星降る国の恋と愛

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ガリア帝国編

カインの子供達

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「やっと来てくれたか!!」

 待ち侘びていた来訪者の到着に、ヴィクトーは狂喜して彼等を出迎えるがそんな館の主の態度とは対照的に、“彼等”のそれは実に淡々としたモノだった。

「お初にお目に掛かる・・・。我等“カインの子供達”、メイヨール・デュマの指示により馳せ参じてまいった次第・・・」

「おおお・・・っ!!?」

 邸内に招き入れられた上に、応接室に通された“彼等”は、それでも油断無く辺りに気を伸張たせたまま、それぞれがフードと帽子とを相次いで脱ぎ去ると、ヴィクトーに軽く頭を下げるがその内訳は蒼太の見立て通りに一人が男であり、残りの三人は女性、もっと言ってしまえば少女であった。

 男性はパッと見、年齢は二十代後半かそこらで肩まで伸びた銀髪と同色の、切れ長の眉毛に下三白眼のダークブロンド・アイズ。

 面長の顔立ちに痩せこけた頬の、身長190cm前後の長身の大男であったがしかし、その全身はよく鍛え抜かれていて筋肉質であり、動きは非常にしなやかでシャープな印象を与えていた。

 対してー。

 彼の直ぐ隣に控えていた、少女達の内でも一番、体が大きくて大人びている彼女は腰まで伸びているハーフアップストレートな緋色の髪の毛と同じく、燃えるような真っ赤な眉毛に瞳はターコイズブルーの輝き、パッチリとしたアイラインはまるでモデルが何かを思わせるモノの実際、背丈も普通の女子よりもそれなりに高くて全体的にはスラリとしている感覚を受けるがその実、体は恐ろしい程に絞り込まれていてスレンダーな上に見る者が見れば非常に高濃度の魔力が体内に渦巻いているのが見て取れた。

 2番目の少女はそれよりは短い群青色のミディアムヘアにやはり同じく濃い青色の小さな眉毛、顔は欧米人にしては珍しく可愛い系のそれであり、第一印象として見れば一番、大人しそうであり取っ付き安そうなイメージを抱くモノのしかし、前述の二人と同じように底知れない何かを感じてヴィクトーは近付くことさえ出来なかった。

 3番目は文字通りの少女であり、まだ明らかに十代も前半であろうそれであった、ショートボブの髪の毛と眉毛はブラウンで瞳も同色、やや切れ長と言えばそうかも知れない彼女の眼はしかしパッチリと見開かれ、体型も何もかも幼児的なそれをしていた、にも関わらずに。

(な、なんだ?この少女からは信じられない程の禍々しさと言うか。凶暴さを感じるのだが・・・)

 戸惑いながらもヴィクトーがそれでも、得体の知れない何かを感じて二、三歩その場から後退(あとずさ)るが、するとそんな彼にまるで、待ったを掛けるかのようにして再び男性が口を開いた。

「先ずは名乗らせていただこうか、“聖痕のアルフォンソ”」

「“獄炎のメルコット”」

「“暴水のエクセルラ”」

「“鉄血のウルバンニ”」

「古えよりの盟約によりて貴殿の元へと罷り越した次第、以後お見知りおきを・・・」

「・・・・・っ。た、頼もしいな!!!」

 正直に言って、内心は不安と恐怖とでいっぱいだったヴィクトーだったが敢えて強がりで彼等に相対してみせた、こう見えても商売柄、人を見る目は持ち合わせているつもりである、その彼の第六感が告げていたのだ、“決して油断などするな”と、“コイツらは胡散臭い、等というレベルの相手では無いぞ”と。

(ま、間違いない、コイツらは真っ黒だ、恐ろしい程に危険な奴らだ、それも凄まじいまでに極悪っ!!!)

