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運命の舵輪編
エルヴスヘイム事件10
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「・・・・・」
「・・・・・」
「熱いね・・・」
思わず全員が汗を拭うがそこは奥行きのある広い空洞になっていて地面や天井の至る所に大小様々な坑や風穴が空いている、風変わりな部屋となっていた。
中には特に灯りが灯されているわけでも無いと言うのに、それでもその全貌が薄ぼんやりと浮かび上がって見えていた、マグマだ。
直ぐ下を流れているのだろうマグマの光と熱とが地面に空いている穴から漏れて、それが天井部分に反射して部屋全体を辛うじて照らし、また些か熱い位に温め続けていた。
「・・・・・」
「う・・・っ!!」
「落ちたら、終わりだな・・・っ!!」
その光景に、アイリスやレアーナ達ですらも思わず息を呑むが反対に、天井に開いている風穴からは時折、ひんやりとした空気の流れが感じられる。
どうやらその幾つかは外と繋がっているらしく、しかも中には人が通れる位に大きなモノもあって、もし某かの移動手段があるのならば、いざの際にはそこから容易に脱出も出来そうだ、非常に良く出来た部屋の造りになっていた。
そんな中にあって。
中央部分だけは凹凸の少ない、平べったい地形となっていた、そこには不可思議な紋様を湛えている魔方陣が描かれており、その上には洗面台に流し台、お手洗いにシャワールーム等、水を使う為の様々な設備が無造作に設置されていた。
そのまた奥にはベッドが置かれていてその前には見慣れぬ仮面を付けた、ひと組の男女の姿があった。
男の方は背が高くてスラリとした体型をしており、背中には何やら珍しい装飾の施されている両刃剣(ロングソード)を差している。
一方の女性の方は身長が、男性の胸位の高さしか無く、やはり腰にはレイピアのような、細長い剣を履いていた。
と。
こちらが何かを言う前にいきなり男が剣を抜き放つと上段に構え、それを一気に振り下ろして来た、その場には直線に走る衝撃波が発生して物凄いスピードで此方目掛けて疾走してくる。
「あぶない!!」
アイリスが叫んだ時はもう、遅かった、彼女を始めとしてレアーナもミリスも回避する時間とチャンスを失ってしまっていた、彼女達の頭が真っ白くなった時。
ただ一人、蒼太だけが迷うことなくそれに応じた、ただちにカウンターの“波動真空呪文”を発生させると杖の先端部分に集約させたそれを、衝撃波目掛けて叩き付ける、すると。
そこを起点としてエネルギー同士の干渉波と爆縮とが巻き起こり、周囲には夥しいまでの砂埃と飛び散った岩の破片とが散乱する。
蒼太達は、彼の放った“波動真空呪文”が結界の役割を果たしてくれたので助かった、現に地面に突き立てられていた杖の先端から後方へは、衝撃波が拡散して伝わらなかった事が、その痕跡から伺える。
「ほう・・・っ!?」
“これを防ぐか”とカインはまたもや舌を巻いた、今のは彼の奥の手の、風を纏った暴力の牙だ、それを咄嗟に跳ね返すとは。
「やるな、坊主・・・」
思わず唸るが単に魔法力だけで無くて、中々の動体視力と反射神経を持っていることも伺える、そうで無ければあんな芸当は不可能だ。
(咄嗟の判断力に、度胸もある。間違いない、コイツは将来、“化ける”ぞ!!)
人知れずカインは思うがこう見えても人を見る目はあるつもりである、その彼の直感までもが“間違いない”と告げていた。
(余程師匠が良かったのか、持って生まれた才能かは、知らないが・・・。やはり)
自分の考えは、間違いでは無かったと、カインはある意味満足していた、そして同時に。
“思った以上に、厄介な事になりそうだ”とも感じて少し暗い気持ちになった、せっかく、ここまで来たのだ、こんな所で自分達の計画の邪魔をされては堪らない。
「・・・・・」
「お前が、カインだな?」
「・・・ああ」
一瞬の攻防の後に訪れる、暫しの沈黙を破って放たれたアイリスの問い掛けに、剣を背中の鞘に収めつつも男性の方がそう頷くが、彼こそはまさしくダークエルフ族のカインであり、蒼太達が倒すべき相手である事が伺える。
