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ガリア帝国編
最高司令官と最高権力者
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蒼太君はこれまで“一人の人としか結婚してはいけないんだ”と思って生きてきました(ただしアウロラの事はかなり前から意識はしていましたし、またオリヴィアに付きましては“ガイア・マキナ”に行ってから意識し始めたのですね)、なので自身と最も関係の深かった、メリアリアちゃんを選んだのです(これにつきましては別段、どうこうしようとする意図はありませんでした、元々最初から、メリアリアちゃんと結婚させるつもりでお話しを書かせていてだいておりましたし、またアウロラ達についても“ある必要性”に気付いて急遽途中登板させたキャラだったので、二人の関係性を満足に描く事が出来なかったからです)。
ですけれどもこのお話しのラスト部分でようやく“三人全員と結婚しても良いのでは無いか?”という事に対しての意識が芽生え始めて来たのです、これから少しずつ、その流れは加速して行きます(ただしその為にはどうしても、やっておかなくてはならない事があります。それは二人の蒼太君への愛情が、自分に負けず劣らず確固たるモノである事を、真に絶対的なモノである事をメリアリアちゃんに認めさせなければなりません、そうでなければメリアリアちゃんは決して納得しないでしょうし、彼女達を許す事も無いでしょう←何故ならば、彼女はそれを持っているからです、そしてそれらを発揮しては蒼太君を守り支え、ずっと共に在り続けてきました、だからこそその有り難さと尊さとを、誰よりも何よりも、しっかりと感じて理解しているのです。そんな“本物の愛情”を持っていない人を、自分と同じ花嫁として、メリアリアちゃんは絶対に認めないし、許しません。そしてそれはまた、蒼太君も同様です、彼もまた、おいそれとは二人の事を受け入れる訳には参りません、彼にもメリアリアちゃんへの思いがあるので・・・)。
そう言う事で御座います。
ーーーーーーーーーーーーーー
「ここには、連絡しないでくれと言っただろう!!」
スマートフォンに耳を当てながらヴィクトーが苛立ち加減に向こう側にいるであろう相手を怒鳴りつけるがそれは裏を返せば今現在の、彼の置かれている立場の辛さを感じさせるモノと言えるだろう。
「この電話だって危ないんだ、いつ何処で誰が聞いているのか、解らないんだからな!!」
「・・・安心しろ」
その“声”は男か女か解らなかった、“変声器”で声が変えられていたからである。
「その“飛ばし携帯”には我々の“VPN”が施されている、不用意に“Wi-Fi”にでも繋がない限りかは、通話内容がバレる可能性は一切無い」
「・・・もし“連中”が、こっちを泳がせる為にわざとこの状態での通信を、させているのだとしたら?」
「その場合、お縄になるのはお前だけだ。我々には一切の迷惑は掛からないからどうか安心してもらいたい」
「そう言う事を、言っているんじゃ無い!!」
ヴィクトーが思わず激昂するモノの、彼には後ろめたさがあった、“一族を裏切ってしまった”と言うそれだ、半年ほど前、彼の経営する施設の幾つかで食中毒が発生した、信じられない出来事だった、ヴィクトーはこう見えても、“社会的弱者”を務めて追い詰めるような、どうしようもない腹黒さ等は全く以て持ち合わせてはいなかった、むしろ逆だ、少しでもそう言った人々の手助けをしてやりたいと考えているような男だったのである。
・・・それが自分に課せられた“ノブレス・オブリージュ”なのだと。
しかし。
その優しさが、仇となった、否、もっと言ってしまうのならば優しさ自体は決して、罪に当たるモノでは無かった、彼に足りなかったのは“自身が連中に目を付けられており既に謀略を仕掛けられている”と言う、その警戒心と認識、ただそれだけであったのだ。
彼は所謂(いわゆる)“ワンマンタイプ”な経営者であった、情に脆く、優しさも持ち合わせていた彼だったのだがしかし同時に、逆らう者には容赦しない苛烈さも持ち合わせていたのであり、その極端にアンバランスな性格と、人の意見に耳を傾けようとしない直情型の性質から、職場を追放された者や、惜しみつつも辞めて行かざるを得なかった者達が多数、存在していたのである。
“彼等”はそれらを知っていた、知っていたからこそ逆にそれらを利用したのだ、多額の情報提供料を餌にして、かつての従業員達から建物内の構造や配達会社の荷受けの態勢、また警備面における各種人員、機材の配置状況等を事細かく聞き出す事に成功した“彼等”はそれを余すこと無く利用しては潜入が可能であった施設に“食中毒”の元となる菌を大量にばら撒いて行ったのだった。
結果は直ぐに現れた、狙い通りに多額の医療福祉金を上乗せせざるを得なかったヴィクトーはとてもの事、自身の手持ちの金だけでは足りずに方々に借金を拵えた。
それでも普段通りに手堅く経営を行っていれば、誰にも相談する事も無く、10年もあれば全ての返済は可能となる筈であったがしかし、ここへ来て彼は焦ってしまった、あろう事かロボットアームを利用した新型介護器具の先物取引へと手を出してしまったのである。
そしてそれこそが、“彼等”の仕掛けた第二番目の罠だった、“多少高い値段ではありますが、今後は更に値上がり致します、買うのは今しかありません!!”との電話の向こうのオペレーターの口車にウカウカと乗ってしまった挙げ句に多大な損失を計上してしまった彼は事ここに至ってどうする事も出来なくなって堪らず本家にいた、自分の兄に泣き付いたのだった。
「何という、愚かな事をしたのだお前は!!」
“どうして直ぐに正直に、報告に来なかった!?”と珍しく声を荒げて激怒するエリオットに対してヴィクトーはただただひたすら徹頭徹尾、平謝りを繰り返すしか出来なかったがとにもかくにも、その甲斐あって、兄は援助を約束してくれたのだ。
しかし。
「・・・・・」
(おのれ、兄上め!!よくもよくも皆の前でこの私に恥を掻かせてくれたな・・・!!)
帰りの車内でヴィクトーは悔しさと悲しさとに肩を震わせていた、確かに今回、自分が仕出かしてしまった事は一族に多大なる迷惑を掛けてしまった、それは認めよう。
だがしかし、だからと言って何もメイドや家令達の見ている前で、ああも怒鳴りつけなくても良いでは無いか、もう少し言葉を選んでくれても良いでは無いか!!
しかも今回のことは一族全員に確認を取るという、このままでは自分は今後、どの面下げて弟や姉君に会えば良いと言うのか、可愛い甥や姪っ子達に見(まみ)えれば良いと言うのか。
(確かに、一族の資産を切り崩して返済に充てる、と言うのであるから仕方が無いと言えば仕方が無いが・・・。だからと言ってこれではもう、私に一族の中に居場所など無いではないか、もう少し私の話に耳を傾けてくれても良いでは無いか。大切な兄弟なのでは無いのか・・・!?)