 ヴィクトーは咄嗟にそこまで判断するモノの、現に目の前の男女達4人組からは、何やら得体の知れない瘴気のようなモノが立ち上って来ていた。

 ヴィクトーは、その感覚に覚えがあった、彼の大叔父にあたる人物である“アデラール・オードリック・ド・フォンティーヌ”の醸し出していた雰囲気に酷似していたのである。

 オードリックはフォンティーヌ家の家人の中では珍しく、志願して職業軍人になった人物であり“ガリア帝国軍中将”にまで昇り詰めた、エリート中のエリートだったがヴィクトーはどうにもこの大叔父が好きにはなれなかった、と言うのが彼の纏う雰囲気そのものが異質だったのであり、体や心がピリピリとして揺さ振られ、焦がされるような感覚に陥るのである。

 それは人を殺した人間だけが持つとされる、“血生臭さ”を纏った横暴な波動そのものであり、所謂(いわゆる)一つの“陰険さ”或いは“罪科の影”、“凄み”とでも言い換えても良いモノだったのであるモノの、当時はまだ幼くて周囲の事も良く解らずに無邪気な性質であったヴィクトーはそれ故、感受性も強くて大叔父の持つそう言った、“負の側面”を敏感に感じ取ってしまったのであり、それがして彼に、知らず知らずの内に苦手意識を持たせる要因となさしめていたのであった。

 その大叔父と良く似たような雰囲気、波長を彼等には感じるのであり、それは幼き日に彼を戦慄させた不快感を彷彿とさせてヴィクトーを思わず萎縮させると同時にある種の警戒感を覚えさせては彼等に対して“心の壁”を作ってしまっていたのだ。

 しかし。

「心配はいらない」

 まるでそんなヴィクトーの心根を見透かしたかのようにアルフォンソが告げた、“我々は貴殿に危害を加えに来たわけでは無い”と。

「貴殿の警護を、仰せつかっている。ご用があるならば何なりと、申しつけて欲しい・・・」

「そ、それは・・・」

「正直に言って、貴方は今、非常に不味い立場にいる」

 “メルコット”と名乗った女性がアルフォンソの言葉を受け継ぐ形でそう告げた。

「外には見張りがゴロゴロしていた。・・・まあもっとも、その全てが貴方を狙っている者なのかどうかは定かでは無いにしても、その可能性が高い人物達が数名いたのは紛う事無き事実だ、貴方は見張られている!!」

「だから私達が来た・・・」

 今度は群青色の髪の毛をした少女がそう告げて、ジッとヴィクトーを見据えるモノの、その表情は無、そのものでありそこからは何の情緒の波も読み取れなかった。

「安心して良い、私達が来たからにはもう、何人たりとも貴方に手出しなどはさせはしない。私達の防衛網を突破出来る者等どこにも存在しないのだから・・・」

「あ、ああっ。ああっ!!」

 そう言われてヴィクトーは頷く事しか出来なかった、彼等の醸し出す異様な雰囲気と眼光とに、ただただただただ頷いては自分自身を“大丈夫だ”と納得させるしか無かったのである。

「何分にも世話を掛けるがどうか頼む、私は不安で仕方が無いのだ!!どうか我と我が身を、守ってやってくれたまえ・・・!!ところで」

 “今後どうするのか?”と尋ねるヴィクトーにアルフォンソが言い放った、“事を起こすのは週末だ”と。

「貴殿の車で、フライベルクを目指す。“友人”と接触してもらうがそれまでは何もする必要は無い」

「貴方はその間ここにいて、“宝石”の事だけ考えてくれていればそれでいい。後は私達がやってあげるから・・・」

「・・・・・」

(随分、しっかりとした言い様だな?)

 アルフォンソに続いて一番、年下(と思われる)少女が告げるが外見とは裏腹に、堂々たるその口調はまるで年長者のようなそれだった、声色は若々しいモノの、重々しい感じのする話し言葉にヴィクトーは思わず怪訝そうな表情を見せるが、するとそんな彼の本心を察したのか、少女は瞳を閉じてやや俯き加減となり沈黙してしまう。

