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運命の舵輪編
エルヴスヘイム事件9
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「・・・・・っ!?」
「やるわね、あの坊や・・・!!」
驚愕していたのは何も、仲間達だけでは決して無かった、トロルを通してその情景を目の当たりにしていたカインとメイルもまた、“信じられないモノを見た”と言う面持ちでソファに腰掛けながら溜息を着く。
「あの呪文・・・」
「ええ・・・」
正体は解らないけれど、と付け加えつつ、メイルは応じる。
「威力は“中堅クラスの+α”と言ったところかしら?不思議な呪文ね・・・」
「風の魔法の一種だと思うが・・・。それにしてもよくあの年であのクラスの魔法を」
“‘惜しいなますます”とカインは告げてほくそ笑んだ、何とかして此方に引き摺り込みたい、と。
「あの坊や、しかし中々一筋縄では行きそうに無いぜ?面を見れば判るが・・・」
「意外と頑固者っぽそうだもんね・・・!!」
二人はそう言って何やら思案を巡らせ始めるモノの正直、あのパーティー、それも取り分け人間族の少年の底力に驚愕したのは事実だ、今まで旅の妨害の為に放った魔物や魔霊は悉く撃ち破られて撥ね除けられ、這う這うの体で逃げ帰ってきていたし、つい今し方差し向けた主力部隊もまた、撃退されてしまっていた、もはや自分達に残されているのは未成熟なオークとゴブリンの群れでしか無く、これではとてもの事、彼等を足止めする事は出来ないだろう、それに。
彼の使っていた呪文についてもかなり興味をそそられるが単に威力が強い、と言うだけならば、別にどうという事は無かった、人間族やエルフの中には“天才”もしくは“神童”と呼ばれる存在もおり、特に彼等の内で一握りの者達ならば、まだ幼い時分からでも高レベル、大火力の魔法を熟す事が出来る輩もいる事を、彼等は知っていたのである。
しかし今、目の前の少年が扱ったのはそれでは無い、炎や水等幾つかある系統の内で“風の属性”なのは解ったが、それだけではなくて、何か未知のエネルギーをプラスさせて威力や効力と言ったモノを倍近くにまで跳ね上げている。
つまり扱う呪文自体が強力な上に独特なのだ、その独自性に二人は着目したのであった。
「・・・まあ、もしかしたなら普通の呪文に満足できない、ひねくれ者なだけかも知れんがな。それでも一応、あの坊やの事は頭に入れておいてくれ」
「解った」
「さてと。取り敢えずあの連中を、足止めしなければならないが・・・。もうこっちには駒が無いな、如何に“トワイライトゾーン”を開けている、とは言ってもな・・・」
「無限に呼び寄せられる訳じゃ、無いんだもんね・・・」
「ああ。まあ正確に言うと、呼び出せるのは無限に出来るんだがな。ただセーブして使わないと、こっちの手に負えないモノまでおびき寄せてしまったなら元も子も無いからな?それにしても、せっかくトワイライトゾーンを開く“冥界の鍵”まで貸して貰ったってのに・・・」
そう言ってごちている二人の表情が、いよいよ硬いモノになってきた、蒼太達パーティーの上を飛んでいる鳥に視覚をリンクさせてその動向を追ってきたカインとメイルであったがどうやら一行は鍾乳洞の入り口にまで辿り着いてしまったようだ。
「・・・もうじき、ここまでやって来る、か」
「歓迎してあげましょう?カイン」
「ああ、当然だ」
カインはそう言って立ち上がると何やら呪いの言葉を唱え始める、すると。
トワイライトゾーンの出入り口が妖しく光り、中からはゴブリンとオークの成体が再び、現世へと降り立って来る。
「これでよし。洞窟内にいる連中には弓矢も持たせてある、今まで通りには行かないはずだ」
「・・・暗がりでの戦闘に、慣れて無いもんね」