全身からは並々ならぬ闘志が沸き立っており、どうやらただでは目的を達成出来そうに無かった。
「カイン」
アイリスが尚も前へ出る、“ジガンの妙薬の処方箋を渡して貰おう”と告げながら。
「ジガンの妙薬だと?」
「そうだ、お前が王国の宝物庫から奪い去った国の宝だ」
「大人しく渡せばそれでよし、さもなくば・・・」
そう言ってレアーナとミリスも身構えるが蒼太だけはカインと言う男よりも寧ろ、その横にいる女性の方が気になった、仮面を付けているためにどんな顔をしているのかは解らないけれども、それでもカイン本人よりも妖艶と言うべきか、怪しい雰囲気を放っている。
「こんにちは。坊や、よろしくね・・・」
「・・・・・」
蒼太の視線に気付いた女性がそう言って手をヒラヒラとさせてくる、本人は至って余裕の様子であり、それが虚勢で無いことは、蒼太にも何となく理解できた、全体的に二人は落ち着いているのだ、少しも浮き足立っていなかった。
「国王陛下が病なのは知っているな?ジガンの妙薬を服用していただかなければお命が危うい事も!!」
「お前は全てを知っていたんだな?その上で・・・・」
「あっ!?って言うかまさか、国王様の病気もお前が仕組んだ・・・」
「違うよ」
するとそこまで黙って聞いていたカインがいささか呆れた様な声でそう答えた、“なんでもかんでもこっちのせいにされても堪らない”、とそう告げて。
「俺達がジガンの妙薬を欲した理由は別にある。別に国王の病の事は知らんし、命を取ろうだとか考えていた訳じゃない」
「みんな私達のせいにされてもね・・・」
と、それを受けて女性までもが“やれやれ”と言った感じで応対するが、その態度からしてどうやら嘘ではない様子である、とすると一体、何が目的なのだろうか。
「ではお前達の狙いは何なのだ?国王陛下のお命を、狙っていたのでは無いのか?」
「そうだよ、それにそのつもりがあろうと無かろうとやることやってれば同じ事じゃない!!」
「どうせただで返すつもりも無いんでしょ!?」
「問答無用、と言うわけか・・・」
そう言って臨戦態勢を取るアイリス達に、些か冷ややかな視線を向けるとカインは黙って背中の剣を、再びぬらりとした動きで抜き放った。
「・・・俺達は別に、この世界に興味は無い」
カインは言った、“だから世界を自分のモノにするとかそう言うんじゃ無いんだ”と。
「・・・まあ、でも別にどうでも良い。どうせ解ってもらえる訳も無い。ちなみに」
とカインは続けた、“ジガンの妙薬の処方箋はあの空間の中にある”と。
そう言って親指で背後の空間を、クイッと指さすモノの、蒼太達が目を凝らすとその場所だけ情景が、不自然な具合に歪んでおり、そこからは得体の知れない不快感と言うか、一種の不気味さが溢れ出していた。
「あそこが“トワイライトゾーン”だ、あの中は異空間に繋がっていて落ちた人間が何処に行くのかは俺達でも解らない」
「なんだと・・・?」
「じゃあ、どうすれば良いのさ、これじゃコイツらを倒したって、処方箋を手に入れようが無い!!」
「みんな」
するとそこで、蒼太が始めて口を開いた、“僕をあそこまで連れて行ってくれ”と。
「フォルジュナ様が、言っていた。“子供なら自由に、トワイライトゾーンを行き来する事が出来る”って。僕なら行けるかも知れない」
「・・・・・」
「予言者フォルジュナが、そんな事を・・・」
「・・・・・」
「ち・・・っ、あの女」
“余計な事を”と、傍らの女性が呻くがカインはあくまで余裕だった。
「ソイツはおかしな話だな?仮にその話が本当なら、今まで放り込んだ連中は何処で如何してるって言うんだ?一人として戻って来なかったぞ」
「なに」
「今まで、放り込んだ連中・・・?」
「・・・僕の世界の、子供達の事です。エルフ達が協力を依頼しに来た人達はみんな、彼によって連れ去られ、あの中に放り込まれたって・・・」
「・・・・・っ!!」
「バカなっ!?」
「なんてことを・・・っ!!」
“子供にまで、手を出したのか!?”とレアーナ達が激昂するが、それでもカインは目を瞑り表情一つ変えなかった。
「目的を達成するためには、どんな危険分子も自分達の手にある内に摘み取っておくべきだ、ましてやそれが余計な連中の横槍だと言うのなら尚更な。それにあれはエルフの連中に対する脅しの意味もあった、“こんな事をしても無駄だぞ”と言うな」