“わざとやった訳では無いのに”と、そんな事を考えつつも帰宅して、酒を浴びるように飲んでいた、そんな折りに。
彼の元を全身を黒尽くめのシルクハットとタキシードでコーディネートしている、一人の初老の紳士が尋ねて来た、自らを“アレクセイ・デュマ”と名乗ったその男はヴィクトーにある取り引きを持ち掛ける、曰く“貴方の立場と未来とを取り戻してやろう、私達に協力をしていただけるのならば”と。
「ハッキリと申し上げさせていただきますが・・・。最早“フォンティーヌの一族内”においては貴方の立場等御座いますまい、我等の提案に乗って下さいますのならば、全てが戻って参りますよ?貴方の平穏な生活共々ね・・・」
「・・・・・」
悲しみと怒りに我を忘れる程に追い詰められていた挙げ句に酒にも強(したた)かに酔ってしまっていたヴィクトーは、相手の正体を深く観察する事もせずにウカウカとその提案に乗ってしまった、兄の自分への態度が気に入らなかった、と言うのもかなり大きなウェイトを占めていたのであるが、そんなヴィクトーを手玉に取ること等、デュマに取っては朝飯前以外の何ものでも無かったのである。
逆に言えばもし、ヴィクトーがまともな状態だったならば、この男の抑えてはいても漏れ出してくる、怪しげな妖気と胡散臭さに気が付いて立ち所に追い出したに違いないが、当時の彼には最早、そんな胆力も冷静さも、すっかり失われてしまっていたのであった。
「・・・それで何をすれば良いと言うのだ?」
「フォンティーヌの秘宝である、“ガイアの青石”を盗み出して欲しい。後の事はまた後で伝える・・・」
「・・・・・っ!!?」
“おい待てっ!!”と流石にヴィクトーもハッとなった、“どうして貴様がその事を知っている!?”と。
しかし。
「それだけやっていただけたならば、後は我々にお任せ下さい。そうすれば貴方は今後、当主の座にも納まる事が出来るでしょうね、クックック・・・ッ!!」
「・・・・・っ。貴様っ!!」
「なりたかったのでしょう?当主に!!」
デュマの言葉に、叩き付けようと握った拳がピタリと止んだ。
「貴方は当主になりたかったのでしょう?なればよろしいではありませんか、何のことはありません。現当主であられるエリオット様と貴方とを比べてみても、貴方は些かも見劣りするモノではありません。ただ意識の向いている方向性が違うだけです、どうか我々にお任せ下さい。そうすれば貴方の望まれている全てが手に入るのですよ?」
「・・・・・」
「理不尽では無いですか、たった数年、早く生まれて来ただけなのに向こうは押しも押されぬ大当主、片や貴方は大いなる輝きを持っているのに彼に叱られ、項垂れて酒に溺れているばかり。雲泥の差だ」
「・・・・・」
「いやいや。本当はエリオット様も、貴方が疎ましいのかも知れませんぞ?何しろいつ、自分に取って代わるかも知れない才能を秘めている存在なのですから、それだけの立場にもいらっしゃられる方なのですから!!」
「・・・・・」
「おっと、これは余計な一言でしたかな?ですがこれだけは言わせていただきますぞ?貴方は“オンリーワン”等では無い、“ナンバーワン”になれる素質を秘めておられるのです、それを御理解下さいますように!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・私が、兄上に!!」
その言葉を聞いて、ヴィクトーはワナワナと震えだした、そんなバカな事があるわけがない、兄は、エリオットは崇高な人格者であり自分なんぞとは比べ物にならない位に頭の回転も速く、センスも良いと思っている、挙げ句に魔法力が桁違いに多くてそれらはいつわざる事実であった、そして。
そんな兄の事を、ヴィクトーは尊敬していた、彼なりにであったが確かに、兄は自慢の存在であり、何かあった場合にも、何くれとなく世話を焼いてくれてもいたのであるモノの、しかし。
それにしたって最早、過去の事となりつつあった、恐らくは今回の事で兄の自分に対する信頼は完全に潰えただろうし、其れ処か、下手をすれは一族内の誰からすらも爪弾き者にされるであろう事は想像に難くなく、その事に思いを致した彼は完全に、“自分という者”を見失ってしまっていたのだ。
実際にそれでも、エリオットを始めとして他の一族の面々が彼を見捨てる事などは有り得ない事だったのであるモノの、何よりも、思い込んだら一直線であり、他の意見に耳を傾ける事の出来る体質では無かったヴィクトーは、失態を犯した張本人である事も手伝ってすっかりと、自らの殻の中へと閉じ篭もってしまったのである。
「・・・解った」
気が付くと、ヴィクトーは了承していた、“やる”と言う言葉と共に。
「流石は名にし負うヴィクトー様ですな、見事な御決断です!!」
デュマは全く以て心にも無い事を言ってみせたが今のヴィクトーにはやはり、そんな彼の世辞等どうでも良い事であった、それよりも。
「今の言質は、しかと取らせていただきましたぞ?次期伯爵閣下。それでは今後は是非とも我々の為に働いていただきますように」
「・・・・・っ!!?」
“なんだと?”とヴィクトーはそう言いつつも怪訝そうな表情を浮かべるモノの、デュマの手にはいつの間にか“ボイス・レコーダー”が握られており勿論、録音スイッチも入っていた。
「最早貴方に後戻りなど出来ませぬぞ?ヴィクトー卿。貴方はたった今、我等の同志となったのですから・・・!!」
「・・・・・っ!!」
「おおっと、そんな恐ろしい顔等為さらなくとも大丈夫で御座いますよ。これは単なる保険であり、別段、貴方様の弱みを握る為にした事等では到底、御座いませんからな。ただあくまでも、万が一の時の為の“誓約書”のような物だと思っていただきたい」
「貴様・・・っ!!」
思わずいきり立とうとするヴィクトーに対して、デュマはあくまでも落ち着き払った余裕な態度で終始相対しし続けた、“まあ落ち着いて下されよ”と、嗄(しゃが)れた声で言葉を発して。
「今後は我々、“バビュローン同窓会”及び“エイジャックス連合王国”が貴方の後ろ立てとなり申しまする。今後も何卒、よしなによろしくお願い申し上げまする・・・」
(・・・もっとも。貴様に“利用価値”がある間だけだがな!!)
と、表面上はあくまでも恭(うやうや)しく、慇懃なまでに作法に則るデュマであったが腹の中は違っていた、用が無くなればいつでも切り捨てる事が出来る“トカゲの尻尾”、ただそうとだけしか思ってはいなかったのである。
「ではヴィクトー卿。今後はこちらのスマートフォンをお持ち下さいますように。我々の連絡用端末で御座いますれば・・・」
「・・・・・」
「これは万が一の際には、重要な物証となりまする、それを貴方様に手渡す意味を、どうか御考慮下さいますように・・・」
「・・・・・」
“解った”と、ようやくにしてヴィクトーは頷いた、正直に言ってまだ胡散臭さは決して晴れずにいたモノの、それでも相手が自分と対等の立場に立ったのだ、と思うと少しだけ、心を安らげる事が出来たのだ。
「・・・ただし。そちらの端末は我々の連絡用にのみ、使っていただきたい。また用が済みましたならば、速やかに御返却なさいますように」
「・・・そうか、解った」
とヴィクトーはこのデュマと言う男の言葉にまた頷いてしまっていた、“用が済んだら返せ”と言う事は、此方に持たせておくのがそれだけ危険なモノ、と言う事でありそれを預けるのは確かに、“対等なる盟約の証”としては申し分ないと、勝手に錯覚してしまっていたのであるが、事実は全くのデタラメであって別段、デュマはヴィクトーが途中で正気に戻り、自分達から離反してしまったとしても痛くも痒くも無かったのである。
しかもその際、直ぐにでも証拠が隠滅出来るようにとこの端末には“自爆装置”が仕込まれており、場合によっては用済みとなったヴィクトー諸共、抹殺してしまうことの出来る優れ物であったのだ。
しかもデュマは今回の為にご丁寧に手袋までしてきていたのである、何か自分が関わっていたと言う証拠が出て来る場合等、万に一つも何処にも無い、と言うのにこの男は何をとち狂っているのか、勝手に自分で自分を納得させてしまっている。
(少しでも頭を働かせれば、解りそうなモノだがな。まあ尤も、“そう言った男”であるからこそ我々も選んで仕掛けたのだが・・・!!)
そう言って人知れずにほくそ笑むと、デュマはヴィクトーの元を足早に立ち去った、その後ヴィクトーは彼の言うとおりに行動して手際よく当主である“エリオットの血液”を入手する事に成功し、それを使って“当主の間”へと潜入、書斎に潜り込んで父から聞かされていた“隠し階段”を発見しては一族秘伝の“遮蔽結界式”を書き込んだ分厚い布地で“ガイアの青石”を包み込み、自宅へと持ち出して現在に至っている、と言う訳であったのだ。
だから。
「この期に及んで“接触を禁止する”とは一体、どう言う事なんだ、既にこっちは後戻り出来ない所まで来てしまっているのだぞ?それを・・・!!」
「解っている、そう喚くな・・・」
とその“相手”は尚もヴィクトーをはぐらかすような態度、物言いで遇(あしら)った、どうにも少し巫山戯(ふざけ)ているかのような感覚すらも覚えて来るのは、果たして自分だけであろうか。
「良いか?“メイヨール”からのお言葉を伝える。“今はセイレーンやミラベルが動き回っている時だ、この様な時にこちら側が何某かのアクションを起こすべきでは無い”とさ。そう伝えろって・・・」
「あの男が、“デュマ”がそう言ったのか!?」
「だから“そう”だと言っただろうが」
ヴィクトーの言葉に電話口の向こう側では“相手”の何者かがやや呆れ果てたようにそう呟いた、心なしかその態度、仕草はどちらかと言えば“女性”のような印象を受けるが、さて。
「・・・まあ、そう心配しなさんなって。メイヨールからお前に増援を送るってさ、“ソイツらが来てから行動を起こすように”って、“此方から改めて指示を出すから”って。そう伝えておけって」
「・・・・・」
“増援だと?”とヴィクトーが呻くように返すとあくまでも軽い口調で“相手”は言った、“近日中に4名の戦士がそちらへ赴く”と、“彼等と合流してからフライブルクまで来い”と。
「なぁに、ほんのちょっとの辛抱だって。ここまで来たんだろう?あとちょっとじゃないか・・・」
「そ、それはそうだが。しかし・・・」
「心配無用だよ、ヴィクトー卿」
少しだけ、語気を強めて相手が続ける、“彼等に勝てる者等誰もいない”と。
「我々の力を、その目に焼き付けるが良いよ。どうもオタクは私達の事を見くびっている様子だからね」
「そ、そんな事は無いが・・・」
「だったら別に、何の心配もいらないだろ?堂々としてなよ!!」
“それじゃあね!!”と言う言葉を最後に通信が切られるモノの、すると途端に静寂がその場を支配してヴィクトーは重苦しい雰囲気に包まれる。
「・・・・・」
(ど、どうしたら良いと言うのだ?私はこのままでは、一族の者から完全に追放されてしまうぞ?それだけではない、下手をすれば・・・!!)