「それだけではないよ、メイル。洞窟内は地形の起伏も激しくて足下も一定じゃない。中には谷だってあるんだ、うっかり足を滑らせれば此方が手を出すまでもない、勝手に全滅してくれるさ」
そう言うとカインはベッドに深く横たわり、その目を閉じて横になると、今度はゴブリンの一体に視覚をリンクさせなおしつつ、改めて蒼太一行の動向を探り始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方で、洞窟の中に突入した蒼太達は早速、危うい足場に翻弄されつつも奥へ奥へと進んでいった、中は鍾乳石が彼方此方から垂れ下がっており、天井からはピチャピチャと水も滴り落ちて来る。
時折、開けた場所に出るとそこからは轟音と共に水が流れていることが解った、どうやら地下水脈があるらしく、この鍾乳洞が出来たのも一つにはその影響があったのかも知れなかった、そんな中を。
手に持ったランタンや魔法の灯りで周囲を明るく照らしつつも蒼太達はゆっくりゆっくりと、しかし確かに地面をしっかりと踏み締めながら、前へ前へと歩を進めて行く。
「・・・・・」
「・・・ただの鍾乳洞じゃないね」
「ああ、凄いよ。さっきから頭痛がする」
レアーナとミリスがそう静かな声でそう告げるが蒼太にとっても他人事では決して無かった、何しろ洞窟内には瘴気が満ち満ちておりそれは確かに、最深部に近付くに連れて余計に色濃くなって行く。
いつしか景色は代わり、地下水脈の轟音も聞こえなくなっていった、余計に下に潜ったのか、はたまた自分達の方が深い場所まで降りたのか。
気が付くと鍾乳石もメッキリとその数を減らして行き、辺りは静寂に包まれていた、その時だ。
「っ!?」
不意に何かが飛んでくる気配を感じて全員が身構えるが、それはただのコウモリだった、コウモリの群れが頭上を飛び回っていたのだ。
「・・・っ!!」
「なんだ、コウモリか・・・」
「油断するな、ただのコウモリでは無いかも知れん・・・」
「・・・・・」
全員が緊張の只中にあった、いつ何時、何が起きても良いようにと神経を張り詰めさせながら進む一行の行く手の先に、しかしやがて、かすかな明かりが見え始める。
一体何だろうかと考えていた一行はすぐに、その正体を知る事となった、マグマだ。
地中深くから噴出するマグマのうねりが闇を照らし、灯りなど使わなくとも周囲の情景をクッキリと浮かび上がらせていた。
そこへ。
突然、強い殺気と魔の気配がして蒼太達は反射的に身構えるがその直後。
ビュッと言う風を切る音がしたかと思うと彼等の足下のすぐ側に腐った弓矢が突き刺さっていた、みると向こうの崖の上から数台のゴブリン達が矢をつがい、今まさに此方目掛けて射掛けようとしている最中だった。
「・・・・・っ!!」
「なるほどね・・・」
「待ち伏せって訳か・・・!!」
それに応じるようにしてアイリスもまた矢をつがえ、相手に向けて撃ち放つ。
蒼太達は何も出来ずにただ、飛んでくる弓矢を手にした武器で打ち払い、身を守るだけだった。
「いかん、走れ!!」
“留まっているとやられる”と言ったアイリスの言葉に反応した全員が、一斉に前目掛けて駆け出した。
ビュン、ビュッと、弓矢は尚も飛んでくる。
その方向に向けてアイリスは逆に狙いを定め、次々と相手を射倒して行った。
蒼太も魔法で応戦しようとするのだが、如何せん精神集中の間が持たず、結局は杖を構えて自分目掛けて飛んでくる弓矢を叩き落とし、あるいは身を屈めてそれを避け、己の躰とその四肢とを保護するだけで精一杯だったのだ。
前をみると勿論、レアーナもミリスも同じようにしているモノの、正直言って恐いと思った、口の中がカラカラになった、いつ弓矢が命中するのか、解らない、その恐怖も加わって蒼太は何度となく身震いした、しかし。
怖がっているだけではダメだと、心の中でそう思っていた、それは自覚していたから蒼太はそれに負けずに必死に感覚を働かせて足を動かし、前へ前へと駆け続けて行った。
(メリーッ!!!)