「・・・貴殿は何の心配もせずにただ、今まで通りの生活をしていて下さればそれでよい。勿論、“石”は守った上でな、後は全てこちらでやる、貴殿になんら負担は掛けない」

 “もし事が第三者に露見してしまって場合には”とアルフォンソは続けた、“貴殿は我々に脅されてやったのだと言えば良い”と。

「口裏としてはこうだ、我々が、貴殿の用意した“被害者への補償金”を強奪してその変換を盾に取り、貴殿に手伝いを命じた、とでも言っておけば、貴殿への罪科は相当に減ぜられる筈だ・・・。無論、断れば命は無いし、それどころか今後もより多くの施設の罪も無い利用者が苦しみもがく事になる、とも言われていたと、そう言う風に答えると良いぞ?」

「そ、それは・・・!!」

「そうしておけば、貴殿は安心なのだろう?」

「そ、それは、まあ・・・!!しかし、君達は?君達はどうするのだ?」

「心配いらない」

 すると再び先程の、群青色の髪の少女が無表情のままで口を開いた。

「むしろ、我々とすれば貴方の方が心配だ。このままでは貴方は自分で自分に押し潰されてしまうだろうからな・・・!!」

「・・・・・」

「それを避けるための処置だ、だから貴方は何も気にする必要は無い」

「・・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

「・・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

「・・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

「・・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

「・・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

「・・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

 少し俯き加減となって“ハアァァ・・・”と安堵と脱力の溜息を着いた後で暫しの間沈黙すると、やがてヴィクトーは上を向き直り、ゆっくりと“解った”と応えた、その表情には幾分かは、落ち着いた活力が漲り始めており瞳には決意の光が湛えられている。

「大丈夫だ、お陰で落ち着いたよ・・・!!!」

「・・・・・」

「それでこそです、ヴィクトー卿」

 ヴィクトーの放ったその言葉に、アルフォンソは眼を瞑って沈黙し、少女達は少しだけ笑顔になりながらもその様を見つめていた。

「それでは改めて・・・。いいえ。改めまして、後は我等にお任せ下さい!!」

「そうです、ヴィクトー卿。貴方は堂々としていればよろしいのですよ?貴方は何も悪いこと等していないのだから・・・」

「ああ・・・」

 “解っているよ”と少女達の言葉にすっかりその気になってしまったヴィクトーは頷くと自身は応接室に備え付けられていたソファーにドッカリと腰を下ろして座り、腕を組んで沈黙する。

 その姿は中々様になっており、そわそわした様子も見受けられない、どうやら本当に平静を取り戻せた様子であり、“カインの子供達”も“これで計画は滞り無く遂行できる”と頷き合った。

「ではヴィクトー卿。出立の日までは今まで通り、優雅にお過ごし下さい」

「我等は屋敷の内外で警備を固めます故に・・・」

「ああ・・・」

 “よろしく頼むよ”と一言告げるとヴィクトーは更に深く腰掛けるようにして背もたれにグッタリと身を預け、宙を仰いで瞳を閉ざした。

 一方で。

「蒼太さんっっっ!!!!!」

「うわわわっ!!?」

「・・・・・っ!!!」

(やっぱりね・・・っ!!!)

 自身の夫に抱き着くアウロラの姿に、メリアリアは思いっ切り不愉快げな視線を送っていたモノの、あの後、オリヴィアから送られて来た増援と言うのがアウロラ以下その親衛隊の面々だった、オリヴィアとイリスは本部付き、エマとクレモンス達はそれぞれ任務が割り当てられている今現在においては確かに、通常戦力として動かすことが出来たのは彼女達を置いて他にはいなかったのであろうが、しかし。

「蒼太さん、蒼太さんっ!!!あああっ、蒼太さん、蒼太さん、蒼太さんっっっ!!!!!」

「うわわわっ!?ア、アウロラッ!!ちょっとちょっと、落ち着いて・・・っ!!!」

「・・・・・っっっ!!!!!」

(どうしてよりにもよってアウロラなのよっ。全くっっっ!!!!!)