“弾劾裁判に掛けられるかも知れないと言うのに!!”と、いても立ってもいられなくなってウィスキーをグラスにナミナミと注ぎついではそれをグイッと飲み干して行くモノの、覚めることの無い悪夢と二日酔いの中に漂っている彼の足下へと向けてしかし、“運命の時”は刻一刻と近付きつつあった。
一方で。
そんな彼を見張っている蒼太とメリアリアのペア達もまた、来るべき潮流の変化を敏感に感じ取っていた、特に蒼太はそうだった、“神人化”が行える彼は異世界や違う時間軸の波動の流れを理解する事が出来る上に、それらに巻き込まれる事無く受け流す術すらも心得ていたモノだったから、それらを活かして慌てず騒がず、動じる事無く黙って観察するに止めおいていたのであるが、そんな彼でも些かに、思考に耽る事があった。
何かと言えば他でも無い、“ドラクロワ・カウンシル”についてのそれであったのであるが、“ガイア・マキナ”から帰還して後、今日に至るまでの日々の中で、この組織に対して思いを馳せる度に蒼太はどうも自分達が大切な“何か”を見落としてしまっているような気がしてならなくなっていたのである。
確かに、カウンシルの中でも更なる“最高意思決定機関”であった“マジェスティック・トゥエルブ”は完膚無きまでに叩き潰したのではあるモノの、どうもそれ以外にも連中には隠された“何か”があるような気がしてならなかったのだ。
「・・・・・」
「どうしたの?あなた・・・?」
浮かない顔をしている夫に妻(メリアリア)がソッと寄り添って来る。
「もう後もう少しで、この事件も決着(けり)が着くわ、そうしたなら私達、もう誰にも何にも邪魔される事無く堂々と婚約を発表出来るわねっ!!!」
「うん、それは良い。確かにそれは良いんだけれども・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“どうしたの?”と、夫の様子がただならぬ事に気が付いたメリアリアが“何でも言って?”と言葉を掛けつつマジマジと彼を見つめて来た。
「何か気になる事が、あるんでしょう?」
「う、うん。実は・・・」
“ドラクロワ・カウンシルの事なんだ”と彼は正直に自身の考えを告白するモノの確かに異世界“ガイア・マキナ”において彼等に打ち勝った筈の蒼太であったがどうしても未だにもう一歩、踏み込まなければならなかったような何かを感じて釈然と出来ずにいたのだ。
「これは、“向こうの僕”にも言われていた事だったんだけれども・・・。“ドラクロワ・カウンシル”についてはまだ何某かの、秘密があるような気がしてならないんだ、何て言うかこう、確かに粗方カタは付いたんだけれどもそれでも、何か“最大の謎は手付かずのまま残されている”って言う・・・」
「・・・でも。それはしょうがないことなんじゃない?だって“ドラクロワ・カウンシル”って言うのは向こうでの呼び名であって、こちらではこちらで、違う名前で呼ばれている似たような組織があるって事なんでしょう?そしてそれは未だに野放し状態のままで、活発な活動をし続けている。だからまだ、あなたの中では未だに“決着が着いていないんだ”って言う思いがある、と言うことなんじゃないかしら?」
「ううーん、確かにそれもそれであるんだけれども・・・」
“何て言ったら良いのかな?”と蒼太も途方にくれてしまうモノの確かに、メリアリアの言いたい事は理解出来る事柄だった、現に彼方(あちら)の世界での悪は間違いなく討ち滅ぼす事が出来ていた訳だし、そしてその結果として世界は平和路線への変更が確定していて、しかもそれは揺るぎないモノとして世界各地へと向けて波及していったのであるがしかし。
一方で、此方(こちら)の世界でのそれはまだ、果たされてはいないのが実状であって、それが故に些かに自身の中では消化不良のような思いを抱えてしまっている、と言うのは理解できない話では無かったモノの、しかしどうにもやはりそれだけでは無い“何か”があるのであって、それがして蒼太自身に、“何かとんでもない見落としをしてしまっているのでは無いのか?”と言う不信感を抱かせるに至っていたのである。
(これは、一体どう言った感覚なんだろう?例えるならば“大魔王は確かに倒した”と言うのに、他にもまだ、何かがいるような感覚、とでも言えば良いのかな?だけどその“何か”とは一体なんだ、気になる・・・)
「・・・ねぇあなた。それよりも」
“気晴らしに一緒に行かない?”と言ってメリアリアが誘ってくれたのが、“パリ・サンジェルマン”と言うクラブチームのサッカー観戦チケットだった、地元であるパリっ子ならば誰でも名前くらいは知っている、熱烈なまでのサポーター達が大勢いるクラブチームとしてはそれなりの知名度を誇っていたそこは、一昨年の暮れに監督が交替してその次のシーズンに早くも優勝を果たした事でも知られている、今最も熱くてポピュラーなサッカーチームの一つだったのだ。
正直に言ってメリアリアはサッカーにそれほど興味は無かったモノの、しかし蒼太と一緒にいる時は、何処に行っても心の底から楽しむことが出来ていたし、そんな時はこれ以上無い程に気分が高揚して盛り上がる事が出来ていたのであり、それが故に幼い頃にも何度か、家族と共に蒼太を誘って観戦に行った事があったのである。
しかし蒼太が事故にあってからは彼女は塞ぎ込んでしまう事が多くなり、またその為に彼女自身、とてもサッカー観戦等する気分になれなかった事も加わって、暫くの間は遠ざかっていたのであるが、“彼が生きていてくれた上に、結ばれたのは目出度い事だ!!”と言ってエマが“せっかくだから行って来たら?”と譲ってくれたのであった。
「エマがね?教えてくれたのよ、選手達の高いフィジカルにも注目なんだけれども・・・。なにより最高司令官である監督の元で、一糸乱れぬチームワークを発揮して戦う姿が見ていて面白いんだって!!」
「・・・・・っ!!!!!?」
(“最高司令官”だって・・・!?そうか!!)
「“監督”は“最高司令官に過ぎない”と言う事か・・・。この場合、選手達が構成員とするのならば、監督は・・・。いや、しかし・・・」
「・・・あなた?」
“独身時代最後の思い出になるかも!!”と思って蒼太を誘い、一緒に行こうとしていたメリアリアからの話を聞いた後で、暫くの間はブツブツと考え事をしていた蒼太はしかし、次の瞬間、“ああっ!?”と叫んで弾かれたかのように立ち上がるがこの時彼はようやくにして理解したのである、自分がずっと感じ続けてきていた、モヤモヤとした思いの正体を。
「何てことだ、見落としていたっ!!」
「・・・・・っ!!!何を?」
「“オーナー”だよっ!!」
蒼太が叫ぶが確かに彼等“マルス”は“ドラクロワ・カウンシル”の“構成員達”は打ち倒したのであるモノの、その黒幕たる“オーナー”を野放しにしてしまっていたのである。
「“オーナー”・・・?」
「そうだよ、メリー。例えばさ」
“サッカークラブって誰の持ち物なのか、解る?”と蒼太が問い質すモノの、それは厳密に言えば選手のモノでもコーチのモノでも監督のモノでも決して無くて、ただ一人“オーナー”のモノなのである。
「“宿屋”なんかもそうだよね?実際の現場を切り盛りしているのは女将さんだけど、経営しているオーナーは別にいる事が非常に多い。しかもこの場合、女将さんは“最高司令官”ではあるけれども、決して“最高権力者”では無いんだよ!!」
「え、えっ!?ちょっと待って・・・。つまりそれって!!」
「そうだよ」
蒼太は頷いて見せたが即ち、“ドラクロワ・カウンシル”における“オーナー”は別に存在していたのであり、彼等はそれを放置したまま勝手に討滅部隊である“マルス”を解散させてしまっていたのだ。
「・・・じゃあ。でも、その“オーナー”って言うのは何処にいる誰なの?」
「・・・・・っ!!!!!」
“解らない”と、愛妻からの問い掛けに蒼太は素直に応えるモノの現状、“オーナー”に繋がるような物証も情報も何も無く、それらをこれから一つずつ、調べ上げて行かねばならないとすると想像を絶する程の労力が蒼太の双肩に掛かって来る事となる。
(冗談じゃ無いよ、全くもう。せっかく陰謀の中枢組織を叩き潰したと思っていたなら、実は更なる黒幕がいたなんて!!)