恐怖の中で堪らず、少年はメリアリアの事を強く思った、今頃何をやっているんだろうか、訓練に精を出しているんだろうか、はたまた本を読んでいるんだろうか、それとも昼食を食べているのかも知れないけれども、いずれにしても彼女を連れて来なくて本当に良かったと安堵すると同時に“僕は何でこんな危険な場所へと来てしまったんだろう”と後悔もした。
“命のやり取り”。
それはまだ幼くて拙くて、そしてそれ故に優しく素直な心しか持たない蒼太に取ってとてもの事、背負い切れる重荷では無かった、“メリーと一緒にいれば、僕は平和で安寧の中でずっと過ごせていた筈なのに”、“一体何をやっているのだろう”と本気で思った、思ったがしかし、事ここに至ってはそれを言ってもどうにもならない、相手は待ってはくれないのである。
彼はとにかく走り続けた、仲間と共に懸命に走って走って走り続け、途中で何度も弓矢を弾き、身を守りつつひたすら攻撃の射程圏外目指して足を動かし続けて行った。
やがて。
漸くにして、その場所を離れる事が出来たが、今度は巨大な岩がゴロゴロとしている、明らかに足場の悪そうな場所だった、しかも右側は切り立った崖になっており、下には無論のこと、マグマが渦巻いている。
そんな場所にも関わらず、目の前からは再び、オークの大軍が現れた、と言っても先程までの成体のそれではない、もっと小柄で未成熟な、気迫の薄い連中だった。
「オークの幼体だ、だが油断はするなよ?凶暴性はホンモノだぞ!!」
その言葉通りで全員が手にした槍を此方に向けて、一直線に突っ込んで来る。
そこで蒼太は一計を案じた、軽めの“波動真空呪文”を発動させてちょうど近くに聳え立っていた岩を根元から砕くとその巨体で道を塞がせるようにしたのだ。
「やるね!!」
「いや、でもこれじゃ私達も行け無くない?」
「・・・・・っ!?いや、良いんだ。転がせ転がせ、このまま転がすんだ!!」
ズドォォォンッと言う衝撃と共に落着して来た巨石のその影でレアーナ達が紡いだ言葉を、アイリスは無駄には拾わなかった、彼女の作戦に全員が力を込めて岩を押し始めると、まるでそれに応えるかのように岩がゴロゴロと転がり始めてオークの大軍を怯ませた。
やがて坂道まで来て勢いが付いた岩はそれ以上力を込めなくとも勝手に回転を始めてオーク達を追い掛け始める。
「よしよし、今のうちだぞ!!」
「早く早く!!」
その様子を見ていたアイリス達は、それでも周囲を警戒しつつも更に洞窟の最深部分へと向けて、勢いよく掛け出して行った、ここまで来たならもう、後は一本道だ、迷うことは無い。
瘴気はこれ以上無いほどの強さに達していたモノの、蒼太達の足取りはそれに反比例するかのようにして軽くなり、やがてある部屋の前までくるとその場にいた門番だろう、ゴブリンとオークの成体を滅してその中へと突入した。
「やるわね、あの坊や・・・!!」
驚愕していたのは何も、仲間達だけでは決して無かった、トロルを通してその情景を目の当たりにしていたカインとメイルもまた、“信じられないモノを見た”と言う面持ちでソファに腰掛けながら溜息を着く。
「あの呪文・・・」
「ええ・・・」
正体は解らないけれど、と付け加えつつ、メイルは応じる。
「威力は“中堅クラスの+α”と言ったところかしら?不思議な呪文ね・・・」
「風の魔法の一種だと思うが・・・。それにしてもよくあの年であのクラスの魔法を」
“‘惜しいなますます”とカインは告げてほくそ笑んだ、何とかして此方に引き摺り込みたい、と。
「あの坊や、しかし中々一筋縄では行きそうに無いぜ?面を見れば判るが・・・」
「意外と頑固者っぽそうだもんね・・・!!」
二人はそう言って何やら思案を巡らせ始めるモノの正直、あのパーティー、それも取り分け人間族の少年の底力に驚愕したのは事実だ、今まで旅の妨害の為に放った魔物や魔霊は悉く撃ち破られて撥ね除けられ、這う這うの体で逃げ帰ってきていたし、つい今し方差し向けた主力部隊もまた、撃退されてしまっていた、もはや自分達に残されているのは未成熟なオークとゴブリンの群れでしか無く、これではとてもの事、彼等を足止めする事は出来ないだろう、それに。
彼の使っていた呪文についてもかなり興味をそそられるが単に威力が強い、と言うだけならば、別にどうという事は無かった、人間族やエルフの中には“天才”もしくは“神童”と呼ばれる存在もおり、特に彼等の内で一握りの者達ならば、まだ幼い時分からでも高レベル、大火力の魔法を熟す事が出来る輩もいる事を、彼等は知っていたのである。