 全身で蒼太に抱き着き、嬉し涙を流しながらも彼の温もりや感触を堪能しているアウロラを、本当は今すぐにでも飛び掛かって引き剥がしたい衝動に駆られつつもメリアリアは、それでも“こうやって余裕を見せるのも妻としての務めよね!?”と自分自身に言い聞かせて必死に堪える。

 しかし。

「蒼太さん、蒼太さん。蒼太さん蒼太さん蒼太さん蒼太さん蒼太さんっっっ!!!!!」

「~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!」

 いつまでもいつまでも自身の夫にしがみ付いたままでいる、この青髪の少女に対してメリアリアは遂に“いい加減にっ!!!”と叫んで怒りを爆発させた、“しなさいっっっ!!!!!”と鋭く短くそう告げて。

「この人からっ、私の夫から離れなさいっ。離れてったらっ、このっ。こんのおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」

「あ、あうううぅぅぅぅぅっっっ!!!!?な、何をするんですか、メリアリアさんっっっ!!!!!」

 せっかく蒼太に抱き着いて悦に浸っていた所を無理矢理引き剥がされそうになって、アウロラが必死の抵抗を試みるが、如何せん直接的な“力”であれば彼女の方が遥かに上だ、それに加えて。

 本気でアウロラの事を排除に出ていたメリアリアはこの時、僅かながらも“オーバードライヴ”を使用していたのでありその為、その差は更に圧倒的なモノになっていたのである。

「あああっ!!?い、いやぁっ。そんなのっ!!!」

「何言ってんの!?退いてなさいよっ、全くもうっっっ!!!!!」

 ようやくにしてアウロラを引き剥がす事に成功したメリアリアが今度は自分が蒼太にしっかりとしがみ着き、全身を強く密着させては絶対に離れないようにするモノの、するとそれを認めたアウロラが後ろから近付いて来てはメリアリアについ今しがた、自分がやられた事と同じ事をしようと試みる。

「ち、ちょっと何やってるのよ、アウロラッてばっ!!?離しなさいっ、離しなさいったらっ!!!」

「何言ってるんですかメリアリアさんっ!!!メリアリアさんこそ離れて下さいっ、蒼太さんが困っているじゃないですか!!!」

「一体、何を言っているのっ!!?この人はもう、私のモノなのよっ。引っ込んでなさいよ、アウロラッ!!!」

「嫌です、そんなの認めませんっ。蒼太さんは私と結婚する人なんです、絶対に結婚するんですからっ!!!!!」

「なんですってっ!!!!?」

 アウロラから放たれたその一言にメリアリアが思わずカチンと来てしまい、強く鋭く反応する。

「巫山戯(ふざけ)たことばかり言わないでよ、蒼太は私と結ばれたんだからっ!!!!!そもそも貴女なんかお呼びじゃないのよっ!!?いいからもうあっちへ行って。いい加減にしてよ、あんたはっっっ!!!!!」

「なんですかっ、その言葉っ!!!今のは聞き捨てなりませんっっっ!!!!!」

「何ですってっっっ!!!!?」

「何ですかっっっ!!!!?」

「ち、ちょっと、2人とも落ち着いて。ほら、メリーもアウロラも、喧嘩しないで・・・っ!!」

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・ッ!!!

 堪らず蒼太が静止に入り、二人を必死に宥めているとー。

 ちょうどそこへオリヴィアから着信が入ったモノの、画面を見るといつものコールサインとは違う、緊急非常事態用回線のそれである、一体どうした事かと慌てふためいて出てみるとー。

「“アルフレッド”、対象はまだ確保しているか?」

 電話口の向こうからはやや緊張気味な、そして興奮したかのような声色でオリヴィアが語り掛けて来るモノの、彼女曰く“アンリの家で動きがあった”との事だったのだ。

「アンリ以下、こちらのエージェントが“例の男”の身柄を確保したらしい、本人の名前は“アントワーヌ・コルネイユ・ド・ヴァロワ”と言い間違いなく、ヴァロワの血を引いてはいたのだが・・・!!!」