“ちょっとしたスペクタクルだ”と蒼太は思った、こんなモノは間違ってもロマンスでもイノセンスでも何でも無い、むしろ単なるナンセンスである。
(向こうの世界の僕は気付けただろうか?いや、多分気付けているに違いないな!!)
蒼太は思うが彼自身も向こうの蒼太も根っこの部分は皆一緒であり、誰か一人が気が付いたのならば、それは確実に“根源”へと落とし込まれてその結果、違う時間軸にいる、別の世界の蒼太達にも伝播して行くようになっているモノなのであった。
ましてや。
(どんな世界でも僕の側には必ずメリーがいてくれる、“神人化”する事が出来るようになってから、それが凄く良く解る、感じる!!)
そう思うモノの何度となく繰り返され続けて来た凄まじいまでに厳しい修行と、それらの絶え間無い日々の実践とによって蒼太は自分でも知らず知らずの内に、恐ろしい程に感覚がシャープになってしまっていたのであり、それは時間軸を飛び越えて遥か異世界の自分達の様子、状態すらも把握出来る程になっていて、そのいずれにおいてもメリアリアと結ばれていた彼はだから、ずっと側に寄り添いながらも生きているのがハッキリと確認する事が出来たのだ。
そしてだからこそー。
蒼太は理解出来ていたのである、“自分の至らぬ部分は彼女がみんな、補ってくれているのだ”と言う事を。
どんな時も二人で互いを支え合い、補完し合って生きているのだ、と言うことを。
(・・・あれれ?もう一人、いや二人いる!?)
蒼太が更に感覚を集中させて行くとそこにはメリアリアのみならず、見事に映える青髪の女の子と艶やかな黒髪の女性とが映し出されていたのであり、そしてそれはアウロラとオリヴィアの事である、と言う事までを、鮮明に認識する事が出来たのである。
(え、えっ!?うそだろっ。どう言う事なんだ、一体・・・!!)
三人の花嫁の存在を確信した瞬間、蒼太の全身を雷に打たれたような衝撃が駆け抜けて行くのと同時に意識が遙かな彼方にまでも拡大して行き、心が暖かな思いでいっぱいに満たされ、全身に気力が充実して行くのを強く強く感じていた。
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彼等にとっての“同志”と言うのは、あくまでも“利害関係に基づいた契約”によって結ばれている関係者同士を言うのであって、そこには“心と心の結び付き”、所謂(いわゆる)“絆”と言ったモノは何もありません。
要するにある一定の期間だけ“利用し利用されるだけの関係”こそがそうであって、それは決して“仲間”と呼べる存在では無いのです(そもそもそんな概念はありません、そう言ったモノの根幹をなす、“愛”や“真心”等と言うモノが全く無い連中ですから)。
これはもっと後になって言及が為されて行きますけれども基本的に彼等の正体と言うモノは、幾つかのグループに分かれています。
一つ目、元から魔物であった者。
二つ目、自らの意思で魔道に堕ちた者。
そして三つ目が、これが一番最悪なのですが、レプティリアンを始めとした、所謂(いわゆる)“悪魔”と呼ばれる存在に魂を売り渡してしまった者達です。
皆様、ちなみに何故、悪魔に魂を売り渡すとその代償としてこの世で権勢を振るえるようになるのか、お解りでしょうか。
実はそれにはあるカラクリがあるのですがこれにはそもそも、“何故人間が何かにつけて苦しまなければならないのか”、と言う命題も関わって来るのです。
結論から先に申し上げさせていただきますとそれは、“宇宙からの愛”だと言われているのです。
どう言う事か、と申しますと“この試練を乗り越えてもっと強く美しく光り輝いておくれ”と言う宇宙からの願いがあるから、とされているのです、ところが。
“悪魔に魂を売り渡してしまった者達”と言うのにはもう、そう言った試練が訪れる事はありません、だって魂が喰われて無くなってしまうからです(その代わりとして、ああ言った連中からは“魔力”とそれに基づく“仮初めの命、感性”が与えられます、それによって一見、“普通の人間として生きているように見えている”だけなのです。これはそれをやった本人達には自覚は全くありませんでしょうけれども、自分の意思で生きているように見えてその実、悪魔の“操り人形”に過ぎなくなるのです)、だから死んだらまっしぐらに“消滅”行き、即ち“無”に還るのです、そんな存在に試練等を与えても無駄です(だってどんなに試練を与えたとしても、愛の根源たる魂が、即ち“成長して行く永遠なる霊性”が、無くなってしまっている為に、もうそれ以上に成長する事はありませんから。第一どっちみち、消えて無くなる存在なのですから、“魂を成長させる為の”、“より深くて強い愛を体現させる為の”試練等を与えるだけ無駄でしょう)、宇宙は無駄な事を決してしません、だから“試練”も何も無くなるのです(その結果として様々な事が無障害で出来るようになります)。
これが“悪魔に魂を売り渡してしまった者達”が、権勢を振るえるようになる理由なのです(ただし。ハッキリと申し上げてそう言った連中が最終目標として掲げている、真の意味での“己の夢”や“野望”が叶う事は決してありません。何故ならばそれらを実現するためにはどうしても現実を創造する能力(ちから)、即ち“創造能力”が必要になるからです。そしてそれらを持っているのは宇宙からの愛の顕現であり、大いなる神々の分身たる“魂”だけなのです、それが無くなってしまうのですから、夢や願望が叶う道理はありません←少なくとも完全に、“実現し切る”と言う事は無いのです)。
しかもそう言った“現世利益”すらも、所詮は“泡沫の夢”に過ぎません(だって死んだら無くなってしまうモノなんですもの)、愛とは永遠なるモノの事なのですが彼等には何一つとして、そんなモノは残らないのです(永遠を感じる事さえ出来ません)。
ちなみにせっかくなのでもう一つ、蒼太君はまだ、“ドラクロワ・カウンシル”即ち、“アンチ・クライスト・オーダーズ”の全貌を掴み切れていません。
ただし、これだけ彼等に対する情報が無い中でも、その裏の存在、即ち“オーナー”がいる、と言う事に気が付いただけでも正直に言って実に大したモノなのですが、これだけではまだ不十分です。
これは良く読んで下さっておられる方にはお解り頂けるかと思いますけれども(一回だけ、名前がでて参りましたから)“デュマ”の背後には更に、“キング・カイザーリン”と呼ばれている存在がおります。
でも“彼女”は“オーナー”では無くて、あくまで“オーナー代理”なのです。
ちなみに。
この“キング・カイザーリン”とはどう言う意味なのかと申しますと、キングはそのまま“王”、“王様”を意味しますが、一方の“カイザーリン”とはドイツ語で“皇妃”もしくは“皇后”を意味する言葉なのです(即ち“皇妃王”と言う意味です)。
“妃”の文字が付くことから容易に連想出来るでしょうけれども、そうです、“彼女”には“夫”がいるのです、そしてソイツこそが“ドラクロワ・カウンシル”及び、“アンチ・クライスト・オーダーズ”の“真のオーナー”、“支配者”と言う事になるのです(じゃあ“デュマ”って一体、何なのよ?と言うと、彼は単なる“最高司令官”に過ぎません。“真のオーナー”及び“キング・カイザーリン”から組織の運用を任されている、一使いっ走り、要するに“下僕の一人”と言う訳です)。