「“尊い犠牲”と言うわけね」
「・・・もう一つ」
「・・・?」
「“剣”はどこへやったんだ?」
「・・・・・っ!!」
するとそれを聞いたカイン達の、目の色が変わった、先程とは打って変わって真面目になり、かなりの警戒色を打ち出して来ている。
「剣・・・?」
「なんの、ことかしら」
「嘘を付いたってダメだ、僕には解るんだからね。途中で、おじさんに会った、その人が言っていたんだ、“寝ている間に剣を取られた”って・・・」
「小僧・・・」
「まさか・・・」
二人にハッキリとした、驚愕と怒りの色が見て取れるが蒼太は、それに睨まれても少しも怖じけずに、真っ直ぐに受け止めて返した。
「剣は、どこにやったのさ!!」
「・・・坊や」
「いいさ」
“カイン?”と怪訝そうに呻くメイルの傍らで、カインは一息つくと再び不敵な笑みを浮かべて蒼太に答えた。
「あの剣ならな小僧。トワイライトゾーンに捨てた」
「・・・・・っ!!」
「・・・もう良い」
アイリスが弓矢をつがい直す。
「蒼太」
「はい」
「私達がカインと女の動きを止める。その間に、トワイライトゾーンに向かって走れ!!」
「・・・解りました」
“君なら、出来る”、“フォルジュナと自分を信じるんだ”と言う彼女の言葉に、力強く頷いて応えると、蒼太は少し後退して同じくカイン達に飛び掛かろうと身構えていた、レアーナ達の影に隠れる。
「今だっ。行け、蒼太!!」
そう言うと同時にアイリスが引き絞った矢を放つが、それをなんなくカインは手にした剣で叩き落とすと此方も勢いよく走り始めて忽(たちま)ちの内に距離を詰める。
「・・・・・っ!!」
“早い!!”とアイリスは内心で舌を巻いた、それでもそれに呆然として何も考えられなくなってしまう彼女でも無かった、素早く弓矢をつがえると第二射、第三射と続けざまにカインへと向けて、矢を次々に射掛けるがそれらも悉く弾かれてしまい、第四射目を打とうとした時にはもう、カインは目前に迫っていた。
「ち・・・っ!!」
舌打ちすると手にした短剣で彼のロングソードの鋭峰を、しっかりと受け止める。
ガキィィンッと言う音と共に火花が飛び散り、二人が鍔迫り合いを展開した、その真横から。
レアーナが近付いていた、その俊足を活かした動きで瞬く間に距離を詰めると手にしたりヌンチャクでカインと後頭部を狙う。
が。
その攻撃も、ガキンと言う音と共に弾かれた、カインの連れ、即ちメイルがすんでのところで割って入り、レイピアでヌンチャクを弾き返したのだ、しかし。
ホッとするのも束の間だった、その背後からはもう既に、次の刺客が迫っていた、今度は両手で釵(さい)を構えたミリスが、メイル目掛けて突っ込んで来る。
「ちぃ・・・っ!!」
それを見たメイルは透かさず横に飛び退いて、直ちにミリスへの対処に回るがその隙に、レアーナはヌンチャクを構え直すと今一度距離を詰めて今度はカインの右肩及び右手を叩こうと試みる、が。
「ぬうぅぅぅんっ!!」
「・・・っ!?」
それを見たカインは全身に力を込めると気合い一閃、一気にアイリスを押し返して寧ろ自分からレアーナに向き直り、彼女に劣らぬ機敏さでアッという間に距離を詰める。
両手で持ったロングソードを左側から横薙ぎに薙ぎ払い、逆に彼女の右脇腹を狙った、ただ単にいつまでも防いでいるばかりではいずれやられてしまう、と言う事を、闘い慣れしているカインは誰よりも良く知っていたのだ。
力強いその攻撃を、ヌンチャクの鎖の部分でなんなく防ぎ止めて見せると、そのまま滑らせるようにしてカインに近付き、今度は身体全体を左回りに回転させて勢いを付けた棍の部分で今一度、カインの右側頭部を狙った、しかし。
「うおぉっ!?」
その猛スピードの攻撃を、カインはギリギリ見極めながら上体を反らさせて何とか躱すと堪らず一端、距離を取り、ジリジリと迫り来るアイリスとレアーナの、ちょうど中間地点で体勢を立て直した、一方の。
「てやあぁぁっ!!」
「くうぅ・・・っ!!」
メイルもまた、苦戦していた、ミリスは距離を詰めると同時に、両手に持った二本の釵(さい)を巧みに操り、息付く間もない程の連続攻撃を仕掛けてくる。
しかも。
「・・・・・っ!!」
(毒・・・っ!?)