「・・・・・」

「彼は“クイーンズベリー公爵家”にて保護されていたのだ、スコットランド貴族のな!!」

「クイーンズベリー公爵家ですって!!?」

 蒼太が発したその言葉に、流石に“ただ事では無い”と感じたメリアリアとアウロラもまた、一度いがみ合いを中止してオリヴィアからの報告にその耳を傾けるモノの、このクイーンズベリー公爵家と言うのは400年以上の歴史を誇るスコットランド貴族の家系であり、“オラニエ公ウィレム”の“名誉革命”を始めとする数々の歴史の節目節目に必ずと言って良いほど、その顔を覗かせて来た。

 要するにエイジャックス連合王国の闇の部分、権力闘争における謀略にすらも幾度か関わって来た程の家柄であって、なるほどこんな所に大事なノルマンディー公爵家の末裔を預けるなどとはいかにも“臭い”。

「・・・何某かの謀略を帯びている可能性が高い、と?」

「ああ。先ず間違いなくな、君の勘が当たったな蒼太っ!!!」

「喜んで良いのか、悲しむべきなのか。ちょっと判断がつきかねますね」

「全くだな、しかしこの場合は“吉”と出たぞ!!」

 オリヴィアが声高に叫ぶモノの、聞けばこのアントワーヌは予てから自身を放逐して発展して来たガリアを憎んでおり、逆に匿ってくれていたエイジャックス連合王国王室及び、クイーンズベリー公爵家への恩義は忘れた事が無い、と公言して憚らなかった人物であって確かに、それが戻ってくる、となると胡散臭さは倍増する、と言うモノであった。

「まあ彼の祖先が出て行った原因の真相は、単に時の権力争いにおいて遅れを取ったと言う、ただそれだけの理由でしか無かったのだがな。その後も子孫達の帰国が叶う事は無かったのだそうだ、何しろ本人達はどうしても、“ノルマンディー公爵本家”としての地位が欲しかったらしくてな、それが叶うのならば帰ってやっても良いと言って、喚き散らしていたそうなのだが。生憎とこちらは既に王権体制が整ってしまっている上に、新たな領土等はどこにも残ってはいなかったから、どうにもならなかったと言うわけだ」

「・・・・・?」

「・・・って言うかさ。オリヴィア、それって」

「単にその方の我が儘に、国が付き合いきれなかった、と言う、ただそれだけの事では無いのですか?」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

 “まあ、な”と暫しの沈黙の後にオリヴィアが多少、決まりが悪そうにそう応えるモノの正直、彼女とてそう思わない訳では決して無く、ただ一応、落ちぶれたとは言っても元は大貴族であった彼の御先祖に“礼儀位は尽くすべきかな?”等と考えた上での事だったのだ。

「ところでな、そのアントワーヌを取り調べている最中に解った事だったんだが・・・。実は彼は近々、“プレゼント”と称される“宝石”を手渡される段取りだったらしいのだ、それを“当主の間”に隠しておいて欲しいと言い渡されていた、と。それさえしてくれたなら、後は万事こちらにまかせていて欲しいと、必ずや貴男をヴァロワ家の当主に座に返り咲かせて見せるから、と」

「・・・・・」

「・・・・・」

「それでその、アントワーヌと言う方は、提案に乗ってしまった、と言うわけですね?」

 “そうだ”とアウロラからの言葉に一度目を閉じた後でオリヴィアは頷いた、しかもアントワーヌはご丁寧に報酬としてヴァロワ家の配下におかれていた国内企業の幾つかさえも、彼方への手土産として渡す手筈を整えていたのである、・・・保有する株式の大半を譲渡する形で合法的に。

「そうなればもう、その企業は実質的にエイジャックス連合王国の、もっと言ってしまえばあちらの王室の支配下に置かれていた事だっただろう、我々は戦わずして国内を侵略される危機に追いやられていた訳だ。・・・それらの企業が保持していた機密情報や特許技術等、“重要なる無償資源”諸共引き抜かれた上でな」