ちなみにこの“カイザーリン”とその“夫”と言うのは所謂(いわゆる)一つの“超時空生命体”です(その正体は“霊体レプティリアン”であり、その中でも取り分け強大な魔力と凶暴性を誇っている、要するに“邪神”と呼ばれる存在です)、そして彼等は“ドラクロワ・カウンシル”及び“アンチ・クライスト・オーダーズ”双方のオーナー(オーナー代理)でもあります(要するに“二つの違った時間軸の秘密組織の大ボスであり、中心的役割を果たしている存在”とでも言うべき者達です、そして彼等は“決まった肉体”と言うのを持っていません。だから現世で活動するための“手段”、“組織”としての“ドラクロワ・カウンシル”、及び“アンチ・クライスト・オーダーズ”を作りあげたのです。それを蒼太君達は討ち果たしたのです、だから異世界における戦いでは間違いなく、そう言った面々の、即ち“邪神達”の手足をもぎ取って、その勢力と野望とを壊滅させたのでした←なので彼等の戦いと言うモノは、決して無駄では無かったのでした)。
なのでコイツらをキチッと討伐する事が出来たなら、全ての問題は解決して世界に平和は保たれます(全人類における、憎しみの連鎖からの解放と浄化とが一片に行われます)。
ですけれどもこのお話しのラスト部分でようやく“三人全員と結婚しても良いのでは無いか?”という事に対しての意識が芽生え始めて来たのです、これから少しずつ、その流れは加速して行きます(ただしその為にはどうしても、やっておかなくてはならない事があります。それは二人の蒼太君への愛情が、自分に負けず劣らず確固たるモノである事を、真に絶対的なモノである事をメリアリアちゃんに認めさせなければなりません、そうでなければメリアリアちゃんは決して納得しないでしょうし、彼女達を許す事も無いでしょう←何故ならば、彼女はそれを持っているからです、そしてそれらを発揮しては蒼太君を守り支え、ずっと共に在り続けてきました、だからこそその有り難さと尊さとを、誰よりも何よりも、しっかりと感じて理解しているのです。そんな“本物の愛情”を持っていない人を、自分と同じ花嫁として、メリアリアちゃんは絶対に認めないし、許しません。そしてそれはまた、蒼太君も同様です、彼もまた、おいそれとは二人の事を受け入れる訳には参りません、彼にもメリアリアちゃんへの思いがあるので・・・)。
そう言う事で御座います。
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「ここには、連絡しないでくれと言っただろう!!」
スマートフォンに耳を当てながらヴィクトーが苛立ち加減に向こう側にいるであろう相手を怒鳴りつけるがそれは裏を返せば今現在の、彼の置かれている立場の辛さを感じさせるモノと言えるだろう。
「この電話だって危ないんだ、いつ何処で誰が聞いているのか、解らないんだからな!!」
「・・・安心しろ」
その“声”は男か女か解らなかった、“変声器”で声が変えられていたからである。
「その“飛ばし携帯”には我々の“VPN”が施されている、不用意に“Wi-Fi”にでも繋がない限りかは、通話内容がバレる可能性は一切無い」
「・・・もし“連中”が、こっちを泳がせる為にわざとこの状態での通信を、させているのだとしたら?」
「その場合、お縄になるのはお前だけだ。我々には一切の迷惑は掛からないからどうか安心してもらいたい」
「そう言う事を、言っているんじゃ無い!!」
ヴィクトーが思わず激昂するモノの、彼には後ろめたさがあった、“一族を裏切ってしまった”と言うそれだ、半年ほど前、彼の経営する施設の幾つかで食中毒が発生した、信じられない出来事だった、ヴィクトーはこう見えても、“社会的弱者”を務めて追い詰めるような、どうしようもない腹黒さ等は全く以て持ち合わせてはいなかった、むしろ逆だ、少しでもそう言った人々の手助けをしてやりたいと考えているような男だったのである。
・・・それが自分に課せられた“ノブレス・オブリージュ”なのだと。
しかし。
その優しさが、仇となった、否、もっと言ってしまうのならば優しさ自体は決して、罪に当たるモノでは無かった、彼に足りなかったのは“自身が連中に目を付けられており既に謀略を仕掛けられている”と言う、その警戒心と認識、ただそれだけであったのだ。
彼は所謂(いわゆる)“ワンマンタイプ”な経営者であった、情に脆く、優しさも持ち合わせていた彼だったのだがしかし同時に、逆らう者には容赦しない苛烈さも持ち合わせていたのであり、その極端にアンバランスな性格と、人の意見に耳を傾けようとしない直情型の性質から、職場を追放された者や、惜しみつつも辞めて行かざるを得なかった者達が多数、存在していたのである。
“彼等”はそれらを知っていた、知っていたからこそ逆にそれらを利用したのだ、多額の情報提供料を餌にして、かつての従業員達から建物内の構造や配達会社の荷受けの態勢、また警備面における各種人員、機材の配置状況等を事細かく聞き出す事に成功した“彼等”はそれを余すこと無く利用しては潜入が可能であった施設に“食中毒”の元となる菌を大量にばら撒いて行ったのだった。
結果は直ぐに現れた、狙い通りに多額の医療福祉金を上乗せせざるを得なかったヴィクトーはとてもの事、自身の手持ちの金だけでは足りずに方々に借金を拵えた。
それでも普段通りに手堅く経営を行っていれば、誰にも相談する事も無く、10年もあれば全ての返済は可能となる筈であったがしかし、ここへ来て彼は焦ってしまった、あろう事かロボットアームを利用した新型介護器具の先物取引へと手を出してしまったのである。
そしてそれこそが、“彼等”の仕掛けた第二番目の罠だった、“多少高い値段ではありますが、今後は更に値上がり致します、買うのは今しかありません!!”との電話の向こうのオペレーターの口車にウカウカと乗ってしまった挙げ句に多大な損失を計上してしまった彼は事ここに至ってどうする事も出来なくなって堪らず本家にいた、自分の兄に泣き付いたのだった。
「何という、愚かな事をしたのだお前は!!」
“どうして直ぐに正直に、報告に来なかった!?”と珍しく声を荒げて激怒するエリオットに対してヴィクトーはただただひたすら徹頭徹尾、平謝りを繰り返すしか出来なかったがとにもかくにも、その甲斐あって、兄は援助を約束してくれたのだ。
しかし。
「・・・・・」
(おのれ、兄上め!!よくもよくも皆の前でこの私に恥を掻かせてくれたな・・・!!)
帰りの車内でヴィクトーは悔しさと悲しさとに肩を震わせていた、確かに今回、自分が仕出かしてしまった事は一族に多大なる迷惑を掛けてしまった、それは認めよう。
だがしかし、だからと言って何もメイドや家令達の見ている前で、ああも怒鳴りつけなくても良いでは無いか、もう少し言葉を選んでくれても良いでは無いか!!
しかも今回のことは一族全員に確認を取るという、このままでは自分は今後、どの面下げて弟や姉君に会えば良いと言うのか、可愛い甥や姪っ子達に見(まみ)えれば良いと言うのか。
(確かに、一族の資産を切り崩して返済に充てる、と言うのであるから仕方が無いと言えば仕方が無いが・・・。だからと言ってこれではもう、私に一族の中に居場所など無いではないか、もう少し私の話に耳を傾けてくれても良いでは無いか。大切な兄弟なのでは無いのか・・・!?)