咄嗟にメイルは見抜くモノのミリスの使う釵の先端部分には猛毒が塗り込められており、掠っただけでも即死という、まさに極限中の極限へと追い詰められていたのだ。
「はあ、はあ・・・っ!!」
「・・・・・」
キン、ガキンと言う金属音が止んだ、一端、距離を取ってこちらもようやく体勢を立て直したところで“えげつないわね”と敵に向かって声を掛けるが彼等彼女が戦っている内にも蒼太はその場から駆けに駆けて、トワイライトゾーン目掛けて一直線に走り続けていた。
不思議と、邪魔は入らなかった、勿論、アイリス達の善戦が功を奏していた事もあるにはあったがそれだけではない、カイン達からしてみれば労せずして相手の戦力を一人、減らすことが出来るのだからわざわざ邪魔立てする必要は、当たり前だが全く無かった。
むしろ問題なのはー。
目の前の三人だった、まだ無名だが実力は確かだ、筋も良い。
正直油断していたと、カインは(メイルもだが)心の底から悔やんで嘆いた、こんな事なら、あの坊やがまだ一人でいる内に、何としてでも潰して置くべきだったのだ、と。
彼を起点として、確かな人の“和”が形成されて絡み合い、結ばれていた、その力はいま、現実的な脅威となって自分達の足下にまで迫ってきてしまっていた。
確かに。
それについては迂闊だと思った、しかし。
「やるな・・・」
カインはまたもや不敵に笑い、そしてメイルもまた、それに続いた、彼等はまだ、奥の手を隠し持っており、それを出してはいなかったのだ。
「アイリス、と言ったか?」
見事なもんだ、とカインは告げた、言葉が少しぶっきらぼうな感じになっていたモノの、誰も気にする者はいなかった。
「確かに強いよあんたは。技術だけなら、俺を超えるかもな」
だが、と力を込めて剣を構える。
一度振り上げた剣を、ゆっくりと下に下げて、また再び回転させるように右回りで上段へと持ってくる。
何やら呪いの言葉を唱えて気合い一閃、その剣を振り下ろした。
途端に。
ガガガガガガガガガッと地面が抉られ、衝撃波がアイリス目掛けて鋭い勢いで疾走してくる。
「・・・くっ」
それをすんでのところで回避すると、自身も矢をつがってカインに向けて構えるが、その隙にカインは2発目、3発目を矢継ぎ早に繰り出して彼女に反撃の隙を与えなかった。
「うっ、くぁっ!?」
それを後方に飛び、或いは横に避けて何とか凌ぎ続けて来たアイリスだったが気付いた時にはもう、地面に空いた大型の坑の側まで追いやられてしまっておりそれ以上、後がなかった。
「・・・・・っ!!」
「“ヴァハー・ズ・ガーレ”。疾風の怒り、と言う意味だ。あの坊やが風の鉤爪を用いるのならば、俺のは差し詰め牙と言った所か」
もっとも、と彼は続けた、こうまで避けられたのは初めてだがな、と。
「だが次は決めてみせる、なに、どうあがいても喰らうしかないぞ?もう避けようが無いんだからな」
と、そう言ってカインが再び剣を上へと向けて構え直した、その時だ。
「てやあぁぁぁっ!!」
と言う声が聞こえて右後背からミリスが突っ込んで来た。
それに対して向き直ったカインの目に、更に信じられない光景が飛び込んで来た、ついにトワイライトゾーンへと到達した蒼太が、今まさにその中へと向けて、飛び込もうとしていたのだ。
「な、なに・・・っ!?」
その一瞬の驚愕が、致命的な隙となった、ザシュッと言う音がしてカインの右肘が切られ、そこからは致死量を優に超える猛毒が、その体内へと向けて、拡散して行った。
「ああ・・・っ!?」
「カ、カインッ!!」
「う、うぐあぁぁぁぁっ!!」
途端にその場に倒れ伏して悶え苦しむカインだったが、それは断末魔の呻きとはならなかった、直ぐさま駆け付けて来たメイルが毒を可能な限り吸い出し、彼に治癒の魔法を掛ける。
もっとも。
「・・・覚悟っ!!」
「・・・・・っ!!」
それを黙って見過ごすほど、アイリス達も甘くは無かった。
彼女の動きを止めたのは、カインに寄り添うメイルの姿だ、止めを刺そうと矢をつがいでも、メイルは動こうとしなかった、あくまでカインを癒す、それだけに集中していたのだ、それに向かって弓矢を射る事はアイリスには出来なかった。
だが。
「うっ、くはあぁぁっ!!はあ、はあ・・・っ!!」
そんな彼女達の動向を、ギリギリ掴み取ったカインは苦しみながらも懐から何か鍵のような物を取り出した、そして。
「え、“エルシィ・マハ・ディハア・・・”」
そう告げると鍵を宙に掲げるようにする、すると。