しかし今、目の前の少年が扱ったのはそれでは無い、炎や水等幾つかある系統の内で“風の属性”なのは解ったが、それだけではなくて、何か未知のエネルギーをプラスさせて威力や効力と言ったモノを倍近くにまで跳ね上げている。
つまり扱う呪文自体が強力な上に独特なのだ、その独自性に二人は着目したのであった。
「・・・まあ、もしかしたなら普通の呪文に満足できない、ひねくれ者なだけかも知れんがな。それでも一応、あの坊やの事は頭に入れておいてくれ」
「解った」
「さてと。取り敢えずあの連中を、足止めしなければならないが・・・。もうこっちには駒が無いな、如何に“トワイライトゾーン”を開けている、とは言ってもな・・・」
「無限に呼び寄せられる訳じゃ、無いんだもんね・・・」
「ああ。まあ正確に言うと、呼び出せるのは無限に出来るんだがな。ただセーブして使わないと、こっちの手に負えないモノまでおびき寄せてしまったなら元も子も無いからな?それにしても、せっかくトワイライトゾーンを開く“冥界の鍵”まで貸して貰ったってのに・・・」
そう言ってごちている二人の表情が、いよいよ硬いモノになってきた、蒼太達パーティーの上を飛んでいる鳥に視覚をリンクさせてその動向を追ってきたカインとメイルであったがどうやら一行は鍾乳洞の入り口にまで辿り着いてしまったようだ。
「・・・もうじき、ここまでやって来る、か」
「歓迎してあげましょう?カイン」
「ああ、当然だ」
カインはそう言って立ち上がると何やら呪いの言葉を唱え始める、すると。
トワイライトゾーンの出入り口が妖しく光り、中からはゴブリンとオークの成体が再び、現世へと降り立って来る。
「これでよし。洞窟内にいる連中には弓矢も持たせてある、今まで通りには行かないはずだ」
「・・・暗がりでの戦闘に、慣れて無いもんね」
「それだけではないよ、メイル。洞窟内は地形の起伏も激しくて足下も一定じゃない。中には谷だってあるんだ、うっかり足を滑らせれば此方が手を出すまでもない、勝手に全滅してくれるさ」
そう言うとカインはベッドに深く横たわり、その目を閉じて横になると、今度はゴブリンの一体に視覚をリンクさせなおしつつ、改めて蒼太一行の動向を探り始めた。
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一方で、洞窟の中に突入した蒼太達は早速、危うい足場に翻弄されつつも奥へ奥へと進んでいった、中は鍾乳石が彼方此方から垂れ下がっており、天井からはピチャピチャと水も滴り落ちて来る。
時折、開けた場所に出るとそこからは轟音と共に水が流れていることが解った、どうやら地下水脈があるらしく、この鍾乳洞が出来たのも一つにはその影響があったのかも知れなかった、そんな中を。
手に持ったランタンや魔法の灯りで周囲を明るく照らしつつも蒼太達はゆっくりゆっくりと、しかし確かに地面をしっかりと踏み締めながら、前へ前へと歩を進めて行く。
「・・・・・」
「・・・ただの鍾乳洞じゃないね」
「ああ、凄いよ。さっきから頭痛がする」
レアーナとミリスがそう静かな声でそう告げるが蒼太にとっても他人事では決して無かった、何しろ洞窟内には瘴気が満ち満ちておりそれは確かに、最深部に近付くに連れて余計に色濃くなって行く。
いつしか景色は代わり、地下水脈の轟音も聞こえなくなっていった、余計に下に潜ったのか、はたまた自分達の方が深い場所まで降りたのか。
気が付くと鍾乳石もメッキリとその数を減らして行き、辺りは静寂に包まれていた、その時だ。
「っ!?」
不意に何かが飛んでくる気配を感じて全員が身構えるが、それはただのコウモリだった、コウモリの群れが頭上を飛び回っていたのだ。
「・・・っ!!」
「なんだ、コウモリか・・・」
「油断するな、ただのコウモリでは無いかも知れん・・・」
「・・・・・」
全員が緊張の只中にあった、いつ何時、何が起きても良いようにと神経を張り詰めさせながら進む一行の行く手の先に、しかしやがて、かすかな明かりが見え始める。
一体何だろうかと考えていた一行はすぐに、その正体を知る事となった、マグマだ。
地中深くから噴出するマグマのうねりが闇を照らし、灯りなど使わなくとも周囲の情景をクッキリと浮かび上がらせていた。
そこへ。
突然、強い殺気と魔の気配がして蒼太達は反射的に身構えるがその直後。