“わざとやった訳では無いのに”と、そんな事を考えつつも帰宅して、酒を浴びるように飲んでいた、そんな折りに。
彼の元を全身を黒尽くめのシルクハットとタキシードでコーディネートしている、一人の初老の紳士が尋ねて来た、自らを“アレクセイ・デュマ”と名乗ったその男はヴィクトーにある取り引きを持ち掛ける、曰く“貴方の立場と未来とを取り戻してやろう、私達に協力をしていただけるのならば”と。
「ハッキリと申し上げさせていただきますが・・・。最早“フォンティーヌの一族内”においては貴方の立場等御座いますまい、我等の提案に乗って下さいますのならば、全てが戻って参りますよ?貴方の平穏な生活共々ね・・・」
「・・・・・」
悲しみと怒りに我を忘れる程に追い詰められていた挙げ句に酒にも強(したた)かに酔ってしまっていたヴィクトーは、相手の正体を深く観察する事もせずにウカウカとその提案に乗ってしまった、兄の自分への態度が気に入らなかった、と言うのもかなり大きなウェイトを占めていたのであるが、そんなヴィクトーを手玉に取ること等、デュマに取っては朝飯前以外の何ものでも無かったのである。
逆に言えばもし、ヴィクトーがまともな状態だったならば、この男の抑えてはいても漏れ出してくる、怪しげな妖気と胡散臭さに気が付いて立ち所に追い出したに違いないが、当時の彼には最早、そんな胆力も冷静さも、すっかり失われてしまっていたのであった。
「・・・それで何をすれば良いと言うのだ?」
「フォンティーヌの秘宝である、“ガイアの青石”を盗み出して欲しい。後の事はまた後で伝える・・・」
「・・・・・っ!!?」
“おい待てっ!!”と流石にヴィクトーもハッとなった、“どうして貴様がその事を知っている!?”と。
しかし。
「それだけやっていただけたならば、後は我々にお任せ下さい。そうすれば貴方は今後、当主の座にも納まる事が出来るでしょうね、クックック・・・ッ!!」
「・・・・・っ。貴様っ!!」
「なりたかったのでしょう?当主に!!」
デュマの言葉に、叩き付けようと握った拳がピタリと止んだ。
「貴方は当主になりたかったのでしょう?なればよろしいではありませんか、何のことはありません。現当主であられるエリオット様と貴方とを比べてみても、貴方は些かも見劣りするモノではありません。ただ意識の向いている方向性が違うだけです、どうか我々にお任せ下さい。そうすれば貴方の望まれている全てが手に入るのですよ?」
「・・・・・」
「理不尽では無いですか、たった数年、早く生まれて来ただけなのに向こうは押しも押されぬ大当主、片や貴方は大いなる輝きを持っているのに彼に叱られ、項垂れて酒に溺れているばかり。雲泥の差だ」
「・・・・・」
「いやいや。本当はエリオット様も、貴方が疎ましいのかも知れませんぞ?何しろいつ、自分に取って代わるかも知れない才能を秘めている存在なのですから、それだけの立場にもいらっしゃられる方なのですから!!」
「・・・・・」
「おっと、これは余計な一言でしたかな?ですがこれだけは言わせていただきますぞ?貴方は“オンリーワン”等では無い、“ナンバーワン”になれる素質を秘めておられるのです、それを御理解下さいますように!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・私が、兄上に!!」
その言葉を聞いて、ヴィクトーはワナワナと震えだした、そんなバカな事があるわけがない、兄は、エリオットは崇高な人格者であり自分なんぞとは比べ物にならない位に頭の回転も速く、センスも良いと思っている、挙げ句に魔法力が桁違いに多くてそれらはいつわざる事実であった、そして。
そんな兄の事を、ヴィクトーは尊敬していた、彼なりにであったが確かに、兄は自慢の存在であり、何かあった場合にも、何くれとなく世話を焼いてくれてもいたのであるモノの、しかし。
それにしたって最早、過去の事となりつつあった、恐らくは今回の事で兄の自分に対する信頼は完全に潰えただろうし、其れ処か、下手をすれは一族内の誰からすらも爪弾き者にされるであろう事は想像に難くなく、その事に思いを致した彼は完全に、“自分という者”を見失ってしまっていたのだ。
実際にそれでも、エリオットを始めとして他の一族の面々が彼を見捨てる事などは有り得ない事だったのであるモノの、何よりも、思い込んだら一直線であり、他の意見に耳を傾ける事の出来る体質では無かったヴィクトーは、失態を犯した張本人である事も手伝ってすっかりと、自らの殻の中へと閉じ篭もってしまったのである。
「・・・解った」
気が付くと、ヴィクトーは了承していた、“やる”と言う言葉と共に。
「流石は名にし負うヴィクトー様ですな、見事な御決断です!!」
デュマは全く以て心にも無い事を言ってみせたが今のヴィクトーにはやはり、そんな彼の世辞等どうでも良い事であった、それよりも。
「今の言質は、しかと取らせていただきましたぞ?次期伯爵閣下。それでは今後は是非とも我々の為に働いていただきますように」
「・・・・・っ!!?」
“なんだと?”とヴィクトーはそう言いつつも怪訝そうな表情を浮かべるモノの、デュマの手にはいつの間にか“ボイス・レコーダー”が握られており勿論、録音スイッチも入っていた。
「最早貴方に後戻りなど出来ませぬぞ?ヴィクトー卿。貴方はたった今、我等の同志となったのですから・・・!!」
「・・・・・っ!!」
「おおっと、そんな恐ろしい顔等為さらなくとも大丈夫で御座いますよ。これは単なる保険であり、別段、貴方様の弱みを握る為にした事等では到底、御座いませんからな。ただあくまでも、万が一の時の為の“誓約書”のような物だと思っていただきたい」
「貴様・・・っ!!」
思わずいきり立とうとするヴィクトーに対して、デュマはあくまでも落ち着き払った余裕な態度で終始相対しし続けた、“まあ落ち着いて下されよ”と、嗄(しゃが)れた声で言葉を発して。
「今後は我々、“バビュローン同窓会”及び“エイジャックス連合王国”が貴方の後ろ立てとなり申しまする。今後も何卒、よしなによろしくお願い申し上げまする・・・」
(・・・もっとも。貴様に“利用価値”がある間だけだがな!!)
と、表面上はあくまでも恭(うやうや)しく、慇懃なまでに作法に則るデュマであったが腹の中は違っていた、用が無くなればいつでも切り捨てる事が出来る“トカゲの尻尾”、ただそうとだけしか思ってはいなかったのである。
「ではヴィクトー卿。今後はこちらのスマートフォンをお持ち下さいますように。我々の連絡用端末で御座いますれば・・・」
「・・・・・」
「これは万が一の際には、重要な物証となりまする、それを貴方様に手渡す意味を、どうか御考慮下さいますように・・・」
「・・・・・」
“解った”と、ようやくにしてヴィクトーは頷いた、正直に言ってまだ胡散臭さは決して晴れずにいたモノの、それでも相手が自分と対等の立場に立ったのだ、と思うと少しだけ、心を安らげる事が出来たのだ。
「・・・ただし。そちらの端末は我々の連絡用にのみ、使っていただきたい。また用が済みましたならば、速やかに御返却なさいますように」
「・・・そうか、解った」
とヴィクトーはこのデュマと言う男の言葉にまた頷いてしまっていた、“用が済んだら返せ”と言う事は、此方に持たせておくのがそれだけ危険なモノ、と言う事でありそれを預けるのは確かに、“対等なる盟約の証”としては申し分ないと、勝手に錯覚してしまっていたのであるが、事実は全くのデタラメであって別段、デュマはヴィクトーが途中で正気に戻り、自分達から離反してしまったとしても痛くも痒くも無かったのである。
しかもその際、直ぐにでも証拠が隠滅出来るようにとこの端末には“自爆装置”が仕込まれており、場合によっては用済みとなったヴィクトー諸共、抹殺してしまうことの出来る優れ物であったのだ。
しかもデュマは今回の為にご丁寧に手袋までしてきていたのである、何か自分が関わっていたと言う証拠が出て来る場合等、万に一つも何処にも無い、と言うのにこの男は何をとち狂っているのか、勝手に自分で自分を納得させてしまっている。
(少しでも頭を働かせれば、解りそうなモノだがな。まあ尤も、“そう言った男”であるからこそ我々も選んで仕掛けたのだが・・・!!)
そう言って人知れずにほくそ笑むと、デュマはヴィクトーの元を足早に立ち去った、その後ヴィクトーは彼の言うとおりに行動して手際よく当主である“エリオットの血液”を入手する事に成功し、それを使って“当主の間”へと潜入、書斎に潜り込んで父から聞かされていた“隠し階段”を発見しては一族秘伝の“遮蔽結界式”を書き込んだ分厚い布地で“ガイアの青石”を包み込み、自宅へと持ち出して現在に至っている、と言う訳であったのだ。
だから。
「この期に及んで“接触を禁止する”とは一体、どう言う事なんだ、既にこっちは後戻り出来ない所まで来てしまっているのだぞ?それを・・・!!」
「解っている、そう喚くな・・・」
とその“相手”は尚もヴィクトーをはぐらかすような態度、物言いで遇(あしら)った、どうにも少し巫山戯(ふざけ)ているかのような感覚すらも覚えて来るのは、果たして自分だけであろうか。
「良いか?“メイヨール”からのお言葉を伝える。“今はセイレーンやミラベルが動き回っている時だ、この様な時にこちら側が何某かのアクションを起こすべきでは無い”とさ。そう伝えろって・・・」
「あの男が、“デュマ”がそう言ったのか!?」
「だから“そう”だと言っただろうが」
ヴィクトーの言葉に電話口の向こう側では“相手”の何者かがやや呆れ果てたようにそう呟いた、心なしかその態度、仕草はどちらかと言えば“女性”のような印象を受けるが、さて。
「・・・まあ、そう心配しなさんなって。メイヨールからお前に増援を送るってさ、“ソイツらが来てから行動を起こすように”って、“此方から改めて指示を出すから”って。そう伝えておけって」
「・・・・・」
“増援だと?”とヴィクトーが呻くように返すとあくまでも軽い口調で“相手”は言った、“近日中に4名の戦士がそちらへ赴く”と、“彼等と合流してからフライブルクまで来い”と。
「なぁに、ほんのちょっとの辛抱だって。ここまで来たんだろう?あとちょっとじゃないか・・・」
「そ、それはそうだが。しかし・・・」
「心配無用だよ、ヴィクトー卿」
少しだけ、語気を強めて相手が続ける、“彼等に勝てる者等誰もいない”と。
「我々の力を、その目に焼き付けるが良いよ。どうもオタクは私達の事を見くびっている様子だからね」
「そ、そんな事は無いが・・・」
「だったら別に、何の心配もいらないだろ?堂々としてなよ!!」
“それじゃあね!!”と言う言葉を最後に通信が切られるモノの、すると途端に静寂がその場を支配してヴィクトーは重苦しい雰囲気に包まれる。
「・・・・・」
(ど、どうしたら良いと言うのだ?私はこのままでは、一族の者から完全に追放されてしまうぞ?それだけではない、下手をすれば・・・!!)