先程まで、“トワイライトゾーン”が口を開けていた空間の歪みが減少して行き、それはやがて完全に知覚することが出来なくなってしまっていた。
「しまった!!」
「蒼太!!」
「貴様、何を・・・!!」
「うぐ、うっ、う・・・っ!?」
「カイン、カイン!!」
アイリス達の突き刺すような問い掛けにも、そしてメイルの必死の呼び声にも、カインは応えられなかった、身体中に回っている猛毒の影響で高熱に魘(うな)されており、その意識は朦朧としたモノとなっていたのだ。
「はあっ、はあっ、はあ・・・っ!!メ、メイル・・・!!」
「カイン、カインッ!!」
待ってて!!とそう告げるとメイルは腰に掛けていたポーチを何やらガサゴソと弄くり回し、そこから“風の記憶の帽子”を取り出した、そして。
それを被ると何やら呪いの言葉を唱えてカインをしっかりと抱き締める、すると。
二人の身体が光に包まれ始めて行き、それが極大化したと思ったら。
次の瞬間、パッと消えてしまった、本当に掻き消すように消えてしまったのだ。
後にはただ、舞い上がった砂埃だけが宙を舞っているだけだった。
「・・・・・」
「熱いね・・・」
思わず全員が汗を拭うがそこは奥行きのある広い空洞になっていて地面や天井の至る所に大小様々な坑や風穴が空いている、風変わりな部屋となっていた。
中には特に灯りが灯されているわけでも無いと言うのに、それでもその全貌が薄ぼんやりと浮かび上がって見えていた、マグマだ。
直ぐ下を流れているのだろうマグマの光と熱とが地面に空いている穴から漏れて、それが天井部分に反射して部屋全体を辛うじて照らし、また些か熱い位に温め続けていた。
「・・・・・」
「う・・・っ!!」
「落ちたら、終わりだな・・・っ!!」
その光景に、アイリスやレアーナ達ですらも思わず息を呑むが反対に、天井に開いている風穴からは時折、ひんやりとした空気の流れが感じられる。
どうやらその幾つかは外と繋がっているらしく、しかも中には人が通れる位に大きなモノもあって、もし某かの移動手段があるのならば、いざの際にはそこから容易に脱出も出来そうだ、非常に良く出来た部屋の造りになっていた。
そんな中にあって。
中央部分だけは凹凸の少ない、平べったい地形となっていた、そこには不可思議な紋様を湛えている魔方陣が描かれており、その上には洗面台に流し台、お手洗いにシャワールーム等、水を使う為の様々な設備が無造作に設置されていた。
そのまた奥にはベッドが置かれていてその前には見慣れぬ仮面を付けた、ひと組の男女の姿があった。
男の方は背が高くてスラリとした体型をしており、背中には何やら珍しい装飾の施されている両刃剣(ロングソード)を差している。
一方の女性の方は身長が、男性の胸位の高さしか無く、やはり腰にはレイピアのような、細長い剣を履いていた。
と。
こちらが何かを言う前にいきなり男が剣を抜き放つと上段に構え、それを一気に振り下ろして来た、その場には直線に走る衝撃波が発生して物凄いスピードで此方目掛けて疾走してくる。
「あぶない!!」
アイリスが叫んだ時はもう、遅かった、彼女を始めとしてレアーナもミリスも回避する時間とチャンスを失ってしまっていた、彼女達の頭が真っ白くなった時。
ただ一人、蒼太だけが迷うことなくそれに応じた、ただちにカウンターの“波動真空呪文”を発生させると杖の先端部分に集約させたそれを、衝撃波目掛けて叩き付ける、すると。
そこを起点としてエネルギー同士の干渉波と爆縮とが巻き起こり、周囲には夥しいまでの砂埃と飛び散った岩の破片とが散乱する。
蒼太達は、彼の放った“波動真空呪文”が結界の役割を果たしてくれたので助かった、現に地面に突き立てられていた杖の先端から後方へは、衝撃波が拡散して伝わらなかった事が、その痕跡から伺える。
「ほう・・・っ!?」
“これを防ぐか”とカインはまたもや舌を巻いた、今のは彼の奥の手の、風を纏った暴力の牙だ、それを咄嗟に跳ね返すとは。
「やるな、坊主・・・」
思わず唸るが単に魔法力だけで無くて、中々の動体視力と反射神経を持っていることも伺える、そうで無ければあんな芸当は不可能だ。
(咄嗟の判断力に、度胸もある。間違いない、コイツは将来、“化ける”ぞ!!)
人知れずカインは思うがこう見えても人を見る目はあるつもりである、その彼の直感までもが“間違いない”と告げていた。
(余程師匠が良かったのか、持って生まれた才能かは、知らないが・・・。やはり)
自分の考えは、間違いでは無かったと、カインはある意味満足していた、そして同時に。
