであり、全身に闘志を漲らせては、“最大の試練”として顕現した両親へと、立ち向かっていったのである。

 結果見事に“神人化”をモノにして二人を撃退する事に成功した蒼太はだから、再びとなる運命への道筋を、未来へと向けて力強く歩み始める事が出来るようになったのであり、そしてそんな彼の活躍によって異世界線の地球における“ガイア・マキナの動乱”もまた、無事に平定されて終息し、それによってようやくにしてこの現実世界へと生還を果たせた彼はそこで遂に最愛の女性であるメリアリアとの間に思いを紡いで絆を結び、お互いの存在を確固たるモノへと昇華させていったのだ。

「そっか、そんな事が・・・!!!」

「ゴメンねメリー、君にはそこら辺の事はまだ、詳しく話して無かったね・・・」

「そんなこと・・・!!!だって私だって、詳しく聞かずにいたんだし・・・」

 思わず頭を下げる夫にメリアリアが慌ててフォローを入れるが彼女とて正直“あまりしつこく聞き過ぎてもいけないのではないか?”と言う思いがあった為に中々、詳細な部分については一歩踏み込めずにいたのである。

(・・・まあもっとも。如何にリゲルが凄かろうとも、この子達“女王位”の扱う“フルバーストモード”の前では正直、どうなるのかは解らない。それに加えてメリーには“オーバードライヴ超過活性”を修得させてある、もう他の人間なんて敵じゃない!!)

 蒼太は思うが現にその兆候はハッキリと現れて来ていた、例の“模擬戦”の一幕がそれだったのだが如何に“練習試合”とは言えども正直に言ってリゲルよりも強い自分が何度やってもメリアリアには歯が立たなかったのであり、また“真なる実力”を発揮した場合のメリアリアの波動の練り上がり方は尋常なそれでは決して無く、それどころか比類無き程の凄まじさであって到底、彼等に遅れを取るような心配等はだから、当たり前だが全く無かった。

「だけど“ジグルー・デップ”だったっけ?確かにそれなりの波動は感じるけれども・・・。そこまで凄いモノでも無いんじゃないの?だって話を聞く限りにおいては“ドラクロワ・カウンシル”のエース部隊だったんでしょう?」

「・・・それは君が余りにも強くなり過ぎてしまったからだよ、メリー」

 些か“納得の行かない”、と言うべきか、困惑したような表情でそう告げる愛妻(メリアリア)に向かって蒼太が説明するモノの、本音を言って、“オーバードライヴ”を使用している“フルバーストモード”の彼女に太刀打ち出来得る存在等は、殆ど皆無と言って良く、その辺りは彼女は多分、誤解をしている。

 相手が弱いのでは決して無く、彼女が強過ぎるだけなのであって、殊その状態のメリアリアであれば間違いなく、戦闘技術だけ見るならば蒼太の遥か上を行くのであり、そしてその動きは断じて、何時ぞやのルクレールの時のように捉えきれるような生易しい代物とは一線を画していた。

(・・・まあもっとも。僕もオーバードライヴ超過活性を使ってしまえば解決する話なんだけれども。それでもそもそも論としては、元々の戦闘技術そのものが、彼女の方が上だから、中々に厳しいモノがあるんだよね、まさかここまでのパワーアップを果たすとは、夢にも思っていなかったから!!)

 蒼太は思うが元々、このオーバードライヴ自体が“フルバーストモード”におけるメリアリアの身体への負担を軽減する事を目的として伝授したモノだった筈なのに、彼女はそれをアッサリと使い熟して見せた所か最早、自分の力の一部にさえしてしまっているのであり、それは確かに、驚くべき学習能力の高さと言えたモノのしかし、一方で。

 “問題が全く無い”等という訳でも決して無かった、それと言うのはメリアリアの扱う必殺技(例えば“光炎魔法”や“絶対熱の極意”等)は余りにも威力が高すぎる為に、仮にどんなに力を抑えた状態で発動をさせたとしても必ず、周囲の存在を巻き込んでしまう短所があってそれ故、街中の戦闘などでは使用を制限せざるを得ない等の制約が課せられていたのである。

 そう言った意味においては彼女自身も相当に、歯痒い思いをしている事が見て取れたモノのしかし、こればかりはどうにもならない事柄であった、やはり“勝つためにはなんでもやって良い”と言う訳では流石に無いし、それになによりかによりの話としては何の謂れの無い、無関係な一般市民を巻き込むような真似は、メリアリアの心情としても到底、許容できるようなモノでは決して無く、それどころか心底、唾棄すべき事案であったのだ。

「だけどそれじゃあ・・・。このままではこちらも手詰まりだわ、全力さえ出せればあんな奴ら、直ぐにでも叩きのめしてやるのに!!」

「ああ。ここは一度引いてオリヴィアに、増援を頼んだ方が良いかも知れないな・・・」

 そんな事を話し合いつつも、尚も油断無く二人が見張りを続けているとー。

 やがてヴィクトー邸の門前に、目出し帽を被っている上に色とりどりのフード付きパーカーで上半身を覆っている、ジーンズを履いた四人組のグループが歩み寄って来るモノの、その雰囲気や体格差から一人は男性、残りは女性のようであった。

 四人がインターホンを押して何事かを話し掛けると直ぐさま屋敷の中からはヴィクトーが姿を現しては彼等を中へと案内して行く。

 その様子からは幾分、緊張が解れたような、ホッとした様子が見て取れるがしかし。

「・・・・・」

「“待ち人来たり”って感じかしらね・・・」

「ああ、それで間違いないよ」

 “ドンピシャだろうね”と蒼太は頷いて応えると、直ぐさまこの事態をオリヴィアへと報告した、曰く“対象が四人の人物と接触をしたこと”、“近々何某かの動きがあると思われること”、そしてー。

 “くせ者揃いな為にこちらも早急なる増援を要請する”とー。
ーーーーーーーーーーーーーー
 蒼太君の神界における修業の日々を描いた“神界編”、そして異世界“ガイア・マキナ”における活躍を描いた“ガイア・マキナ編”は後日必ず描かせていただきます、先ずは物語を先に進ませていただきます、どうか御了承下さいませ。

 またジグルー・デップ(シグニー・デップ、スタック・デップかも知れませんが)についてなのですけれども、この言葉は何分にもうろ覚えなモノで違っていたならお許し下さい。
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