“弾劾裁判に掛けられるかも知れないと言うのに!!”と、いても立ってもいられなくなってウィスキーをグラスにナミナミと注ぎついではそれをグイッと飲み干して行くモノの、覚めることの無い悪夢と二日酔いの中に漂っている彼の足下へと向けてしかし、“運命の時”は刻一刻と近付きつつあった。
一方で。
そんな彼を見張っている蒼太とメリアリアのペア達もまた、来るべき潮流の変化を敏感に感じ取っていた、特に蒼太はそうだった、“神人化”が行える彼は異世界や違う時間軸の波動の流れを理解する事が出来る上に、それらに巻き込まれる事無く受け流す術すらも心得ていたモノだったから、それらを活かして慌てず騒がず、動じる事無く黙って観察するに止めおいていたのであるが、そんな彼でも些かに、思考に耽る事があった。
何かと言えば他でも無い、“ドラクロワ・カウンシル”についてのそれであったのであるが、“ガイア・マキナ”から帰還して後、今日に至るまでの日々の中で、この組織に対して思いを馳せる度に蒼太はどうも自分達が大切な“何か”を見落としてしまっているような気がしてならなくなっていたのである。
確かに、カウンシルの中でも更なる“最高意思決定機関”であった“マジェスティック・トゥエルブ”は完膚無きまでに叩き潰したのではあるモノの、どうもそれ以外にも連中には隠された“何か”があるような気がしてならなかったのだ。
「・・・・・」
「どうしたの?あなた・・・?」
浮かない顔をしている夫に妻(メリアリア)がソッと寄り添って来る。
「もう後もう少しで、この事件も決着(けり)が着くわ、そうしたなら私達、もう誰にも何にも邪魔される事無く堂々と婚約を発表出来るわねっ!!!」
「うん、それは良い。確かにそれは良いんだけれども・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“どうしたの?”と、夫の様子がただならぬ事に気が付いたメリアリアが“何でも言って?”と言葉を掛けつつマジマジと彼を見つめて来た。
「何か気になる事が、あるんでしょう?」
「う、うん。実は・・・」
“ドラクロワ・カウンシルの事なんだ”と彼は正直に自身の考えを告白するモノの確かに異世界“ガイア・マキナ”において彼等に打ち勝った筈の蒼太であったがどうしても未だにもう一歩、踏み込まなければならなかったような何かを感じて釈然と出来ずにいたのだ。
「これは、“向こうの僕”にも言われていた事だったんだけれども・・・。“ドラクロワ・カウンシル”についてはまだ何某かの、秘密があるような気がしてならないんだ、何て言うかこう、確かに粗方カタは付いたんだけれどもそれでも、何か“最大の謎は手付かずのまま残されている”って言う・・・」
「・・・でも。それはしょうがないことなんじゃない?だって“ドラクロワ・カウンシル”って言うのは向こうでの呼び名であって、こちらではこちらで、違う名前で呼ばれている似たような組織があるって事なんでしょう?そしてそれは未だに野放し状態のままで、活発な活動をし続けている。だからまだ、あなたの中では未だに“決着が着いていないんだ”って言う思いがある、と言うことなんじゃないかしら?」
「ううーん、確かにそれもそれであるんだけれども・・・」
“何て言ったら良いのかな?”と蒼太も途方にくれてしまうモノの確かに、メリアリアの言いたい事は理解出来る事柄だった、現に彼方(あちら)の世界での悪は間違いなく討ち滅ぼす事が出来ていた訳だし、そしてその結果として世界は平和路線への変更が確定していて、しかもそれは揺るぎないモノとして世界各地へと向けて波及していったのであるがしかし。
一方で、此方(こちら)の世界でのそれはまだ、果たされてはいないのが実状であって、それが故に些かに自身の中では消化不良のような思いを抱えてしまっている、と言うのは理解できない話では無かったモノの、しかしどうにもやはりそれだけでは無い“何か”があるのであって、それがして蒼太自身に、“何かとんでもない見落としをしてしまっているのでは無いのか?”と言う不信感を抱かせるに至っていたのである。
(これは、一体どう言った感覚なんだろう?例えるならば“大魔王は確かに倒した”と言うのに、他にもまだ、何かがいるような感覚、とでも言えば良いのかな?だけどその“何か”とは一体なんだ、気になる・・・)
「・・・ねぇあなた。それよりも」
“気晴らしに一緒に行かない?”と言ってメリアリアが誘ってくれたのが、“パリ・サンジェルマン”と言うクラブチームのサッカー観戦チケットだった、地元であるパリっ子ならば誰でも名前くらいは知っている、熱烈なまでのサポーター達が大勢いるクラブチームとしてはそれなりの知名度を誇っていたそこは、一昨年の暮れに監督が交替してその次のシーズンに早くも優勝を果たした事でも知られている、今最も熱くてポピュラーなサッカーチームの一つだったのだ。
正直に言ってメリアリアはサッカーにそれほど興味は無かったモノの、しかし蒼太と一緒にいる時は、何処に行っても心の底から楽しむことが出来ていたし、そんな時はこれ以上無い程に気分が高揚して盛り上がる事が出来ていたのであり、それが故に幼い頃にも何度か、家族と共に蒼太を誘って観戦に行った事があったのである。
しかし蒼太が事故にあってからは彼女は塞ぎ込んでしまう事が多くなり、またその為に彼女自身、とてもサッカー観戦等する気分になれなかった事も加わって、暫くの間は遠ざかっていたのであるが、“彼が生きていてくれた上に、結ばれたのは目出度い事だ!!”と言ってエマが“せっかくだから行って来たら?”と譲ってくれたのであった。
「エマがね?教えてくれたのよ、選手達の高いフィジカルにも注目なんだけれども・・・。なにより最高司令官である監督の元で、一糸乱れぬチームワークを発揮して戦う姿が見ていて面白いんだって!!」
「・・・・・っ!!!!!?」
(“最高司令官”だって・・・!?そうか!!)
「“監督”は“最高司令官に過ぎない”と言う事か・・・。この場合、選手達が構成員とするのならば、監督は・・・。いや、しかし・・・」
「・・・あなた?」
“独身時代最後の思い出になるかも!!”と思って蒼太を誘い、一緒に行こうとしていたメリアリアからの話を聞いた後で、暫くの間はブツブツと考え事をしていた蒼太はしかし、次の瞬間、“ああっ!?”と叫んで弾かれたかのように立ち上がるがこの時彼はようやくにして理解したのである、自分がずっと感じ続けてきていた、モヤモヤとした思いの正体を。
「何てことだ、見落としていたっ!!」
「・・・・・っ!!!何を?」
「“オーナー”だよっ!!」
蒼太が叫ぶが確かに彼等“マルス”は“ドラクロワ・カウンシル”の“構成員達”は打ち倒したのであるモノの、その黒幕たる“オーナー”を野放しにしてしまっていたのである。
「“オーナー”・・・?」
「そうだよ、メリー。例えばさ」
“サッカークラブって誰の持ち物なのか、解る?”と蒼太が問い質すモノの、それは厳密に言えば選手のモノでもコーチのモノでも監督のモノでも決して無くて、ただ一人“オーナー”のモノなのである。
「“宿屋”なんかもそうだよね?実際の現場を切り盛りしているのは女将さんだけど、経営しているオーナーは別にいる事が非常に多い。しかもこの場合、女将さんは“最高司令官”ではあるけれども、決して“最高権力者”では無いんだよ!!」
「え、えっ!?ちょっと待って・・・。つまりそれって!!」
「そうだよ」
蒼太は頷いて見せたが即ち、“ドラクロワ・カウンシル”における“オーナー”は別に存在していたのであり、彼等はそれを放置したまま勝手に討滅部隊である“マルス”を解散させてしまっていたのだ。
「・・・じゃあ。でも、その“オーナー”って言うのは何処にいる誰なの?」
「・・・・・っ!!!!!」
“解らない”と、愛妻からの問い掛けに蒼太は素直に応えるモノの現状、“オーナー”に繋がるような物証も情報も何も無く、それらをこれから一つずつ、調べ上げて行かねばならないとすると想像を絶する程の労力が蒼太の双肩に掛かって来る事となる。
(冗談じゃ無いよ、全くもう。せっかく陰謀の中枢組織を叩き潰したと思っていたなら、実は更なる黒幕がいたなんて!!)