“思った以上に、厄介な事になりそうだ”とも感じて少し暗い気持ちになった、せっかく、ここまで来たのだ、こんな所で自分達の計画の邪魔をされては堪らない。
「・・・・・」
「お前が、カインだな?」
「・・・ああ」
一瞬の攻防の後に訪れる、暫しの沈黙を破って放たれたアイリスの問い掛けに、剣を背中の鞘に収めつつも男性の方がそう頷くが、彼こそはまさしくダークエルフ族のカインであり、蒼太達が倒すべき相手である事が伺える。
全身からは並々ならぬ闘志が沸き立っており、どうやらただでは目的を達成出来そうに無かった。
「カイン」
アイリスが尚も前へ出る、“ジガンの妙薬の処方箋を渡して貰おう”と告げながら。
「ジガンの妙薬だと?」
「そうだ、お前が王国の宝物庫から奪い去った国の宝だ」
「大人しく渡せばそれでよし、さもなくば・・・」
そう言ってレアーナとミリスも身構えるが蒼太だけはカインと言う男よりも寧ろ、その横にいる女性の方が気になった、仮面を付けているためにどんな顔をしているのかは解らないけれども、それでもカイン本人よりも妖艶と言うべきか、怪しい雰囲気を放っている。
「こんにちは。坊や、よろしくね・・・」
「・・・・・」
蒼太の視線に気付いた女性がそう言って手をヒラヒラとさせてくる、本人は至って余裕の様子であり、それが虚勢で無いことは、蒼太にも何となく理解できた、全体的に二人は落ち着いているのだ、少しも浮き足立っていなかった。
「国王陛下が病なのは知っているな?ジガンの妙薬を服用していただかなければお命が危うい事も!!」
「お前は全てを知っていたんだな?その上で・・・・」
「あっ!?って言うかまさか、国王様の病気もお前が仕組んだ・・・」
「違うよ」
するとそこまで黙って聞いていたカインがいささか呆れた様な声でそう答えた、“なんでもかんでもこっちのせいにされても堪らない”、とそう告げて。
「俺達がジガンの妙薬を欲した理由は別にある。別に国王の病の事は知らんし、命を取ろうだとか考えていた訳じゃない」
「みんな私達のせいにされてもね・・・」
と、それを受けて女性までもが“やれやれ”と言った感じで応対するが、その態度からしてどうやら嘘ではない様子である、とすると一体、何が目的なのだろうか。
「ではお前達の狙いは何なのだ?国王陛下のお命を、狙っていたのでは無いのか?」
「そうだよ、それにそのつもりがあろうと無かろうとやることやってれば同じ事じゃない!!」
「どうせただで返すつもりも無いんでしょ!?」
「問答無用、と言うわけか・・・」
そう言って臨戦態勢を取るアイリス達に、些か冷ややかな視線を向けるとカインは黙って背中の剣を、再びぬらりとした動きで抜き放った。
「・・・俺達は別に、この世界に興味は無い」
カインは言った、“だから世界を自分のモノにするとかそう言うんじゃ無いんだ”と。
「・・・まあ、でも別にどうでも良い。どうせ解ってもらえる訳も無い。ちなみに」
とカインは続けた、“ジガンの妙薬の処方箋はあの空間の中にある”と。
そう言って親指で背後の空間を、クイッと指さすモノの、蒼太達が目を凝らすとその場所だけ情景が、不自然な具合に歪んでおり、そこからは得体の知れない不快感と言うか、一種の不気味さが溢れ出していた。
「あそこが“トワイライトゾーン”だ、あの中は異空間に繋がっていて落ちた人間が何処に行くのかは俺達でも解らない」
「なんだと・・・?」
「じゃあ、どうすれば良いのさ、これじゃコイツらを倒したって、処方箋を手に入れようが無い!!」
「みんな」
するとそこで、蒼太が始めて口を開いた、“僕をあそこまで連れて行ってくれ”と。
「フォルジュナ様が、言っていた。“子供なら自由に、トワイライトゾーンを行き来する事が出来る”って。僕なら行けるかも知れない」
「・・・・・」
「予言者フォルジュナが、そんな事を・・・」
「・・・・・」
「ち・・・っ、あの女」
“余計な事を”と、傍らの女性が呻くがカインはあくまで余裕だった。
「ソイツはおかしな話だな?仮にその話が本当なら、今まで放り込んだ連中は何処で如何してるって言うんだ?一人として戻って来なかったぞ」
「なに」
「今まで、放り込んだ連中・・・?」
「・・・僕の世界の、子供達の事です。エルフ達が協力を依頼しに来た人達はみんな、彼によって連れ去られ、あの中に放り込まれたって・・・」
「・・・・・っ!!」
「バカなっ!?」
「なんてことを・・・っ!!」
“子供にまで、手を出したのか!?”とレアーナ達が激昂するが、それでもカインは目を瞑り表情一つ変えなかった。