「・・・・・」

「・・・・・」

「そんな事は・・・」

「ハッキリ言うがな」

 とオリヴィアは更に、アウロラに向かって続けて語った、“事態があのまま進んでいたなら君だってどうなっていたのか解らないぞ?”、と。

「蒼太の言う通りだとしたならば、その“プレゼント”とやらの正体は間違いなく“ガイアの青石”だったのだろう、つまりはヴィクトーの起こした事件とヴァロワのお家騒動とは連動していた、と言う事になる。当然、後ろにはエイジャックス連合王国の存在があった筈だ、とするならば、君達のような“正統派貴族”は連中の、“ガリア帝国壊乱作戦”においては障害以外の何者でもない。あのヴィクトーとかいう御仁は君自身には恨みは無いかも知れないが、それでも立場上、非常に目障りになっていただろうからな」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「エイジャックスからしてみれば、これほど容易くて愉快な事は無かっただろうな、なにしろ労せずしてヴァロワ家とフォンティーヌ家と言う、ガリア帝国の二大貴族財閥を自分達の影響下におくと同時にその系列企業までをも、抱えている数々の素晴らしい特許技術、経済流通情報網諸共手に入れる事が出来るのだから」

「・・・・・」

「・・・・・」

「酷い・・・」

 “酷いです!!”とアウロラが激怒した、“私達を何だと思っているのでしょうか!?”とそう叫んで。

「如何に血も涙もないのが戦いの悲惨さだとは言えども。・・・それでも“やってはいけないこと”と言うのがあるでしょうに!!」

「・・・少なくとも」

 とオリヴィアが告げた、“向こうの辞書にはそう言った文字は無いのだろうな”と淡々とそう言って。

「とにかくだ、事がハッキリした以上、このまま黙って看過する事はもう出来ん。一応、“ミラベル”や警察の高官とも話したのだが、その取り引きに使われる可能性がある以上、可及的速やかに“ガイアの青石”を奪回せよ、との事だった、よって今から君達三人に加えてメリアリア、アウロラ双方の親衛隊合計15名で以てヴィクトー邸に突入してもらう。目的はヴィクトー氏の逮捕、拘束。及び“ガイアの青石”の奪回にある。敵にも増援がある事から相当なまでの抵抗が予想されるがこれを排除した上で、無事に任務を達成させて欲しい!!」

「了解しました、オリヴィア!!」

「解ったわ、オリヴィア!!」

「任せて下さい!!」

「事が事なのでな、出動態勢が整い次第、我々もミラベルの隊員達と共にそちらへ向かうが・・・。こうしている間にも相手がどう出るかは解らないのだ、間に合わない場合は頼むぞ!!」

 その言葉に“了解しました”と短く応えて通信を終えると蒼太達は直ちに“突入組”と“警戒組”の編入を行った、当然、突入するのは蒼太、メリアリア、アウロラの3名に加えて親衛隊の中でも上位の腕を持つ6名の、合計9名。

 周辺の警戒にはそれ以外の6名を割り裂いてこれに当てるが彼等にはそれぞれ、屋敷の周囲と正面門、裏口等を見張って貰う手筈であり、文字通り“猫の子一匹通さない”と言う、厳戒態勢を敷く事とした。

「オリヴィア達も、駆け付けてくれる、と言う事なのだが・・・。正直に言ってどうなるのかは解らない。だから基本、僕達だけで任務を達成するつもりで頑張ってもらいたい」

 蒼太のその言葉に、その場にいた全員が強く頷くと、彼等は早速自らの装備を整えて気を極限まで練り上げつつも、それを悟られる事の無い様に努めて平静を装いながら、ヴィクトー邸へと突入して行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
 蒼太君と再会を果たす直前までのメリアリアちゃんやアウロラの心境を、歌で表すと“千の夜と一つの朝”でしょうかね(かなり昔の歌なんですけどユーチューブで見れます)?

 一方で再開を果たせた後の蒼太君やメリアリアちゃん、アウロラの気持ちは“INVOICE”の“Illusion”でしょうか(昔“神秘の世界エルハザード”って言うテレビアニメOPで流れていた曲だったんですけど、知っている方ってもう、いらっしゃられないでしょうね)←特にメリアリアちゃんとアウロラちゃん双方の気持ちに限って言えば、“今井美樹”さんの“pride”でしょうかね?失礼致しました。
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