ビュッと言う風を切る音がしたかと思うと彼等の足下のすぐ側に腐った弓矢が突き刺さっていた、みると向こうの崖の上から数台のゴブリン達が矢をつがい、今まさに此方目掛けて射掛けようとしている最中だった。
「・・・・・っ!!」
「なるほどね・・・」
「待ち伏せって訳か・・・!!」
それに応じるようにしてアイリスもまた矢をつがえ、相手に向けて撃ち放つ。
蒼太達は何も出来ずにただ、飛んでくる弓矢を手にした武器で打ち払い、身を守るだけだった。
「いかん、走れ!!」
“留まっているとやられる”と言ったアイリスの言葉に反応した全員が、一斉に前目掛けて駆け出した。
ビュン、ビュッと、弓矢は尚も飛んでくる。
その方向に向けてアイリスは逆に狙いを定め、次々と相手を射倒して行った。
蒼太も魔法で応戦しようとするのだが、如何せん精神集中の間が持たず、結局は杖を構えて自分目掛けて飛んでくる弓矢を叩き落とし、あるいは身を屈めてそれを避け、己の躰とその四肢とを保護するだけで精一杯だったのだ。
前をみると勿論、レアーナもミリスも同じようにしているモノの、正直言って恐いと思った、口の中がカラカラになった、いつ弓矢が命中するのか、解らない、その恐怖も加わって蒼太は何度となく身震いした、しかし。
怖がっているだけではダメだと、心の中でそう思っていた、それは自覚していたから蒼太はそれに負けずに必死に感覚を働かせて足を動かし、前へ前へと駆け続けて行った。
(メリーッ!!!)
恐怖の中で堪らず、少年はメリアリアの事を強く思った、今頃何をやっているんだろうか、訓練に精を出しているんだろうか、はたまた本を読んでいるんだろうか、それとも昼食を食べているのかも知れないけれども、いずれにしても彼女を連れて来なくて本当に良かったと安堵すると同時に“僕は何でこんな危険な場所へと来てしまったんだろう”と後悔もした。
“命のやり取り”。
それはまだ幼くて拙くて、そしてそれ故に優しく素直な心しか持たない蒼太に取ってとてもの事、背負い切れる重荷では無かった、“メリーと一緒にいれば、僕は平和で安寧の中でずっと過ごせていた筈なのに”、“一体何をやっているのだろう”と本気で思った、思ったがしかし、事ここに至ってはそれを言ってもどうにもならない、相手は待ってはくれないのである。
彼はとにかく走り続けた、仲間と共に懸命に走って走って走り続け、途中で何度も弓矢を弾き、身を守りつつひたすら攻撃の射程圏外目指して足を動かし続けて行った。
やがて。
漸くにして、その場所を離れる事が出来たが、今度は巨大な岩がゴロゴロとしている、明らかに足場の悪そうな場所だった、しかも右側は切り立った崖になっており、下には無論のこと、マグマが渦巻いている。
そんな場所にも関わらず、目の前からは再び、オークの大軍が現れた、と言っても先程までの成体のそれではない、もっと小柄で未成熟な、気迫の薄い連中だった。
「オークの幼体だ、だが油断はするなよ?凶暴性はホンモノだぞ!!」
その言葉通りで全員が手にした槍を此方に向けて、一直線に突っ込んで来る。
そこで蒼太は一計を案じた、軽めの“波動真空呪文”を発動させてちょうど近くに聳え立っていた岩を根元から砕くとその巨体で道を塞がせるようにしたのだ。
「やるね!!」
「いや、でもこれじゃ私達も行け無くない?」
「・・・・・っ!?いや、良いんだ。転がせ転がせ、このまま転がすんだ!!」
ズドォォォンッと言う衝撃と共に落着して来た巨石のその影でレアーナ達が紡いだ言葉を、アイリスは無駄には拾わなかった、彼女の作戦に全員が力を込めて岩を押し始めると、まるでそれに応えるかのように岩がゴロゴロと転がり始めてオークの大軍を怯ませた。
やがて坂道まで来て勢いが付いた岩はそれ以上力を込めなくとも勝手に回転を始めてオーク達を追い掛け始める。
「よしよし、今のうちだぞ!!」
「早く早く!!」
その様子を見ていたアイリス達は、それでも周囲を警戒しつつも更に洞窟の最深部分へと向けて、勢いよく掛け出して行った、ここまで来たならもう、後は一本道だ、迷うことは無い。
瘴気はこれ以上無いほどの強さに達していたモノの、蒼太達の足取りはそれに反比例するかのようにして軽くなり、やがてある部屋の前までくるとその場にいた門番だろう、ゴブリンとオークの成体を滅してその中へと突入した。
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