「目的を達成するためには、どんな危険分子も自分達の手にある内に摘み取っておくべきだ、ましてやそれが余計な連中の横槍だと言うのなら尚更な。それにあれはエルフの連中に対する脅しの意味もあった、“こんな事をしても無駄だぞ”と言うな」
「“尊い犠牲”と言うわけね」
「・・・もう一つ」
「・・・?」
「“剣”はどこへやったんだ?」
「・・・・・っ!!」
するとそれを聞いたカイン達の、目の色が変わった、先程とは打って変わって真面目になり、かなりの警戒色を打ち出して来ている。
「剣・・・?」
「なんの、ことかしら」
「嘘を付いたってダメだ、僕には解るんだからね。途中で、おじさんに会った、その人が言っていたんだ、“寝ている間に剣を取られた”って・・・」
「小僧・・・」
「まさか・・・」
二人にハッキリとした、驚愕と怒りの色が見て取れるが蒼太は、それに睨まれても少しも怖じけずに、真っ直ぐに受け止めて返した。
「剣は、どこにやったのさ!!」
「・・・坊や」
「いいさ」
“カイン?”と怪訝そうに呻くメイルの傍らで、カインは一息つくと再び不敵な笑みを浮かべて蒼太に答えた。
「あの剣ならな小僧。トワイライトゾーンに捨てた」
「・・・・・っ!!」
「・・・もう良い」
アイリスが弓矢をつがい直す。
「蒼太」
「はい」
「私達がカインと女の動きを止める。その間に、トワイライトゾーンに向かって走れ!!」
「・・・解りました」
“君なら、出来る”、“フォルジュナと自分を信じるんだ”と言う彼女の言葉に、力強く頷いて応えると、蒼太は少し後退して同じくカイン達に飛び掛かろうと身構えていた、レアーナ達の影に隠れる。
「今だっ。行け、蒼太!!」
そう言うと同時にアイリスが引き絞った矢を放つが、それをなんなくカインは手にした剣で叩き落とすと此方も勢いよく走り始めて忽(たちま)ちの内に距離を詰める。
「・・・・・っ!!」
“早い!!”とアイリスは内心で舌を巻いた、それでもそれに呆然として何も考えられなくなってしまう彼女でも無かった、素早く弓矢をつがえると第二射、第三射と続けざまにカインへと向けて、矢を次々に射掛けるがそれらも悉く弾かれてしまい、第四射目を打とうとした時にはもう、カインは目前に迫っていた。
「ち・・・っ!!」
舌打ちすると手にした短剣で彼のロングソードの鋭峰を、しっかりと受け止める。
ガキィィンッと言う音と共に火花が飛び散り、二人が鍔迫り合いを展開した、その真横から。
レアーナが近付いていた、その俊足を活かした動きで瞬く間に距離を詰めると手にしたりヌンチャクでカインと後頭部を狙う。
が。
その攻撃も、ガキンと言う音と共に弾かれた、カインの連れ、即ちメイルがすんでのところで割って入り、レイピアでヌンチャクを弾き返したのだ、しかし。
ホッとするのも束の間だった、その背後からはもう既に、次の刺客が迫っていた、今度は両手で釵(さい)を構えたミリスが、メイル目掛けて突っ込んで来る。
「ちぃ・・・っ!!」
それを見たメイルは透かさず横に飛び退いて、直ちにミリスへの対処に回るがその隙に、レアーナはヌンチャクを構え直すと今一度距離を詰めて今度はカインの右肩及び右手を叩こうと試みる、が。
「ぬうぅぅぅんっ!!」
「・・・っ!?」
それを見たカインは全身に力を込めると気合い一閃、一気にアイリスを押し返して寧ろ自分からレアーナに向き直り、彼女に劣らぬ機敏さでアッという間に距離を詰める。
両手で持ったロングソードを左側から横薙ぎに薙ぎ払い、逆に彼女の右脇腹を狙った、ただ単にいつまでも防いでいるばかりではいずれやられてしまう、と言う事を、闘い慣れしているカインは誰よりも良く知っていたのだ。
力強いその攻撃を、ヌンチャクの鎖の部分でなんなく防ぎ止めて見せると、そのまま滑らせるようにしてカインに近付き、今度は身体全体を左回りに回転させて勢いを付けた棍の部分で今一度、カインの右側頭部を狙った、しかし。
「うおぉっ!?」
その猛スピードの攻撃を、カインはギリギリ見極めながら上体を反らさせて何とか躱すと堪らず一端、距離を取り、ジリジリと迫り来るアイリスとレアーナの、ちょうど中間地点で体勢を立て直した、一方の。
「てやあぁぁっ!!」
「くうぅ・・・っ!!」
メイルもまた、苦戦していた、ミリスは距離を詰めると同時に、両手に持った二本の釵(さい)を巧みに操り、息付く間もない程の連続攻撃を仕掛けてくる。
しかも。
「・・・・・っ!!」
(毒・・・っ!?)