“ちょっとしたスペクタクルだ”と蒼太は思った、こんなモノは間違ってもロマンスでもイノセンスでも何でも無い、むしろ単なるナンセンスである。
(向こうの世界の僕は気付けただろうか?いや、多分気付けているに違いないな!!)
蒼太は思うが彼自身も向こうの蒼太も根っこの部分は皆一緒であり、誰か一人が気が付いたのならば、それは確実に“根源”へと落とし込まれてその結果、違う時間軸にいる、別の世界の蒼太達にも伝播して行くようになっているモノなのであった。
ましてや。
(どんな世界でも僕の側には必ずメリーがいてくれる、“神人化”する事が出来るようになってから、それが凄く良く解る、感じる!!)
そう思うモノの何度となく繰り返され続けて来た凄まじいまでに厳しい修行と、それらの絶え間無い日々の実践とによって蒼太は自分でも知らず知らずの内に、恐ろしい程に感覚がシャープになってしまっていたのであり、それは時間軸を飛び越えて遥か異世界の自分達の様子、状態すらも把握出来る程になっていて、そのいずれにおいてもメリアリアと結ばれていた彼はだから、ずっと側に寄り添いながらも生きているのがハッキリと確認する事が出来たのだ。
そしてだからこそー。
蒼太は理解出来ていたのである、“自分の至らぬ部分は彼女がみんな、補ってくれているのだ”と言う事を。
どんな時も二人で互いを支え合い、補完し合って生きているのだ、と言うことを。
(・・・あれれ?もう一人、いや二人いる!?)
蒼太が更に感覚を集中させて行くとそこにはメリアリアのみならず、見事に映える青髪の女の子と艶やかな黒髪の女性とが映し出されていたのであり、そしてそれはアウロラとオリヴィアの事である、と言う事までを、鮮明に認識する事が出来たのである。
(え、えっ!?うそだろっ。どう言う事なんだ、一体・・・!!)
三人の花嫁の存在を確信した瞬間、蒼太の全身を雷に打たれたような衝撃が駆け抜けて行くのと同時に意識が遙かな彼方にまでも拡大して行き、心が暖かな思いでいっぱいに満たされ、全身に気力が充実して行くのを強く強く感じていた。
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彼等にとっての“同志”と言うのは、あくまでも“利害関係に基づいた契約”によって結ばれている関係者同士を言うのであって、そこには“心と心の結び付き”、所謂(いわゆる)“絆”と言ったモノは何もありません。
要するにある一定の期間だけ“利用し利用されるだけの関係”こそがそうであって、それは決して“仲間”と呼べる存在では無いのです(そもそもそんな概念はありません、そう言ったモノの根幹をなす、“愛”や“真心”等と言うモノが全く無い連中ですから)。
これはもっと後になって言及が為されて行きますけれども基本的に彼等の正体と言うモノは、幾つかのグループに分かれています。
一つ目、元から魔物であった者。
二つ目、自らの意思で魔道に堕ちた者。
そして三つ目が、これが一番最悪なのですが、レプティリアンを始めとした、所謂(いわゆる)“悪魔”と呼ばれる存在に魂を売り渡してしまった者達です。
皆様、ちなみに何故、悪魔に魂を売り渡すとその代償としてこの世で権勢を振るえるようになるのか、お解りでしょうか。
実はそれにはあるカラクリがあるのですがこれにはそもそも、“何故人間が何かにつけて苦しまなければならないのか”、と言う命題も関わって来るのです。
結論から先に申し上げさせていただきますとそれは、“宇宙からの愛”だと言われているのです。
どう言う事か、と申しますと“この試練を乗り越えてもっと強く美しく光り輝いておくれ”と言う宇宙からの願いがあるから、とされているのです、ところが。
“悪魔に魂を売り渡してしまった者達”と言うのにはもう、そう言った試練が訪れる事はありません、だって魂が喰われて無くなってしまうからです(その代わりとして、ああ言った連中からは“魔力”とそれに基づく“仮初めの命、感性”が与えられます、それによって一見、“普通の人間として生きているように見えている”だけなのです。これはそれをやった本人達には自覚は全くありませんでしょうけれども、自分の意思で生きているように見えてその実、悪魔の“操り人形”に過ぎなくなるのです)、だから死んだらまっしぐらに“消滅”行き、即ち“無”に還るのです、そんな存在に試練等を与えても無駄です(だってどんなに試練を与えたとしても、愛の根源たる魂が、即ち“成長して行く永遠なる霊性”が、無くなってしまっている為に、もうそれ以上に成長する事はありませんから。第一どっちみち、消えて無くなる存在なのですから、“魂を成長させる為の”、“より深くて強い愛を体現させる為の”試練等を与えるだけ無駄でしょう)、宇宙は無駄な事を決してしません、だから“試練”も何も無くなるのです(その結果として様々な事が無障害で出来るようになります)。
これが“悪魔に魂を売り渡してしまった者達”が、権勢を振るえるようになる理由なのです(ただし。ハッキリと申し上げてそう言った連中が最終目標として掲げている、真の意味での“己の夢”や“野望”が叶う事は決してありません。何故ならばそれらを実現するためにはどうしても現実を創造する能力(ちから)、即ち“創造能力”が必要になるからです。そしてそれらを持っているのは宇宙からの愛の顕現であり、大いなる神々の分身たる“魂”だけなのです、それが無くなってしまうのですから、夢や願望が叶う道理はありません←少なくとも完全に、“実現し切る”と言う事は無いのです)。
しかもそう言った“現世利益”すらも、所詮は“泡沫の夢”に過ぎません(だって死んだら無くなってしまうモノなんですもの)、愛とは永遠なるモノの事なのですが彼等には何一つとして、そんなモノは残らないのです(永遠を感じる事さえ出来ません)。
ちなみにせっかくなのでもう一つ、蒼太君はまだ、“ドラクロワ・カウンシル”即ち、“アンチ・クライスト・オーダーズ”の全貌を掴み切れていません。
ただし、これだけ彼等に対する情報が無い中でも、その裏の存在、即ち“オーナー”がいる、と言う事に気が付いただけでも正直に言って実に大したモノなのですが、これだけではまだ不十分です。
これは良く読んで下さっておられる方にはお解り頂けるかと思いますけれども(一回だけ、名前がでて参りましたから)“デュマ”の背後には更に、“キング・カイザーリン”と呼ばれている存在がおります。
でも“彼女”は“オーナー”では無くて、あくまで“オーナー代理”なのです。
ちなみに。
この“キング・カイザーリン”とはどう言う意味なのかと申しますと、キングはそのまま“王”、“王様”を意味しますが、一方の“カイザーリン”とはドイツ語で“皇妃”もしくは“皇后”を意味する言葉なのです(即ち“皇妃王”と言う意味です)。
“妃”の文字が付くことから容易に連想出来るでしょうけれども、そうです、“彼女”には“夫”がいるのです、そしてソイツこそが“ドラクロワ・カウンシル”及び、“アンチ・クライスト・オーダーズ”の“真のオーナー”、“支配者”と言う事になるのです(じゃあ“デュマ”って一体、何なのよ?と言うと、彼は単なる“最高司令官”に過ぎません。“真のオーナー”及び“キング・カイザーリン”から組織の運用を任されている、一使いっ走り、要するに“下僕の一人”と言う訳です)。
ちなみにこの“カイザーリン”とその“夫”と言うのは所謂(いわゆる)一つの“超時空生命体”です(その正体は“霊体レプティリアン”であり、その中でも取り分け強大な魔力と凶暴性を誇っている、要するに“邪神”と呼ばれる存在です)、そして彼等は“ドラクロワ・カウンシル”及び“アンチ・クライスト・オーダーズ”双方のオーナー(オーナー代理)でもあります(要するに“二つの違った時間軸の秘密組織の大ボスであり、中心的役割を果たしている存在”とでも言うべき者達です、そして彼等は“決まった肉体”と言うのを持っていません。だから現世で活動するための“手段”、“組織”としての“ドラクロワ・カウンシル”、及び“アンチ・クライスト・オーダーズ”を作りあげたのです。それを蒼太君達は討ち果たしたのです、だから異世界における戦いでは間違いなく、そう言った面々の、即ち“邪神達”の手足をもぎ取って、その勢力と野望とを壊滅させたのでした←なので彼等の戦いと言うモノは、決して無駄では無かったのでした)。
なのでコイツらをキチッと討伐する事が出来たなら、全ての問題は解決して世界に平和は保たれます(全人類における、憎しみの連鎖からの解放と浄化とが一片に行われます)。
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