咄嗟にメイルは見抜くモノのミリスの使う釵の先端部分には猛毒が塗り込められており、掠っただけでも即死という、まさに極限中の極限へと追い詰められていたのだ。
「はあ、はあ・・・っ!!」
「・・・・・」
キン、ガキンと言う金属音が止んだ、一端、距離を取ってこちらもようやく体勢を立て直したところで“えげつないわね”と敵に向かって声を掛けるが彼等彼女が戦っている内にも蒼太はその場から駆けに駆けて、トワイライトゾーン目掛けて一直線に走り続けていた。
不思議と、邪魔は入らなかった、勿論、アイリス達の善戦が功を奏していた事もあるにはあったがそれだけではない、カイン達からしてみれば労せずして相手の戦力を一人、減らすことが出来るのだからわざわざ邪魔立てする必要は、当たり前だが全く無かった。
むしろ問題なのはー。
目の前の三人だった、まだ無名だが実力は確かだ、筋も良い。
正直油断していたと、カインは(メイルもだが)心の底から悔やんで嘆いた、こんな事なら、あの坊やがまだ一人でいる内に、何としてでも潰して置くべきだったのだ、と。
彼を起点として、確かな人の“和”が形成されて絡み合い、結ばれていた、その力はいま、現実的な脅威となって自分達の足下にまで迫ってきてしまっていた。
確かに。
それについては迂闊だと思った、しかし。
「やるな・・・」
カインはまたもや不敵に笑い、そしてメイルもまた、それに続いた、彼等はまだ、奥の手を隠し持っており、それを出してはいなかったのだ。
「アイリス、と言ったか?」
見事なもんだ、とカインは告げた、言葉が少しぶっきらぼうな感じになっていたモノの、誰も気にする者はいなかった。
「確かに強いよあんたは。技術だけなら、俺を超えるかもな」
だが、と力を込めて剣を構える。
一度振り上げた剣を、ゆっくりと下に下げて、また再び回転させるように右回りで上段へと持ってくる。
何やら呪いの言葉を唱えて気合い一閃、その剣を振り下ろした。
途端に。
ガガガガガガガガガッと地面が抉られ、衝撃波がアイリス目掛けて鋭い勢いで疾走してくる。
「・・・くっ」
それをすんでのところで回避すると、自身も矢をつがってカインに向けて構えるが、その隙にカインは2発目、3発目を矢継ぎ早に繰り出して彼女に反撃の隙を与えなかった。
「うっ、くぁっ!?」
それを後方に飛び、或いは横に避けて何とか凌ぎ続けて来たアイリスだったが気付いた時にはもう、地面に空いた大型の坑の側まで追いやられてしまっておりそれ以上、後がなかった。
「・・・・・っ!!」
「“ヴァハー・ズ・ガーレ”。疾風の怒り、と言う意味だ。あの坊やが風の鉤爪を用いるのならば、俺のは差し詰め牙と言った所か」
もっとも、と彼は続けた、こうまで避けられたのは初めてだがな、と。
「だが次は決めてみせる、なに、どうあがいても喰らうしかないぞ?もう避けようが無いんだからな」
と、そう言ってカインが再び剣を上へと向けて構え直した、その時だ。
「てやあぁぁぁっ!!」
と言う声が聞こえて右後背からミリスが突っ込んで来た。
それに対して向き直ったカインの目に、更に信じられない光景が飛び込んで来た、ついにトワイライトゾーンへと到達した蒼太が、今まさにその中へと向けて、飛び込もうとしていたのだ。
「な、なに・・・っ!?」
その一瞬の驚愕が、致命的な隙となった、ザシュッと言う音がしてカインの右肘が切られ、そこからは致死量を優に超える猛毒が、その体内へと向けて、拡散して行った。
「ああ・・・っ!?」
「カ、カインッ!!」
「う、うぐあぁぁぁぁっ!!」
途端にその場に倒れ伏して悶え苦しむカインだったが、それは断末魔の呻きとはならなかった、直ぐさま駆け付けて来たメイルが毒を可能な限り吸い出し、彼に治癒の魔法を掛ける。
もっとも。
「・・・覚悟っ!!」
「・・・・・っ!!」
それを黙って見過ごすほど、アイリス達も甘くは無かった。
彼女の動きを止めたのは、カインに寄り添うメイルの姿だ、止めを刺そうと矢をつがいでも、メイルは動こうとしなかった、あくまでカインを癒す、それだけに集中していたのだ、それに向かって弓矢を射る事はアイリスには出来なかった。
だが。
「うっ、くはあぁぁっ!!はあ、はあ・・・っ!!」
そんな彼女達の動向を、ギリギリ掴み取ったカインは苦しみながらも懐から何か鍵のような物を取り出した、そして。
「え、“エルシィ・マハ・ディハア・・・”」
そう告げると鍵を宙に掲げるようにする、すると。
先程まで、“トワイライトゾーン”が口を開けていた空間の歪みが減少して行き、それはやがて完全に知覚することが出来なくなってしまっていた。
「しまった!!」
「蒼太!!」
「貴様、何を・・・!!」
「うぐ、うっ、う・・・っ!?」
「カイン、カイン!!」
アイリス達の突き刺すような問い掛けにも、そしてメイルの必死の呼び声にも、カインは応えられなかった、身体中に回っている猛毒の影響で高熱に魘(うな)されており、その意識は朦朧としたモノとなっていたのだ。
「はあっ、はあっ、はあ・・・っ!!メ、メイル・・・!!」
「カイン、カインッ!!」
待ってて!!とそう告げるとメイルは腰に掛けていたポーチを何やらガサゴソと弄くり回し、そこから“風の記憶の帽子”を取り出した、そして。
それを被ると何やら呪いの言葉を唱えてカインをしっかりと抱き締める、すると。
二人の身体が光に包まれ始めて行き、それが極大化したと思ったら。
次の瞬間、パッと消えてしまった、本当に掻き消すように消えてしまったのだ。
後にはただ、舞い上がった砂埃だけが宙を舞っているだけだった。
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